新参者
目を覚ますと、そこは人が1人横になることが出来る、狭い装置の中だった。両手両足を固定されているため身動きは出来ない。と言うより、動けないように設計しなければならない。
シミュレーションシステム〈FT-3000 Type5〉。それがこの装置の名前だ。外見はただの白い棺桶のような形をしているため、『棺桶』と呼ばれることが多い。このシミュレーションシステムは、使用者の脳に無数の信号を送ることでバーチャル空間での模擬戦を可能とした、最新装置である。ただし、脳に直接信号を送るため、現実世界で寝ている体にも電気信号が送られて突如暴れ出す、と言う事故が発生したことがあり、それ以降固定器具が設置されたのだ。その改良で生まれたのが、今現在使われているものだ。
その『棺桶』の中で、優しそうな顔立ちをした黒髪の青年は、一つため息をついた。
(これじゃ不合格かな…)
『棺桶』のハッチがスライドして開き、手と足の拘束が解かれたところで俺は起き上がった。
(今日に限って体が動かなかった気がする。こんなに大事な日はないのに…)
今日は部隊転属初日の、戦闘能力試験の日なのだ。この試験により、その部隊での自分の役割が決定される。
ちなみに、俺が最も得意とするのは前衛での激しい戦闘だ。後衛での支援が大切なのは知っているが、前衛で戦っていたほうが楽しい。命がけの戦いに、楽しいと言う感情を抱いてしまう自分が時々怖くなるのだが。
「アカギ君。」
声をかけられた方向を見た俺は慌てて立ち上がり、姿勢をただして敬礼をする。
そこに立っていたのは、これから所属することになる部隊の隊長、ホーリー・アトラス大尉なのだ。彼女は俺が現在所属している軍の中でもかなり美人な女性であり、彼女が所属する部隊の生還率が98%であると言う事実から、戦場の女神とも呼ばれるほどの人だ。
正直なところ、かなりラッキーな転属だと思った。
「あなたのシミュレーションを見せてもらったわ。最後は迂闊だったわね。」
「はっ。残弾が少なくなったことで少々焦ってしまいました。」
俺のその言葉に、隊長はくすりと笑う。薄くブラウンに染められたロングヘアーに小さな顔、スタイルもいいし、誰でもすぐに好感を持てるその彼女の笑顔に、俺は少し見とれてしまう。
「アカギ君、私の部隊では堅苦しいことはなしよ。みんな一緒に生きていく家族みたいなものだもの。だから、肩の力抜いていいわよ。」
「は、はい…」
以前所属していた部隊でこんな言葉を言われたら、すぐに肩の力を抜くことが出来ただろう。だが、今回はそうはいかない。
こんな美人にすぐに馴染めるような俺ではない。女の子と仲良くなれないのは自分から声をかけたり、気さくに話すことが出来ないからなのかもしれない。だが、わかっていても直すことが出来ないのが現状なのだ。
「さて、話の続きなんだけど、あなたの部隊内での配属を決めさせてもらったわ。」
俺が考えていたことを振り払うように隊長は話し始める。フレンドリーな話し方が今回の試験の失敗を忘れさせてくれる気がした。
そもそも、試験での俺の動きは完全に前衛としてのものだった。前衛に選ばれないはずがない。が…。
「あなたには後衛をやってもらうわ。」
その言葉に、俺は一瞬何も言えなかった。
2回目の投稿です!
色々忙しかったので前回からだいぶ時間が経ってしまいました。
読んでくださった方、ありがとうございます!
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