第二十六話 アンバト試合用の武器探し ー前編ー
自分のペースで進んでいいんだよ
キミの持っているカラーはとってもステキだよ
さぁ自分らしくいこう
★葵
待ち合わせ場所の店の前。街中の少し外れた路地を入ったところにある少し寂れた感じの外観の店。待ち合わせ10分前にオレと百合は到着するがすでに皆は集合していた。
「遅いっすよ~早くいくっす」
朴は早くお店に入りたくて子供のようにピョンピョンと飛んでいる。
「待ちくたびれたぞ」
柊は両腕を組み、少しムッとした顔をしている。
「え~10分前だし、遅刻はしてないんだけどな~」
「うふふ。全員揃ったことですし、いきましょうか」
菖蒲は母のような温かい微笑みでみんなをまとめてくれる。
「ああ、行こう」
柾は呆れたと言わんばかりのわかりやすい大きなため息をつく。
集合より早く着くとか……みんな楽しみってことだよな。嬉しいな。
お店の中はサバゲとアンバトの武器がたくさん置かれている。このお店のようにいろんな武器が置かれている店もあるが個々の武器が置いてある店ももちろんある。各自で武器を見ることにする。百合は武器には多少は興味があるらしく楽しそうに武器を見ている。
アンバトの武器はレプリカといったものの子供が持つようなおもちゃという訳ではないので重さはあるし、殺傷能力が低いというだけで力を入れたら怪我は普通にする。オレが持っている剣は一般的にロングソードと言われる西洋の剣。剣はガードの中心に自分で模って作ったネックレスと同じ片翼の刻印があり、グリップは木製で出来ていて自分が持ちやすいような形状に作ってある。
オレはすでに武器を所持しているし、百合と色々な武器を見て回ることにする。手裏剣が並べられたコーナーへ向かうと柊がダンテの「考える人」のようなポーズをしているのがみえる。
「柊、手裏剣がたくさんあるのに嬉しそうじゃないね」
「葵、俺は……十字型の手裏剣以外選択肢がないということか……」
柊は人生終わったというような白黒の廃人のようになり、倒れたかと思うと膝をついて落ち込むはじめる。
手裏剣は本来色々な形が存在するがアンバトでは殺傷能力が高いものは禁止となっているため「十字型の手裏剣」しか使用できないことになっている。そのため目の前には十字型の手裏剣のみが数種類並んでいる。数種類置かれているというものの形は基本同じでデザインが異なる程度である。
「アンバトでは、十字型しか使用できないからな……まあ、好きなデザインでも探すか好きなデザインを装飾するかで選ぶ感じになるよね……」
「そうか、葵! いいことを言った! デザインをせめてこだわるとするか」
柊はジャンプしながら立ち上がり目を輝かせる。そしてブツブツと呪文のようなことを言い始める。多分、デザインの独り言でも言っているのだろう。柊が妄想を膨らませ始めたようなので柾のところへ移動することに。
柾は穂先をどれにするか悩んでいる。手裏剣とは違い槍はどの種類を選んでも問題はなく自分が好みの穂先を選択できる。
「羽柴君、いいところに。穂先の種類が色々あって悩んでいるのだが、どれがいいと思う?」
「そうだな、やっぱり自分がしっくりくるのがいいと思うんだよね、だから実際に使ってみて決めればいいんじゃないかな。向こうで色々と試すことができるよ」
「そうなのか、では一目惚れしたこれを試しに行ってくる」
そういって柾は槍の体験をしに向かう。
さて、次は誰のところに行こうかな……。
「羽柴、音春君……綺麗だな」
「ん?」
振り向くと双剣を持ちクルクルと優雅に舞っている菖蒲がいた。百合が言うように綺麗としか表現できないほどの舞である。剣を持ち舞っている菖蒲はいつもの美少女のようなフワフワした天使の雰囲気ではなく、一つ一つの動きに素早さと重みがあり、ひと振りが空気を切り裂くかのような鋭さを放った男らしい舞を踊る。表情もいつもとは違いタレ目のニコニコした顔が今はつり目の鋭い顔つきになっている。
「菖蒲が舞い踊る姿……どこかの国の騎士みたいだね~」
オレは感動をし人様の迷惑にならないようにと小さく手を叩くと菖蒲がオレたちに気づき、いつもの優しい笑顔を見せる。
「うふふ、そんな距離をとったところで見なくても」と菖蒲はクスクスと笑い「わたしはこの双剣が気に入りました」と双剣をみせる。
「へ~どんなの」
「サーベルタイプの柄に護拳がついている剣です」
「護拳がついているやつか~いいね」
「護拳ってなんだ?」と百合。
「えっとね~護拳っていうのはね、柄を握る拳を守る部具のことでね、防具にもなりつつ手が滑っても落ちることを防ぐことができるものなんだ。ただ欠点もあって柄を回転できないから運動性……刃先を自由に動かすような動作ができないんだよね。でも菖蒲はその柄を回転させない代わりに剣自体を回転させるようにしてるんだよ」
「へぇ、そうなのか」と関心を示す百合。
「ふふ、わたしには力がまだ足りないので自分なりの技術みたいなもので補おうと思いまして、今のわたしに合う形状だと思いませんか」
「そうだね、さすが菖蒲は自分のことよくわかってるね~感心感心!」
「ふふ、ありがとうございます。理想とするものはありますが、今は今の自分にあったもので出来ることを頑張ってみます」
「うんうん、菖蒲らしいね」
「はい」と菖蒲は天使の笑顔をみせる。
菖蒲は自分のことをちゃんと理解していて尊敬する。背伸びをするんじゃなくて目標は持ちつつ目指しつつ……今の自分に合わせてか……かっこいいな。見習わないといけないな。菖蒲の落ち着き、余裕のある雰囲気はそういうところから来るんだろうな……。うん、菖蒲は全く問題ない。
菖蒲は見た目のフワフワした雰囲気とは違い、努力家の有言実行でしっかり者だ。菖蒲は今までスポーツというものを本格的に行っていなかった。そのため部活が終わった後も休みの日も自主トレを行っていた。人一倍? 否もっとかな……すごく努力をしている。しかもその努力を見せないようにしている。オレはつい最近まで菖蒲が部活以外で自主トレをしていることを知らなかった。顧問の先生にその話を聞くまでは……。
顧問は数学担当の成瀬湊。普段から無表情の無愛想だか意外と相談事などは親身になってくれる。見た目は髪が長く少しヤンチャな印象のある先生だけど。そして元アンバト部でオレと同じソードを扱っていた人物である。成瀬先生は元アンバト部だが、部活の指導はほぼせず名前だけの顧問だ。
しかし経験者ではあるのでアドバイスは出来るらしく、菖蒲から相談を受け自主トレのメニューや時には個人的に剣の指導を行っていたと聞かされた。なんとなくは気がついていた。菖蒲に筋力がついた事、体力もついた事も……。でも他のメンバーは元々運動部で菖蒲と変わらないくらいに成長していたから気が付けなかったというのが本音である。部長としてちゃんと見ていなかったこと……反省しかない。菖蒲は自分なりに頑張っているが、他のメンバーに比べるとまだ足りない部分は多い。だから今の自分にあった武器を選び使いこなそうとしている。本当にしっかり者だと感心する。
人それぞれにペースがあって、それは誰かに合わせなくてもいいし、それは遅くてもいいと思う。焦って失敗するよりは少し遅くても成功出来たほうがいいと思うから。自分のペースで進んでいけばいい。自分のスピードがベストを知っているし、ベストを出せるはずだから。
お読みいただきありがとうございました!
次回もよろしくお願い致します!




