第二十二話 樒チームとのアンバト試合 ー前編ー
苦手や嫌いだからといって拒絶するより
それを受け入れてプラスに変換出来たら最高だよね
★葵
オレは兄貴の試合を相変わらずカッコイイなとか思ってしまう……。
「羽柴、アンバトってやっぱすごいな」と百合が珍しく目を輝かせて嬉しそうな表情をしている。
兄貴の試合の感想を見てってのがちょっとイラっとするけど……百合君が興味を持ってくれたならこれは押していくしかないってことだよね?
「百合君?! その勢いでアンバト部に~」
オレがそう話しはじめるとアンバトメンバーたちの視線が一斉に集まる。
「……」
「に~は~い~」
「葵、なんか楽しそうだね」と試合を終えた樒御一行様の登場。
バカ兄貴はこのタイミングで……本当に今日は……。
「葵のお兄さん、さっきの試合すげぇかっこよかったっす」
「兄者殿、見事な試合でした。感服しました」
朴と柊は樒に尊敬の眼差しを送る。
「あはは~嬉しいな~ありがとう。そうだ、君たちはアンバトはやっていないのかい」とオレをチラ見しながらニコニコ顔で朴たちに話しかける兄貴。
「春から始めたっす」
「俺はアンバトでは試合経験がないが、武器は色々と使える」
といつもよりテンションが高めで答える、朴と柊。
「お? そうなの? せっかくだしさ~向こうの練習場で戦ってみない」と誘う兄貴。
「え! いいんすか」と朴と柊は声を合わせる。そしてオレの顔を見て様子を伺う。柾も菖蒲の様子を見ると少し興味がありそうな雰囲気。
でも……オレは断固して兄貴と同じ時間を過ごしたくない!
「いや~兄貴たちも試合したばっかで疲れたでしょう。またの機会にしよう」とオレは気を遣った風にお断りをしてみる。
「だっいじょーぶ! 柚はまだまだ戦えるよ」と柚は元気アピールなのかピョンピョンとジャンプをする。
「ウチのチームはまだまだ戦えるし、葵のチームのメンバーも戦ってみたそうだし、やろうよ、葵」と眩しい笑顔をみせる兄貴。
「ほら! オレら武器も持ってないしさ~」と言うと朴と柊は一瞬驚いた顔をしたと思ったら悲しみを通り越して今にも消えそうなくらい途方に暮れている。
「あ~そんなこと。武器なら、借りられるよ。柚と蓮で借りてきてよ」
兄貴のそういうところが本当に嫌いだ。でもそういうところが人に好かれるのだろうと思う。
「ラジャー」と楽しそうに敬礼のポーズをする柚。
「わかった。けど、どの武器が必要」と気怠そうな声と態度の蓮。
「剣、双剣、槍、手裏剣、銃でお願いしたい。というか僕も取りに行きます」と柾が言うと「あ、わたしも行きます」と菖蒲も嬉しそうに目を輝かせる。
あ、柾も菖蒲も実際の試合を見て感化されて試合をしたくなったのだと気が付く。そっか、そうだよな。みんな実際に戦ってみたいよな。オレはいつも自分のことばかりで……みんなの意思を大事にしないとな。
「行こう行こう」
柚は楽しそうに鼻歌を歌いながら先頭を切って足取り軽く蓮と柾と菖蒲を誘導していく。
「そういえば、誰がどの武器を使うの」と兄貴。
「俺は手裏剣使いだ」と答える柊。
「へぇ~君は手裏剣なんだ。珍しいね~ってウチの先輩にも手裏剣使いがいるけど」
「潮さんですよね」
「やっぱ、潮先輩を知ってるんだ? 手裏剣の使い手って意外といないよね」
「ですね。飛距離的な事を考えると銃やアーチェリーの方が有利ですからね。それでも俺は忍者に憧れがあってアンバトでは手裏剣一択です。潮さんは同じ道場に通っているのでよく会います。潮さんのアンバト試合はみたことがないので一度は見にいけたらと思っています」
「潮先輩のアンバトはほんとかっこいいからみてほしい。あのノンビリ屋さんが試合の時は人格が入れ替わったかのようになるよ」
「そうなんですね! いつか絶対みにいきます」
なんだろう……柊って普通に話せるんだ。まだまだ知らないことだらけだ。
「どうした、葵」と仏頂面のオレを気に掛ける柊。
「なんでもないよ」とニコニコ顔で返す。
「それで、君はどの武器を?」と朴に話しかける兄貴。
「俺は銃です」と朴は丁寧語で返す。
「なんだろう、ぽいよね」
「そうですか? なんか嬉しいです。元々サッカーをやっていた関係もあって目がすごく良くて、接近戦より遠隔戦が向いているかなと思い、銃という武器を選びました」
朴は初めて会った時もそうだったけど、同じ年でも丁寧語で話していたな。朴もいつも柊と一緒にふざけた印象が強いから新鮮な感じがする。でもよく考えたら人ってその場にあったキャラを演じるのも話し方や話す内容を変えたりするのも普通のことだよな。TPOは大事だよな。
「それで残った君は、アーチェリーかな」と百合に話しかける兄貴。
「え?」
「兄貴、百合君はアンバト部のメンバーじゃないし、アンバトはやってないよ」
「あ、そうなの?」
「はい。アンバト部に入ってはいませんが、今日はアンバトに少し興味があって見学に来たんです」
