第六十二話 心と裏腹に
ボクの想いはどうして届かない
こんなにも想っているのに……
本当はこんなやり方間違ってるってわかっているのに
気持ちの伝え方がわからないよ
☆百合
ここまで羽柴が緊張している様子は、はじめてみるかもしれない。他のメンバーも緊張している様子だし、なんだが俺まで緊張してしまう。だから今日はいつもより喉が乾く。
会場外にある自販機の前。自分の飲み物と羽柴の飲み物を買っていると、後ろに人の気配を感じ振り返ると羽柴の兄が立っていた。
「やあ、久しぶりだね。元気してた?」と羽柴の兄はいつものニコニコ顔で話しかけてくる。
あの時の記憶がフラッシュバックし、買ったペットボトルを落としてしまう。
「……」
羽柴の兄は何も話さず動かずにいるので、ペットボトルを拾い、軽く会釈をしてその場を立ち去ろうとするが腕を掴まれる。
「ね~ね~なんで逃げるの? 少しくらい話そうよ~」と羽柴の兄は耳元で囁く。
「君はさ~約束を守らないし、かと言って中途半端にアンバト部に入ってるしさ~何がしたいわけ」
羽柴の兄の目が見開き、冷たく鋭い目で俺を見つめ、手首を強く握る。
「っく……」
「ってかさ、君のせいでオレは葵に嫌われちゃったんだよね~。ね~どう責任とってくれるの? 本当に目障りなんだよね」羽柴の兄はそういって俺の手首をさらに強く握る。
「何をしてるんだ」と後ろから響空の声が聞こえてくる。
「あ~あ、また邪魔が入っちゃった~」
羽柴の兄はニコニコした笑顔になり、俺から少し距離を取る。
「百合君、大丈夫か」と響空は心配そうに俺を見る。。
「ああ」
「まあ、いいや~まったね~」と羽柴の兄は手を振りながら去っていく。
「百合君はもう少しここにいるといい。俺は葵の兄貴の様子が気になるから少し見てくる」と響空は羽柴の兄の後を追っていく。
「……わかった」
俺は一気に緊張が解け、力が抜け、その場に座り込む。
★葵
百合には待っているように言われたが……少し話したいと思い、百合のもとへ向かうことにする。向かっていると兄貴がこちらへ歩いてくるのが見える。オレは180度回転し、もと居た場所へ急ぐ。
「あ~お~い~!」と兄貴はニコニコ笑顔と明るい声、軽やかな足つきでオレの前に立つ。
「あ~兄貴、久しぶりだね~」と兄貴に合わせたニコニコ顔で答える。
「チビスケといいさ~なんでボクを避けるのかな~悲しいな~」
「……百合に会ったのか」
「うん、さっきね~あっちの自販機の前で会ったよ~少し話そうとしたら邪魔が入っちゃったけどさ~」
「また……百合になにかしたのか」
「うんにゃ~な~んも」
「兄貴、お願いだからオレたちに近づくのはもうやめてくれ……」
兄貴の顔から笑顔が消え、目を開き鋭い目でオレを睨みつける。
「チビも中途半端にアンバトに関わっていて何なんだよって感じだけどさ~お前もお前だよな。あのチビのために高校選んでさ、アンバト部まで作ったのにさ~何やってんの。無駄な一年過ごしたよね~ってか部活作ってもさ、結局一人ぼっちのままじゃない。お前がやってることってさ、ごっこ遊びだろ? 誰もお前のことなんか理解してくれないんだよ、本当に可哀想な葵」
「……」
「そうそう~オレがチビにお願いしたんだよね~また怪我させられたくなかったら~葵の面倒見てって。だから近くにいてくれているんだよ~オレのおかげ~。オレが何もいってなかったらとっくに近くにいなかったんじゃないかな~。葵の傍にいたくてじゃなくて、オレへの恐怖とお願いで今の関係が成り立ってるんだよ~本当に可哀想な葵。今までもこれからも……ず~っとぼっちなんだ。オレから離れるからこうなるんだよ、だからさ~戻っておいでよ葵」
そう言って、オレに手を差し伸べる兄貴。
何も言葉が出ない……何も考えたくない……。
キーン。プツ。
目が開いているのに見える景色は真っ白でフワッとアウトラインのみが認識できる。立体ではなく平面の世界。表情はなくのっぺらぼうだけど誰かは理解できる。口はないのでそこにいるだけなのか喋っているのかはわからない。
ゴホゴホゴホ……。あれ? 咳が止まらない? 喉に何かが引っ掛かっている。この遺物はオレの中から出たがっている? オレは咳が止まらず膝をつき涙を流す。そして嘔吐してしまう。
「おっと、また君か~ストーキングですか~」
振り向くと柊が少し離れた場所で立っている。
「あ~あ、面倒くさいから~もういいや~。じゃ、試合でね~」と兄貴は去っていく。
「葵……」
「柊……今の会話聞いちゃった?」
「全部ではないが……」
「そっか~まあ色々と気にしないでいいから~」
「葵、俺は……」
「ごめん、柊。戻ろうか」
「ああ……」
今は何も話したくない。何もみたくないよ。
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