第五十七話 真実を求めて
感情があるって素晴らしいことだけど
それを素直に伝えたりするのってなんか難しいよね
犬や猫みたいに感情で耳や尻尾が反応したらいいのにと思ったり思わなかったり
★葵
オレは百合の怪我の真相を知りたくて顔も見たくない兄貴に会いに行った。兄貴も学校の寮で生活をしているので基本家に帰ってくることはない。兄貴の学校へ行き、警備員に兄に会いに来たという説明をし、アンバト練習場の場所を教えてもらい兄貴の元へ向かう。
折角なのでフェンス越しにアンバトの練習を見学する。運動部、アンバト部の強化校だけあって気迫というか練習の温度が高いのを感じる。
兄貴はオレに気が付いたらしく、ニコニコ笑顔で両手を広げて歓迎をしてくれる。
「葵、よく来たね~」
「あ~葵ちゃんだ~ようこそ~樒ランドへ~」
柚は両手を上げ、満面の笑みでぴょんぴょんとジャンプしている。
「柚、樒ランドってなんだよ~」
「え~だって、樒先輩が一番強くてボスだし~それに今は部長さんだし~」
「あ~わかったから……柚は練習に戻りなさい」
「ぶぅ~僕もお話したいのに~」
「レギュラーとは言え、一年なんだからちゃんと皆と一緒にメニューをこなしなさい」
「は~い。じゃあ、また後でね~葵く~ん」と柚は元気よく手を振りながら練習に戻っていく。
「葵、あっちのベンチで話そっか」
「わかった」
オレたちはベンチへ向かい、端と端に座る。
「菫~ちょっと来てもらっていい」
菫さんが走ってやってくる。
「菫、あの例の話……チビ助の怪我の話のことをさ、葵に説明してくれない」
「ああ、わかった」
なんで兄貴の友達がその話の説明をするんだ? どういうことだ……。
菫さんは淡々とその当日にあった出来事を説明してくれる。
「そういう経緯だけど、話しておかなければならないことがあるんだ……」
菫さんは百合が怪我をした日のことだけでなく、その後のこともを細かく説明してくれた。
やっぱり、兄貴が百合に怪我を……百合はなんで嘘をついたんだ……。
「菫、ありがとう。もう練習に戻っていいよ~」
「ああ」といって菫さんは会釈をして練習に戻っていく。
「という感じなんだけど……百合君には本当に悪いことしたと思ってる。あの時も……公園で会った時も謝ろうとしたんだ。けど、百合君がボクの顔を見たら逃げちゃうからさ~」と兄貴はヘラヘラして喋り悪びれる様子もない。
「事情はわかったよ、兄貴」
兄貴はこういう奴だ。なんでも自分が正しい。だから自分の非を認めない。なんでも他人が悪いと思っているんだ。話にならない。
「そっか、理解してくれるんだね。ありがとう、葵」とオレの背中をポンポンと叩く兄貴。
「事情はわかったからさ、もうオレや百合に近づかないでもらえるかな」
「え?」
「次に会うとしたら……アンバト戦で。それ以外は、もうオレたちの前には現れないでくれ、関わらないでくれ」
オレは兄貴の顔を見るのが怖くてそのまま立ち去ることにする。ドン! 後ろで何かを蹴り飛ばしたような大きな音が聞こえる。振り返らずアンバト場を出て、歩いていると菫さんが声をかけてくる。
「葵君」
「菫さん……兄貴が迷惑をかけました。申し訳ありません」と深々と頭を下げる。
「葵君、頭を上げてくれ。樒は……いつも君との昔話を楽しそうに話すんだ。君との思い出がとても大事で、君のことが大好きというのがすごく伝わってくるくらいに。樒は……愛情表現というか感情表現が下手な奴だ。だから感情のバランスがコントールできずに他人に当たってしまったのだと思う。だから悪意があるとかではなく、わざと怪我させたわけじゃないと思うんだ。怪我させた事実は消えないけど、樒の気持ちも少しは理解してあげて欲しい」
「今の兄貴はオレの知っている兄貴じゃないんです。何があったかはわからないんですけど……兄貴は変わってしまって……今の兄貴を理解するのはすぐには難しいです」
