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イノサンスフェンリル  作者: 泉 燈歌
第0章 生誕迷走編
3/35

見学

 母親と狼の匂いを辿って獣道を歩く。


 周囲に他の生き物の気配はないが、もしも他の魔物に出くわしたらそれが死ぬときだろうなぁ、なんて考えながら進む。

 ……危機感が薄いのはなんでだろうな?


 ぴくぴくっ、と俺の耳が小刻みに震える。

 それに合わせて尻尾もふりふり。


 争いの気配だ。

 戦いの匂いだ。

 生存競争のだ。


 ここらへんはやはりケダモノの血が流れているせいか全身が疼く。


 早く自分も動きたい。

 早く自分で獲物を狩りたい、と。


 いまの俺じゃスライム相手でも一方的に負けそうな気がするので押さえる。

 気配を絶つのはそう難しいことじゃない。

 本能が知っているからかな。


 歩みを緩めてこっそりと、茂みをかき分けて進む。

 極力音を立てずに、葉を揺らさないようにしながら。


 明かりが見える。

 どうやらこの先は森がなくなり草原が広がっているようだ。

 見えなくともそれくらいは予測できる。

 野生の勘なのか、それともこの身体がそれだけ優秀なのかは判断がつかないが。


 茂みに身を隠し、草原を見つめる。


 狼と鳥……じゃ、ないな。

 あの狼が5mあったとしてその倍のサイズの鳥が普通の鳥なはずがない。

 孔雀のような鳥だが、全身が燃えている。

 魔法か何かで燃やされているのだと思ったが、どうやらあの鳥は燃えているのがデフォルトのようだ。

 とっさに思いつく名前ではフェニックスとか?


 ……食えるんだろうか。不死鳥だし。

 っていうかそのフェニックス(仮)を相手にしている狼がすごい。

 戦い方は単純極まりない。ただ走って近付き、噛み千切る。それだけだ。

 明らかに疾走速度が音速の域に達していたりフェニックスから発せられる炎を受けて焦げることすらないとかどうなってんだと思いはするが。

 草原の雑草なんてフェニックスの半径10mあたりですでに余熱で灰になっているのに。


 母上様はちょっと離れたところで観戦中のようだ。あら、今日もお美しい。

 俺が隠れて観ていることに気付いた様子はない。


 フェニックスはいくら身体を噛み千切られ失っても構わず狼へ向かって火球を撃ち出す。損壊してもすぐに燃え上がって元に戻るから問題ないと判断しているのだろう。

 あるいは、逃げられないことを悟っているのか。


 お互い相手に決定打を与えられず、戦いは膠着状態。


 見ているだけでも暑苦しい戦いだ。


 狼が飛び退いて距離を取った途端、フェニックスが勝負にかかる。

 いままでとは桁外れの熱量を口元へ集中させ、放つ。


 熱線。


 鉄ですら一瞬で蒸発するだろう必殺の一撃が狼へ襲い掛かる。


 しかし狼は動じることなく、その口を開け、


 食べた。


「ふぁっ!?」


 思わず声が漏れてしまったが、仕方ない。

 あんなあっさり無効化するなんて誰が予想できたか。


 フェニックスも驚いているのか動きが止まり、


 狼の牙によって頭を丸かじりされ、炎が消える。

 それから再生することもなく、胴体が崩れ落ちる。


 狼はそれを見届けた後、俺を見た。


 目が合った。


 見られた。


 俺は素早く立ち上がろうとして、


 動けない。


 見つめられている。


 怖い。


 あれが怖い。


 圧倒的、絶対的な強者。


 勝てない。それどころか逃げることすら叶わない。


 ドッと冷や汗が噴出し、背筋を濡らす。


 なんとか気力を振り絞って母上の方をみようとしたら、


 狼の姿が消えた。


 俺は安心するどころか頭の中で鳴り響いている警鐘に焦って四つん這いのまま後ずさる。


 なにかに触れた。


 ふわふわしていて、少しだけごわごわしていて。


 振り向けない。


 だが、俺の意思とは無関係に首は壊れたぜんまいのようにギギギギと震えながらそれを視界に入れる。


「ッ――――――!!」


 目の前が真っ白になり、直後、真っ黒に切り替わる。


 そこで俺の意識は限界を向かえ、落ちる。


 最後に感じたのは生暖かい吐息と……。

フェニックス「七面鳥ですって!?」


俺「じゅるり」


母上「牙は神属性だから再生蘇生復活修復系統阻害効果があるのよ!」


狼「ヴ」

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