私と貴方と。
子どもの日な事に気づいて書いてみました。即興で書いたものだからいろいろとひどい所はあると思うけどまあ許してやってほしいと思ってます。
「うーーーー、だるい」
私の独り言は目の前にあるテレビの笑い声によってかき消される。
今日は5月5日、皆さんご存じ子どもの日だ。
いつもの私ならGWの最終日だとか何とか言って迫りくる魔の手と戦っている頃なんだろうが今年の私は一味違う。なぜなら明日は振り替え休日だから。
結局最終日に課題に追われるということに変わりはないのだがせっかくの五連休なんだからダラダラしたいと思うのは自然な事である。
そんな理由で私は柏餅を食べながらソファーに寝そべってテレビを見ている。さすがに中三にもなってイベントではしゃいだりはしない。それも男子の行事ではしゃぐ事何てもう無いと思う、少なくとも私は。
「お前は何寝そべってんだよ。せっかく俺が並べたんだから見に来いよ、段飾り」
ふいに頭上から声がしたと思うといつの間にか手元の柏餅が消えている。上を見るとそこには私の柏餅を奪った兄の姿があった。
「ちょ、返してよ!」
「ふはははは、返して欲しければ段飾りを見に来る事だな!」
「じゃあいいや」
あっさりと柏餅をあきらめる私。て言うかあんな奴の口付けた物なんてもういらないし。
「えっ、ちょっ! いいから見に来いって! な!?」
まさか諦められるとは思ってなかったのか必死に誘ってくる兄。何やってるんだろうこの人は?
「あんただってもうそんな歳じゃないでしょ? 子どもかっ!」
「そう! 俺はいつだって子供心を忘れない! 例え来年から社会人だとしても!」
ドヤ顔で残念な事を言う兄。確か私の兄は所謂Aランと呼ばれる学校の中でもトップクラスの成績をキープしてると母さんから聞いた気がするのだが。
更に近所では「礼儀正しくて知的なイケメン」とか言われてるようだが、それじゃあ目の前で上半身裸ではしゃいでる大きな子供は一体だれ?
「母さんも今日は遅くなるって行ってたし今日は二人で夕飯だぞ、さっき粽も買ってきたし早く食おうぜ! いやー最近の粽ってすげーんだぜ?」
その後も長々と語ってきたがすべて無視する。この人は基本的に行事に流されやすい。しかも無駄に頭がいいからちゃんと行事が何を意味するのかを知った上ではしゃぎまくる。何ともたちの悪い人だ。
私もお腹がすいたので席に着こうとすると兄が腕を掴んできた。
「でもその前に段飾り見に行こうぜ? な?」
別に意地でも観たくないという訳でもないのでとっとと見てごはんを食べようと思い兄についていく。
「これが俺の力だっ!」
そこには鎧飾りと言われる三段の段飾りが、それも全部で180cmほどあるそれなりに大きな五月人形が飾ってあった。
確かにそれは立派な五月人形だった。兄が自慢したくなるのも分からなくもないような気がする。
私は柄にもなく見とれてしまった。ふと窓を見るとそちらにも立派なこいのぼりが飾ってある。
「元々女の人が田植えの前に穢れを払う儀式と中国から来た端午の節句が結びついたとかで元々女性の節句だったとも言われている。だから多分お前だって無関係じゃない……と思う」
多少こじつけな気もするが説得力がある気がしない事もない。
「今では男子の健やかな成長を祈る日だけどな。お前の分まで俺が祈っといてやるから安心しろ」
随分めちゃくちゃな事を言っているのだが何年も一緒に過ごしているとちょっと安心できる。
「私も今まで健やかに成長できてたのかな?」
ふとつぶやいた私の言葉は兄に聞かれてしまったようで、
「きっとできてたぞ? それにこれからも健やかに生き続けるんじゃないのか? 俺はそんな気がするな」
なんて言ってきた。自分のキャラじゃないような事を言ってしまって恥ずかしかったので兄の言葉を無視する。
「まあ神さまが守ってくれなくても俺が代わりに守るからお前は安心して育ってけばいいんじゃねえの? お前はまだ中学生なんだからいくらでも育って行けるだろ。胸の方は保証しないけどな」
ふざけた事をぬかす兄に回し蹴りを食らわせる。当たり所が悪かったようでうずくまる兄を見ながら思った。
毎年、同じようなやりとりをしている気がする。
ㅤそれは周りの人が元気でいてくれる証拠と言えるだろうか。
私はそんな元気がいっぱいな人に見守られて育っているのだろう。
こんな兄でも一応私を気にかけてくれる、私の大事な人だ。
私は私を育ててくれる人、それを見守ってくれる人の温かさが分かったような気がした。
毎年やるようなこの行事、今年はちょっぴり特別なものになったかもしれない。
みなさんは五月人形の飾りつけはしましたか?