第六十話 今年最後のアンバト試合
今日の景色はどんな色だろう
重なり合った虹のような色かな
混ざりあった世界に一つだけの色かな
今日しかみられない色ってミラクルだね
★葵
空は雲一つない青色で地面は雪で一面の白色。雪がまだ降る季節だが梅の花は咲き始め鶯の声も聞こえる。来月は卒業式が行われる時期である。
オレたちがいる地域では部活によるが三年生を送る会として最後の試合が行われることになっている。もちろんアンバト部も送る会が行われる。オレたちの部活には三年生はいないがアンバト部として誘いを受けているのでこの試合が今年度最後の試合となる。
送る会の試合には当然、兄貴達のチームも参加する。樒とは樒の学校へ訪ねてから会ってはいない。そして、百合はというと……アンバト部には入っていない。百合との関係は良好というか友達としてはとても仲が良い関係になった。部活にも顔は出してくれるが選手として入部してくれそうな気配はない……が前より積極的には部活に顔を出すようになってくれている。
試合会場はよく使われる、個人戦でも使用した会場だ。今日は大学生チームのメンバーも応援に来ている。オレたちの今の実力を見てもらいたい。
「おはよう、今日はアンバト日和だね~気合入れていこう」と笑顔で軽く拳を上げる。
「なんか寒気がするぞ」と柊は縮こまって丸くなっている。
「柊? このタイミングで風邪?」
「具合は悪くないが、寒い」
「薄着できたとか?」
「いや、何枚も着ている。それにホッカイロを大量に貼られている」
貼られている? ということは親や家族に貼られたということなのか?
「……なんか、逆に暑そうだね」
「なのに寒い」
「やっぱり風邪じゃないのか」と再確認をしていると柊は百合にピトっとくっつく。
「あつっ」と百合が驚き「熱でもあるのか」と聞く。
「いや、ホッカイロ地獄」
柊が着ている服を逆さまにし、大量のホッカイロを見せる。
「これなのに寒いのか」と聞くと「寒い」と言う柊。
「試合、出れるのか」と確認をすると「出る。寒いから、寄り添っていてくれ」と柊は百合にすり寄るが「あつくていやだ」と逃げられてしまう。
「わかった! バカは風邪ひかないっていうじゃない? それってさ、おバカさんは風邪をひいている自覚がないからってことじゃない! だからやっぱり柊は風邪を引いているんだよ」と言うと柊はオレの額に額をつける。柊の額は冷たく熱があるようには感じない。
「うん。熱は……ないね」
「だろう」
「ねえねえ、こんなことろでちゅーするのはやめてよ、恥ずかしいから」と蘭は半目でこちらをみている。その横で百合は口を押え笑いをこらえている。
「これは熱を測っているだけなんだけど」と言うが蘭の表情は変わらない。
「熱はこうやって測るだろう?」と柊はまた額をくっつけてくる。
「……ああ、そう。わかった。とりあげず、こっちに来て」と蘭はオレと柊と百合を連れてほかのメンバーのところへ向かう。
「は~い! みんな~注目! 僕からみんなにプレゼントがあるよ~」と蘭は大きな袋を持って輪の中心に立つ。
「え、プレゼントっすか!」と朴は嬉しそう。
「うん、なんとぁ~お揃いのユニフォームを作ってき~た~よぉ~」
「お~すごいっすね~」
朴と蘭は二人で盛り上がり、菖蒲と柾と百合は微笑ましい笑顔で拍手をし、柊とオレは少し不安を感じお互いの顔を見合わせる。
なんか少し嫌な予感がするな……。
「葵、どんなものか聞いているのか」と顰め面の柊が小声で聞いてくる。
「いや……そもそも今日のために作ってくるのも聞いてなかったよ」と小声で返す。
「なんだろう……少し不安を感じるのは俺だけか」
「柊……奇遇だね。オレもなんか不安でいっぱいなんだよね。蘭の普段、身につけているものが手作りの可愛い動物のぬいぐるみとか、リボンだから……まさかとは思うけど可愛い系とかなんじゃないかとかね……」
