第二十五話 耀が描く世界
モノの捉え方はそれぞれだけど
色んな捉え方があることで世界が広がるね
☆百合
次の週の日曜日。雲が少し広がる曇り時々晴れの天気。太陽は顔を出したり隠れたりを繰り返している。そのおかげで視界が明るくなったり暗くなったりして少し楽しい。
アンバト部のメンバーとは午後からアンバトの道具が売っている場所で現地集合となっているが俺は羽柴と午前中から出かけることになった。俺はアンバト部に入ったわけではないが流れで誘われ……特に断る理由もないので今日の買い物も付き合うことになった。羽柴がどうしても付き合ってほしいというところがあるといって今は絵の個展をやっている場所へ向かっている。正直、絵に興味はなく……羽柴に頼み込まれ付き合う形となった。
密集した古風な住宅が建ち並び、人が行き来するだけの道幅しかない細い道を進むと蔦に覆われた今にも壊れそうな古びた建物がこぢんまりと建っていた。その建物の最上階に小さなガラス張りの部屋があり、天井も壁も床も真っ白で点々と絵が飾られていた。個展は誰でも自由に出は入りできるらしく絵が欲しい場合は購入もできるというものらしい。
部屋は電気がついておらず部屋に入る自然の光で飾られている絵を見るものらしい。時間帯によっては電気がつくこともあり、飾られている絵の横には必ず光源にこだわった電気スタンドのようなものが置かれており、光を調節して見ることができる。
自分には絵の感想がなんとも言えないが飾られている絵は「人の心」を表現したものらしく、必ず色が付いた人と黒い人影もしくは人影だけのモチーフが存在し、その人が向かう方向、見ている方向に色がつき、奥行というものが表現されている。きっと見る人によって捉え方が違うのだろうなと思いながらなんとなく絵を眺める。
羽柴は1枚1枚をじっくり見て電気をつけ調整したりと夢中になって絵を見ている。きっと何か共感するものがあるのだろう。
羽柴は一見、場の空気を読んでいないようで空気を読み明るい性格だが……たまに別人のような重い空気になったり、強引になったりと色んな顔を見せる。誰でも人に見せる性格と見せない性格があるのは当然のことだろうけど、羽柴の場合は……明るく見せているのが本当は作ったものなんかじゃないかと思う事がある。羽柴が俺といる時にたまに見せる顔が本当で受け入れてくれるのを待っているのでないかと……俺の思い込みなのかもしれないが、羽柴の兄にも感じた負のオーラが羽柴にもあって……何か関係しているような気がする。ただ、俺が踏み込んでいいものだろうか……羽柴に何かできることがあるのだろうか……。
羽柴は一枚の絵の前に立ち止まる。その絵は右半分が眩しい入射光と青空、左半分が夜空か宇宙の暗めの背景に光の方に手を伸ばす人がいて、人と影は向く方向は正反対だがしっかりと手を繋いでおり、影が夜空か宇宙に降りていこうとする絵。
一見、人と影が別々の方向に向かっている……心は光を求めているがもう一人の自分が闇へ連れて行こうとしているような絵に見える。でも俺は……心のバランスを保っているような絵に見える。人にはなんともいえない表情が描かれているが影には表情がない。もし表情があったとすれば穏やかな顔をしているように感じる。
「百合君、オレね。この絵から温かいものを感じるんだ。一見、光を求める人を影が邪魔しているようにも見えるけど……なんかバランスを保って安定しているように見えるんだ」と羽柴は穏やかな優しい顔をする。
「俺も同じことを思っていた」
「やっぱりね。百合君とオレはなんか感覚というか……似てるよね」
「そうかもな」
「そろそろいこうか? ってか、ご飯食べよう~。今日朝ご飯を食べるのを忘れちゃってさ、お腹すいちゃたよ~」
「ああ、わかった。食べに行こう」
羽柴は目を見開き凛々しい顔をし、個展の主である耀さんに話しかける。
「耀、またな」
「葵、来てくれてサンキュ。百合もありがとう。じゃ、いってらっしゃい」
耀に優しく微笑む葵、耀も優しく微笑み軽く手を振る。
そう。ここには羽柴の友達の耀が描いた絵が飾ってあった。ここにいる間、羽柴と耀さんは話を一切していないが言葉がなくても通じるものがあるような雰囲気を感じる。少しそんな関係が羨ましいと思う。
画廊を後にし、食べ物屋を探し始める。住宅街を抜け広めの公園を突っ切ることにした。休みの公園は人も多く賑やかだ。正直、俺は少し苦手な感じだ。
「チョコのいい匂いがするね~美味しそうな匂い~」
「ああ、そうだな。あそこのワゴンからじゃないか」
「お、ホントだ! ちょっと見てくるね~」と羽柴はワゴンの方へ走っていく。
ワゴンではソフトクリームをベースにしたパフェが販売しており、たくさんのフルーツや色んな種類の甘いお菓子とカラフルのチョコレートをかけてオリジナルのパフェをつくるというお店のようだ。
羽柴は大きな苺、苺のジュレ、白うさぎのチョコにカラーチョコがかかったパフェと苺、キウイ、パイナップル、ブルーベリー、ビスケット、マシュマロとカラフルなチョコレートがかかったパフェを持ち帰ってくる。
「美味しそうだから思わず二人分買っちゃった~。百合君は甘いもの大丈夫?」
「ああ、嫌いじゃない」
「オレのが……」
「ウサギがのってるのだろ?」
「あれ? なんでわかったの?」
「俺は苺が好きだったとしてもそのウサギがいるだけで食べたくなくなる」
「え~そうなの? 苺は好きなのにウサギは嫌いなの? 抱っこするとフワフワだけど爪が刺さっていたいから?」
「ウサギは嫌いではないが抱っこすると爪が痛いよな、だからフワフワだけ感じるモルモットを抱っこしたいよな。じゃなくてだな」
「あ~モルモット派だったか~。さすがにそんなチョコはなかったな~」
「誰もモルモットの菓子が欲しいとはいってない」
「じゃあウサギさんのチョコ食べる?」
「だから! そうじゃない」
「まあいいや、どっちにする? 溶けちゃうよ」
「羽柴はどっちを俺に食べさせるつもりだったんだ?」
「フルーツ盛りのほう。何が好きかわからないから色んなフルーツいれみた」
「フルーツは好きだ。ありがとう」
「ならよかった! ウサギさんは?」といって羽柴はウサギのチョコをパフェにのせてくる。
「だからいらないって」といってあまり得意ではないマシュマロを羽柴のパフェにのせ、その上にウサギの首をのせ「ほら、フワフワのウサギが完成した」と適当に返してみる。
「お~可愛くなった! ありがとう」と羽柴は喜んでいる様子。
「ああ、可愛い可愛い」
「あ、見てみてあの雲とこのソフトクリームの形似てない」
雲の横にソフトクリームを並べる。
「確かに夏の雲はソフトクリームに似ているな、美味しそうだ」
空は入道雲が我が物顔で空に大きく広がっており、太陽は高々と頂辺に上り眩しく光を放つ。
羽柴の表情は太陽のように明るく楽しそうだ。
「百合君、今度はあっちから食欲をそそるような匂いがするよ~」
羽柴はあっという間にソフトクリームを食べ終え、次の食べ物を探し始める。すると今度は大きなお肉が回るケバブのワゴンの前に走っていき、手招きをして俺を呼ぶ。
「お昼はこれで決まりだな」
「やった~」
俺たちは公園でたわいもない話をしながらケバブを食べる。
公園の中は整えられた木々や草で覆われており青々とした香りが混じったそよ風が吹く。
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