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イノサンスフェンリル  作者: 泉 燈歌
第0章 生誕迷走編
17/35

無題

ふとした時、とてもくだらない事で笑えるって幸せな事だと思えます。


別に特に何かあった訳ではないのですが。

不定期でもとりあえずはエタらない事を目標にして続けようかと。

 皆様どうも。ファイアアローとフレイムアローの違いがよくわからないサードフェリちゃんです。

 あとアイスジャベリンとフリーズランサーの違いとかもわかりません。

 サイクロンとハリケーンとテンペスト、どれのどこがどう違うのかもわかりません。消費魔力や適正など、数え切れないほどの要素があると思いますが、ぶっちゃけどれも同じようなものではないかと。

 今度機会があったらベル様に訊いてみましょう。






「――着いたね。ここがボク達のホームね」

「ぅ……うぇっぷ」


 酔いました。

 そりゃ屋根をぴょんぴょん跳ねる人間に肩車されたら三半規管が混乱してしまいますよ。


「おいセオ。もうちょっと丁寧に運ばないと駄目だろ」

「問題ないね。すぐに治るね」

「いや、治れば良いってもんじゃないだろ……」

「う~……」


 私もセオさんの頭の上から覗き込むようにして涙目で抗議します。


「なに?」

「……なんでもない」


 やめとけばよかったです。


 セオさんの瞳は、黒く、深く、濁り、光を宿す色が見えませんでした。

 魔王としての存在感というか威圧感というか、ちょっとだけ気圧されてしまいました。

 通常でこれだと戦闘時や激昂時はどうなってしまうのか。ああ恐ろしいものです。

 ま、それでこそ魔王って感じですね。

 畏れ敬われるだけの簡単なお仕事です。

 冗談でもそんなことは口にしませんが。


 ホームは360度、全方位が他の建物に囲まれており、地上からの入り口は他の建物を経由しないと入れない構造になっているようです。

 地下通路などもありそうですね。

 屋根伝いにやってくる常識無視の人間など私たち以外いないでしょうし。この世界は深く考えるためには隠しステータスっぽいなにかのレベルを上げることが必須っぽいので。

 あと、認識阻害の結界なども張られているようで、私の愛おしい狼の耳がピクピクと反応しています。獣人は直感が鋭いので意識しなくてもこういった違和感を捉えることができるのですよ。このクラスにもなると現代の軟弱な獣人では気付けないでしょうけど。


「フェリは魔法特化型か? いや、あれだけの魔法を使おうとしたってことはそれだけでもそうとう強いんだろうけど、近接戦闘能力はどんなもんかと思ってな」

「んー……魔法は得意な方、だと思うけど普通がまだよくわかんないの。武器はあんまり使ったことないし。なんで?」

「この結界に気付けたってことは結界魔法にも適正があるみたいだからな。扱える属性は多ければ多いほど便利だぞ。ちなみに俺は地、水、火、風、雷、光、空の6属性持ちだ」

「属性が多いとその分ひとつの属性を極めるのが難しくなるね。勇者なんかは貧乏器用になりやすいのね。ちなみにボクは闇特化なのね」

「へー。属性っていくつあるの?」

「「知らん」」

「……え?」

「炎属性と火属性で分かれてたり地と土が別だったり風と雷、水と氷、無と魔みたいなのがどういった基準で分類されているのか誰にもわからないんだよ」

「個人差がありすぎてまともなデータが集まらないね。この世界を管理している邪神連中がその時の気分で選んでいるって説がいまのところ一番の有力候補ね」

「えぇ……」


 それはなんとも、適当な世界ですね。

 邪神が管理しているとか不穏なワードも聞こえてきましたが、いったいどれだけの神様がいるのやら。


「ここが入り口ね」

「……壁?」


 一見するとただの木造住宅の壁なのですが。

 セオさんがピタッと壁に張り付くとカタカタカタというカラクリ仕掛けっぽい音と共に景色がぐるんと周りました。少し薄暗いですが建物の中に入れたようです。

 忍者屋敷かっ!


「凄いけど……物凄い無駄だね」

「それほどでもないね」

「それたぶん褒めてねぇよ」

「そんなこと言われなくてもわかってるね」

「お、おぅ」


 なんて会話をしつつ階段を下りていきます。

 どうやら建物の上部は迎撃装置や結界発生器などにスペースを取られているようです。スーラの空間把握はかなり情報収集に長けています。敵に回したらかなりの脅威となるでしょう。


 前方に明かりを確認です。

 足元を照らすだけの頼りない光石ではなく、ちゃんとした照明です。


「ようこそ、我等地球人が集うテラーズホームへ」

「宇宙進出済みの世界から来てる奴もいるけどね」

「黙ってろよ」


 月で産まれた人とか火星人とかですかね。スペースノイドに会ってみたいフェリちゃんはSFの元住人に興味津々です。ファンタジー生まれの私がそう思うのも不思議なものですが。

 ……ん? 別になにも不思議なことではないのでは?


