第九話 アンバト部のカラー
一人で没頭するのもそれはそれで楽しいけれど
仲間がいて、仲間と一緒にナニカをするのも楽しい
静かな空間や自分だけの時間もいいけれど
賑やかな空間や誰かとの時間もそれはそれでいいもの
★葵
アンバト部の募集をし……オレを含めなんとか五名のメンバーが揃った。そして、おんぼろの使われていない運動部棟の二階の角部屋がアンバト部の部室となった。何年も使用されていない部屋だけあって部屋は荒れ果て埃まみれだ。そんな部屋を掃除するところから部活の活動は始まった。
「念願の~~~部室だ~~~」とオレは両手を挙げて喜ぶ。
ようやく五名の部員が揃い、部活動をスタートさせることができた。
メンバーはというと……。
一人目の部員はオレ、羽柴葵。担当武器は剣。部活を発足したオレが勿論部長だ。特技は剣で戦うこと舞うこと、そしてアクロバットな動きが得意。あと風よみ、言葉の先よみと呼吸をよむも得意である。オレは唯一の競技経験者でもある。ちなみに他のメンバーはほぼ初心者である。
二人目の部員は愛風朴。担当武器は銃。朴は元サッカー部で、オレが毎日ストーカーのように口説きに行き部員になってくれた。朴は名前のように素直な奴でいつも眩しいくらいの笑顔と声で周りを明るくする。ついでにいうと押しに弱い。本当に人がいい奴だ。朴は天然で風よみができる。天然のため風よみが意識せずできる才能の持ち主だ。というか風を自然に味方にする能力を持っている感じだ。
三人目の部員は音春菖蒲。担当武器は双剣。菖蒲はカルタ部と兼任で入部してくれた。人に頼まれたら基本は断らないという性格のようで快く入部を承諾してくれた。菖蒲は天使のようなフワフワした見た目とは違い芯が強く結構しっかりとした性格である。お菓子作りが得意でよくお菓子を作ってきてくれる女子力も持ち合わせている。菖蒲はカルタ部にいただけあって言葉の先よみや呼吸をよむのが得意である。また風よみとは違うが人の動きに敏感で瞬発力がある。
四人目の部員は透真柾。担当武器は槍。柾は元剣道部でポスター貼りをしていた時に話しかけてきた眼鏡優等生だ。オレが木刀を持って剣の舞をしていたのを見てアンバトに興味を持ったそうだ。柾は見た目も性格も真面目で優等生タイプ。思い込んだら真っ直ぐに進む性格のようだ。柾は剣道と薙刀の経験者なので他のメンバーに比べると技術や筋力など身につけている。
五人目の部員は響空柊。担当武器は手裏剣。柊は忍者に憧れを持って現役でなんとかいう手裏剣道場に通っている奴である。そして柊は手裏剣だけではなくアーチェリーも銃も扱うことができる。アーチェリーと銃に関しては子供の時に見た洋画の影響ではじめたらしい。正直、アーチェリーも銃も忍者と関係ない気がするが……まぁ人のことをあれこれいうのはやめておこう。銃はサバゲを趣味でやっているようで手裏剣とアーチェリーの公式試合経験はあるがアンバト競技のチーム戦に出場したことはないそうだ。が一応……経験者という感じである。
柊は忍者に憧れがあった影響なのか天然なのかはわからないが風よみができる。柊は長身の細マッチョで学校一のイケメンである……がそれは喋らなければの話である。性格はなんというか……静かで暗いという感じだろうか。良く言えば余計なことは喋らない……寡黙というのか。忍者系の話の時は子供のように純粋な目をして前のめりになって話すのだがそれ以外の話では常に目が死んでいるというかOFFの状態になり、武器を持たせるとON状態で別人になるという非常に面白い人物である。学年はみんな一年生。とりあえず和気藹々の楽しい部活になる気がする。
シュッ、ドスドス。
後ろから鈍い音が聞こえてくる。振り返ると、壁に手裏剣が刺さっていた。
「え……」
「ふふふ……いい壁だ……」
柊は怪しげな笑いをしてアンバトで使用する手裏剣ではない本物の手裏剣を構え壁に的として大の字になっている朴に向けて投げる。朴の人型を囲うように手裏剣が壁に刺さる。
「わ~すげぇ~かっこいいっす」と朴は目をキラキラさせている。
「ちょっ!!! さすがにそれはやめてくれ~」とオレは慌てて柊の手を掴む。
誰か止めてくれないのか……。
菖蒲は何事もないように部屋の様子を見回っており柾は柊の行動に驚き宇宙人でもみたかのような顔をして硬直している。
「ん? ここはアンバト部の部室なんだろ。手裏剣を投げ放題していいのだろう? 何が問題だ?」
柊は、自分は間違ってないという様子である。
「いや、普通に考えて学校の備品というか校舎を傷つけたら怒られる。せっかく作った部活を潰すようなことはやめてくれ~まだ初日なのに~」
コンコン。
部室のドアをノックし、百合が部室に入ってくる。
「お疲れ。俺が先生だったら……やばかったな」
「あ、百合君~。待っていたよ~」
「様子ぐらいみにはな」
「いいんだよ? 部活に入ってくれても?」
「遠慮しておく。それにしても部活として形になってよかったな」
「そうだね、なんとか形になったよ」
「おめでとう」と空拍手をする百合。
「星咲くん! あなたもこの部活の部員だと思っていました」と菖蒲が声をかけてくる。
「確かにな」とうんうんと頷く柾。
「俺は人数が足りなかったら入る予定で最初に会った時はなんとなく手伝いをしていたというか、そんな感じで……」と百合が苦笑いで返すと「へ~そうだったのですね」と菖蒲は少しトーンが下がっていく。柾も少し残念そうな顔をしている。
