第六十四話 Re: 葵と樒の戦い
キミのそのキラキラした笑顔がみたかった
だから苦しくても頑張ってこれたんだ
キミはボクのヒーローだったんだ
★葵
「あと五分で決勝戦を開始します」とアナウンスが流れる。
今は試合に集中しないとダメだ……集中しないといけないのに……心がどこかにいってしまっている。景色は灰色のフィルターがかかってボヤけて見える。空の色も灰色味がかっている。ああ、またか……色数が少ないカラフルな色が存在しない世界に変わっていこうとする……どうしてこんなにも心が弱いのだろう……。
「羽柴、今日のフォーメーションはパターンAでいいんだよな」
インカムから百合の声が聞こえてくる。
もう試合とかどうでもいいよ……。
「羽柴?」
「羽柴君? 大丈夫ですか?」と菖蒲がオレの目の前に来て、じっと見つめながら心配そうな顔をして声をかけてくる。
「え? なんだっけ」
とりあえず話しかけられているし……笑顔を作らないと。
「具合でも悪いんですか? 棄権……しますか?」と菖蒲。
棄権? 何の話だっけ? ああ、今からアンバトの試合だっけ。
「葵! しっかりしろ、試合が始まるぞ」
柊はオレの両肩に手を置き、真剣な眼差しを向ける。
「え、ああ……ごめん。ぼーっとしてた。そうだ試合……」
まだ頭がハッキリしない……でもしっかりしないと。
「ちゃんとしてくれよ、リーダー」と柊がオレをゆさゆさと揺らす。
「羽柴君の調子が悪いならやっぱり……」と菖蒲。
試合に集中、集中……。
心よ、戻ってこい……。
「羽柴、どうする……」と百合の声が聞こえてくる。
しっかりしろ! 両頬をバチン! と叩いて気合を入れてみる!
「みんな、ごめん……心配かけて。試合は出るよ。えっと、百合君がいったようにフォーメーションはAでいくよ」
「了解」とチームメンバーの声が揃って聞こえる。
「よし、スタンバイ」
オレたちは位置に着き、スタートの合図を待つ。
「それでは決勝戦、宝生高校と桃源高校の前半戦の試合を始めます。First half game. Ready go!」
スタートの合図でフォーメーションを組みながら全力疾走する。
兄貴チームのメンバーは剣が兄貴、双剣が撫子、槍が満、銃が柚、手裏剣が潮。兄貴達のチームは試合が開始するとシューターの二人、柚と潮が先行して走りながら陣地取りを始める、いつもと同じ戦略のようだ。オレたちの作戦も前回同様、兄貴チームに合わせて朴と柊が先行して走りながら陣地取りをするという形をとる。
今回はそれぞれが一対一となるような態勢を取る。シューターの二人も一対一になるよう、柚には朴が対応し、潮には柊が対応する形をとる。シューターの陣地取り合戦がスタートし、朴と柊は陣地取りを優先し進んでいく。
風が避ける音がし、避けながら振り向くと柚のカラー弾がオレを横切る。
「あっれ~当たるとおもったのに~」
再度、オレに向けてカラーを飛ばす柚だが距離もあるので簡単に避ける。
「なんでそんなに余裕で避けちゃうのかな~プンプン」
オレを相手にしても無駄と思ったのか柾がいる方に走り出す柚。
「みんな、柚が陣地取りと同時にカラー当てをしているから気をつけろ。今、オレのところへ来たけど当てられなくて、柾がいる方に向かったから注意してくれ」
「ああ、了解した」と柾。
さっきより風が避ける感じがし、避けながら振り返ると今度は手裏剣が飛んでくる。
「まあ、この距離なら避けられて当然か……な~んて」
三つ同時に手裏剣が飛んでくる。
さすがに三つとも避けるのは難しく、二つの手裏剣を剣で振り払う。
「お~すごいね! やるね~。さすが樒の弟くんだね~」と潮はやる気のない拍手をする。
試合中だというのに……この人のマイペースな感じはなんだろう。
