第五十五話 静かな優しい手
親切とお節介って紙一重
自己満足のものならいらないよ
中途半端なものもいらないよ
☆百合
目の前が真っ暗になったり光が指したりと曇った空から月が見え隠れをしている。
少し痛みも落ち着いたし……帰るか。
「おい、どうかしたのか」とジョギング中の男性らしき人が俺の前で立ち止まる。
「あ、なんでもないです」と伝えるとその男性は無言で手を差し出してくれる。
「ありがとうございます」と男性の手を借り立ち上がる。
「血が出ているようだけど……」
「あ、ちょっと転んだだけなんで気にしないでください」
状況を説明するのも面倒なのもあり、気まずく思わず背中を向けてしまう。
「……羽柴樒か」
その名前に驚き、男性の方を向くと羽柴の兄と同じ学校の男性がそこにいた。
「……」
「羽柴家はこの近くだし、そうなんだな」
「……」
「樒が失礼なことをした。申し訳ない」と男性は深々と頭を下げる。
「いや、違うんです。樒さんの弟さんに会いに行こうとした途中で転んだだけですから」と作り笑いをみせる。
「顔が腫れている、それは転んでできたものじゃないだろう。樒は感情的になると手がつけられなくなる。本当に悪かった」
「とにかく、大丈夫です。それでは失礼します」
そういって軽く会釈し、その場を立ち去ろうとするが男性は俺の痛む方の腕を掴む。痛みで咄嗟に腕を振り払ってしまう。
「腕も痛むのか」
「いや、大丈夫です……」
「いいから、病院へ行くぞ」
俺は男性に軽々とお姫様抱っこをされて小さな診療所まで運ばれていく。
「おやじ、こいつ怪我しているから、ちょっとみてもらえるか」
「お、菫。おかえり。ん? その子は……ガールフレンドか? そうなのか? おかーさーん!」
「この人は男性だ」
「え、男の子? そうなの?」と菫さんの父が残念そうな顔をする。
「はい……」とさすがに苦笑いをしてしまう。
「そっか……それは悪かった。菫が女の子を連れてきたかと思ったよ」
「おやじ、そんなことより怪我を早くみてやってくれ」
「お、そうだな。すまん」
俺は菫さんの父に丁寧に怪我の治療をしてもらう。
「大きな怪我でなくよかったね。とはいえ、小さい怪我でもないから当分はおとなしくして過ごすんだよ」と俺の背中を撫でる菫さんの父。
「診ていただき、ありがとうございました。えっとお金は……」
「何を言ってるんだ! 菫の友達からお金なんかもらえないよ」
「すみません、でも……」
「まあ、気にするな」と菫さん。
「はい……ありがとうございます」と深々と会釈する。
「歩けるか」
「はい、問題ないです」
「菫、送っていってやれよ」と菫さんの親父はウインクをし、サムズアップをする。
「おやじにいわれなくてもそうするつもりだ。送っていく……えっと」
「俺の名前は、星咲百合です。自己紹介が遅れてすみません、菫……さん」
「菫に……さんをつけると女の子みたいだな」と菫さんの親父はゲラゲラ笑う。
「それをおやじがいうのか……」
菫さんは大きくため息をつき呆れた顔をする。
なんだか親子の温度感が違い過ぎて面白い。
「ごめん、行こう」
「いや、大丈夫です。一人で帰れます」
「樒のお詫びとかじゃなく、俺がそうしたい。ダメか」
「……わかりました」
帰り道はお互い無口同士なのでほぼ会話もなく無言の時間が続いた。
「そういえば、俺の自己紹介がまだだったな。俺は嵩夜菫。樒と同じ学校で、同じ学年になる。星咲君は樒の弟に会いに来てたんだったな」
「はい、でも……葵君は出てこなくて……代わりにお兄さんが出てきて……」
「そうか……。樒も色々あってな……本当は悪い奴じゃないんだけど。たまに感情がコントールできないみたいで爆発することがあるんだ。俺がいうのも変だが本当は怪我をさせようとしたわけじゃないと思う。結果として怪我はさせてしまったけど……。今回は本当に申し訳なかった」と菫さんはまた深々と頭を下げる。
「嵩夜さんのせいじゃないですし、樒さんも悪くないです。だからもう謝らないでください。大丈夫ですから」
「実際に怪我をしている訳だし、治るまでは面倒みさせてくれ」
「大した事ないんで……」
「いや……俺が始めたことだし、ちゃんと治るまで見させてくれ」
「……はい、わかりました。ありがとうございます」
「そういえば、星咲君はアーチェリーの選手だよね。去年、蓮と一緒に競技の試合に出ていたよね。アンバトの試合も見に来ていたようだけど……アンバトはやらないの」
「え……」
「あれ? 昔……蓮と試合に出ていたのって星咲君だよね。違ったか?」
「……はい。去年になりますが、その時は蓮と一緒に競技の試合に出ていました。競技は臨時で出ただけで、今はアーチェリーもアンバトもやってないんです……」
「そうなのか。あの時の試合は今でも鮮明に覚えている試合だったな。もし、気が向いたらアンバトもやるといい。案外チームで戦うっていうのも楽しい」と菫さんは優しく微笑む。
「はい……。気が向いたら……考えてみます」
「そうか、一緒に戦える日を楽しみにしているよ」
俺は軽く会釈をして微笑む。
そうか、俺の競技の試合を嵩夜さんがみているということは……羽柴の兄もみていたに違いない。だとすると、羽柴も俺がアーチェリーの試合に出ていたのをみていたのか……知っているのか……。
空を見上げると、月や星たちが雲の合間から顔を出しはじめていた。
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