(あらかじめ言っておくが俺にSF知識はないからな?)

(元々期待していませんのでご安心を)

(……なぁ、なんか最近サードが冷たいんだが)

(『知らねーっすよ、んなこと』)

(不定形粘性体に訊いた俺が馬鹿だったよちくしょう!)

(うるさいわよ)

(……ごめんなさい)


 脳内戦争勃発です。

 ファーストはいっぺん自分の胸に聞いてみるべきです。

 私に過負荷状態の身体を渡した恨みはまだ晴れていないので。


 終点の小部屋です。

 他に通路も扉もありません。行き止まり?


「ここからはひとりづつしか入れないね。正しい受け答えをするだけの簡単な試験ね。現代人なら答えられるものだから問題ないね。時代や文化、歴史が違う場合はまた別の方法があるのね」

「とりあえず、まずは俺が手本を見せてやるよ」

「う、うん」


 ユーキさんが一歩前へ出ると空中に文字が浮かび上がりました。

 立体ホログラフと言うのでしたっけ?

 なになに……。


『(´・ω・`)らんらん♪』


「出荷よー」


『――(´・ω・`)そんなー』


 突然、ユーキさんの姿が消えました。

 転移でしょうか?


「わかったね?」

「えーっと……うん、まぁ」


 リアルはクソゲーってことなのでしょうか。

 いえ、リアルでファンタジーな世界ですけど。

 ファンタスティックワールドです。

 ……むぅ。ファーストに呑まれかけています。

 サードフェリである私の個性ってなんでしたっけね。


「さ、さ。試しにやってみるといいね。わからなくても構わないね」

「ん」


 一歩前へ。

 再び現れる空中文字。

 ファーストが出番出番とはしゃいでいます。こっちはこっちでキャラ崩壊寸前です。完全な崩壊こそありえませんがこれでいいのでしょうかね。心配になってきます。


『ウドのコーヒーは、苦い』


「むせる」


『――来週も地獄に付き合ってもらう!』


 なぜに装甲騎兵、と疑問を抱く前に目の前が真っ白に。

 次いで微かな浮遊感。

 とんっ、と地に足が付いた感覚があったので周囲を見回すとディスコみたいな部屋でした。

 ディスコは古いかな……クラブ、というか、ミニライブができそうな空間です。

 照明が煌々と輝いているのでかなり明るいですけど。


 男女共に黒髪の人が数人いて、こちらをちらちら見てきます。新入りですからね、気になるのもわかります。


「お、来たな。★3を一発クリアとはやるじゃんか」

「★3?」

「難易度だ。簡単な一般常識が5で難問の専門知識が1だな」

「あれで3なんだ」

「知ってる奴は知ってるし割とメジャーだからだろ。あの装置の製作者が何者なのか誰も知らないし問題が1億を超えた辺りから検証班が挫けたんだけどな、あれ」

「それ、むしろ1億まで数えられたことを誇るべきだよね」

「俺もそう思う」


 先行したユーキさんとそんな会話をしていると私の隣に突然黒い線が走ります。

 ビギャギャギャギャという空間が裂ける音、とでも言いましょうか、普通ではありえない異音が響き渡ります。

 そしてビジュゥゥゥと割れ目が開き、中からセオさんが現れます。


「いつもニコニコあなたの隣に――」

流星斬撃剣ミーティアスラッシュッ!」

「危ないねっ!?」


 ユーキさんがどこからともなく取り出した光る剣を紙一重で避けるセオさん。私の動体視力をもってしても太刀筋を捉えられません。スーラの空間把握と連動して未来視の魔眼を併用すれば辛うじて捕捉できますが。


「いきなりなにするね」

「もうちょっと世界に優しく移動できないのかって何べん言わせる気だ!」

「たかが移動にどうしてそこまで気を使わないといけないのね。非効率ね。歪みはすぐに元に戻るんだからあんまり口煩く喚かないでほしいね」

「そういう問題じゃねぇよ! 普通に問題解いてこっちに来いよ!」

「★1を5連続で出されたらいくら温厚なボクでも怒るね。めんどくさいのね」

「あぁ、じゃあ仕方ないな」

「いいんだ……」

「★1じゃ無理もないんだよ。専門家でもないと答えられない問題だし」

「高度による重力変化の計算式とか知るわけないね」

「あー、納得」


 むしろ問題を考えた人の頭がどうなっているのか気になります。だって、登録されている問題の全ての答えを知っているのでしょう?