「そっか、そっか~」と兄貴は百合の背中をポンポンと叩く。
「兄貴、変な絡み方はやめろ」と兄貴を強く押し百合から離れさせ、噛みつかんとばかりに睨みつける。
「あ~ごめん、ごめん」と撫子は笑顔で樒の背中を引っ張っていく。
「葵君は、確か樒と同じ剣を使うんだったな」と菫がタイミングよく会話を逸らす。
「そうです」
「わたしは葵君と樒が一緒にでている試合を見たことがあるんですよ。あの時に比べると戦い方は変わったでしょう」
「俺も同じ試合を見ていたが樒があの時の人物だとは思えないよな」
撫子と菫は微笑みながら兄貴の昔話をする。
昔の兄貴と一緒にやっていたアンバトの思い出は……オレが中学二年の時で止まっている。アンバトは基本的に自分が担当する武器を使いこなすだけでいい。もちろん技術やアクロバット的なことができたらベストだけど武器を使いこなすだけでも本当は難しい。だって床の体操選手に技を披露しながら剣やアーチェリーを使えというのは想像しただけでも難易度が高いのはわかりきっていることだし大半の人はそれをあえてやろうとは思わない。
アンバトは自由度が高いこともあり、プロレスのようなエンターテイメント性をメインする場合と戦国時代で戦わないと死ぬから相手を倒すみたいなバーチャルだけどリアリティ性をメインとする場合の二つの戦い方が存在する。
兄貴とアンバトをしていた時はエンタメ系というか遊び感覚で楽しむ感じだった。とはいえ、兄貴もオレも俗にいうヒーローに憧れていたこともあり、アクロバットな動きも剣を戦う武器だけではなく別の使い方をするのも自然とやっていたのでアンバトでは他の人がやらないような動きをたくさん取り入れていた。それは自分たちもやっていて楽しいし、相手チームは驚いて固まったりするけど周りで見ている人たちも喜んでくれていたからWin-Winな感じで本当に最高の時間だったんだ。それがオレが知っている兄貴とのアンバトだ。
「今日、久しぶりに兄貴の試合をみましたが驚きました」これがオレの本音だったりする。
「でしょでしょ~おに~ちゃんも成長したんだよ~」とニコニコへらへらと嬉しそうな素振りを見せる兄貴。
「すぐ褒めるとこうなる」と撫子は兄貴の頭をポンポンと叩く。
「そもそも、今のは褒められていないだろ」と菫は真顔で言う。
「そうだね、驚いたは褒めているわけではないね」と撫子。
「はあ……お兄ちゃん、しょんぼりだよ……」と兄貴は体育座りをし、顔をうずめる。
「樒せんぱ~い、何してるの~」と柚は道具を持ちながら走って戻ってくる。
「柚は良い子、ありがとね」と柚に抱き着き甘える兄貴。
「うん、知ってる~柚は良い子の可愛い子~」
柚はウインクをしながら両手でハート型をつくる。
「先輩、戻りました」
蓮、柾、菖蒲も戻ってくる。
「ありがとう。蓮も良い子」
「はあ」
柚とは真逆の反応をする蓮。蓮は兄貴をウザそうに思っている感じ。
「じゃあ、やりますか~」と立ち上がる兄貴。
「あの……服装というかは……」と朴が聞く。
「まあ上はそれでいいとして、下は下着でいいんじゃない」
兄貴は悪気がないような純粋な笑顔でセクハラのような発言をする。
ん? ちょっとまてまて……まさか。
オレが振り向くと、朴と柊は履いていたものを脱ぎ始めている。
「ダメダメ……こんなところで脱ぐな~~~」
「え、でもお兄さんが」
「そうだ、兄者殿が」
「兄貴! ふざけるなよ」
「あはは、まさか本当に脱ぎ出すとは、ごめんて。ボクらがここまで来るときに着てきたウチの高校のジャージを貸してあげるから」
柊は何事もなかったかのようにパンツ一丁になって堂々と歩いている。菖蒲と柾はアタフタとどうしていいのか慌てているがオレは面倒なので見なかったことにした。
武器は試合用のレプリカ武器でいつも練習で使っている武器とは異なり重さも形状も違う。オレは色んな武器を使いこなしてきたから問題ないけど他のメンバーは色々なことがはじめましてでどうなるかわからない。でもなんだろう、不安なんか全然なくて……楽しみという感情のみがワクワクとドキドキでいっぱいにしてくれる。
オレたちはジャージに着替え、武器をそれぞれ持ち一列に整列する。ちなみに戦略など一切考えていない。本格的な試合はオレ以外のメンバーははじめてだし、戦略をたてそれ通りに動くほうが難しいと判断し、今回は相手の動きをみて各自で対応をしてみることにした。
苦手な兄貴と同じ場所、同じ時間を共有することは悪夢だと思っていたけれど……みんなの練習になる、経験になると考えたらお得すぎる話だなと思った。
苦手や嫌いだからといって拒絶するより受け入れてプラスに出来たら最高だよな。さぁ! 見せつけてくれよ、兄貴。オレたちがたくさん吸収してやるよ。
お読みいただきありがとうございました!
次回もよろしくお願い致します!




