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イノサンスフェンリル  作者: 泉 燈歌
第0章 生誕迷走編
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転生

初投稿になりますね。

ミスとか多々あるでしょうが一時の暇つぶしにでもなれば嬉しいです。

 Q.狼と犬の違いとはなにか?


 A.ぶっちゃけ種族的には大して変わらない。




 俺にもそう思っていた頃がありました。


 いや、いまもそうだと思ってはいるんだけど。


 で、なんでこんなことを考えているかって?



 その狼が目の前にいるからさ!



 眼を開けた途端視界いっぱいにその大きな身体が見えたからね。てか大きすぎて見切れてたね。

 死を覚悟しましたよ。

 どう足掻いても勝てないってわかったからね。


 でもこの狼は俺を食おうとかは考えてないようで、目を閉じて横倒しになって眠ってる。

 時折耳がピクピク動いてるから熟睡してるわけじゃないみたいだけど。


「あぁー」


 肝心の俺はというと、まったく動けません。

 ついでに喋れません。

 視界もぼやけた状態です。眼を細めると少しだけマシになるんだけどね。

 あ、でも匂いだけはなんとなくわかる。寝かされている藁と土の匂い、それと狼から漂ってくる血の香り。


 ぐぎゅるるるるるる。


 どうでもいいけどお腹空いたなー。てかどうでもよくはないなー。一大事じゃん。

 手をパタパタ振り回し訴える。


「*******」


 んおっ!?


 死角から抱っこされた。

 狼に気を取られてて気付かなかった。


 てか俺ってそんなに軽いの?


 ……ん? あれ?


 俺はそれを自覚した途端様々な疑問が浮かび上がる。


(俺って誰ぞ?)


 自分のことを俺って言うくらいだから性別は男だよな。


 ……いやいやいや。


 それ以前になんかおかしい。

 まず、この自我はなんぞ? 自我とはなんぞとかそんなことは深く考えずに、いいね?


 問、俺とはなにか?


 解、俺とは人間である。


 ……ちょっと違うか。

 人間であった、と言うべきか?


 気がついたら、赤子だった、と。


 そうか。

 俺は赤ん坊になっているのか!


 思考にモヤモヤっとフィルターがかかっているような状態だが、段々冴えてきた。


 いまのこの身体は人間か?


 肯定。

 ちらっと見えた自分の手は見慣れた五指の綺麗なお手手だった。生まれたてだからか色素が薄くて新雪みたいな白さだった。


 後頭部に腕を回され、首が固定される。首が据わっていない赤ん坊はこうしないと脳が大惨事になるんだっけな。


 支えられた先を見上げる。

 俺を抱えているのは二十代前半くらいの女の人だ。

 ただ……、


 耳があった。


 ……あぁ、うん。違う違う。

 耳はあるよね。そりゃあ普通だよね。

 俺が訴えたいのはそういうことじゃなくて、


 獣耳があった!


 夢にまで見た(こともないようなあるような)わふわふの耳です!


 銀白の髪と犬耳(?)に金色の瞳。

 魅了の魔眼でも常時発動しているかのような美しさ。

 ハートがときめきました。


 ……でもねぇ。

 流れ的にこの綺麗なお姉ちゃんって俺の母親っぽいじゃん?

 生まれたてでいきなり考えることが近親相姦ってのはちょっとなぁ……。


 いや、嫌いじゃないよ?

 兄妹とかだったらもっと大好物でしたよ?


 ……なにやってたんだろうな、昔の俺。


 前世(?)の自分の性癖に悩む生後数……日目? たぶん?


「********」


 なにか話しかけてきているようだが、日本語と申し訳程度の英語しか知らない俺には通じない。


「ぉー」


 返事だけはしっかりしておく。

 無反応な赤ん坊ってそれだけで心配させそうだしな。


 っと。

 考え事をしている間にきましたよ。

 転生したらまずやってくる関門のひとつ、授乳のお時間です。

 ここで戸惑ったり遠慮したり自重したり畏まったりすると母親が心配する。


 速攻お山の可愛らしい蕾ちゃんにかぶりつきました。まだ歯は生えてないからハミハミしても痛くないと思う。やましい気持ちなんかないよ? ホントだよ?

 本能に任せれば大して気にならないし、いちいち気にしてたらこの先、きっと生きていけないもんね。

 生き恥晒すのは人間の性だね。業でもあるね。

 こういうのは避けようがないし、ここを避けてしまえるということは親の愛を受けていないという悲惨な幼少期になりそうだしな。

 あ、でも代理とか普通にあるしそれだけで愛を語るのはよくないか。反省反省。


 それにしてもこの人の胸は普通だなぁ。

 サイズが。

 この新たな世界での標準がわからないから適当だけど。


 それがどうしたと思う反面、姉妹がいたりこれからできるとしたらどうなるかの指標になるだろうし色々と観察するべきだとも考える自称健全な俺の桃色思考回路。


 とりあえず、いまはおいしくいただくことに集中しよう。


 味はよくわからんがな、って……なんだか。

 ……眠く、なって。きた?


 ……。



 ・・・・・・・・・・・・



「あ、寝ちゃった」


 白銀の女性はそう呟くと自分と同じ色の髪と耳を持つ我が子を愛おしそうに見つめ、藁の寝床にそっと寝かせる。

 それから自分の胸元になにかの獣の皮をさらしとして巻き、ベストとして使い古されている毛皮を羽織る。


「ヴ」


「はい」


 そしていつの間にか目を開け音もなく起き上がっていた狼に付き従うようにして巣穴を出る。


 赤ん坊の視界からでは正確な遠近感を得ていなかったから寝ている子は知らないことであったが、狼の体長は女性の数倍はあった。


 ただ、大きい。それだけのことではあるが。


 ひとりと一匹が出て行った巣穴には小さな、だが確かな寝息だけが残された。

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