第二十三話 樒チームとのアンバト試合 ー後編ー
楽しい時間ってあっという間に過ぎちゃうね
今って時間は無限じゃないから一日一日を大切にしなきゃ
★葵
目の前には青空が広がりモフモフとした小さな雲が生まれては遠くに流れていく。太陽もどんどん遠ざかっていく? そうか……ここは海の中なのか。だから冷たくて重苦しくて呼吸が苦しいのか。空が歪んでみえ雲に見えていたものは自分自身が出す空気で太陽が小さくなっていくのは沈んでいっているから。
兄貴といると息苦しい。兄貴から笑顔が消えたあの時から……。あの時はオレの世界には兄貴しかいなかった。他の誰もがのっぺらぼうで表情も声もない。そんな世界でたった一人のヒーローだった兄貴はオレを突き放した。それからオレは人と接する方法がわからなくなった。
各チームは武器をそれぞれ持ち一列に整列する。生温い風はいつの間にか少しひんやりとした風になり、ムクドリの大群が大声で楽しそうに歌いながら飛んでいく。
練習場は本格的な試合会場とは違い、雑草が生えたデコボコの地面に簡易的な的があるものである。要するに部活で使っている環境とほぼ同じということだ。ちなみに百合には最初のスタートの合図を言ってもらうこととなった。当然やりたくなさそうだったが手が空いているのが百合以外いないので仕方がなくやってもらうこととなった。
試合同様にヘッドセットをつけ、両チームがスタート位置に着く。
「じゃあ、皆さん用意はいいですか~」と兄貴は声をかける。
そして、それぞれがOKという合図を出す。
「では、スタートの合図をお願いしま~す」
「はい。では……First half game. Ready go!」
百合の試合スタートの声が響き渡る。
とりあえず小走りで全員で動き、相手の様子を見ることにしてフィールドの中心まで行ってみることにする。樒チームも先ほどの戦い方とは違い、様子を見ながら進み始める。ちょうどお互いの境界線あたりに全員が揃い距離を取り、どちらが攻撃をしかけるか様子見状態となる。お互いが睨めっこをしていると、この練習試合を聞きつけたのか見つけたのか樒の高校の応援をしていた人たちが静かに集まり始める。
座った状態で朴の近くの的を狙う柚、同じく座った状態でオレの近くの的を狙う蓮。柚の攻撃を察知し相殺する朴、オレは蓮の矢を見ずに跳ね返す。
「朴、さっすが~」
「葵もめっちゃかっこよかったっす」
「二人共、いい感じだ」と声をかける百合。
「今のはオレらを攻撃してきたわけじゃないけど、開戦の合図ってことだよな……うんでももう少し様子見で」とそのまま沈黙を続けることにする。
柚は柾に一度目の攻撃を仕掛けてくるが、今は様子見の状態なので柾は攻撃を簡単に避ける。柾はさっきの試合の光景が頭に残っており、蓮の方を向いてしまう。柚は一発目の攻撃の後、少し間を置いて二発目、三発目の弾を撃っており、柾はよそ見をしてしまったために二発目と三発目の攻撃を受けてしまう。
「しまった」
「柾、大丈夫だ。落ち着いて状況を判断しろ」と冷静に声をかける。
「了解」
柚は方向を変え、菖蒲に三発連続で攻撃をする。三発連続となると攻撃を避けるのは簡単かと思うが、柚は一発目を顔、二発目を左の腕、三発目を右の太ももを狙って撃ち、菖蒲は三発目の攻撃を受けてしまう。
「すみません」
「今のは避けるのが難しい、だから気にするな。マイペースでいこう」と声をかける。
「はい、ありがとうございます。頑張ります」
柚は次に柊へ攻撃を仕掛けるが朴と同じく相殺されてしまう。柊の場合は朴の相殺する姿を見てかっこいいと感じたため同じ方法をとったと思われる。なぜなら柊は他にも対処の方法を知っているし出来るからだ。部活で朴の攻撃を色んな方法で躱している柊にとっては飛び道具で攻撃されたとしても簡単に対処ができてしまうのである。
「俺を誰だと思っている」とヒーローというより真逆の魔王になったかのようにイケボで格好をつける柊。
「柊様、非常にかっこいいです。そのままお願いします」とまあこんな感じでのせてしまおう。
「承知」
オレは本格的にバトルがはじまったため近くにいた菫に攻撃をかける。兄貴はというと剣を地面に刺し試合中だというのにニコニコしながら高みの見物をしている。槍はリーチが長いので攻撃範囲が有利ではあるが軽いのが欠点である。槍と剣の相性は悪いわけではないが力勝負となると剣が圧倒的に有利である。
オレと菫の攻防戦がはじまり、槍のリーチがあるためリボンを取れる距離を詰めることが出来ず苦戦する。距離を詰めたかと思うとすぐに菫に突き放される。オレの得意な剣の舞で錯乱されようとしても兄貴が同じ技を使うため菫は全く動じない。
