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イノサンスフェンリル  作者: 泉 燈歌
第0章 生誕迷走編
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成長

 そんなこんなで一ヶ月くらい過ぎました。


 え? 端折り過ぎじゃないかって?


 動けない赤ん坊の一ヶ月なんて転がるくらいしかないんだよ?

 朝起きて、おっぱい飲んで、下の処理してもらって、ゴロゴロ転がって運動して、またおっぱい飲んで、お昼寝して、また下の処理してもらって、母親から言葉と会話を引き出して覚えようと努力して、またまたおっぱい飲んで、寝る。

 この簡単かつシンプルなルーチンワーク。


 正直に言おう。

 

 飽きるわ。


 巣穴から出ようとすると連れ戻されるし。

 狼は朝出て行って夕方なんかの肉を持って帰ってくるし、たまに母親も付いて行くし。なぜか母親が出て行く時に限って眠くなるんだよね。勝手に外に行かないタイミングを計っているのかね?


 指で地面に計算式を書いて、解く。母親に見つかるとまずいのでこっそりとだが。

 その途中で気付いたのだが、四桁くらいの四則演算なら暗算できるのだ。四桁かける四桁、とか。自分でも気持ち悪いくらいスラスラと解けちゃうのでどうしたものかと悩んだが、日常生活で使うこともないし別にいいかと思考放棄した。


 父親を一度も見かけていないどころか母親と狼しか見たことないんだが、外はどうなっているんだろうか。


 てかこの一ヶ月観察していて気がついたんだけど、狼の序列が母親よりも高い気がするんだよね。

 なんかこう、肉食う時とか絶対に狼が先に食べるんだよね。で、食べ終わるまで俺も母親もずっと待ってなくちゃいけないの。

 ある時我慢できずに母親におっぱい強請ったら狼に「ヴォウ」って怒られた。

 死ぬかと思ったよ。殺気はないけど「それ以上騒ぐようなら喉笛掻っ切るぞ」って言われた感じ。そのまんまの意味で赤子の手を捻るより簡単だね。スケールが違いすぎて甘噛みされただけで柔肌に大穴が開くだろうからね。泣くのも我慢しましたよ、死にたくないので。




 で、それからさらに一週間くらい過ぎました。


 ヨチヨチと歩けるようになりました。


 いやちょっと待て。

 どう考えてもおかしいだろう絶対。


 これがあれか。獣人補正か。

 それとも転生補正か。


 狼ならおかしくはない……のか?


 このかーちゃん犬じゃなくて狼っぽいしな。

 犬と狼にどの程度違いがあるのかというところはスルーで。


 まぁ、こんな欲求不満で暇しかない日常からはさっさと抜け出したいので嬉しいことこの上ないのだがね。




 そして朝です。歩けるようになった翌朝ですよ。

 目が覚めたら誰も居ませんでした。


「おあーぁ」


 おかーちゃんを呼んでもなんの反応もありません。

 孤独死はしないよ、まだ。

 でも育児放棄されるとちょっと……心にくるものがあるね。

 そして誰も居なくなった、ってさ。


 それともこれは試練なのだろうか。


 巣穴から出た途端猛獣に襲われて死ぬとか嫌だよ?


 あの狼が狩ってきた獲物とか思い返すと明らかに地球の生物とは違うモンスターっぽいのとかいたし。


 あんなのに襲われたら抵抗空しく死にまっせ。


 だが、いつまでもここで待っていていいものなのか。

 もしもこれが試練であるなら。

 俺が試されているのだとしたら。

 どう動けばいい?


 現在の俺のスペックはこんな感じ。


 名前:不明 年齢:生後6週間前後? 性別♀


 ……スペックじゃねぇな。

 ステータスですらないよな。


 あぁ、そうそう。性別のこと忘れてた。

 驚いたことに俺にはあるべきものがなかったのだ。

 男のエクスカリバーがなくなっていたのだ。


 まぁ、別にいいけどな。

 喪失感よりも女になったという好奇心の方が強いから。

 未使用のまま死んでたらちょっと勿体無かっただろうけど……過ぎたことだ。どうしようもない。

 未練はあるけど。

 でもこの幼児の状態では大して変わんないし、いまはそこまで頭が回らないようだった。

 身体に精神も引っ張られているのかね?


「うぇーい!」


 外に向けて駆け出す。

 悩みを吹っ飛ばすには走るのが一番!


 野生児だなぁ……なんて、自分のことだけど。


 ちなみに。

 生まれて初めての外出は、スライディングで始まった。

 誰だよ入り口に敷居の段差作ったの。


 泣きはしなかった。

 ただ、涙が滲んで悔しいような気恥ずかしいような、なんとも言えない気持ちになった。


 グシグシと乱暴に涙を拭い、空を見上げる。

 曇り。

 太陽が雲に隠れてほどよい涼しさ。


 巣穴を振り返る。やっぱかなり大きいよな。あの狼が入るから当然だけど。


 どうやら巣穴は山の中腹にあり、斜面を掘ってつくられたようだった。

 正面は見渡す限り木、木、木。森が広がっている。


 さて。

 若さゆえの過ちとなるか、幼心大冒険となるか。


 ま、なるようになるだろう。


 あまり深くは考えないようにして獣道へと歩を進める。

ストックとかないので更新速度が安定しないです。

思いつきで書くのも大変じゃあ……

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