弱者
どうも。
半チート幼女ことサードフェリちゃんです。
ワイバーンとの死闘を終え、ファーストが眠った後のことです。
めっちゃ叱られました。怒られました。
私は戦うのはやめたほうが良いと主張したというのに、です。
理不尽です。
叱られるべきは無謀にも突貫したファーストですよ。
私はなにも悪くないのです!
それなのに……まったくもう。
全身が痛いのもファーストが無茶した所為です。
荷馬車の中で横になっているだけなのに声が漏れちゃいます。
……喘ぎ声ではないのですよ?
冗談言えるうちはまだ平気とかぬかす奴はいっぺん全身粉砕骨折にでもなってください。いまの私の気持ちがいくらかわかるでしょうから。
「フェリ。大丈夫か?」
「大丈夫そうに、見える?」
「見えん」
「そういう、こと。うぅ……」
再封印というか、制限も少しだけ改良して自由が利くようにしましたが、戦闘直後にそんな精密作業やらされる私はなんと不幸な存在でしょう。
泣けます。
ポーションっぽい緑色のどろっとした液体も無理矢理飲まされましたし。喉の通りが悪くて飲み辛かったですし、なにより苦くて渋くて、とにかくまずかったです。
ライム味とかレモン味とか、そういうマイルドな物を作っておけよ先人とか恨み言を漏らしてしまいましたが仕方ないじゃないですか。私は五感が敏感なので刺激はできるだけ受けたくないのですよ。第六感? 知りません。野生の勘ならありそうですけどね。
「ねぇ。フェリちゃん」
「な、に?」
マーサンの声が暗いです。
私こういう空気嫌いなんですけどねー?
YesシリアルNoシリアスです。朝食はパン派ですが。
……関係ないですね。
「私はね、強い人が嫌いよ」
「そう」
「嫌い……大嫌い」
「……」
どうしろと。
過去に何かあったのか訊けとでも言うのですか?
嫌ですよめんどくさい。
できる限り周りからは好かれたいと思っていますが、別に嫌われたって平気です。
へ、へっちゃらです。
……。
仲良くできるのなら、仲良くしたいですね。やっぱり。
「どうして。嫌いなの?」
「スーサンから聞いた?」
「う、ん?」
なにをですか!?
迂闊なことは言えませんし訊けませんよこの空気。
間違えても失うものなんか大してないのですが、やはりここは頭を使って切り抜けるべきだと私の中のゴーストが囁くのです。
(がんばれ♥ がんばれ♥)
ベル様が壊れたぁぁぁ!?
(なによ)
……いえ。
なんでもありません。
やる気出てきました。
私、女ですけど。
(ここでしくじると後々面倒なことになるわよ。たぶん)
はい。了解です。
どうにかなぁなぁに流して話を済ませます!
――というやりとりは思考加速によって約二フレームで行われていました、って誰に向けて解説しているのでしょうか私は。
まぁ、いいです。
「私たちが昔、獣人との戦争に巻き込まれた話は知ってるわよね」
「うん」
「そもそもフェリちゃんは自分が、獣人がどんな種族か知ってる?」
「んー……身体能力が高くて魔法技能が低いっていうのが一般的な獣人のイメージだよね?」
「そうね。その基となった獣の特性もあるから人族よりも遥かに強いのよ」
まぁ、白狼族みたいにエルフを上回る魔法技能を持つとんでもない種族もいたんですけどね。ハイエルフと魔法合戦して良い勝負ができるくらいには優秀だったそうです。母上様の情報では。
(サード。それだと間違えてはいないけど正しくもないわ)
(え? どういう意味ですか?)
(白狼族がその身に秘めていたのは莫大な魔力ではなくて少量の神力だったのよ)
(神力……ロキのインフェルノも使っていたのは魔力ではなくて神力でしたね。……ということは?)
(わかるわね?)
(白狼族って神に列なる種族だったんですか!)
