17
なぜこんなにも、ヒロインさんの攻略者さんとの遭遇率が高いのですか。
何か強制力でも働いているのでしょうか?
本来ならば、原作ゲームが始まってから知り合うはずなのに……。
気を取り直して、記憶にある彼の情報を引っ張り出します。
先ほど注文をとった赤髪の店員さんの名前は、ソール・ハントさんといいます。
ヒロインさんの幼なじみなのですが、料理人になりたいが為に家を飛び出して、最終的には高等学校の料理人になり、ヒロインさんと再会するのです。
ちなみに私は、ソールさんに毒入りの料理を食べさせられて死亡します。
……ヒロインさんに近づかなければ問題ありませんよね。
うんうんと小さく頷いていると、
「さっきからどうしたんだ?今も急に黙りこんだり……。」
カイト様が心配そうに聞いてきました。
「えっと……」
(急な遭遇に思わず考え込んでしまいましたからね。)
「本当は調子が悪いとかは無い?」
「はい、大丈夫ですよ?カイト様は心配性ですね。」
「……心配性というわけでもないけどな。」
変わらず心配そうにされているカイト様に申し訳なく思いつつ答えます。
その後は、またカイト様との雑談に戻りました。
「このお店は、僕の父から教えて貰ったんだよ。『東の地方のお菓子や料理が食べられる店がある』ってさ。」
「イール侯爵様が。そうだったんですね。」
「シオンさんの母上は確か、東の国出身なんだよな?」
「はい。そうですよ。一応、東の国の領主の娘です。東の国は貴族制度はありませんから、爵位はないですが。」
「じゃあ、シオンさんの父上と母上との結婚は大変だったかもしれないな。」
「確かに、そうだったかもしれないですね。」
カイト様からの言葉に、頷いて返しました。
そして10分程経った後、
「お待たせ致しました。こちら大福と、どら焼です。」
注文していたお菓子が届きました。持って来てくれたのはやっぱりソールさんでした。
「お、来たな。」
「ありがとうございます。」
「それでは、ごゆっくりどうぞ。」
ソールさんは一礼して去って行きました。
その姿を横目で見送っていると、
「ああいうのが好みなのか……?」
カイト様が何か小声で言いました。
「えっ?今なんて仰いました?」
(小さい声だったので良く聞こえませんでした……)
「いや、何でもない。ただの独り言だから。」
「?珍しいですね。」
「そ、そうか?まあそんなことよりも、お菓子が届いたんだから食べよう。これがダイフク、か。」
「はい。こっちはどら焼ですね。早速いただきましょうか。 」
久しぶりの和菓子にテンションが上がった私は、早速どら焼にパクつきます。
「~!」
(このどら焼、甘すぎない餡とふわふわの皮がバランスがとても良くて美味しいです)
美味しいどら焼をニコニコしながら食べている私を見て、
「な、中々豪快に食べるな。」
と、カイト様が苦笑しながら言いました
「良いのです。美味しく食べられれば。」
「ははっ。やっぱり君はお菓子が絡むと面白いなあ。」
「なっ。面白いとは、女の子に対して失礼ですよ!」
カイト様のからかいに少しむくれ、言い返しましたが、
「怒らないでって。そこも可愛いって意味だから。」
「はっ!?」
「あ、このダイフク。変わった味だけど美味しいな。」
カイト様が何やら恥ずかしい事を言っていましたが、カイト様はその後すぐにダイフクを食べ始めました。
「………。」
カイト様からの『可愛い』発言に言葉を返す事が出来ず、その後は無言でどら焼を食べ進めたのでした。




