第三十三話 美大とのアンバト試合 ー前編ー
キミにしか出来ないこと
キミにしか表現できないもの
もっと"キミ"を出していいんだよ
★葵
あっという間に合宿五日目の朝を迎える。うだるような暑さ。何もしなくても体力を奪われる。セミたちの合唱大会も佳境にきているようで耳障りなくらいの大音量である。今日は百合のバイトとやらが休みらしく朝からオレたちの練習を見学している。
オレたちの成長を、カッコいいところをみせたい……。
お昼を食べ終え午後になり、チーム戦の時間となる。大学チームのメンバーは剣が浪さん、双剣が凪さん、槍が航さん、銃が洋さん、手裏剣が海さんのメンバーの五人。ということで岬さんは楽しそうに百合と日傘の相合傘で応援している。
成瀬先生の合図で練習試合がスタートする。
お互いに陣地取りを始め、ある程度の陣地取りが終わると攻撃がスタートする。シューターのメンバーは陣地取りのあとはアタッカーのメンバーへの攻撃をすることが多い。銃や手裏剣はアタッカーメンバーの近くでサポートすることもあるが当然狙われやすくはなる。そのためチームによってはシューターのメンバーを後方に置くチームと前方に置くチームとでわかれることが多い。オレらのチームはシューターのメンバーは前方に出る戦略を取っている。
朴は瞬発力もあり自由に飛び回れる柔軟な身体を持っており、なにより風読みができるので攻撃された場合、瞬時に判断し対応ができる。
柊も同じで瞬発力があり風読みができ、身体能力に関してはアクロバットな動きができるので相手が柊の動きを予想することが難しいのである。柊のアクロバットは忍者を極めようとした結果できるようになったらしいがアクション俳優にでもなれるんじゃないかというレベルの動きをする。
柾は元々剣道と薙刀をやっているので両方の技術を使い、相手の動きを分析しつつ正面から戦うのが得意らしい。
菖蒲に関しては正直腕力というものがないので舞うような動きで基本は避ける形で戦う。相手の呼吸使いや動きの音で行動を読むことができるので相手の動きに合わせて隙を見て一気に攻めるという戦い方をする。
オレは元々経験者なので腕力も技術も経験もあるので相手の出方により合わせて戦うようにしている。自分で自分を万能とは言わないが、今まで戦って来た中で苦労したとか大変だったとか思ったことはない。ただ一人を除いては……。オレが唯一敵わないのは兄貴である。兄貴が先に剣競技を始め、オレもそれを見てほぼ同じ時期に剣競技を始めた。しかし、兄貴は元々スポーツ万能で勉強もできるタイプで、運動神経だけでなく頭で計算した戦いをするためオレは一度も兄貴に勝てたことがない。いつかは兄貴を超えたいと思う。
ある程度の陣地取りが終わり、シューターのメンバーは相手にカラーを当てる体制を取りはじめ、シューターメンバー同士で様子見という睨み合いが始まり、アタッカーのメンバーが戦闘態勢に入る。オレは正面から浪さんに向かっていく。最初は様子見というのもあり剣と剣とのぶつけ合いが続く。浪さんはスピードがあり、素早い剣さばきを見せる。オレは交戦するのではなくガードで対応を続ける。これではキリがないのでオレは一旦浪さんと距離を取り、全力で走って浪さんに向かっていく。浪さんはオレが来るのを待ち構え、剣を両手でしっかりと握る。正々堂々と戦うべきなのだが百合が見ているのもありテンションが上がりアクロバットを披露したくなってしまった。
オレは剣を大きく振り上げて浪さんに攻撃をしかける振りをし、素早く剣を下ろし小さくしゃがむ。浪さんはオレが力いっぱいに攻撃をしてくると思い、力いっぱいに剣を振り払う。その反動で浪さんはバランスを崩す。オレはしゃがんだ状態から片手のバク転をし、剣を持ったもう片手で浪さんの剣を振り払う。さらにバランスを崩す浪さん。オレは剣を浪さんの目の前に突きつける。
「完敗だよ……」と浪さんはオレにリボンを差し出す。
「ありがとうございます。たまにはこういう戦いもありじゃないですかね~」
オレと浪さんの試合はこれで終了。
武器で戦うというよりほぼ技術と身体能力での戦いとなった。ルール上は直接的な物理的な攻撃をしなければ今のような戦い方は問題とはされない。
菖蒲と凪さんお戦いは舞を踊っているかのような優美な戦い。優美というもののスピードがあり、動きが激しい。双剣は、剣の長さがオレたちに比べて短いため至近距離での攻撃が主になる。そのため判断力と相手の攻撃を読むことで有利に戦いが進む。菖蒲も凪さんも力任せで戦うタイプではないので相手に攻撃をするというよりは持久戦で隙を探し一気に攻め込むという戦い方をしている。一瞬、両手を下ろし攻撃を辞める体勢を取る凪さん。凪さんの体勢に気を取られ菖蒲が足を止めてしまう。凪はその隙に剣の側面を菖蒲の腹に当てる。菖蒲はバランスを崩し倒れる。
「うん、君は綺麗な隙のない動きをするね。でも、戦い方が優しすぎるんだよね……そこが欠点かな。もう少し攻める感じの方がいいと思うよ」と菖蒲に手を差し出す凪さん。
菖蒲は凪の手を掴み起き上がり、一礼をしてリボンを渡す。
「凪さん、ありがとうございました。どうしても相手のことを考えてしまって……。怪我させたくないというか……」
「大丈夫だよ、怪我しないように装備はしているわけだし。擦り傷とか打撲とかはまあ多少はしょうがないと思うけど、大きな怪我とかは試合中、見たことないかな。だから安心して戦っていいと思うよ」
菖蒲の頭を優しく撫でる凪さん。菖蒲はいつもの笑顔ではなく作り笑顔を見せる。
菖蒲は相手が危険な目に遭うのが見ていられないらしく、相手が危険な目にあった場合はとっさに手を差し出してしまうくらい優しい。だから菖蒲の戦い方は攻撃をしているようには見えるが実は相手の体力の消耗を目的としていて力まかせの攻撃もしないのである。菖蒲の良い所ではあるがアンバト競技ではそれはマイナスとなってしまう。
柾は航さんと対峙する。力は柾の方が圧倒的ではあるが身体能力は航さんの方が上なので柾は航さんの攻撃を防ぐので手一杯になっている。柾は攻撃を仕掛けようとするが航さんの素早い動きで攻撃する前に防がれてしまう。柾は攻撃が当たらず焦り力いっぱいに槍を振りかざす。航さんはテコの原理で柾の槍を軽々と跳ね返し、柾の槍は手から落ちる。
「力があるのは認めるけどさ、力いっぱいにやってもこうなるだけだよ。もう少し戦略を考えないと。動きが単純すぎる」と航さんは柾の身につけているリボンを取る。
「はい、ありがとうございました」と柾は手を握り締め、悔しそうな表情を浮かべる。
「はい、試合終了」
成瀬先生が大きく手を叩く。
やはり先輩たちは強い。オレたちはまだまだ技術も経験も足りない。初心者の集まりという言い訳はしたくない、もっと強くなりたい。チームで力を合わせて戦いたい。でもみんなはどう思っているのだろうか……。趣味くらいの遊び感覚なのか……それとも試合で勝ちたいと思っているのだろうか……。
お読みいただきありがとうございました!
次回もよろしくお願い致します!




