第二話 入学式 -葵-
何事もはじめましてはドキドキでいっぱいになる
ドキドキの先にある世界はどんな色をしているのだろう
★葵
360度どこを見ても
C100 M0 Y0 K0の青
C100 M0 Y100 K0の緑
で囲まれた風景。どこかしらのトンネルを潜らないと他の街にはいけない孤島のような場所。山に囲まれたこの場所は四季によって見せる顔も違うが風も一年中捕らえることができないような自由な動きをする。ここでは海とは違い風をよむ必要もそうそうないと思うが風をよんで何かをする人は少なからずいるものである。
今日は高校入学式の朝。
オレは新入生代表で宣誓を読むことになっている。正直……面倒だ。本当はもっと学力が上の学校にも行けたが部活を一緒にやってみたいと思う人がいた。ただ、それだけの理由でこの学校を選んだ。結果として成績がトップになり面倒な役割を任されることになった。手を抜いて試験を受けることもできたが部活を一緒にやってみたいと思う人と同じ学校に入りたいという気持ちが強く全力で試験を受けてしまったのである。今まで適当に何かをやればこなす事ができ、何をしても褒められるという周りから見たらなんでも出来る完璧という言葉に近い優等生タイプと言われる自分にとっては他人というものはそもそも眼中になく興味を持つことのないただのモブであった。
何でも出来て人が媚びてくる、そんなつまらない人生を送っていた自分の前に現れたその人は『風を操り幻想的なオーラ』を身に纏っていた。これは要するに世に言う一目ぼれというやつなのかもしれない。これほど人に対して強い思いを持ったことがない自分に驚くがこの気持ちをなんといえばいいのか……思い浮かぶ言葉がピンとでてこないがきっと『コイ』というものに近い感情なのだろう。『コイ』といってみたもののここは男子校である。男にコイをしたという状況になってしまうが、『コイ』以外でいまのところ表現する方法が見つからないので今はその表現で我慢をしておく。
学校の応接室の立派な革のソファーに座り空を眺める。
今日の空は雲一つない青空が広がっており、桜の花びらが優雅に舞っている。風にのってフワフワとしている桜はさぞかし気持ちがいいことだろう。オレも風にのってフワフワと飛びたい気分だよ……特に今は……。
家から持ってきた500ミリリットルの水が入ったペットボトルを一気に飲みきる。代表で前に出るのはいつものことで今まで緊張などしたことがない。しかし今日はなぜか喉が渇く。緊張しているのか……。心臓の音も少し早い気がする。指先も冷たく少しピリピリする。『コイ』をしている人物に会えることが嬉しくて緊張しているのだろう。感情というものが身体に現れるという経験、今までにはなく新鮮な気持ちだ。
コンコンとドアをノックする音がし、先生が声をかけてくる。
「羽柴君、そろそろ体育館に移動しようか」
「はい」
オレは先生と共に体育館に向かう。先生はオレの緊張をほぐそうと会話をしてくれているようがだ自分の心臓のドキドキ音で何も聞こえてこない。ゴホゴホッ。咳が止まらない。ラムネ瓶のビー玉のようなものが喉でコロコロしているような違和感。聞こえてくるいつもの日常の知っている音たちが聴いたこともない楽器に変換され演奏されて鳴り響いている。大丈夫、落ち着け。ゆっくりと深呼吸をして、両頬をパチンと叩く。まだ落ち着かない、どうすれば……。
桜の花びらが頬をかすめる。目を閉じたまま桜の花びらをそっと掴んでみる。今日から新しい生活が始まる。桜の花びらが応援してくれているかのように舞い上がっている。頑張れ、オレ! ギュッと握った手を胸に叩きつける。
ここは桃源高等学校。桜の木が四方を囲み校舎の背中には背もたれのような近さと高さで山々がそびえ立っている。一見、自然に囲まれた良い環境にも聞こえるが春先は大量のスギ花粉が飛んでくる非常に迷惑な場所で大自然の中なので買い物をするには小旅行に出るくらいの感覚になる場所である。校内一目立ちたがりの桜の木は体育館の前で一際大きくどっしりと立っており、枝のしだれ具合が少し色っぽさを出している。その桜の木に一瞬目を奪われたがそのまま体育館の方へ向かう。ウグイスの鳴き声が聞こえ、気まぐれな風が吹き、桜の花びらが舞う。
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