第三十一話 柊のお料理教室
好き嫌いってどうしてもあるよね
でもさ……"嫌い"はいつか"好き"に変化するかもね
だって少なくとも興味があるってことだから
★葵
今日の夕食はカレーとサラダ。合宿といえば定番のメニューだ。合宿の参加人数は女性陣も含め二十人近くいる。先輩たちへのお礼も込めて高校生チームのメンバーで夕食を作ることにした。サラダはオレ、朴、柊が担当し、カレーは百合、菖蒲、柾が担当することとなった。
「料理とは……深いものなのだ。野菜の繊維に沿って切ると味や食感が変わるから……先ずは繊維をだな……」
柊は仁王立ちし偉そうな態度で野菜の切り方について語り始める。柊は自分で弁当を作るくらいだから料理には自信があるのだろう。ここは俺が仕切るといわんばかりにベラベラと喋っているが朴は話を聞かず手で適当にレタスをむしり始める。
「おい、人の話を聞いているのか」
「え? なんすっか」と朴はあっという間に皿の上にレタスをバラバラにむしりのせていく。
「……」
柊はしかめっ面で停止状態となっている。なにか納得がいかないようだ。
「レタスは終わったっす。次はセロリ切るっす」
朴はその様子に気付かず次の作業へ入ろうとしている。
「待て! それは俺がやる」
「あ、そうっすか? じゃあお願いするっす」と朴は淡々とプチトマトを洗い始める。
「葵はきゅうりの切り方も薄さも素晴らしいな」と柊は仁王立ちで偉そうな態度を取る。
「あ、本当? それはよかったよ」
「いいか二人とも、セロリの風味を生かした切り方はだな……ってあ~~~~~」
「どうしたっすか」
「トマトは丸ごとのせるのではなくだな……」
柊は手裏剣意外にも熱を持つことがあるんだなと感心しつつ、あまりにもこだわりが強く話が長く面倒になったのでカレーを作っている三人に話しかけに行くことにする。柊の目の輝きに対して朴の目が死んだ魚のようになっているが見なかったことにしよう。
「菖蒲、カレーの方はどうだい?」
「うふふ、みなさんの手際もよく順調ですよ」と菖蒲はニッコリと微笑む。
うんうん、エプロンがとても似合う美少女男子。というか女子の先輩にフリフリのエプロンを渡された結果、美少女がそこに存在しているようにしか見えない。
「この三人なら問題ないよね~羨ましい……」
「あらあら。サラダの方は……」
「順調に見えるかい?」
柊と朴は手を動かさず口を激しく動かしている。
「そうですね……」と菖蒲は苦笑いをする。
柊は朴に野菜の切り方や栄養について力説して、サラダは放置状態になっている。朴も面倒になってきたの意識が違うところにあるように見える。
「なんか料理番組ってか、専門家の説明みたいになってきたから逃げてきたよ」
「あらあら、うふふ」
「柾と百合は……」
柾は百合から包丁を切り方のレクチャーを受けている。
「透真君は料理が初めてだったらしく星咲君が包丁の持ち方を教えてあげているんですよ」
「へ~意外だね! 柾なら家でオリジナル料理とかいって家族に食べさせていそうなイメージなのに」
「わかります、その感じすごくわかります!」
「でしょ~。百合君はあの様子だと料理が普通に出来そうだね~」
「星咲君は両親が共働きなので、簡単な料理はよくやっていたそうですよ」
「そうなんだね! 百合君は料理が出来るんだ~。へ~ちょっと意外だな~」
オレは百合を見て少し笑ってしまう。
「意外で悪かったな……。それよりサラダはできたのか」
百合はオレらの話を聞いていたようで少しムッとした顔で睨んでくる。
「あ~しまった。忘れてた……サラダ作りに戻りま~す」とここでも気まずくなったので柊たちのもとへ戻ることにする。
戻ると柊のうんちくというかもう野菜愛といえばいいのか、柊と朴は手が進まずに野菜たちが放置されていた。
「柊、野菜が悪くならない」
「はっ! 話している場合ではなかった。急いで調理しなくては」といって柊は一言もしゃべらず黙々と手を動かし始める。
「葵、助かったっす。途中から磔の呪文でも唱えられているような気分だったっす」朴はヴァンピールに血を吸われてしまったかのようにげっそりしている。
「それは気分が悪くなりそうだ……」
「でも柊の野菜への愛の深さがなんとなくわかったっす」
「そこだけはな」
柊は一人でサラダの準備が終え冷蔵庫へお皿をしまう。終わったかと思うと「次はドレッシング作りだ」とまた張り切り出す。
「え? ドレッシングを手作りするの?」
「お~さすがっす」
柊と朴はハイタッチをする。柊はハイタッチをするポーズのままオレを見つめてくる。
「はいはい、さすが柊様です」といって柊にハイタッチをする。
柊は嬉しそうにどんなドレッシングを作るかを細かく説明しながら一人で作りはじめる。
そんなこんなでオレたちは料理を完成させ、料理が完成したので先輩たちを呼び、夕食にする。
オレは百合の隣に座り、気づかれないように百合のカレー皿に人参を少しずつのせていく。
「羽柴……俺が気づかないとでも思っているのか」
「あ~バレちゃった? 実は人参が苦手でさ~」
「じゃあ、人参は食べてやるから……」
「え? 食べてくれるの? 優しい! ん? 食べてやるから?」
「かわりにセロリを食べてくれ」
百合は下を向き少し恥ずかしそうに小声で話す。
「え? 百合君はセロリが苦手なの? なんかカワイイね~子供みたい~」
オレは百合が恥ずかしそうな素振りを見せたので思わず笑ってしまう。
「なっ! 羽柴の人参嫌いの方が子供みたいじゃないか」と百合は少し顔を赤くし怒る。
「お前たち、好き嫌いなんて野菜に失礼だ」と仁王立ちした柊が半目でオレたちをみる。
「じゃあ、人参が大好きなようだしあげるよ」と柊の口に人参を押し込んでいく。
「にゃ、なにをしているんだ」
「人参が好きだという柊に餌付けしてるの」
「ほう、人参が好きなのか」と柾も柊の口に人参を押し込む。
朴は人参を二つのせて口元に運び、菖蒲も人参を食べさせようと口元で待機している。柊は無言でみんなの人参を食べごくりと飲み込む。
「ああ、そうすればいいのか」と百合は柊の口にセロリを押し込むがセロリを吐き出してしまう。
「いや、カレーの味との組み合わせが微妙なだけだ」
「あ……セロリ嫌いなんだだったのか……申し訳ない」と百合は深々と頭を下げ、別のセロリを取りノールックでオレの頬に刺してくる。
「百合君、そこほっぺ。口はこっち」といいながらセロリを食べ「柊君、好き嫌いなんて野菜に失礼です~」と柊の言い方を真似していってみる。
「お、俺にだって苦手なものはあるんだ。味を感じにくくするために切り方を工夫したが駄目だった」と柊は顔を真っ赤にする。
「じゃあ、お口直しに人参でも」と人参をスプーンにのせる。
「もういらない」といって柊は背中を向け自分のご飯を食べることに集中しはじめる。
「百合君、交換で話は成立だ」
「そうだな」
オレと百合はフィスト・バンプをして、お互いの苦手な野菜を静かに交換し料理を完食する。
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