第十七話 向いている方向は違うけど同じ歩幅で
全く同じものをみていても感じ方は十人十色
でも……誰かのペースに合わせるって難しくはないかもね
★葵
電車に乗り試合会場へ向かう。今回の試合会場はというか大抵の試合会場は山の中が多い。理由は広々とした場所が必要となるので街中でその広大な場所を確保するのが難しいからだ。
電車から見える景色は家々が立ち並ぶ景色から畑と木々の景色に変わっていく。電車に乗っている人たちの荷物は大きく、きっと試合で使う道具が入っているのだろう。今日の試合は初心者向けから上級者向けの幅広い試合が行われる。だいたいの年齢で区切られており一番下で小学生の部、上は年齢制限のない大人の部まである。
「田舎の景色って~なんか落ち着くよね~って学校もど田舎だけどね~」
「そうだな、自然が多いとなんか癒される。景色も匂いも……空の色も鮮やかに見えるし、星も近くなるし、星の輝きは増すし……」
百合は目をつむり穏やかな表情になる……というか眠そうな雰囲気を感じるような。
「本当に百合君は空と星と風が好きだね~ってオレも好きだけど~」
「……」
百合は電車の揺れに身を委ねそのまま眠ってしまう。
「あの~もしもし~寝たくなるのはわかるけど会話途中だよ~百合君」
「あ、えっと何の話だっけ……あっあ~。風……。そういえば、羽柴が風と一体になった姿を見たときは羨ましかった。風を見方にして風とともに舞うとかそういうのに憧れる」
百合はたまに恥ずかしいような台詞も自然に言ってくるからオレの方が少し恥ずかしくなる。
「オレはそんな美化されているんだ~嬉しいな~」
「美化って俺は本気で……」
知っている、わかっているよ……百合君。嬉しいけどさ、やっぱ恥ずかしいんだよ。
「風って気持ちいいよね~でも気まぐれでさ~寄り添ってくれたと思ったら、いつのまにか遠くにいっちゃうんだよね~。でもその風の流れをつかむことができたのなら、なんか何でもできちゃう気がするよね~うまく説明できないけど~」
「俺も風の動きが読よめるようになりたい、そうしたらもっと……」
「もっと?」
「あ、いやなんでもない。気にしないでくれ」
「おっけ~」
待ち合わせ時のように問い詰めることをせず今回は会話を流すことにした。
「風よみ~風使い? なんか魔法使いみたいだ~」
オレは頭で考えていることと話そうとすることが異なり頭の中がグルグルして、自分でもわけがわからないようなことを言い出してしまう時がある。
「魔法使いだと……」と柊の目がキラリと光る。柊はその手の単語を拾う天才だと思う。
柊と朴がオレの隣に座り色んな魔法使い風使いについて語りだす。柊と朴の熱弁に百合は楽しそうに笑っている。オレはちゃんと笑えているだろうか。オレも昔みたいに自然に笑って会話がしたい。いつからだろう人との距離が生まれてしまったのは……。
オレは柊たちの会話に耳を傾けながら目を閉じ、過去の記憶を辿る。
* * *
試合会場がある駅に到着する。オレたちが住む場所からは小旅行となった。考え事をしていたらいつの間にか寝てしまっていたようで気がついたら駅に着いていた。起きたばかりでまだ少し眠い……。大きなアクビをしながらフラフラと歩き出す。
「おい、大丈夫か?」と百合は寝ぼけてフラフラ歩くオレの腕を掴み支えてくれる。
「ありがとう~大丈夫だよ~」と小さくアクビをしながら答える。
「まったく、世話が焼ける奴だ」
百合はオレの腕を軽く掴み一緒に歩き始める。歩くスピードもオレに合わせてくれる。
そういえば他の奴らは……。オレと百合の遅い歩きに合わせて少し距離をあけて後ろから付いてくる。なんだかんだいってみんな優しい。このメンバーで部活がやれて本当に良かったと心から思う。一つワガママを言うならば、もう一人はどうしたら入ってくれるのかな……。
背中の方から生ぬるく温かい風が吹く。オレたちを後押し応援するかのように。鷲が風に乗って空高く飛んでいく。
* * *
試合会場に到着。会場は高いフェンスに囲まれた大きなグラウンドで簡易的な観客席も設置されている。オレたちは観客席より近くで見えるフェンスの前で観戦する。もうすでにいくつかの試合は終わっており今は小学生の部が行われている。小学生の部とはいったもののユニフォームという名のコスプレに近い格好をし動きは小学生とは思えないほど俊敏である。試合慣れし指示をしながら戦う姿に幼さはなく、ただただカッコイイ。オレたちは夢中になり無言で試合を観戦する。そのあともいつくかの試合を観戦し初心者から上級者までの戦いを見続ける。残りの試合はアンバトのチームが実際に存在する大学生と高校生のチームの試合のみとなった。
試合まではまだ時間があるので試合が始まるまで各々で自由な時間を過ごしている。柊と朴は会場で行われている武器を使ったパフォーマンスを観賞し菖蒲と柾は武器のサンプルを見に行き百合は飲み物を買いに行っている。
オレは目を閉じ自然の中の風と香りを楽しみながらみんなの帰りを待っている。今日はなんだか眠たくて仕方がない。この生暖かい風のせいだろうか。
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