「今の樒には君の存在が必要だと思う。今すぐにじゃなくていいから、樒と話をする時間を接する時間を作ってほしい」と菫さんは深々と頭を下げる。
「まだ、よくわからないですけど……いつかは……」
「ありがとう」
「こちらこそ、兄貴のこと……ありがとうございます」
辺は夕方から夜に変わっていた。オレンジとダークブルーが混ざり合う空。まるで人の表裏のような色だ。
オレは百合とちゃんと話すべきなのか……それとも百合が誤魔化しているのに合わせるべきなのか……。百合はオレの事を思っての選択だったとは思うから……今はそれに合わせることにしよう。いつものオレを頑張って演じよう。お互いが嘘をつくのか……少し悲しいな。本当は嘘とかつかないで本気でお互いがぶつかって話せる仲になりたいな。相手のことを思って、気を遣って……嘘をつくことは悪いことではないとは思うけど、嘘にはかわりないから少しさみしい気持ちになる。
次の日の朝。雲一つない晴れ渡った空。少し冷たい風が吹いている。
寮の玄関を出ると百合が寮の庭にある葉が落ち切った桜の木を眺めていた。木には一羽の青い鳥が留まっている。百合の足元にはゴロゴロと喉を鳴らしスリスリをしている寮のアイドル野良猫と尻尾をブンブンと振る寮母さんの飼っている犬もいる。
「百合君、おはよ~。なんかすごく懐かれているね」と自然に振舞おうと眠そうに背伸びとアクビをしながら百合に話しかける。
「羽柴、おはよう。なんだか二匹に懐かれている気がする。実家に犬も猫もいるからかな」と百合は嬉しそうに微笑んでいる。
「そうなんだ? 羨ましいな。猫ちゃんはオレと目を合わすとすぐ逃げちゃうよ」
「猫と目を合わせるなんて、それは威嚇だからな。逃げるのは当然だ」
「そうなのか……目を合わせず向かえばいいんだね。カニ歩きとか……」
「それは面白そうだな」と百合はクスクスと笑う。
「そうだ。何してたの? まさか……オレを待ってたとか~」
百合が青い鳥を見ていたのは明白だったが、なんとなくカマをかけてみる。
「たまには一緒に行こうかと待っていたんだ」と百合は爽やかな笑顔を見せる。
オレはそんな言葉が返ってくるとは思っていなかったので少し戸惑う。
「え? 本当に? じゃあ一緒に行こう~」
「ああ」
青い鳥にいってきますと言うように鳥に優しく微笑む百合。
「前にもこんな青い鳥みたよね、あれは夏だったね」
その青い鳥は本来は十月くらいまでしかいないはずの鳥……この時期は越冬をするはずで季節はずれの鳥だ。なんだか今の自分と重なって見える……。
「そうだったな、もうあれから半年近くも経つんだな……時間が経つのは早いな」
「ね~もうすぐ年末だよ~その前にクリスマスがあるね~クリスマス会しよ~」
「気が早いな。でも楽しそうだ」と百合は笑顔を見せる。
百合は前より笑うようになった気がする。物腰も少し柔らかくなった気がする。
「アンバトメンバーとさ、プレゼント交換とかも楽しそうじゃない? オレそういうのやったことないからやってみたかったんだ! 柊のプレゼントの中身は忍者グッズだろうな~きっと」
「確かに響空はそうだろうな。そしたら愛風もアーミー系だったりして」
「あ~みんな単純だな~オレはどうしようかな~」
「プレゼントか……難しいな……」と百合は真剣に悩み始める。
今日の百合は百面相みたいで楽しいな。
今の時間がずっと続けばいいのに……。
「そろそろ学校行こうか」
「そうだな」
「青い鳥さん、いってきま~す」と青い鳥に手を振り、学校へと向かう。青い鳥は返事をしてくれたかのように綺麗な一声で鳴く。
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