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愛を知らない王子様と

作者: 調彩雨

※作中に暴力表現がございます。ご了承の上お読み下さい

 人間、誰かに向ける感情が、100%、なんて、ほぼあり得ないわけで。同じ相手に対する好きと嫌いがどちらもあって、好きと嫌いを左右に乗せた天秤がどちらに傾くかで、このひとは好き、このひとは嫌いと、レッテルを貼っているに過ぎない。あるいは、誰かに対する好きと、別の誰かに対する好きを比べて、どちらの方が好き、と思ったり。

 だからひとに好かれようとすると言うことは、出来るだけ、嫌いを貯めないようにしつつ、好きを積み上げて行く行為だ。

 けれど、もし、自分に向けられる、好き、の気持ちだけ、無限に大きく出来る力があったなら?

 結果がこれ、と言うわけだ。


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「エヴェデルマ、なぜそうきみは、オルガナに優しく出来ないんだ」

 役者を変え、何度、同じことを言われただろうか。

 まるで延々と、キュウリの薄切りをさせられているような。

 変わり映えのないやりとりに、良い加減はとうに過ぎている。うんざりだ。心の底から。ほとほとに。

 そもそもわたしが優しくしなくても、周りが十二分どころか二十分、いや、二百分くらいに優しくするのだから、必要なくないだろうか。

「どうして」

 時間は有限なのだから、わたしは有用に使いたい。

 見返りも将来性も期待出来ない奉仕なんて、やっている暇はないのだ。

「困っていない方へ手助けする必要が?」

 そんなものに使う時間があったら、手元の嘆願書を読み込み、対応を考えたい。その方が有意義だし、ほんとうに困っている方、困窮している方へと、手を差し伸べることになる。見返りも将来性もあるどころか、必要性しかないのだ。

「そうは見えないようですが、これでもわたくし、忙しいのです。邪魔をしないでください」

 突っぱねて、嘆願書に目を戻せば、会話の相手だけでなく、周り中から、非難の目を向けられる。否、視線だけでなく、聞こえよがしな批判すらそこかしこから聞こえた。

 黙殺しても、良いものだったが。

「これが、未来の国母なのか?嘆かわしい」

 さすがにそこまで言われて、黙っているのもよろしくない。

 ため息を吐いて、くだんのオルガナ・レンウィル嬢へと目を向ける。わざとらしく、肩を跳ねさせて見せるのがあざとい。

「では、ひとつ助言して差し上げますと」

 優しさだ。これは。

「レンウィル嬢、あなたは許されているのではなくて、見逃されているのだと言うことを、理解した方が良いですよ。目に余れば、個人相手とて国が動きます」

 だから、悠長に怯える演技をして見せていないで、己の行いを改めた方が良い、とまでは、言ってやる義理もないので言わないが。

「なにを、」

「それから」

 わたしの優しさが優しさに見えなかったらしく、反論しようとした声を遮り、ぐるりを睥睨する。

 貴族名鑑は、暗記させられている。顔を見れば、名前も家系も思い出せる。覚えた。

「わたくし、僭越ながら国より女公爵の地位を与えられております」

 首を傾げて、問い掛ける。

「この国はいったい、いつから目上の者へ許しなく話し掛けることが許されるようになったのでしょうか?公爵の地位は、そんなに安くないと、わたくしは記憶しているのですが」

 もちろん、むやみやたらと地位を振りかざし、交流を拒むことはない。だが、それはあくまで、上の者の厚意で大目に見られているのだと言うことを、忘れて良いわけではない。

 上の立場の者が一言、許さないと告げれば、簡単に状況は変わるのだ。

「あなた方がどんな考えかは知りませんし、理解するつもりもありません。ただ、わたくしは陛下より賜った女公爵の地位に、相応しくない行動を取るつもりも取った記憶もありませんから、泥を塗ろうとするなら許しはしない。それだけです」

 ここは図書室だ。静かに本を読む場所のはずで、だから嘆願書を読み込む邪魔もされまいと思って来たのだが。

 息を吐いて、荷物をまとめる。結局邪魔をされたし、このままでは純粋に読書や勉強のために来ている生徒の邪魔になる。

 いっそ、もう学校に来るのはやめようか。王命だから通っているし、授業からまるきり得るものがないわけではないが、正直時間がもったいない。

 時間は有限で、なのに考えることは、山ほど、

「エヴィ」

 鼓膜を揺らした声に、目を見開いて顔を上げる。息を吹き掛けたタンポポの綿毛のように割れた人混み。その、向こうから現れたのは。

「殿下」

 なぜここに。

 思考が顔に出ていたのか、歩み寄る殿下、王太子レンフレッドが言う。

「用事があってエヴィを探していた。移動しようとしていたのか。捕まえられて良かった」

 当たり前のように、殿下はわたしの荷物を抱えた。

「今、少し良いか」

 荷物を返して欲しいと言う間も与えず、殿下がわたしの手を取る。

「もちろんです」

「そうか。話の途中だったか?」

「いえ。邪魔されていただけなので」

 忌憚なく言えば、さすがにまずいと思ったのか、青褪めて反論を口にしようとして、

「それなら、ちょうど良かったか」

 けれど殿下が、そんな隙を与えるはずもなかった。

 わたしの手を引いて歩き出しながら、殿下は語る。

「教室だと邪魔されると言っていたから、一部屋エヴィ専用にさせた。授業免除も通したし、補佐官の同行許可も取った。食事も運ばせるから、今後は専用の部屋で過ごすと良い」