「葵……今日は気が合うな。俺も同じことを思っていた」
蘭は楽しそうに鼻歌を歌いながら大きな袋からユニフォームを取り出して広げる。
「じゃじゃ~ん! お揃いのパーカーだよ」
パーカーの色は黒、普通のフードとポケットが付いたパーカーで表はチームの名前が入ったシンプルなデザイン。
「どう、いい感じでしょ」と蘭はニコニコしながら褒められるのを待っている。
「あ、普通っすね……」
朴はあまりにもシンプルなデザインだったらしく声とテンションが下がっていく。
「思ったより、シンプルだな。いいじゃないか」
「チーム名も入っていい感じですね」
柾と菖蒲は嬉しそうな様子。
「んで、後ろはこんな感じだよ」と蘭はパーカーの後ろ側を向ける。
背中側には学校名とそれぞれの名前と大きくチーム名が刺繍されていて……フードに猫の耳がついている? ああ……やっぱり……こうなると思っていたよ。みんなの空気が一瞬凍りつく。
「えっと……猫さん? ですか?」
どんな時も笑顔を見せる菖蒲からも笑顔が消え、戸惑った様子でパーカーをヒラヒラとさせ確認している。朴は真顔でなぜか猫のポーズをし、柾はショックが大きかったのか青い顔をして静止し、百合は笑いを堪えようと口と腹を抑えている。
「葵……予想通りだ」
「そうだね……」
オレと柊はなんとなく予想していたので、さほど驚かない。
「葵、寒気がなくなった。さっきの悪寒はこれのせいか!」
「あ~そっちの悪寒ね……。これを予感してたのか……」
「か、か……可愛いっすね」
朴は明らかな苦笑いをしてパーカーを褒める。
朴……お前は感情が出やすいのにそんなにアンバランスな表現をするのはやめてくれ……。
「みんなに喜んでもらえてよかったにゃあ」
蘭は猫っぽいポーズをし、みんなに喜んでもらえたと勘違いをして喜んでいる。蘭は全員のパーカーを出し、手渡していく。当然、全員のパーカーに猫耳はついている。
「え、俺も?」
百合もチームの一員なのでパーカーが当然用意されている。
「当たり前でしょ~僕もユリリンもみんなとお揃いの着るんだよ」
蘭は満面の笑みで百合に猫耳パーカーを渡す。
「あ、え……うん……。わざわざ……俺の分まで……ありがとう」
百合はわかりやすいくらいの引きつった顔をしてでパーカーを受け取る。さっき笑っていたのは自分が着ないと思っていたからだろう。
「僕とユリリンは猫耳とかすっごく似合うと思うんだ~。ね~アオくんどう? 似合うでしょ」と蘭はフードを被り猫のポーズをする。百合は欄にパーカーを着せられフードまで被せられ、猫が威嚇をするかのような表情でオレを睨みつける。うん、その感じが完璧な猫を演出している気がするよ。なんて言えないな。
「ああ、二人共可愛いよ~似合ってるよ~」と百合を視界に入れずに蘭を見しながら言ってみる。
「わ~い! ありがとう~アオくん」
蘭は嬉しそうにピョンピョンと飛び跳ねる。
「葵、俺は気にいったぞ」と柊。いつもより声のトーンが高くなっている。
「え、柊? 気に入ったの?」
「ああ、名前が入っている……嬉しい……」
柊はニヤニヤと嬉しそうにパーカーを見つめ抱きしめ、そしてカッコ良くポーズを決めながら大袈裟に着る。
柊のツボがいまいちわからないが……喜んでいることだし、よしとするか。
「柾……嫌なら無理して着なくても大丈夫だからね……」
柾はパーカーを持ったまま硬直している。
「え、ああ……せ、折角お揃いで作ってくれたのだから着るよ」
柾は平気そうな顔を作りながら機械のような動きでパーカーを着る。菖蒲は何事もなかったようにパーカーを羽織り、朴は嬉しそうに猫耳のパーカーを被って銃を撃つようなポーズを披露している。
みんながパーカーを着たことだし……折角なのでこの猫耳パーカーを着て試合に参加することにする。
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