「え? あ~わかったよ、樒。じゃ、弟くんお邪魔したね~」と潮は後退していく。柚といい……一体なんだったんだ。
陣地取りも落ち着き、アタッカー同士の戦いが始まる。菖蒲は撫子と柾は満と戦闘態勢に入る。シューター同士は陳地取りを行いながらそれぞれの動きを見つつ攻撃態勢につく。
オレは兄貴と向かい合う。兄貴の目は見開き殺気を帯びている。威圧感が半端ない……。兄貴の顔がニコニコ顔に変化する。オレはその表情に一瞬気を取られてしまい、柚と潮からの同時攻撃を受ける。同時の攻撃と油断してしまった瞬間が重なり、カラーを一つ受けてしまう。
「羽柴!」と百合の慌てた声が聞こえる。
「大丈夫、カラーは一つだけ当たっちゃったけど問題ないよ」
「そうか、了解した」
「あはは~ボクの表情一つで動揺するとか可愛いね~そしてバッカだね~当たっちゃって、いつもの葵なら簡単に避けられるのにな~」
兄貴はニコニコ顔から見開いた目で上から目線を落とす。
「お前はオレの思う通りになるから本当に楽しいよ~お前はいつまでもオレの操り人形でいるといいのに~」
オレは力を込めた一撃を兄貴にぶつける。兄貴は余裕で受け止め、そのまま交戦をする。
「オレは自分の居場所も自分のやりたいことも見つけたんだ。もう兄貴の背中を追いかけない。自分で見つけた道を自分で歩いていく。一人でじゃなくて、今度は仲間と共に」
「なにそれ? 葵のくせに自我なんかもっちゃって生意気だな。ってか仲間? お前に友達とか仲間とか出来るわけないじゃん。お前は、オレの引いたレールの上に乗っていけばいいんだよ」
「なあ、兄貴は何がしたいんだ? オレを突き放したいのか、それとも思い通りにしたいのか……」
「あはは~オレはね、お前がいつもオレを見て目を輝かせるのが本当にウザくなって突き放しんだ。でも離れて思ったんだ、葵っていうオレの思い通りに動く玩具がいないと楽しくないって。で、葵をもう一度、オレの元にと思ったらさ……なんか葵がオレ以外に人に興味とか持ってて、それが許せなくてね~」
「……今の兄貴はオレが知っている兄貴じゃない……どうしたんだよ、何があったんだよ……」
「そうだよね~お前が好きなオレは何でも完璧にこなして、いつも明るく笑っているオレだもんね。お前は本当のオレを知らないんだよな~オレの苦労も知らないんだよな~」
「本当の兄貴? 苦労? なんのことだよ? 兄貴はいつも笑顔で何でも完璧にこなしていたじゃないか」
「あ~やっぱ……お前……本当にウザイわ。お前は知らないんだよ、オレがいつもその完璧ってやつを演じていたのを。オレはね、お前と違って何でも出来る訳じゃない。だからいつも寝る間も惜しんで努力していたのを知らないだろ。葵が涼しい顔で何でも出来るから、葵がオレをいつもキラキラした目で見るから……期待に答えようといつも努力してたんだよ」
兄貴は全力疾走し、剣を力いっぱいにぶつけてくる。
初めて聞かされる兄貴の思っていたこと……そして真実……。
オレは動揺してしまい、剣を受け止めきれずにバランスを崩す。バランスを崩したオレの手を引く兄貴。
「これで終わりとか、だっせーよ。もっと激しく戦おうよ」
兄貴とオレは剣を交わし合うが、動揺が取れず思うように動けない。
「葵~お前の実力はこんなものなのか?」
兄貴は力を込め左サイドから攻めてくる。オレは受けきれずに、剣と一緒に投げ飛ばされる。
「羽柴!」と百合。
「大丈夫!」
オレは素早く剣を取り立ち上がろうとするがその瞬間に柚のカラー弾が飛んでくる。
「おい、柚。余計なことすんじゃね~よ、チビクズが」と兄貴。
