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第五話 愛風朴

 自分と同じ波長をもった人って

 見つけようとするといないのに

 ふと気が付くと近くに存在してたりする

☆百合


 キーンコーンカーンコーン。羽柴は四時限目の授業終了のチャイムが鳴ると同時に両手を大きく上げ背伸びをしながら立ち上がる。

「お~ひ~る~だ~」

 羽柴は後ろを振り向き、俺の顔を覗き込む。

「百合君、今日のお昼は?」

「朝、購買でパンを買ってきた」

 俺は窓の外を見ながら、そっけなく対応する。

「そっか~じゃあ、オレもパンにしよっかな~買ってくるね~」

 羽柴はそう言って小走りで教室を出て行く。羽柴は元気なのはいいが少し落ち着きがないように感じる。案の定、羽柴は廊下で先生に注意され、反省してるのかわからないがとにかく明るく元気よく謝る声が聞こえてくる。


 入学式の日からなんだかんだで一緒に登校したり昼を食べたりする仲になった。そして相変わらず、羽柴は芸人かと突っ込みたくなるくらい元気で賑やかである。入学式から何日も経ち、クラス内でグループが出来はじめている。俺はというと席が近いという理由で羽柴と腐れ縁のような関係になった。静かな生活を求めてはいたものの羽柴の言動や行動は正直、見ていて面白く感じる。例えるなら、テレビを観ているのが俺でそのテレビに出演しているのが羽柴。関わるのが面白いというのではなく第三者というか距離をとって遠くから見ていると非常に面白い存在なのである。


「百合君! ただいまっ」

 羽柴は小走りで少し息を切らして戻ってくる。俺が羽柴の帰りを待っていたと思ったのか羽柴は満面の笑みを浮かべる。

「あぁ」

 別に羽柴の帰りを待っていた訳ではない。昨日から今日の朝方まで雨が降っていた。生ぬるい風は青々しい草や木々や土と花の混じった香りを運んでくる。空は雲の動きが少し早く、雲は形を作ったかと思うとまた別の形になるというまるでマジックショーを開催しているようだ。俺はそんな空を眺めていただけだ。


 羽柴は買ってきたパンを俺の机の上で広げ、俺がパンを出すのを待っている。

「今日の空は元気だよね! 雨のあとの青空は鮮やかで雲も動きがあっていいよね~」

 まただ……。羽柴は俺の心が読めるのかと思う瞬間がある。

「そうだな。今日の空は見ていて飽きない」

 俺もパンを出し、食べ始める。

「風も心地いいよね~雨が降ったあとの風の温度も匂いもいいよね~」

 羽柴の空や風の話は俺に合わせているのか本当に本人が思っているのかわからないが俺が心に思ったことを言うなと思う。

「そうだな」

 羽柴の言葉が俺の思ったことそのもので思わず少し笑ってしまう。そんなたわいもない話をしながらお昼の時間を過ごす。


 俺は人と面と向かって会話をするのが苦手で羽柴とは顔を合わせず窓の外をみて会話をする。といってもほとんど羽柴が一方的に話をしているので、周りからは羽柴が独り言をいっているかのように映っているだろう。でも俺は話を聞いているし羽柴も俺が話を聞いて理解していることをわかっている。阿吽の呼吸とまではいかないがたった数日でそんな関係になっていた。


 校庭で楽しげな声が聞こえてくる。運動が盛んな学校でもあるので昼休みになると校庭で軽く体を動かすグループが複数見られる。その中にサッカーをするグループがいてボールをポンポンとリズミカルにパスをしているのがみえる。

「なんか、あのリフティングをしている赤毛の人、まるで音楽を奏でているようなリズムにみえるね~」

「俺も少し気になっていた。すごくリズミカルだな」

 羽柴はボールの動きに合わせて指を動かし、ボールのリズムに合わせて鼻歌を歌い始める。羽柴は何でも気になったものを拾っては反応をするのだなと感心する。サッカーをしているグループは本格的なサッカーの練習を始める。


「あ、見て! あの赤毛の人、すごいアクティブ! スライディングもジャンプもボールを拾うのもめちゃ早い、まるで先よみでもできているみたいだ!」

 羽柴のいうように赤毛の男の子の動きが面白く目が離せない。

「ああ、確かに……サーカスのピエロみたいな? 独特な動きをするな」

「ね? ね? なんかすごいよね~」

 赤毛の子の動きは、ボールを見て動くのではなくクルクルと動きながら、ボールから視線を外した状態でボールを捉え操っている。まるで紐でもついていて彼にボールが引き寄せられているかのように。そして、よく見ると人の気配や風が吹いた時に風の方向を確認しているようにも見える。ボールにそよ風が当たっても、さほど影響はないようにも感じるが明らかに風を感じている様子に見える。まさか風に合わせて蹴る方向でも変えているのだろうか。まさかそんな器用なことは考えないだろう。


 羽柴は目を輝かせ、窓から落ちそうになるくらい前のめりになる。

「オレ思うんだよ、あの動きする奴がアンバトをやったらすごい戦力になりそうじゃない?」

「またそれか、羽柴は本当にアンバトのことしか考えていないんだな」

 羽柴は目を見開き真剣な表情をして、いつものフワフワした喋り方ではなく真剣な口調で話し出す。

「オレは本当にアンバトをやりたいんだ。だから、アンバトに向いている人を見ると居ても立っても居られなくなるんだ」

 表情も声のトーンや口調もいつもとは違う別人の羽柴がそこにいた……とすぐにいつものようなにこやかな表情に変わる。

「ちなみに……百合君にも入って欲しいんだけどね」

「え……俺?」

 俺は羽柴の突然の言葉に驚く。


 羽柴は窓の外を見ながら、先ほどの真剣な表情に変わる。

「だって、君は風を感じることができるでしょ?」

 羽柴は突然、思いもよらないことを言う。


 確かに風を感じるのは好きだし、風の流れを感じることができる。しかし、羽柴にも他の誰かにもその話はしていない。風を感じることができると人にいったとこで自分が思っているように他の人間が捉えることができないと思っているからだ。きっと、普通の人は「そうなんだ」「何を言ってるの」くらいのどうでもいい感じで終わる話である。羽柴はそれをさらっと理解しているかのように言ってくる。少し怖く感じる。羽柴の言葉になんと返していいか迷い、沈黙が続く。


 羽柴はこちらを振り向き、いつものにこやかな表情に戻る。

「百合君、さっきの話の続きだけど……」

 俺はなにか言わないと思い、少し焦る。

「え、あ……。え……っと」

「ははは、どうしたの? また寝てたの?」と羽柴はクスクスと笑う。


 いつもの羽柴だ。

「アンバトの話だけど、オレはアンバトをするのに風を読むってすごく大切なことだと感じているんだよね。この話は長くなるのでまたの機会に語るとして。あの赤髪の子でもスカウトにいってみようかな~」

 羽柴は立ち上がり、パンっと両手を叩く。

「よしっ」

「相変わらずの行動力で感心するよ、頑張れ」

 とりあえず、この話を続けたくなかったので誤魔化すかのように話を逸らし、応援をすることにする。

「応援してくれるんだ! 優しいね~。じゃ、いってくる~」

 羽柴は俺にハイタッチをし、満面の笑みで手を振りながら教室を出て行くので軽く手を振り返す。窓を少し開けると、春の花の香りがする冷たい風が横切る。

お読みいただきありがとうございました!

次回もよろしくお願い致します!

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