表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/68

第六話 風の貴公子

 自分が持っていない"モノ"を持つ者

 そんな人物を尊敬し憧れを抱いてしまう

 その想いが自分を変えるキッカケになるんだろうね

★葵


 今日の空は雲の動きが激しく荒々しい。アンバト部を作ると宣言して数日。自分から入部希望という奴は全く現れない。まぁアンバト部がないわけだし、アンバトをしたい奴は部活かある学校を選ぶだろうから当然か。


 オレの告知の仕方のせいなのか、ただ興味がないのか馴染みがないのか。ここ数日は色んな部活を回ってスカウトできそうな奴を探している。この学校は運動が出来る生徒が揃っているから向いていそうな奴くらい簡単に見つかると思っていた。もちろん、部活に入ってくれるかは別の話ではあるが……。


 そう、入学前からオレが『コイ』をしている相手はやはりここの学校に通っていた。『コイ』の相手とは、アンバト競技の個人戦で出会った。聞いた話によると彼はフィールドアーチェリーというのを趣味でやっている人物で競技の試合に出場したことはなかったそうだ。オレがたまたま見た試合が初めて出場したようで偶然にもその試合を見て『コイ』に落ちてしまったのである。競技では当然、順位があるので上手い奴は自然と名前が知られるようになる。彼は競技には今まで出ていなかったので無名の選手ではあるがアマチュアのフィールドアーチェリーというものに希に参加していたこともあり『風の貴公子』という名がついていた。


 一目惚れ……


 背筋を伸ばし綺麗な姿勢

 優雅なオーラを放つ立ち姿

 まっすぐ伸びた手も美しく

 そして風を読み放つ矢

 矢が的に当たる音も美しい音色のようで


 オレは彼の試合を釘付けになって見ていた。彼と同じフィールドで風を感じたいと思った。

 

 オレは物心がついた時にはモノを捉える早さが人より早かった。わかりやすく言うと、普通の人が見ているものがオレには少しスローモーションのように見えることがある。言葉もそうだ、最初に言おうとする単語がわかってしまう。単語がわかると会話の内容までもが察することが出来てしまう。だから相手が言おうとしたことや思っていることを先走ってしまうことがある。なるべく気がつかないようにと努力をしてきた。しかし、気が高ぶってしまうと制御が効かなくなる。悪い癖だ。なるべく普通に普通に……と考えると必要以上に人と距離を置くのが日課になってしまった。今までは、先走って話してしまうことで相手から警戒されることがあったからだ。だから人と接することが少し怖い。接し方がわからない。


 でも、きっとオレのことを理解してくれる人が現れると信じている。その時は思い切り、モノの見え方や感じ方について語りたいと思う。ただそういって待っているのもつまらない。だから、自分と同じような感覚を持っていそうな人を自分から探すことにした。なんとなくだが、同類というのは同じ空気を感じる気がする。だからその空気を信じてぶつかっていってみようと思う。


 ゲホゲホッ。急に身体に力が入らなくなり膝から崩れ落ちる。左の胸が誰かに握りつぶされているかのように苦しい。別に病気でもないのに時々起こる。息が出来なくなるくらいの苦しさ……。でも苦しくないフリをしないと。誰かに心配させるなんてそんな迷惑はかけられない。オレらしく……いつものように笑顔でフワフワと楽しそうにしないと。


 下駄箱で靴に履き替え玄関のドアを開ける。花の香りが混じったそよ風が通り過ぎ、そのあとすぐに向かい風が正面から吹く。こんな時は追い風に背中を押してもらいたい気分だが、室内から追い風は無理があるな。とはいえ向かい風は「行くな、失敗するぞ」みたいな感じがして少し気分が落ち込んでしまいそうになる。頑張れ、オレ。


 オレなりの満面の笑みをし目立つように真っすぐに手を挙げて振りながらサッカー集団に一直線に向かって行き話しかける。楽しそうにサッカーをしているところに入り込むとか空気を読まない感じではあるがなんとなく今が声をかける時だと感じたので割り込ませてもらうことにする。

「お邪魔します! すみません~そこの赤毛のお兄さん。ちょ~っとお話しできませんか?」 

「えっと、俺のことっすか? はい、いいですよ? なんですか?」と赤髪の子は、はにかんだ笑顔で丁寧に対応をしてくれる。

「はじめまして! オレは一年の羽柴といいます」

「あ、自己紹介がまだでしたね! 俺は一年二組の愛風朴(まなかすなお)といいます」と朴は手を差し出してくれるのでオレは「よろしく~」といいながら朴の手をギュッと握りかえす。

「どこかで見たことがあるなと思ったのですが、あれですよね、入学式で代表の挨拶をしていた……」

「そうそう! 覚えていてくれたんだ! じゃあ、話は早い!」とオレは握手したままの手をブンブンと振ると朴は少し戸惑った表情をする。

「それで? 要件はなんですか?」

「あ、そうそう! 要件なんだけど、朴君のサッカーをしている姿を教室から見ていたんだけど、なんていうか……リズミカルに動く姿に惚れてしまいまして! 突然だけど話しかけに来たんだ」

