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魔法少女は異世界を救済(蹂躙)する  作者: EDA
第2話 魔女と公女

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01 使い魔

「あ、あれ……? ここは……?」


 ぼんやりとした声でつぶやきながら、リューリが身を起こす。

 そちらに向かって、ステラはにっこりと笑いかけた。


「リューリ、おはよー! あらためて、おつかれさまー!」


「は、はい……ここは、どこですか……?」


「うーん、どこだろ? テキトーにホウキを走らせて、人目につかなそうな場所を選んだんだよー!」


 そこは荒野にそびえたつ岩山の頂上付近に位置する、断崖の上であった。リューリは干し草の上で寝かされており、ステラとジェジェはずっとその寝顔を見守っていたのだ。


「え、ええと……わたしは『破戒物ブレイカー』っていう怪物になって、暴れちゃったんですよね? 町のほうは、大丈夫だったんですか?」


「うん! なんか、魔法を使えそうな兵隊さんたちがわらわら集まってきたから、また透明になれる魔法で逃げてきたんだよー!」


「そ、そうですか……色々とご迷惑をおかけして、本当に申し訳ありませんでした」


 リューリは干し草の上で正座になり、ステラに向かって深々と頭を下げる。

 それに対して、ステラは「いーのいーの!」とあっけらかんと笑った。


「さっきも言ったけど、『破戒物ブレイカー』をやっつけるのが魔法少女の一番の使命だからさ! そんでもって、『破戒物ブレイカー』が生まれるのは世界が歪んでるせいだから! リューリはなーんにも気にしないでいいんだよー!」


「まあ、時には自業自得でこの世に絶望する人間もいるけどさ。キミの場合は帝国による封建社会の被害者という立場なんだろうから、取り立てて責任は生じないだろうね」


 ジェジェまでもがそのように言いたてたため、リューリは「ありがとうございます」と再び頭を垂れた。

 自分の行いを顧みて、リューリはすっかり恐縮してしまっている。しかしその鳶色の瞳は澄みわたっており、表情は安らかだ。彼女が抱いていた絶望と怨念は『破戒物ブレイカー』という形を取った上で滅殺されたため、もうその心に負の感情は残されていないはずであった。


「それじゃあお次は、リューリの身の振り方を考えないとねー! これから、どうしよっか?」


「わ、わたしは何も思いつきませんけれど……ステラさんのほうは、この先どうなさるおつもりだったんですか?」


「んー? どーするって、何が?」


「ステラさんたちは、どこか遠くからやってきたのでしょう? それでどのように生活するつもりだったのですか?」


「さー? そんなことを考える時間はなかったし、べつに考える必要もないしねー」


「そ、そんなことはないでしょう? 住む場所とか、食べるものとか……」


「わたしは魔法少女だから、暑さも寒さも感じないんだよー! ごはんを食べる必要もないし、お花をつみに行く必要もないし、どこでも元気にサバイブできるのさー!」


 ステラがえっへんと胸を張ると、リューリは目をぱちくりとさせた。


「そ、そうなんですか。魔法少女って……すごいんですね」


「うん! でもでもやっぱり、リューリには家とか食事とかが必要なのかなー?」


「は、はい。わたしは勝手に魔法の火を生み出してしまうだけで、あとは普通の人間と変わりませんので……」


 すると、ステラの膝に乗っていたジェジェが「でもさ」と声をあげた。


「さっき出会った魔女たちは、適切に魔法を使いこなしていたよね。それなら、訓練次第でコントロールできるわけだね」


「は、はい。でも、魔女は魔法の力を制御できないから、危険と見なされているはずなんですが……」


「それはおそらく、魔女を排斥するための建前なんじゃないのかな。この世界の支配層が魔法の力で権威を保っているのなら、どうしたって魔女の存在は許容できないのだろうからね」


