夕空
三題噺もどき―きゅうひゃくよんじゅうなな。
ほんの少し冷たい風が真横を通る。
風を切って自転車を漕いでいると、とても心地いい。
最近、朝晩は秋らしくなってきたような気がする。
「……」
春風のような温かな、ほっとするような、心地よさではなくとも。
昼間の熱で火照った体をすっと冷ましてくれる、少しざわついた心を穏やかにさせてくれる。そんな心地よさを、この風は与えてくれる。
「……」
周囲はすでに暗くなり始め、車のライトが時折視界を遮ってくる。
空の端の方はまだオレンジ色とも紫色とも言えないような、曖昧な空が広がっている。
所々にピンクも混じっていて、まるで梅の花のようだと思った。
「……」
桜の様な薄いピンクではない。少し濃ゆいピンクだけれど、それはそれで可愛らしさと強さもあって嫌いな色ではない。ピンクや赤といった色がそもそもあまり好みではないもので。
でも、あの子には何でも似合いそうだ。
「……」
あの子の唇は、どちらかと言うと桜に近いピンクだろうか。
うっすらとしていて、しゃべるたびにコロコロと可愛い音が鳴る。ケアもしっかりしているから、時折艶々としていて、見惚れてしまう人が居るのではと不安になる。
「……」
今日も、2人で弁当を食べた。
あの子は、ダイエットをしているのだといってヘルシーな弁当だった。
痩せる必要あるか?と思うのだけど、まぁ、本人が気にしているのなら外野が口を出すことではない。私もダイエットしようかな。
「……」
その後は、見回りにくる教師に気を付けつつ、スマホをいじったり話をしたりしていた。
時期が時期なので、ハロウィン関連のイベントやグッズ予告などが出ていて大変なのだと。
それなりの値段はするし、この後にクリスマスにお正月と来ることを考えると迂闊に手が出せないらしい。学生の財布にはあまりお優しくない。
「……」
私もまぁ、何かしら気になるグッズなどはなくもないが。
実用性があるものというか、正直フィギュアやアクリルスタンドなどは飾る場所に困るので買うことはあまりない。1人部屋ではあるけれど、たいした広さはないしベッドが半分占めているから棚もあまり置けない。
「……」
まぁ、誕生日プレゼントに何かと思ったが……さすがに気持ち悪いかと思ってやめておいた。それに生産量が決まっていたりするものを、部外者が買う物ではないだろう。受注とかなら考えようはあるけれど……。まぁ、ただの友達に推しグッズ渡されてもな。
「……」
そういえば、そのグッズの話の流れで。
多分、どこの界隈でも一度は出していそうな、アクセサリーの話になった。
何のグッズだったかは忘れてしまったのだけど、指輪が出るらしい。それなりの値段で。キャラクターごとに石や意匠が異なり、結婚指輪だなんだと騒いでいた。
「……」
正直私は、そこまで入れ込んで―言い方が悪いかもしれないが他の言い方が分からない―いないので、結婚だなんだと思うことはないのだけど。
そこで、ふと。
あの子も、その内結婚とかするんだろうなと。
「……」
まだまだ先の未来ではあるが。
これから大学に行ったり、その後社会で働くようになったり。
そうなれば、出会いというモノはそれなりにあるだろうし。
この高校は比較的女子生徒の方が多いけれど、社会に出てしまえばそんなこともないだろうし。
「……」
それに、あの子は誰もが見惚れてしまう程美人で、可愛いのだ。
今まで彼氏がいないのが不思議なくらいだと思うんだけど。
……ホントはいたのかもしれないが、詮索することでもないだろ。
「……」
いつか、大人になって。
あの子から、結婚することになったと言われて。
私はその時、どんなことを思うんだろうか。
「……」
もちろん、その時の私がどんな生活をしているかなんて全く想像はつかない。
今だって、先の事を考えるだけで視界が真っ暗になって、何も見えなくなって、ただただ不安になるだけの人間だから。
それでも私は、どこかであの子と繋がり続けているという確信はある。
「……」
あの子から、切られない限り。
だけど。
「……」
冷たい風が吹く。
川を渡る時はさすがに肌寒い。
気付けば空には月が浮かぶ。
「……」
さっさと帰ってさっさと寝よう。
……と言っても、寝るのはどうせ1時とかなんだろうけど。
お題:春風・梅・指輪




