第五十四話 ぼうりょく
コトバの暴力も
カラダへの暴力も
どっちも痛いんだよ
ずっとずっと傷は残るんだよ
☆百合
星も月も見えないほどの曇り空。冷たい風が通り過ぎていく。羽柴は何日も学校に来ない。携帯に連絡しても電話も出ないし、メッセージに既読もつかない。
俺は成瀬先生に羽柴の家の住所を聞いて授業終了後に羽柴の家へ向かうことにした。羽柴の家は俺の山々に囲まれた家とは違い、都会というか真新しい近代的な家々が並ぶ住宅街にあった。
羽柴の家に着きチャイムを鳴らす。
「はい、どちら様ですか」と羽柴のお母さんらしき人がインターホンに出る。
「自分は羽柴く……葵君と同じ学校のクラスメートの星咲といいます。葵君はご在宅でしょうか」
「星咲さんですね? 少々お待ちください」
しばらくするとドアが開き誰かが出てくるのが見える……羽柴ではなく羽柴の兄だ。羽柴の兄はニコニコした笑顔で歩いて来て目の前で止まる。
「やあ! 百合君じゃないか! この前ぶりだね~元気だった?」
俺は羽柴兄の威圧感で少し後ずさりをしてしまう。笑顔を作ろうとするが恐怖で冷や汗が流れてくる。
「こんばんは。この前は色々と失礼しました。えっと、葵君に会いに来たんですが……いらっしゃいますか」
「葵? ん~いるよ。部屋に」
「えっと、お会いすることはできますか」
「ん~君とは会いたくないっていってるからボクがでてきたんだけど~」
「……」
そうか、羽柴は俺に会いたくないのか……。
「ね~ね~。せっかくだしさ~少し話さない?」
「え……」
羽柴の兄は俺の腕を掴み、ほぼ強制的に近くの公園へ連れて行く。
公園は広く木々に囲まれている。広場も遊具などもなく、散歩やジョギングコースに適した様子の公園。夜はジョギングする人が通るくらいしか人がいない雰囲気がする。
羽柴の兄は公園のベンチがあるところで座り、横に座れと言わんばかりにベンチをトントンと叩いている。正直、隣に座るというのが気が引けるのでベンチの前で立つことにした。
「葵がね、君のせいで落ち込んでいるんだよ。君はなんというか疫病神だね~。だからさ、もう葵に近づかないでもらいたいんだよね。ってか、近づくなよ」
羽柴の兄から笑顔が消え、目が見開き俺をじっと見つめる。口だけがニヤリと笑い、憎悪に満ちた目、怒りで震えている様子が見える。
俺は恐怖で動けないでいる。
「……」
「ねえ、なんでさっきから何も喋らないわけ? 口、ついているよね?」
「……」
なんと言っていいかわからない……羽柴に近づくなというのを了承したくはない。けど、ここで否定をしたら何が起きるかわからない……何も答えられない。
「も~うざいな~約束しろよ。もう葵に近づかないって」
「それは……」
「それは? なに? オレ、グダグダするの嫌いなんだよね~早くしてくれない」
俺は手をギュッと握る。
「もう一度、直接……羽柴と話したい……です」
羽柴の兄はその言葉に逆上し、顔を殴ってくる。俺は投げ飛ばされ、ベンチに頭をぶつけてしまう。
「……っ」
「あ~うっさいな~! もう二度とオレの前に現れるな! 葵の前にもだ!」
倒れたたまま動けない俺の右腕を踏みつける羽柴の兄。
「ちゃんと約束守らないと~次は大事な手を壊しちゃうよ~」
羽柴の兄は殺気立った目で見降ろしてくるので顔を横に向ける。
「顔を横に振るったってことはNOということだね。手は大事だものね。葵に近づかないってことね。OK.じゃあ、さようなら。二度と顔を見ないことを祈っているよ~」
羽柴の兄はニコニコした笑顔で手を振り去っていく。
俺はしばらくの間、その場を動けず大の字で寝転ぶ。頭から何かが流れてくる……確認すると血だとわかる。血が出ているということは頭のどこかを怪我しているということか。殴られた顔も少し腫れていて……踏まれた腕も少し痛む。
俺が中学二年の時に見た羽柴と羽柴の兄貴は楽しそうにアンバトの試合に出ていた。羽柴だけでなく羽柴の兄もあの時は楽しそうに目がキラキラと輝いていて生き生きとしていた。今の羽柴の兄貴は別人に見える……何があったんだろうか……そう考えてしまうほどの変わりよう。
今の羽柴の兄貴は悪魔のような人を食い殺しそうなくらいの殺気に満ちていた……本当に恐怖を感じた。俺はなぜここまで羽柴の兄貴に嫌われているのだろうか……。アンバト試合会場であった時から感じる俺への敵意……なんだろう……。
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