 複数人で作るにしてもそれがどれだけ大変なことか。

 ……でも神がたくさんいる世界ですし人が作ったとは限らないのでは。


「セオ様! おかえりなさいませ!」

「ん、ただいまね。トゥイーニー」


 艶やかな女性の声が私の後ろから聞こえてきました。

 振り向くとそこにいたのは――




 ――メイドさんです! ガチなメイドさんです!


 コスプレとかなんちゃってメイドではなく、お淑やかな、ロングスカートのメイドさんですよ!


(ファースト。私の言いたいことがわかるわね?)

(サードの暴走具合が俺の所為だって言いたいんでしょうベル様は)

(責任、取りなさいね)

(一度でいいから女の子に言われてみたい言葉なのに全然ときめかないんですけどなんでしょうかこれ)

(自分で考えなさい)


 脳内戦争継続中ですがそんなことはもうどうでもいいのです。

 だって、メイドさんが私の目の前にいるんですから。


「将来を誓い合った子ね」

「まあ!」

「別に誓い合ってはないよ?」

「あらあら」

「ショックね」


 勘違いが広まる前に潰しておきます。

 メイドさんの情報拡散速度は早馬をも超えるのです。厳重警戒です。


「フェリです。どうかお見知りおきを」

「転生者らしいのね。詳しいことは飼い主のスーサンに訊くね」

「スヤマ様ですか。ということはあそこにお売りになられるのでしょうか」

「たぶんそうね」


 あそこってどこでしょう。奴隷商に心当たりでもあるのでしょうか。

 気になりますが、まずはこちらを窺っている人たちを逆に観察させてもらいます。


 ……ほむほむ。もとい、ふむふむ。

 生産職が多く、レベルもスーサンより少し低いくらいです。

 戦闘職の方々は私よりいくらか強そうだという程度で、特筆してワンマンアーミーできる人はいないようです。

 やはりユーキさんとセオさんはテラーズの中でもかなり上位にいるのでしょう。


「あ、あのっ!」

「はい?」


 黒髪ロングの少女が近付いてきました。

 なんでしょうね?


「だ……抱かせてください!」

「……レズ?」

「じゃなくて! ハグの方です!」

「んー、いいよー」


 顔を真っ赤にして言われるとそう勘違いされてもおかしくないと思いましょうよ。私はまだまだノーマルですし。

 ……ん? うん。そうです。まだ私はまともですよ?


 ……まだ?


(あれ? なんかおかしくないですか?)

(そうか?)

(眠いわ)

(あ、寝てて、どうぞ)


 気のせいでしょうか。

 真面目な顔をしていても年上の少女に抱かれた状態では締まらないですね。


 なんて、油断していたからですかね。

 少女の手捌きが段々とスピードアップしてきました。


「モフモフ、モフオフ、モフモフ、モフモフ」

「あの、ちょ、あ……やめっ、耳は、ひゃうっ……あ、や……あふんっ」

「――モフモフモフモフモフモフモフモフモフ」

「ひゃ、ぁ……ぅん……にゃぁぁぁ……」

「わふモフわふモフわふモフわふわふわふわふわふ」


 ヘ、ヘルプミー!

 聖女に害された後なので少しくらいは優しくされたいなんて思った私が浅はかでした。この少女、かなりのテクニシャンです。

 びくんびくんしている私を見て何人かが部屋を出て行き、イスに座っているお兄さん方は前かがみになって一切の身動ぎもせずにこちらを熱い視線で見つめてきます。そしてそれを冷たい目で見ている女性陣。

 立ちっぱなしの男はセオさんだけです。クールです。

 ……って、ユーキさんもイスに座っています。勇者も所詮は人の子ですか。


(男ってのはな、みんな馬鹿なんだよ。どうしようもない、馬鹿ばっかだ。でもな、それが男ってもんなんだ。馬鹿なのは仕方ないじゃないか)

(馬鹿が言うと説得力がありますね)

(自虐はほどほどにしなさいね)

(……泣いていいか?)

(『水分と塩分と体力の無駄なんでやめてくれよなー』)

(従魔の分際でてめぇスーラこの裏切り者!)

(『あっしの主人は統合されたフェリなんでー』)


 この脳内戦争はいつ終わるのでしょう。

 いえ、いつだっていいのですけど。


 あと、このモフり少女はいつになったら開放してくれるのでしょうか。

 このままだと下着の替えが必要になってくるのですが……。

 それこそ同化しているスーラが吸収すればいい話なのですが、それはそれでちょっと恥ずかしいといいますか。まぁ、乙女心は単純明快にして複雑怪奇なのですよ。


ゆうなまがしたいっす。

ととものがしたいっす。


人生やり直すのならファミコンの名作をリアルタイムでやりたい。

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