オレはスレスレの所で弾を避け、しゃがんだまま片手をつき低空でジャンプをして兄貴の後ろの足元に回り込み、兄貴が振り向いた瞬間に下から剣を振り上げる。兄貴はよろめくが片足の状態で剣を大きく振り上げてオレの剣に体重をかけた剣を振り下ろし、オレはその力が受け止められずに押し潰される。
「羽柴!」
百合が心配そうに名前を叫ぶ。
「葵~どうしたの? お前の実力ってそんなもんだっけ?」
兄貴はリボンを取り上げることをせずに仁王立ちして見下ろしている。
「こんなんじゃ、つまらないよ~。早く立って戦おうよ~」
立ち上がり少し距離を取る。兄貴は両手で剣を持ち走って向かってくる。両手で受け止める準備をする。兄貴がさっきと同じく左サイドを狙って大きく剣を振り上げたので両手で力を込めて剣を握りガードをする。すると兄貴は振りかぶった剣を急に下ろし、左手で剣を持ち右サイドのリボンを狙う。兄貴の剣はオレのリボンを掠める。一瞬、リボンが取られたと思い力を抜いてしまう。
「あ~おしかったな~」
兄貴はそのまま、ガードをしている剣とオレを投げ飛ばす。
「葵~本当にやる気があるの~ねぇ~」
さすがに何度も転ぶと身体が痛いな……。体力的に厳しくなり呼吸が荒くなっていく。立ち上がった瞬間に今度は手裏剣が飛んでくる。手裏剣を避けるが、同時に銃のカラー弾に狙われ当たってしまう。
「羽柴!」
百合の声が聞こえるが、今は言葉を発する、会話に反応する心の余裕がない……。
「おい、柚。何度言ったらわかるんだ、余計なことすんじゃね~よ」と兄貴。
「樒、お前こそ何を言っている。これはチーム戦だ。俺たちはチーム戦をやりに来ているんだ。お前らの兄弟対決のサポートをしているんじゃないんだよ」
「潮先輩……すみません。あ~あ、怒られちゃった……」
兄貴は悲しそうな表情になり、下を向いて剣を下ろす。
「ってき~抜いてんじゃね~よ!!!」
兄貴は殺気を帯びた目をし、振り返りながら剣を下から上へと振り上げる。兄貴の姿に気を取られていたオレは剣のみ投げ飛ばされる。急いで剣を取りに向かうが兄貴の剣がオレのリボンを掠める。剣のグリップを握りバク転宙返りをし、そのまましゃがみ兄貴のリボンに剣を向ける。兄貴のリボンに触れた瞬間に兄貴は後ろへジャンプする。
「おっとあっぶな~い、葵は本当に器用に動くね~関心、関心」
体力の消耗が激しく、呼吸をするのが精一杯だ。兄貴はというと息切れをしていない。
兄貴と距離を取り、助走をつけて猛ダッシュし大きくジャンプする。兄貴は上に向けてガードをする。剣から手を放し、剣だけ先に落ちていく。剣に付けていたチェーンを引っ張り剣を手元に戻しながら身体を回転させ兄貴の剣に一撃をぶつける。兄貴は態勢を崩すが、すぐに立ち直り剣に向けて力いっぱい振り払う。オレは剣ごと飛ばされる。
「何度飛ばされれば気が済むんだよ~もう少しちゃんとやってよ。彼女も見てるんでしょ~かっこいいところ見せないと~かっこわるいでしょ~」
兄貴の言っている言葉は聞かないようにしているけど、なんとなく煽っているんだなということだけわかる。
「ね~もう体力の限界なの? 真剣に戦ってもらいたいな。こっちは真剣にやってるのにさ」
兄貴の剣を受けるので精一杯で、呼吸も苦しくなってきて言葉が発せられない。
「お前がオレに負けたら~今度はチビの腕、へし折っちゃうよ~ははは~」
「ふざけるのもいい加減にしろよ!」
兄貴の言葉に怒り、兄貴の剣を力いっぱい振り払う。兄貴はバランスを崩し、地面に倒れる。
オレは兄貴に手を出し、起きあがらせる。
「これで貸し借りはなしだ」
「いや~ありがとう葵。にしても急にビックリしたよ~やっぱり守るものがあると違うな~」
兄貴との剣の交わし合いは続き、そのまま前半戦が終了する。
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