第六十六話 おれのヒーロー
好きなことを楽しんでやる
これって思ったより難しい……けどさ
やっぱ最高の笑顔で今が最高っていえるくらい
思いっきり好きを楽しみたいよね
□柊のヒーロー
俺は誰かと何かをするのが苦手だ。
だから一人でも楽しめる、手裏剣とアーチェリーと銃を選んだ。
なんてそんなのは嘘で。
俺は、本当はアンバトをやってみたかった。
そんな時、アンバトを楽しむ羽柴兄弟に出逢った。彼らは眩しいくらいの笑顔、風の魔法使いかのように軽やかにステップを踏みながらアンバトの試合に出場していた。双子のような二人は息の合った動きで同じ動きをし、空を舞い、剣を自分の一部のように操っていた。それが本当に楽しそうで俺も二人とアンバトがしたいと思った。それから、高校デビューを目指してアンバトで活躍できるように手裏剣を極めることにした。
またその次の年。アーチェリーの大会で百合に出逢った。彼は知っている人は知っているくらいの有名人兄弟の兄。競技では弟の方が成績は優秀だったが兄である百合は立ち振る舞いと、一瞬の風をよみ、矢を放ち、的に矢が当たった時の音色のような音が本当に美しかった。百合の目は希望でいっぱいのような星々が輝いているような目をし、誰も寄せ付けないオーラと制限時間も気にせず的の矢の位置も確認しない。自分をしっかりと持ったその姿勢が本当にかっこよく見えた。俺は彼とも同じステージに立ちたいと思った。
□樒のヒーロー
ボクはずっとお兄ちゃんを演じる必要があった。
望んだわけでもないのになんでお兄ちゃんを演じなくてはならないのだろう。きっと死ぬまでずっと続くんだろう……そう思うと気持ちが悪い。
父親も母親も「お兄ちゃんなんだから」それが口癖。もう聞き飽きたよ。
葵は「お兄ちゃんみたいに」と言われるのが日課。葵も聞き飽きただろ?
ボクは自分が好きではじめたのにそれを真似する葵が嫌だった。だって、葵は何でもこなせる天才だから。葵が真似をするイコールボクは努力をする必要があるから。葵は自分が器用なことも僕が努力をしていることも知らない。だからいつも純粋なキラキラした笑顔でボクと同じものをやりたがった。
そんな時、葵がイジメにあっているのを目撃する。葵はいつもヘラヘラしてニコニコした顔で、殴られても転ばされても何事もなかったかのように過ごしていた。いじめの理由は、何でも一番を取ってしまうこと。ボクは一番をとって嫉んでくる奴に「努力がたりないんじゃね」といってあしらっていたが、葵は優しい性格のためそんなことは言わないし、反撃もしない。
葵がイジメにあっているのをみて「ざまあ」って思った。
でも少し気になって葵になんで反撃しないのかと聞くと「誰かに八つ当たりしないと彼らは死んじゃうんだよ。俺がそれを回避しても誰かが同じ目に合うなら、俺に好きなだけ八つ当たりをすればいいよ」そう言った。でも、殴られたり蹴られたりは痛くないのかと聞くと「俺は彼らに興味はないし、視界にすら入らない存在だから痛くはない」そう葵は答えた。
親から傷のことを聞かれても「調子付いて転んだ」といい、ボクには「両親は一番取らないと機嫌損ねるし、喧嘩するし、俺に興味ないんだしいい子のふりをすればいいんでしょ」とニコニコ笑顔で言った。
少し恐怖を覚えた。このままだと葵の世界に誰もいなくなるんじゃないか、そう思った。だからどんな努力しても葵のヒーローで憧れになってやるんだと決めた。寝る時間も自分の時間も全て努力することに費やした。
葵はボクといる時はいつも太陽のように眩しい笑顔を見せた。正直、辛いことの方が多いけど、葵の笑顔を見ると元気をもらえたし、なんだか優しい気持ちになれた。
そう。ボクは葵のヒーローになろうとしていたけれど、ボクにとっては葵がヒーローだったと気が付いた。彼の笑顔があるから今の自分がいて、頑張れるんだと。
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