第六十八話 誰かは誰かのヒーロー
世界はステキなキセキであふれている
出会いや繋がりで未来は大きく変化する
誰かは誰かのヒーローなんだよ
★葵
位置に着きスタートの合図を待つ。
「後半戦に関してですが、桃源高校の選手が怪我のため交代となっております。シューターの手裏剣競技者とアーチェリー競技者が交代となりましたのでお知らせいたします。それでは時間になりましたので後半戦をスタートいたします。それでは決勝戦、宝生高校と桃源高校……チームすばるの後半戦の試合を始めます。Second half game. Ready go!」
スタートの合図でフォーメーションを組みながら兄貴達のチームを攻める。
朴と柚は追加の陣地取りをしながら走り続けながら二人で銃の撃ち合いをし、柾は満と菖蒲は撫子と戦闘態勢に入る。百合は潮を警戒しつつオレの後方で全員の動きを見ながら攻撃態勢を取り待機をしている。
オレはマイペースに歩いて来る兄貴の登場を待つ。
「やあ、葵~待たせたね~。ってか、何? チームすばるって? チーム名とか生意気だね~」
「相変わらずのマイペースだな、兄貴。早く戦おうぜ。そしていいだろう? チーム名。すばる……これがオレたち仲間の……チームの名前だ」
「なんか、前半戦と違って気合が入っているね~彼女の影響かい? 単純だね~バッカみたい。あ~本当に色々とムカつくね、オレが全てをぶっ壊してあげるよ~」
兄貴は目を見開き殺気を帯びた目で睨み、剣を構える。オレも目を見開き、剣を構え、全力で樒の剣に叩きつける。
「いや~さっき違って力も入っているね~」
兄貴はオレの剣を払いのける。
「兄貴には負けないよ」
「へ~生意気を言うようになったね~見せてみなよ、オレにさ~お前の想いをさ~」
兄貴は高く振り上げた剣を力いっぱい振り下ろす。兄貴の剣はとても重い……押しつぶされそうだ……。オレは兄貴の剣を全力で受け止める。
「ね~オレの方が力あるだろ~葵はオレには勝ることはないんだよ~」
兄貴は剣に体重をかけ、剣の重さが増す。
空っ風が通る瞬間にオレは剣を持つ力を緩める。剣に体重をのせていた兄貴はバランスを崩し、よろめく。その瞬間に風で広がっている兄貴が身につけているリボンを剣で掠める。兄貴は咄嗟に後ろに下がる。
「おっと、危なかったな~」
「オレは兄貴の力には敵わないかもしれない。けど、勝負は力だけとは限らないからね。力以外でも勝負だよ、兄貴」
「ほお、お手並み拝見といこうじゃないか」
オレと兄貴との交戦が続く。
「葵は本当に何でも持っていて羨ましいよ……能力も運も……兄弟なのになんでこんなに不公平に生まれてきたんだろう……」
兄貴の動きが少し鈍くなる。その隙に兄貴への攻撃を試みる。正面から兄貴の剣へ力いっぱい剣を振り下ろす。兄貴はガードをするものの後ろへよろめく。態勢を崩している隙にリボンを狙おうとするが兄貴はガードをし、そのまま力を込めてオレの剣を振り返す。
「兄貴、ごめん。オレは何も知らなくて……気がつかなかった」
「今更なんだよ、もっと早く気が付けよ。オレのことをちゃんと見て欲しかったよ……」
兄貴は切なそうな声でしゃべるが力は抜かず力を込めた攻撃が続いている。オレは兄貴の攻撃を受け止め続ける。兄貴の剣は本当に重たい。兄貴は少し息切れをしているが表情には余裕が見える。
「オレにとって兄貴は一番星だった。ずっと憧れの存在だった。それは昔も今も変わらない。けど、兄貴を超えないと先に進めないから、今日は兄貴に勝つよ」
「え、何言ってるの……葵。オレは本当は……お前が羨ましくて、仕方がなかったんだ。親たちも先生もみんな何でもできる葵をちやほやして、兄貴が弟よりできないなんてオレのプライドが許せなくて……オレにはお前みたいに才能とかなくて、隠れて睡眠時間も削って一生懸命努力して努力して、かっこいい自分を作り上げて。みんなに認めてもらいたくて、尊敬されたくて。そんな中、葵だけがオレを純粋にキラキラした輝いた目で見てくれて、もっとかっこよくならなくっちゃって……でも努力することが辛くて辛くて、葵はオレを尊敬して追いかけてきてオレができることを簡単にこなしていく、越えていく。だから、どんどんプライドが潰されてストレスが溜まって限界にきたんだ……だからお前を壊せばオレ自身が……楽になると思ったんだ……」