シュッ、ドスドス。シュッ、ドスドス。
また鈍い音が聞こえてくる。振り向くとまた壁に手裏剣が刺さっていた。柊は得意げな顔、朴は宝物を見つけた少年のような目をし手裏剣を投げている。
「おい……なんで増えてるんだよ~」
オレは慌てて柊と朴を止めに入る。
「なんか、賑やかだ」
「ですね」
百合は苦笑いをし、菖蒲は優しく微笑む。柾は止めようと手を伸ばすがどうしていいのか困っているのか動きが停止している。
「柾君~固まっていないで君も一緒に止めてくれよ~」と柾に声をかけると柾はハッとした顔をしてから咄嗟に木刀を持ち、柊と朴の後ろから木刀で首元を引き上げる。首を占められ苦しそうにバタバタする二人。
「柾君……えっと、そ、そこまでしなくてもいいような……」
「ん? 羽柴君が『息を止めろ』といったじゃないか」と柾は真顔で答える。
「ちょ、ちょっと待て。オレは『一緒に止めてくれ』とはいったけど、息を止めるようになんていっていないよ~」
「お、そうだったか……それはすまない」と柾は木刀を下ろす。
柊と朴は両膝と両腕をつきゴホゴホと咳き込む。二人の様子を見ると柾は本気で息の根を止めようとしていたようだ。
「なんか、アンバト部というより……お笑い部っていうのが合いそうな感じがするな。まぁ楽しそうでよかったよ。じゃあ、また」と言って百合は部室から出ていく。
小さな平穏の時間、安らぎの空気が去っていく。オレは百合がアンバト部に入ってくれると過信していた。なぜならいつも隣にいるのが当たり前になっていたから。試合に参加しなくても部活には参加してくれるだろうと思い込んでいた。
『腐れ縁なようなものだし付き合うよ』とかいってくれると……。
五人の部員が集まったことを百合に伝えた時の反応は意外なものだった。
「そうか、ちゃんと人数が集まったのか、おめでとう。これで羽柴がやりたかったことができるな。青春とやらを楽しんでくれ」
百合は一瞬寂しげな笑顔を見せ、すぐにニコと笑顔を見せる。百合のここまでの笑顔は初めてだった。心から喜んでくれたような気がした。いつもの百合なら鼻で笑って少し無愛想気味で『ああ、よかったな』くらいの会話なのに、なぜだろう今は今までで一番遠くに存在を感じる。今思えば勇気を持って百合を誘っていたらアンバト部に入ってくれただろう。
過去の記憶が蘇る……触れてはいけないものに触れた時の百合を思い出していた。あの時、百合はオレを拒絶していた。オレは目の前が真っ暗になって、拒絶されたことが本当に怖かった。オレにとっては何でもないただの会話のつもりが、相手にとっては触れてはいけないものだったりする。触れてはいけないものを察するなんてほぼ不可能であって、そのような状況になることは普通に生活していればよくあることだと思う。でも百合には拒絶させたくなくて、距離を置かれたくなくて……オレの本当の気持ちを言えないでいる。
ただ『一緒に部活やろう』それだけの言葉なのに伝えることができない。
いつものオレなら簡単に言えるはずなのに……百合との関係を壊したくない。その壁のようなものを飛び越えなければ本当の友達というものになれない気がする。でも今は……今のままの関係でいたいと心から思う。
「部長さん、これからどうしますか?」
いつの間にか椅子が円に並べられ、オレ以外のみんなは椅子に座っている。そして全員オレの顔を見てオレの指示を待っている。さっきのは……なんだったんだ? と思うくらい落ち着いた空気になっている。
オレがやることは先ず、この部活をどう活動させるかの方針を決めること。次にどうやって練習していくかということ。自分が望んだ場所ができたのだからその場所の未来を作っていこう。
「じゃあ、とりあえず今の目標は……アンバト競技に出場することを目標としたい! そのために、それぞれが担当する武器を使いこなせるように練習していくのが、今やることかな。練習方法は簡単なマニュアルを用意したので、今日のところはその資料を確認してもらう感じでどうだろうか」
みんなさっきとは違い静かに資料を読み出す。菖蒲と柾は真剣に資料を眺め、朴は少し難しい顔をして資料と睨めっこをし、柊は奇妙な笑顔を浮かべて嬉しそうに読みいっている。
和気藹々の……これは時間と努力が必要だろうから時間の流れに任せるとして折角集まってくれたこのメンバーに恥じないような部長としてこれから頑張っていこう。
廊下からカビと生乾きの衣類と汗のような混ざった匂いが入ってくる。窓からは木々と花の香りが入ってくる。空の色は暗くなった青空からだんだんと黄色からオレンジ色になっていく。まるで……人の色々な感情が入り混じったようなグラデーション。
オレたちはそれぞれの個々の香りや個性という色を持っているがそれが混ざり合うことで今までにない香りや色が作り出される。一人のさじ加減で変わるこの調整をオレが責任を持って良いものに調整していけたらと思う。個々を潰さず活かして更に向上させる。とても難しいことだが難しいと言って諦め立ち止まるくらいなら失敗してでもやるべきだ。何事もやってみないとわからない。精一杯やってみよう。
お読みいただきありがとうございました!
次回もよろしくお願い致します!