 ステラは「んーむむむ」と首をひねってから、ぽんと手を打ち鳴らした。


「それじゃーさ、まずはさっきの魔女さんたちに魔法の使い方を教えてもらったらどうだろう?」


「ええ? ど、どうしてそんなことを?」


「だって、魔法の力をセーブできたら、どこでも安心して暮らせるでしょ? 魔女だってバレなければ、町を追い出されることもないしさ!」


「で、でも……あの人たちは、帝国を打倒するなんて言っていましたし……協力するのを断ったら、襲われちゃいましたよね?」


「うん! でも、心をこめてお願いしたら、どうにかなるんじゃないかなー?」


 リューリは困り果てながら、救いを求めるようにジェジェのほうを見る。

 ジェジェはしかたなさそうに発言した。


「それで、どうにもならなかったら、武力で制圧かい? きっとキミは、魔女たちが『破戒ブレイク』する可能性を想定しているんだろうね」


「てへぺろ」と、ステラは片目をつぶりながら舌を出す。

 リューリはいっそう困惑の表情になった。


「そ、それって、あの人たちもわたしみたいな怪物になってしまうということですか?」


「うん! 特にあのミルヴァって人は、恨みのオーラがムンムンだったからねー! いつ『破戒ブレイク』しても、おかしくないんじゃないかなー!」


「そ、そんなの、危ないじゃないですか!」


「でもでも、それで生まれた『破戒物ブレイカー』をやっつければ、恨みの思いも浄化されるからね! そーしたら、戦争を起こそうなんて気持ちもなくなるはずだよー!」


 そう言って、ステラは屈託なく笑った。


「魔法少女は、そうやって世界を浄化していくんだよ! みんなが恨みの気持ちをなくしたら、平和な世界になるからね!」


「そ……そんなことが、可能なのですか?」


「不可能を可能にするのが、魔法少女の役割さ!」


 ステラが声も高らかに宣言したとき、どこからともなく『へーえ』という皮肉っぽい声が響きわたった。


『ずいぶんな大口を叩くもんだ。でも、ミルヴァもあたしたちも、絶対にこの恨みを忘れやしないよ』


 ステラはきょとんとした顔で、リューリは困惑の表情で、それぞれ周囲を見回す。

 そんな二人の目の前に、奇妙な生き物がふわりと舞い降りた。体長四十センチていどの細長い胴体に巨大な翼と二本の足を生やした、小ぶりの翼竜――ワイバーンである。


『ようやく見つけたよ、水色頭。さっきは、ミルヴァが世話になったみたいだねぇ』


「こんにちは! あなたは、おしゃべりができるモンスターなんだね!」


 物怖じを知らないステラが笑顔で答えると、ワイバーンは黄色い目を半分まぶたに隠しながら『ふん』と鼻を鳴らす。その眉間のあたりには、小さな魔法陣がぼんやりと輝いていた。


『こいつは、あたしの魔法で操作してるんだよ。ミルヴァをコケにしたあんたたちを探すためにね』


「それじゃああなたも、ミルヴァさんの仲間なんだね! よかったら、ミルヴァさんのところまで案内してくれないかなー?」


『ふふん。本当はあんたたちの寝込みを襲うつもりだったけど、自分から乗り込もうってんなら話が早い。せいぜい歓迎してやるから、ついてきな』


「うん! どうもありがとー!」


 満面に笑みを浮かべるステラの腕を、リューリは必死の表情でくいくいと引っ張った。


「ス、ステラさん、本当に大丈夫なんですか? 魔女は百人もいるという話なんですよ?」


「だいじょーぶだいじょーぶ! ステラにおまかせあれー! アルスヴィズ・レジェロ!」


 魔法のホウキに乗ったステラの一行は、ワイバーンとともに空に繰り出す。

 荒野の上空を飛行しながら、ワイバーンは横目でステラたちをにらみつけた。


『確かにこいつは、見たことのない魔法だね。いったいどんなカラクリなのさ?』


「魔法少女は、宇宙のエネルギーで魔法を使うんだよー! あなたこそ、どうやってモンスターを操ってるの?」


『ふん。そんなことを教えてやる義理はないね』


 そうしてしばらく飛空すると、荒野の果てに森が現れた。

 樹海と呼ぶに相応しい、黒々とした威容である。その不気味なたたずまいに、リューリはぎゅっとステラに取りすがった。


『ここからは、目くらましの幻術が仕掛けられてるからね。片方の目を閉ざしてついてきな』


 森の手前で着陸したワイバーンは、小さな足でのしのしと茂みの中に踏み入っていく。その姿が、行く手をふさぐ大樹の中にすうっと溶け込んだ。


「わーっ! 消えちゃった! これも、魔法なのー?」


『だから、片目を閉じろって言ってんだろ。めんどくさいボンクラだね』


 ステラたちが片目を閉じると、大樹が消え去ってワイバーンの後ろ姿が見えた。

 不安げな顔をしたリューリに片腕を抱きすくめられながら、ステラは意気揚々と歩を進める。すると、ステラの肩に乗ったジェジェが「なるほど」とつぶやいた。


「いかにも魔女の隠れ里といった趣だね。それに、モンスターを操作したり、こんな幻影を生みだしたりと、なかなかバリエーションにとんだ魔法の技術が確立されているようだよ」


「うんうん。魔法少女だって、こんな魔法は使えないもんねー」


「まあ、『破戒物ブレイカー』の討滅に幻術なんて必要ないし、本来の世界ではモンスターも存在しないからね。魔法というのは、必要に応じて進化・発展を遂げていくものさ」


『なにをわちゃわちゃ騒いでるんだい。そろそろ到着だよ』


 ワイバーンがそのように告げるなり、いきなり視界が開けた。

 森の中に、ぽっかりと空き地ができている。そしてその場に、百名に及ぶ黒ずくめの魔女たちが立ち並んでいた。


「よく来たねぇ、水色頭。のこのこ自分からやってくるなんて、見上げた度胸だよ」


 ほんの数時間前に別れたばかりの魔女ミルヴァが、妖艶に笑いながら進み出る。

 その黒い瞳には、やはり怨念の炎が渦巻いていた。

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