兄貴が使う技は通じるわけないか……じゃあどうしようかな……。
オレと菫の攻防戦は続き、追い風が吹いた瞬間に剣で菫の槍を地面に押し付け、その力の反動と風を使って剣を軸に前転をし、オレは菫の腕にあるリボンを奪い取る。
「い~っぽん」
「さすが、樒の弟だな」と菫。
「ありがとうございます」とオレは軽く会釈をする。
菫のリボンを取った瞬間に兄貴が猛ダッシュして登場し、力いっぱいの一撃をオレにぶつける。オレは攻撃に耐えられずよろめく。
「ねえねえ、剣の舞で勝負しようよ」
「望むところだよ、兄貴」
オレと兄貴の戦いは剣を交えるというより、剣を使って美しく踊っているような光景でバトルというよりも演目をみているという状態になる。ただ踊っているのではなく剣を所々交えはするが二人の戦いだけを見ると何が起きているのか不思議な空間である。
「で、このままどうするの? 体力勝負でもするわけ」
「普通に戦ってもいいんだけど、ボクと葵でしか出来ない戦い方をさ、みんなに見せたいじゃん。自慢の弟だしさ」
「自慢の弟? 心にもないことを言うなよ」
オレは踊るのをやめ、力いっぱい兄貴の剣を振り上げる。すると兄貴の剣は舞い上がる。
「キレキャラなの~こわ~い。仕方がないな……」
「兄貴、もらったよ」
「だから甘ちゃんなんだよ、君は」
樒の舞い上がって落てきた剣をオレに蹴り飛ばしそのままバランスを崩す。その隙にオレのリボンを取る樒。
「ボクの勝ち、葵はボクには勝てない運命なんだよ」
「……」
やっぱりオレは兄貴に勝つことはできないのか……。
一方、菖蒲と柾は二人で撫子に戦いを挑む。
撫子は二人を相手にしているのにもかかわらず全く隙がないだけでなく菖蒲と柾を押している。菖蒲も柾も攻撃を受けるので精一杯である。
朴と柊、柚と蓮は陣地取りをしながらも攻防戦を行い追いかけっこのような戦いとなる。キリがないと思った柚はもう一つの銃を取り出し二丁拳銃で戦うが弾切れとなり、弾切れの瞬間を計算していた柊が距離を詰め柚のリボンを奪い取る。
手裏剣の欠点は飛距離が短いことにあるがアンバトでは拾うことができれば無制限で攻撃ができるという利点がある。
「二本目、いただいた」
「え~こんなに避けられたのは、はじめてだよ~」
蓮も所持していた矢がもう一本となったところで朴に銃を向けられる。追い詰められたかと思った瞬間に樒が朴の背後からリボンを奪い取る。同時に柊の手裏剣が蓮の腕のリボンを掠めリボンが蓮の後ろの的に刺さる。柊が的に当てたことにより樒は陣地外となり失格となる。
「あ~油断しちゃったな~。撫子、もう終わりにしていいよ」
「わかったよ、リーダー」
兄貴の終了の合図で撫子は菖蒲と柾の武器を振り落とさせ、二人のリボンを奪う。
「はい、終了。ボクらの勝ち~おつかれ~」
兄貴チームがリボンを4つ取り勝利となる。
「おつおつ~楽しかった~ありがとう」
柚はキラキラの笑顔で深々とお辞儀をする。
「はじめたばかりにしてはいい感じだったよ、お疲れ様」
撫子も優しい笑顔を見せる。
お互い一例をして解散する。
試合が終わったあと誰も一言も発しない。疲れたのか、ショックなのか、それとも……。
「みんな、お疲れ様。はじめてみんなの試合を見たけど、圧巻の迫力だった」と百合と労いのコトバをかけるがオレ以外のメンバーは下を向いたまま。
「ほんと? ありがとう」と元気よく返すが他の誰も反応もせずコトバを発しない。
「あれだけ動けば体力が消耗するよな」と百合はみんなの様子を心配そうに伺っている。
「結構な運動量だからね~無気力にもなっちゃうさ」
「羽柴兄弟の舞は魅了された」
「えへへ~嬉しい、ありがとう」
今日は来てよかった……みんなの刺激になったと思うし。
「葵、ふと思ったのだが……」と柊が話し出す。
お、やっと復活したか。
「ん? なんだい?」
「俺たちは自分専用の武器は用意しなくていのか?」と柊は真面目な顔をして見つめてくる。
「あ、気がついちゃった?」
「実は……僕もその件について気になっていた」と柾。
「実はわたしも……」と菖蒲。
「次の休日は武器の買い物に決定っすね?」と状況を察した朴が発言するとほぼ死んでいたみんなの目に光が戻り輝き出す。身体はフラフラのようだけど。
「よ~しっ! 自分の武器持っちゃいますか~」
「お~」とみんなの声が響き渡る。
来週の予定もこいつらと一緒か、なんか青春っぽいことをしているな。
一匹の鷲が泣きながら通り過ぎていく。そしてウシガエルたちの輪唱が聞こえてくる。いつの間にか空は星が見えるくらいの夜に近い夕暮れになっていた。
お読みいただきありがとうございました!
次回もよろしくお願い致します!




