第三話 入学式 -百合-
世界はとってもとっても広いのに
自分の目にみえている世界ってすっごく狭くって
本当は目の前にあるモノはたくさんあって
でも……手に取れるモノはたった少しだったりする
☆百合
体育館の前にある大きな桜の木の前で桜越しに空を見上げる。桜の木から舞う花びらを三枚連続でキャッチできたら願いが叶うという子供の頃の遊びを思い出す。子供の頃も今も特に願い事はないがあえて願いを挙げるとすれば……うん……やめておこう。
百合という名前、基本的には女の子の名前で花の漢字を使っていて響きや文字だけ見ると明らかに女の子にしかならない。しかも見た目というか身長も163センチと小さいせいもあり、女の子と勘違いされることがよくある。百合という名前……正直言って嫌いである。からかわれるのは好きではない。そういう理由で男子校に入ったわけではないがさすがに男子校で女子と間違われることはないだろうと思う。なぜこの高校を選んだかというと、一言で言うとここで星を見たかったという単純な理由である。
ここは山奥の学校であり農業系の学科と体育系の部活が盛んであるため農業用の畑や施設、運動施設が充実している。そのため学校の大きさは東京ドーム何個分という広大な土地で学校が終わるとこの辺は暗闇になる。暗闇になるとうことは夜になると星が綺麗に見える。昔から星を見ると落ち着く。
星は星の数だけ世界が広がっていて、きっと……色んな星には地球のように色んな見た目、個性がある人々が住んでいると考えるとなんだかワクワクしてくる。自分が見ている星の人も地球をみてきっと同じようなことを考えているかもしれないと思うと更に面白く感じる。
とある物語の王子様も星を旅して色んな個性の人たちに出会うし、とある宇宙を探索する作品でも「宇宙、それは最後のフロンティア」ともいうくらいだし、宇宙には無限の世界や色んないきものがいると思う。そんな理由で星が好きというと他人には理解をしてもらえないので、表向きは「無限に広がる宇宙が神秘的で好き」ということにしている。
自然というものに敵うわけがないと常に感じるが風を読むことができた時、風を捉え自分の見方にした瞬間、なんだか自分が特別になった気がしてくる。だから風が吹くと風の機嫌を伺うかのようにいつも気にしてしまうのである。風の機嫌がハッキリとみえる瞬間、それは桜の花びらが舞った時にわかりやすく見える。だから今、こうして桜の木の下で桜を見つめているのである。俺の気持ちを知ってか桜の木が揺れるほどの風が吹き桜の花びらが舞い散る。
体育館に先生たちが入ってくる。集まっている生徒たちはそれに気づき会話をやめ会場は静寂に包まれる。
「新入生代表挨拶、羽柴葵」
「はい」
体育館中に響く声で返事をする羽柴。真新しい制服をきっちり着こなし、髪もワックスで固め、絵に描いたような優等生姿。姿勢も正しく目は未来という光を捉えているかのように輝き、体育館にいる人たちを魅了するかのような輝くオーラを放ち演台に立ち話し始めるが……登場のインパクトは違い、挨拶の内容はよくあるテンプレートの内容で正直つまらない。俺は退屈な演説に飽き小さくアクビをし外の景色を眺める。
「……挨拶は以上となります」
まばらに聞こえる拍手の音。羽柴は45度の角度の綺麗な姿勢で挨拶をし一歩後ろに下がる。
「耀!」
「はいよ~葵」と耀がレプリカの洋剣を羽柴に投げる。
「サ~ンキュ」
羽柴は耀にウインクをし、耀は軽くガッツポーズをする。
突然の出来事にザワザワとしだす体育館内。羽柴は剣を鞘から抜き、華麗に振り回し剣の舞を披露する。髪型と制服を着崩し置いてあったマイクを持ち再び話し始める。
「自分はこの学校でアンバト部を作りたいと思う! 自分は中学の時、剣競技で関東大会までいったことがあります! 自分と一緒にアンバトをやってくれるメンバーを募集します! みんなで青春しようぜぇ~!」
羽柴は元気よく拳を上げ、太陽のような眩しい笑顔、生き生きとした目の輝き、登場シーンより更に輝くオーラを身に纏い会場中の目線を釘付けにする。おかげで俺の眠気もすっかり吹き飛んでいく。その部活に入る気も興味も全くないが演説を聞いた瞬間に魅力的なものを感じひき込まれそうになる。さっきより会場内の騒めきが大きくなる。
「し、静かに!」
教頭先生が空気を変えるような声でその場を収め、二人の先生に両腕を掴まれ引きずられていく羽柴。羽柴は笑顔のまま両手で手を振っている。教頭先生が場の雰囲気を変えるため誰も興味がないような自分の身にあった出来事を話し、微妙な空気のまま式の続きが行われる。羽柴は体育館の外に連れて行かれたのか式が終わっても姿を見ることはなかった。
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