「あ、えっと……ありがとうございます」

「で! アンバト部にはいらない? 朴君のような人が必要なんだ!」

「え……」

「俺はサッカー部に入っているので……というかそもそもアンバト部ってなんですか? 名前は聞いたことがあるんですが、どんなスポーツか知らないんですよね」


 そう、普通の人はアンバト競技を知らないということにたった今気がついた。


 サッカーをしている集団が朴の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。

「あ、ごめんなさい、もういいっすかね?」といって朴はサッカーをしている集団の元に戻っていき、朴が戻ったことで楽し気な声が聞こえてくる。


 風が吹き砂埃が目に入り片目から涙が流れる。我に返り教室を見上げると百合が頬杖をつきをしながらこちらを見ている。オレは見ていてくれたことに少し嬉しくなり両手で手を振ってみると百合は軽く片手をあげてくれる。


 よく考えれば大抵の人は自分に関わりのないもの興味がないことは気にしないものだ。オレだってサッカーのルールを知っているかと言われると正直はあまり知らない。そう考えるとアンバトというものは一般的ではないし、普通は知らないのが当たり前である。何故、そんな単純なことに気がつかなかったのか自分がアホらしく感じる。とりあえず、教室に戻ろう。


 教室に戻ると百合はいつものように空を眺めていた。オレが席に近づくと百合が振り向く。

「おかえり、どうだった?」

「ただいま~」と百合は袋に入った小さなチョコを差し出してくれる。

「え、これ貰っていいの? 優しいね~ありがとう」

「で? どうだったんだ」と百合はオレの目を見て真剣に話を聞いてくれる。

「やっぱ、だめだったわ~」

「そうか、お疲れ」

「まあ、一回振られたくらいじゃ~諦めないよ」

「だろうな、まぁ頑張れよ」


 思わずオレは百合に抱きついてしまう。

「百合君は本当に優しいな~その優しさをアンバト部に入るという形で表してくれてもいいんだよ~」

「……アホか、万年文化部の俺に運動なんか無理だ。というかくっつくな。暑苦しい」

「ん? あれ? 百合君の背中……」

 百合はオレを突き飛ばしながら「……やめろ」と言って教室を出て行く。


 オレは百合を怒らせてしまったようだ。抱きついたことを怒っているのではなく、体つきのことに触れたのが怒った原因なのは明白で……触れてはいけない部分に触れてしまったことに後悔をする。オレはどうしていつも余計なことばかりしてしまうのだろう……。


 キーン。このオトがする時は音が聞こえなくなる。一瞬、頭を雷のようなものが貫通したような痛みと喪失感が訪れたかと思うと周りのモノの見え方もオトも何もかもが変わってしまう。そんな時は目を閉じ、落ち着いて深呼吸をし、制服の下に隠してあるネックレスをギュッと掴む。そして水分を取りまくる。耳から聞こえるオトが通常通りになったら景色もいつものように戻っている。


 結局、百合は授業が始まるギリギリまで戻ってなかった。今日の天気予報は朝まで雨でそれから雨は降らないという予報だった。しかし、午後の授業が始まる頃にはお天気雨となり、放課後には大雨となっていた。放課後に百合と話そうとしたが、授業が終わると同時に百合は無言で教室を出て行った。今追いかけて話すべきなのか、少し時間を置いた方がいいのか……。今日はマイナスのことばかり起きる日だ。そう思い、オレは一人で帰宅することにした。


 次の日、昨日とは一変して雲一つない晴天。とても眩しい太陽。煌々とした太陽がオレの背中を押してくれている気がする。寮と学校の間には小さな川があり五歩ほどで歩ける小さな橋が掛かっている。夏には蛍が飛ぶのが見えるほど澄んでいる川だそうだ。なんとなく川の音を聞きたくなり橋の上で立ち止まる。目を閉じ音を聞いていると嗅いだことある香りと聞いたことがある足音が聞こえてくる。


「百合君、おはよう」

 オレはいつもの笑顔で話しかけているつもりだが、いつもより笑えていないのがわかる。

「おはよう」と百合は帰してくれるが振り返ることも立ち止まることなく歩いていく。

「今日は青々とした清々しい天気だね~」

 百合は立ち止まり、方向転換をして戻ってくる足音が聞こえてくる。

「ああ、いい天気だな。昨日は悪かった」

 百合はこちらを真っ直ぐ見ている。オレは視線には気がついているか百合の方を向けずに空を見上げている。

「いや、オレが余計なことばかりして……本当に申し訳ない」

 百合はオレの前に立ち、オレの袖を掴み「おい、遅刻するぞ」と袖を引っ張り歩きはじめる。


 午前の授業が終わりお昼休憩になる。

 オレは授業が終わったと同時に百合に話しかけるのが日課になっている。しかし今日は……授業の鐘が鳴ったと同時に百合がオレの肩を叩く。

「今日のお昼はどうする? 俺は購買に行く」

 百合が珍しくオレを誘ってくれている?

「じゃあ、購買行こう~」

 今日は本当に良い天気でたまには外で昼を食べることにする。

 空を見上げると一羽の鳩が空に向かって羽ばたいていくのがみえた。

お読みいただきありがとうございました!

次回もよろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