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第三十話 鬼ごっこ

 今って時間は二度と来ないのだから

 今しかできないこと……思いっきり楽しもうぜ

★葵


 この地域は夕方の五時になると放送で『夕焼け小焼け』の音楽が流れだす。その音楽が流れると一日の練習が終了となる。練習時間が終わると各々休憩を取るなり、練習を行う時間となる。百合もその時間になると帰ってくる。

 片付けも終わり、百合がちょうど戻ってきたので百合に話しかけようとすると岬さんに先を越されてしまった。百合と岬さんは必要以上に密着しコソコソと内緒話しをしている。話が終わると百合は荷物を置きに屋内に入っていく。岬さんは百合が戻ってくるのを待ち、百合が戻ってくると二人で仲良くオレが休憩している場所にやってくる。

「岬さんは……お・と・こ・の・こが好きなんですか~」

 オレはいつものようにヘラヘラしながら岬さんに嫌味を込めて話しかける。

 さて、どんな回答がくるか楽しみだ。

「ん? あ~百合君のこと? ん~とね、ボクは可愛い子なら誰でも好きだよ~。百合君はね~なんかね、見た目が可愛いのだけど~雰囲気も好きかな」

 岬はニコニコしながら百合の腕に密着する。

「えと……はい……」

 百合は苦笑いをするが、拒否はしない。百合は年上にどう接したらよいのかわからないようで抵抗もせず岬のなすがままである。それが面白いのか岬さんは余計にベタベタとくっつく。

「うんうん、可愛いな~」と百合の頭に頭を寄せる岬。

 オレは百合に密着したいわけではないけれど、岬さんが自然に百合のパーソナルスペースに入っていることに少し嫉妬する。岬さんのせいで百合に話しかけられずにいる。


 オレは百合と岬のバカップルな雰囲気がいたたまれなくなり他のメンバーがいる場所に移動する。

「こんなところでライバルとは……誤算だったな」

 柊は『お前の気持ちは理解しているぞ』と言わんばかりに深く頷き、オレの肩を叩く。

「何の話かな」

「百合君と岬さんのことに決まっている」

「柊は葵の心を代弁したっすね」

 朴と柊はキメ顔でハイタッチをする。

「そうだ、当たりだろ」とお前のマブダチだからなと偉そうな態度を取る柊。

「あのね、そんなんじゃないから」と呆れ顔と冷めた口調で返す。

 そのやり取りを見て、菖蒲も柾も苦笑いをしている。

「さすがにオレも怒るよ」と目を見開き柊を睨みをきかせる。

「あ~珍しくニコニコしてないっす」とオレの態度を察した朴が苦笑いをする。そしてうんうんと心配そうに頷く菖蒲と柾と柊。

「別に百合君は関係ない……色々と考え事をしているだけだよ」

「ほう。寂しいのであれば俺がハグをしてやるぞ」とまだ勘違いをしたまま『俺がいるじゃないか』といわんばかりの柊。

「ねえ、人の話聞いてる」と聞くと、柊はオレを強く抱きしめる。

 オレは苦しくギブギブというように柊の背中を叩き、暴れる。

「ちょ、苦しい……」

「もっと、強く抱きしめてほしいのか。わかったぞ」と柊は更に強く抱きしめる。柊は加減を知らないのか……これはハグを通り越しプロレス技をキメられているくらいの感じが……ああ意識が……。

「……」

「どうした静かだな」

 オレは柊の力強い抱擁されすぎたため力尽き、脱力する。

「どうした、葵。人工呼吸が必要か! 仕方がない!」

「って、ふざけすぎだ」

 オレは柊を振り払い少し距離をとる。

「元気そうでよかったぞ」とエビゾリをして大喜びをする柊。

 そしてオレに近づこうとする柊、またプロレス技をかけられてたまるかと柊と一定距離を取る。

「ちーかーづーくーなー」

「なんだ? 俺は葵が大好きだぞ」とニヤニヤしながら両手を広げる柊。

「残念だ。オレはさっき嫌いになったよ」と言うと柊がまたハグをしようと突っ込んでくるので避ける。オレたちは鬼ごっこをしているのように追いかけっこをはじめる。

「なんか青春っすね」と朴は微笑ましく鬼ごっこを眺める。

「そ、そうですね」と菖蒲は苦笑いでアタフタしながら鬼ごっこを目で追う。

「楽しそうだな、僕らも……」と柾は鬼ごっこに混ざりたそうにウズウズしている。

「なんだ? 鬼ごっこか」と百合が声をかけてくる。

「百合君、おかえりっす」と朴。

「ああ、ただいま」


「お前らさ、俺が恥ずかしいから大人しくしろよ」と成瀬先生はしかめ面で腕を組み偉そうな態度をとる。

「じゃあ、先生が止めたら」と百合が言うと成瀬先生は百合の頭にチョップをする。

「お前も生意気だよな」と百合をジト目でみる成瀬先生。

「責任者が責任を取るのが正しいのでは」と百合が返すと成瀬先生は百合の頭を手の指で掴む。

「暴力反対。それよりやるべきことがあるのでは」と冷静な百合。

「はいはい、わかりましたよ」

 といって今度は成瀬先生も交ざり三人で追いかけっこをはじめる。


「あ~あ、湊先輩は子供だよね」

「いつになったら大人になるんだろうね」

「ねえねえ知ってる? あれで先生らしいですよ」

「へえ、どこかのヤンキー学生さんかと」

「あらあら~残念な大人ですのね」

「おこちゃま~おこちゃま~」

 女子部員の(じゅん)(みどり)(かいり)(しほ)(すい)(とおる)先輩たちは成瀬先生にヤジを飛ばす。

「お前らも、ふざけんな」

 今度は女子部員の先輩たちを追いかけはじめる成瀬先生。女子部員もまざり鬼ごっこがはじまる。

「すげぇ楽しそうっすね」

「交ざっちゃいましょうか」

「たまにはいいかもな」

「行くか」

 朴、菖蒲、百合、柾も鬼ごっこに交ざっていく。

 ヒグラシたちも彼らに負けない大きな声で歌を奏でている。

お読みいただきありがとうございました!

次回もよろしくお願い致します!

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