夢の中でもう一度
「夢の中でもう一度」
原案・SHIN
著・まきこ
―彼が私の元へ帰ってきたのか、写真の中の彼を見て思わず安堵したのか、それとも私が彼の元へ行ったのか。もしかしたら、逝ってしまったのかもしれない。
夕暮れ時、意識をふわふわさせながら自宅の玄関を開ける。2人の部屋を柔らかな日差しと伸びる影が占領している。飲み慣れないお酒を出されるがまま飲んだせいか、おぼつかない足取りでベッドに倒れこんだ。
ベッドの隅の写真立てが反動で布団に沈んだ。それを感覚の曖昧な指先で摘んで立て掛ける。写真立ての中で、景色の一部として切り取られた君がにこやかに微笑んでいる。今日も変わらない笑顔で、満面の笑みを浮かべて、こちらを向いている。
ふと、懐かしい君の匂いがしたような気がした。あれは君の胸に顔を埋めた時の、取り込んだばかりの洗濯物と君の身体の匂い。それと同時に、記憶の中の君の声が聞こえる。実際に耳には届こえやしないが、確かに、鼓膜の震える感覚と共に言葉が浮かんでは消えていく。
『君は、笑顔が1番似合うから』
「でもたまには泣きたい時だってあるわよ」
『その時は僕が涙を拾ってあげるから』
「じゃあ、その時まで待ってるわ」
目の前に、彼の顔が映る。いつものように、あなたは優しく微笑みかけてくれている。
―よかった、あなたが居てくれて。
私は不安から解放されて、微笑みながら涙を流した。
(了)