第五十話 百合のカラー
人は見かけによらないもの……
外見や噂なんかで判断するなんてあなたは空っぽだね
その人の良さは自分で(その人の行動を)見て(言葉を)聞いて(接して)体感してやっとわかるんじゃないかな
★葵
「透真君、こんな感じでどうだろか」と百合は心配そうな表情で柾をみつめる。
「いい感じだ! 可能ならスピードも重視すると尚良いかと」と柾は厳しいコトバをかける。
「わかった」
百合は餅と器をじーっと見つめて真剣に餅とアンコと戦っている。
微笑ましいというか、可愛らしいというか。
百合は正直……少し愛想がなくそっけない感じだが実際は相手のことを見て考えてくれる。オレの変化にはいち早く気が付くというか、オレが百合の前では普段出さない『自分』が出てしまうことが多いというか……。百合が憧れの存在だというのもあるのだろうけど、それだけではなく百合の隣は……一言で言うと落ち着く。常に穏やかな風が吹いているというか、温かいもので包まれるという感じになる。多分これは、百合もオレといる時にしか出していない自分というか元々持っているけど普段出さない部分だと思う。
おしるこはあっという間に全て売り切れてしまう。少し時間は早いが、いったん部活のお店を店じまいにし各自他のクラスや部活の出し物を見て回ることにした。店の片付けをしていると女性の声が聞こえてくる。
「泥棒~桜のバッグ返してよ~」
学園祭は少し人が多く混雑しており、女子学生のバッグを抱えたおじさんが小走りで通り過ぎていく。ピンク髪のツインテール女子学生と黒髪のストレートロングヘアの女子学生と緑髪のミディアムヘアの女子学生がおじさんを追いかけている。
「お嬢さん、何があったんですか?」と声をかけると「あ……あ、あのおじさんに、足元に置いたバッグを取られちゃったの」と黒髪の女子学生が走りながら答える。
射的用の銃を持って走り出す朴、アンバト用の手裏剣を持って走り出す柊。オレはおもちゃのアーチェリーを手に取り矢を放つが……当然カスリもしないし、威嚇にもならない。
「……貸してみろ」と百合がおもちゃのアーチェリーを手に取り、矢の先におしるこで余ったお餅をくっつけ矢を放つ。矢は泥棒の横顔に当たり、朴は銃を使って首にコルク玉を当て、柊は手裏剣を使って足に当てる。三人同時に攻撃し、おじさんはバランスを崩し転んでしまう。そして無事にバッグを取り返すことに成功する。
「お兄さんたち、ありがとうございました」
ツインテールの女子学生はお礼を言って去っていく。ロングヘアの女子学生は柊をじっと見つめていたがミディアムヘアの子に手を引っ張られて連れていかれる。朴と柊はバッグを盗んだおじさんを警備員の元に連れて行く。
「星咲君、アーチェリーの扱い上手ですね」
「今のは見事だった」
柾と菖蒲は百合の弓さばきに感動し拍手をする。
オレはなんと声をかけていいか分からず、百合をただ見つめる。
「えっと……昔ちょっとだけやったことあってさ」と百合は苦笑いをする。
「そうなんですね、あんなにお上手ならアンバト部でも活躍できそうですよね、羽柴君?」と菖蒲のバトンが飛んでくる。
タイミングというのは突然やってくるものだが、今は動揺の方が大きくてコトバ選びに迷ってしまう。
「えっと……そうだね。ど……どう百合君」と緊張してしどろもどろになってしまう。
「ああ……そうだな……。本当にちょっとだけの経験だし……」
ちょっとだけじゃないだろ……百合君!!!!!
押せば行ける気がする……頑張れ、オレ……。
「だ、大丈夫だよ。みんなほぼ初心者だし……よ、よければ一緒にやってみないかい」とオレは笑顔で百合に手を差し出す。すると百合は少し戸惑った顔をしながらも手を出そうとする。
「羽柴~ビラ配りの時間だよ」
また……いいタイミングでクラスメートに話しかけられる。
ああ……もお……。
百合は手を引っ込めてしまう。
「もうそんな時間か~柊を連れて向かうよ~」
「おう、よろしくな」とビラを渡し去っていくクラスメート。
「えっと、百合君……」と声をかけると「交代の時間だろ、早く柊を連れていってこい」といつもの愛想のない百合に戻ってしまう。
「そ、そうだね、わかった。じゃあ、また後でね」とオレはその場を去る。
タイミングというのは本当に難しいものである。
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