「……兄貴」
「本当に、オレはお前が怖かったんだ……。でも……誰かに認めてもらうんじゃなくて、本当は葵の一番星になりたくて……でもなれなくて……頑張って頑張って……。そしたら何かが切れて……葵さえいなければって……葵を壊せばって思って……突き放したんだ。でもやっぱりそうじゃないって思って。葵と一緒にまたアンバトやりたいなって思ったら……そしたら葵の憧れの先がオレじゃなくて他の人に代わってて……今度はそいつさえいなければって……」
兄貴の息が乱れ、動きも荒れ始める。兄貴は怒りが増したのか、さっきより力を込めて剣を振るう。すごく重たい……受け止めるので精一杯だ。このままでは……体力が持ちそうにない……。
「百合、兄貴と距離をとりたいから……兄貴が今いる場所から動かないようにフォローしてもらっていい」
「了解」
百合が兄貴に矢を放ち、兄貴は矢を避けるようにオレから距離をとる。オレはその場から走り兄貴と更に距離をとる。潮はオレに連続で手裏剣を投げるが一つも当たらない。なぜなら今は風が吹いており、その風をよみながら音を聞きながら進む方向を決めているから手裏剣が向かう位置も予想が付いている。
百合は兄貴の足止めをするため矢を放ち続ける。
百合がいるからオレは前だけを見て走り続けられる。
これが信じるということ。
誰かに頼ったり、協力してもらったっていいんだ。
オレはひとりじゃない。
百合もいる。
仲間もいる。
潮はオレへの攻撃を諦め百合への攻撃へシフトするのだが百合への攻撃にはなっていない。百合は風をよむ天才でフィールドアーチェリーを得意としているから、オレと同じで常に風をよみ、手裏剣の向かう方向を予測することができる。また百合のアーチェリーの攻撃は真正面に向けて矢を放つのではなく風をよみと弦を引く強さで思っても見ていないところから矢が飛んでいくのである。そう、今は風がオレたちの見方をしてくれている。
「百合、いくよ」
「いけ、葵」
オレはある程度の距離をとり、兄貴に向かって全力で走り出す。
兄貴の目の前で剣を地面に突き刺し、剣のガードに足をかけジャンプする。大きな風が吹き、高く飛び上がる。剣のチェーンを引っ張り、剣を手元に戻し、兄貴の真上から剣を大きく全力で振り下ろす。兄貴は強い風が吹いたことと、オレが思ったより高く飛んだことに驚き、一瞬隙ができ、全力でガードをすることができず剣を手から離す。オレは剣で兄貴のリボンを奪い取る。
「兄貴、オレの勝ちだね。あと……色々と気がついていなくてごめん」
オレは兄貴に手を差し出す。
「忘れていたよ、お前は風がよめるんだったな……完敗だよ。こちらこそ……本当にごめんね」
兄貴は笑顔と涙を見せ、オレの手を優しく握る。
観客からの歓声と拍手が会場に響き渡る。オレと兄貴の戦いが終わり試合終了の笛の音が鳴る。そう、他のメンバー達の戦いはいつの間にか終わっていた。試合はオレたちのチームの勝ちであった。
「久しぶりに葵の本気の顔を見たよ、心があると表情も纏うオーラも雰囲気もこんなに変わるものなんだね」と兄貴は今までに見たことのない満面の笑みを見せる。
「ああ、兄貴。オレは手を繋いでくれる仲間ができたんだ。今のオレがあるのも仲間たちのおかげだ。そして……兄貴。兄貴もいてくれたから今のオレが存在しているんだよ。ありがとう。兄貴はオレのヒーローだよ」
体中が熱いが末端は寒い、太陽がとても眩しく、口に砂が入り込む。
世界は思ったより温度があって、目を開くと明るくて、口角が上がると顔の筋肉が痛いんだ。そして温かい涙がこぼれてくる。兄貴はオレに優しく抱きつき、ぎゅっと抱きしめる。
「ごめんな、葵。そして、ありがとう。葵もボクのヒーローだよ」
「こちらこそ、兄貴大好きだよ」
会場中にピンクの梅の花びらが舞い散る。
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