(そう。そして現在確認されていて狼の神として現世に顕現しているのは……)
(あぁ、やっぱりロキなんですね)
(ちなみに銀狼は神力の使えなくなった白狼よ。その分いくらか魔力が増えてはいたみたいだけれどね)
(ふぇー……ロキの戯れは新人種をふたつも生み出したんですね。その時そこにどんな理由があったのかは知りませんが)
(……そうね)
(というか……ベル様って何者だったのですか? 継承知識にはそんなことまったくなかったのですが)
(大賢者、なんて呼ばれていたわね)
(……過去の人だったのですか)
(昔の話よ。ずっと、ずっと)
(そう、ですか)
詳しく聞きたいのですが、まだ、時期ではないようです。
ベル様がそれっきり静かになってしまったので。
ちなみにこのやり取りも加速されていたので一瞬です。
思考加速って便利ですねぇ。
「私はね、戦いなんてしたくはなかったわ」
「うん」
「街から避難する時にね、単独で一個中隊を相手取れる獣人の将軍に追われたの」
「ん」
「私は怖い……あんな力を個人が持っているなんて、地球だったら戦車に乗って街中を走っているような存在よ。その気になれば私みたいな弱い人間じゃ抵抗もできずに死ぬの」
「……」
「そんな外れた連中がうじゃうじゃいるなんて……冗談じゃない」
「……マーサン」
力、ですか。
私は生まれつきそれなりの強者であったから、マーサンの、弱者の気持ちなんてよくは分かりません。当然ですけどね。
たとえ私が見た目通りのひ弱な小娘だったとしても、理解できないでしょう。
だって。私は私以外のものにはなれないのですから。
「だから私は行き過ぎた力を持つ人が嫌い。人知を超えた人が嫌い」
「……ねぇ、マーサン」
「なあに? フェリちゃん。幻滅した?」
「んーん。……マーサンは地球での銃の存在意義をどう思う?」
「銃ね……はっきり言って、日本で普通に生活しているなら死ぬまで関係ない物よね」
「うん。マーサンは個人が銃を持つことをどう考える?」
「それは日本人が?」
「ううん。人間の一市民が」
「危ないわよね。錯乱したり狂乱したりして乱射する事件がたくさんあるもの」
「うん。じゃあ銃がなかったらそんなことは起きないと思う?」
「それはそうでしょう? 銃があるから人に撃たれるし人を撃っちゃうのよ」
「そうだね。じゃあ銃がなかったら世界はどうなっていたのかな? 銃のない日本ではどんな事件が起きているかな?」
「……銃なんかなくても、ナイフや包丁でも人は殺せるって言いたいのね」
車という質量兵器もあるんですけどね。
まぁそれは不幸で不運な事故もあるので置いておきます。
こういうのはなんとなく「そうかもしれないな」と思わせられればそれでいいのです。細かいことを突き詰めていくのは私のお仕事ではないので。
そんなことを考えるのは面倒ですし。
「うん。中学生にもなれば殺意さえあれば素手で人は殺せるんだよ」
人って頑丈なくせに脆いですからね。銃で撃たれても死ななかったり石を頭に投げつけて当てただけで死んじゃったり。
「……フェリちゃんはなにが言いたいのかしら?」
「力なんてモノはそこに意思がなければ意味を成さないと思うの。怖がってばかりじゃむしろその危機を事前に知ることが難しくなるかもよ? それともマーサンはその力を無慈悲に、無条件で振るわれるだけの罪を犯しているの?」
「……本人にその気があろうとなかろうと、ただ軽く振るわれただけで吹き飛ばされてしまうのが私たち弱者よ。それに、力を持つ者は否応なくその力を振るうものなのよ、フェリちゃん」
「理不尽には抵抗をするのが人類だよ、マーサン」
「……無理よ」
「独力で駄目なら他力を頼れ、って昔の偉い人は言ったよ?」
「知らないわよそんな言葉」
当然です。いまつくりましたからね。
そのうち力がついたら過去にでも跳んで残しておきましょう。極力、嘘は吐かないサードフェリちゃんですから。
タイムパラドックス? なにそれおいしいの?
「結局、フェリちゃんは私にどう変わってほしいのかしら?」
「別に変わらなくていいよ。マーサンとはただお話ししただけだから」
「……そう」
「うん」
怖がられるのはちょっと寂しいですけど、だからってそれをどうこう言えるほど私は近しい存在ではないですし。
そもそも、それを怖いと思うのは正常な証拠ですから。感じない方が問題です。
……。
結局、私はなにが言いたかったんでしょうか?
自分でもさっぱりわかりませんね。
まぁ、力の問題なんて些細なものだって、言えれば楽なのですが。
ワイバーンと殺り合った直後にどの口が言うのかと。
弱肉強食は自然の摂理なのですよ。
弱ければ死ぬ。それに異を唱えるならそれだけの力を身に付けてみろ、ということですね。
人間は社会性の生き物です。人脈も発言力や干渉力に繋がります。
つまり、完全に無力な人なんてそうそう居やしないのです。
なんて、綺麗にまとめてみたつもりのサードフェリちゃんです。
……この仕切り直し、そろそろ限界があるような。
「――マーサン、ヤーサン、フェリ。着いたぞ」
御者台のスーサンから声が掛かってきました。
ヤーサンはワイバーン戦からずっと寝ていますが。
なんなんでしょうね。
どこか作為的な流れを感じます。
メタァ、な方ではなく。いえ、それはそれで思い当たる節もあるのですが。
……ともかく。
まずは奴隷登録ですかね。
楽しみです。
首輪は可愛いのがいいですね。無骨なのは許せません。
チョーカーみたいなファッション性のある物を希望します。
……いえ、別に縛られたり飼われるのが好きとかそういう少し変わった性癖は持ち合わせていないのですが。
言葉の綾ってやつです。
……わくわく。
やべぇ作者自身もフェリになに言わせているのかわかんねぇ!
という反面教師的な回でした。
次に生かせりゃ失敗は失敗のままにはならないのですよ。たぶん。