第四話 羽柴葵
目立ちたがり屋の奴と
いわゆるカリスマ的な存在そのものが目立つ奴では
背負っているオーラが全然違う
生まれ持ったモノを持つものは例え隠そうとしても輝いてしまうもの
☆百合
入学式が終わり各自クラスに移動していく。移動中は羽柴の話題で持ちきりで、羽柴のことを面白がる者、ヒーローのように扱う者、馬鹿にする者、関わりたくないという表情を見せる者と様々である。入学早々、ここまで注目される人物は他にいないだろう。
教室に入ると黒板には上級生が書いた「入学おめでとう」の文字と「クジを引くように」とその下には席番号が書いてある。クジで席を決める方式のようだ。出席番号順ではないのは面白い。教室内は移動の時のざわめきはなく、田舎の男子校でクラスも多く知り合い同士が少ないようでほとんど喋っている人はいない。現状の感じは、静かに過ごしたいと思っている俺には向いているクラスだと思う。俺の席は窓側の一番後ろで、いつでも空を見ることも風を感じることもできそうな特等席である。少し窓を開け、風を感じながら雲がゆっくり動く姿を見ることにした。
廊下を走る音、先生が廊下を走る生徒を注意している声が聞こえてくる。走る音がどんどん近づき、廊下を走ってきた奴はこの教室の前でキュッと新品の上履きにしか出せないようなキレのある音を立てブレーキをかけ止まる。羽柴は元気よくドアを開け教室に入り教壇に両手でバンっと音を立て、クラスの注目を集める。前のめりの態勢で教室全体を見渡し入学式の時のような満面の笑みで話し始める。
「みんな! 入学式、お疲れさま!」
突然の出来事、大きな声での挨拶で驚いたのか停止ボタンを押されたかのように羽柴以外は動きが止まっている。羽柴はあまりにも反応がなく教室全体が静かなため笑顔のまま首をかしげる。
「あれ~? なになに? みんな大人しいね~? 初日だから緊張でもしているのかな~? 高校生活もっと楽しく元気よくいこうぜ!」
クラスメートたちはどう対応していいのわからず停止状態のままになっている。入学式のこともあり、羽柴と他の生徒との温度差は目に見えてわかりやすく少し可笑しくなって笑いそうになる。俺は廊下を走る音が聞こえてから何か気にしたらいけないと感じ、羽柴が教室に入ってきてからもずっと空を眺めるふりをしつつ様子を窺っている。羽柴が話し始めても耳は傾けてはいたが、なんとなく目を合わせてはいけないと感じていた。
肩で息をしながら担任の先生と思われる人物が教室に入ってくる。
「は、羽柴君……にゅ、入学初日から……はぁはぁ……校則違反ばかり……」
先生は両手を膝につき、体力のほとんどを使い果たしたかのように疲れきっている。羽柴と先生がここまでに来る間に何があったのか興味が沸いてくる。羽柴という苗字のせいか、戦国武将の秀吉が連想される。
『鳴かぬなら 鳴かせてみせよう ホトトギス』
たまたまなのか、わざとなのか……秀吉のような振る舞いに少し笑いそうになってしまう。
「先生、体力なさすぎですよ! 高校生を相手にするんですから体力つ・け・な・い・と・ですよ!」と羽柴は陽気にウインクをし、先生に手を差し伸べる。
「お、おぅ、ありがとう」
先生も羽柴の空気にのまれ、さっきまで怒っていたことをすっかり忘れている様子。先生もようやく教壇に立ち、ホームルームが始まるようだ。少し開けた窓から風に運ばれた花の香りが入ってくる。
息を整えて穏やかな声で自己紹介をし始める先生。簡単な自己紹介だけにしてくれていれば良いものを羽柴の影響か、自分のやりたいこと目標、しまいには自分が若かった頃の夢まで語りだす。長い演説が続き、また眠気に襲われる。ウトウトしていると目の前の席に座っている羽柴が振り向き、小声で話しかけてくる。
「なんか面白い先生だね」と羽柴はクスクスと笑う。
「ああ、そうだな」
俺もつられて少し笑ってしまう。本当は先生が面白いというより、先生より面白い羽柴がそのセリフをいったことが面白いと感じている。
先生の長い自己紹介も終わり、クラスメートの自己紹介が始まる。先生の自己紹介につられてなのかそれぞれ目標や夢まで語るという形式になっている。俺は目標も夢も明確なものはなくなんとなく日々を過ごしている訳で、意外にもクラスメートが明確な目標や夢があることに驚く。
それにしても人の話を長々聞くのは飽きてしまう。友達をつくりに学校に入ったわけではないし、人のこともそれほど興味もないのでまた空でも眺めることにする。
「ねぇねぇ、オレの自己紹介の時はちゃんと耳を傾けてほしいな」
羽柴はそういって優しい笑顔で話しかけてくる。
ご近所だしな、無視するのもな……仕方ない、聞くか。
「えっと、オレは羽柴葵。西中出身。新入生代表で挨拶もさせてもらったから、みんなもうオレの顔は覚えてくれたとは思うけど改めてよろしく! さっきもいったけど、元アンバト部で剣競技をやっていました。ここではアンバト部がないようなので新しくアンバト部を作って青春を送りたいと思っています。この中に、アンバトの経験者やアンバトの武器が使える人は是非オレと一緒にアンバトをやろうぜ!」
羽柴は体育館の時と同じで太陽のような眩しい笑顔、生き生きとした目の輝きを見せる。どれだけアンバトが好きなんだ。というか、なぜアンバト部というのがある学校に行かなかったのかと思う。そう思っていると同じことを思ったクラスメートが羽柴に話しかける。
「羽柴君、質問! そんなにアンバトやりたいなら最初からアンバト部があるとこにいけば良かったんじゃないの?」
まあ、当然の疑問だなと思う。
「そこ聞いちゃう? ふふふ……まあ簡単言うと~この学校に一緒に部活をやってみたい奴がいるからというのが答えかな! 以上、じゃあ次の人どうぞ!」
羽柴はなんとも中途半端な答えをし、俺に自己紹介を譲る。
「星咲百合。東中出身。星が好きなので天文部に入ろうと考えています。以上です」
特に目標も夢もないので完結に自己紹介を済ます。自分の自己紹介が終わり、また外の景色を眺めていると、他のクラスはホームルームが終わったようで帰り始める人たちが歩いているのが見える。
ああ、俺も早く帰りたい……。そして、また眠気が襲ってくる……。
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