「まあ」

 普段は振るったりしない権力なのに。

「気を遣っていただいたようで、」

「いや」

 手元の荷物を一瞥して、殿下は首を振った。

「国にとって、それが有益であると言う判断のもとで、陛下から了承も得ている。気遣いではなく必要な処置だ。気にせず受け取ってくれ」

「では、ありがたく」

「ああ」

 殿下は頷き、廊下を歩む。

「与えられた部屋に案内する。許可された者しか入れないようになっているから、変な輩に絡まれることは無くなるはずだ。専属の護衛も付ける」

「ありがとうございます」

「うむ」

 あまり、感情の見えない方だが、決して気遣いや優しさのない方ではない。だから気遣いでないとは言っても、これはわたしへの気遣いなのだろう。

「後手に回って、すまなかった」

「そんなこと。殿下のせいではございませんから」

「だが」

 わたしが学校に通う気がなかったことを、殿下はわかっている。今でも許されるなら、通学をやめたいと思っていることも。

「王命ですもの。殿下がお決めになったことではないでしょう?」

「それは、しかし」

 政略結婚だ。愛などなくとも許されるが、それではいささか外聞が悪い。

 冷えきった関係を誤魔化す飾りに、学友として親しく過ごしていた、と言う物語は、都合が良かったのだろう。

 批判の対象を作ることで、王太子殿下の評判を落とさないようにすると言う目的もある、かもしれない。

 なんにせよ、命じたのも判断したのも国王だ。殿下ではない。

 微笑んで、首を振る。謝って貰うようなことはなにもないと。

「エヴィは、俺に甘過ぎるように思う」

「婚約者ですから、これくらい普通では?」

 政略結婚、すなわち、義務だ。愛ではなく、契約によるもの。愛する必要も愛し合う必要もないが、契約だからこそ、離れることは許されない。

 ならば、少しでも良好な関係を、と思うのは、当然ではないだろうか。

「殿下だって、わたくしには甘いと思いますよ。ならばお互い様でしょう」

「それこそ、婚約者として、王命であなたを縛っているのだ。不自由を強いている分、手を差し伸べるのは役目だろう」

 そうだ。殿下はあくまで、義務として、責任感で、わたしを気遣ってくれているだけ。それは、愛ではない。自惚れてはいけない。

 元々、自惚れるつもりもないが。

 息を吐く。

 この婚姻のために、公爵の養子となった。それでも弱いと、女公爵の地位まで与えられた。この国の、生粋の王族である殿下と違い、わたしの地位はすべてハリボテ。

 それもこれも国策として、わたしを手中に収めるためで。

 殿下は王太子として、そして、次代の国王として、国策に従っているに過ぎない。

 優しい方だから、わたしに不満をぶつけることは決してないが、果たして内心では、ハリボテの婚約者をどう思っているのか。

「不自由など、感じたことはありません。本来であれば望むべくもない地位と待遇を、頂いております」

「それすら、エヴィ、きみに与えられるべくして与えられているものだ。きみには受け取る権利がある」

 そうだろうか。

 わたしには、とてもそうは思えないけれど。

 これは枷であり、そして、重石だ。わたしが決して逃げ出さないようにと言う首輪であり、義務を忘れぬようにと与えられる重圧。

 だからこそ、わたしは与えられた分を、働きで返さねばならない。

「この部屋だ。気に入ると良いが」

 重厚な扉の部屋だ。わたしでは、ノブを掴むのも躊躇うような。

 殿下はなんてことなく、ノブを掴んで扉を押す。

 大国の王太子と言うハリボテでない地位と確かな血筋を持つ方にとっては、どんな高価なものも価値あるものも、生まれたときから当たり前に触れているものだ。

 本来なら住む世界が違うひと。

 ため息を押し込めて部屋へと足を踏み入れる。

「……?」

 扉の与える印象に反して、内は質素な部屋だった。

 窓やカーテンは見るからに高級だ。けれど、置かれた調度はむしろ、家具、と言いたくなるような素朴なものだった。素材はすべて木製で、丁寧に磨かれてはいるが、余分な装飾はない実用的なもの。床に敷かれているのも、絨毯ではなく薄いコルクボードだった。書棚に置かれた本こそ色とりどりだが、それ以外は、壁紙の白とカーテンの赤、あとは家具の茶色に、机の上に置かれた小さな花瓶が、彩りを与えているだけだ。そんな花瓶すら、生けられているのはどこでも摘めるような野花。

 ああけれど、不似合いに椅子だけは、高級そうなものが置かれている。

「その、気に入らない、だろうか」

「え、いえ」

 椅子と窓辺以外は、わたしの本来の身分に近いもの。この学校のどこよりも落ち着ける部屋だと思う。

 一部だけ高価なものが置かれているのは、まるで、虚飾で飾られたわたしのようで、皮肉さと親近感を覚える。

「椅子と窓だけ、チグハグで、おかしい、だろうか」

 殿下が部屋の奥へと進み、長時間座っても疲れなさそうな椅子をなでる。

「外から見える部分は権威を示すべきと、助言をされてこうなった。椅子は、きみが一日座っても、身体を痛めないようにと」

 その、口振りは、まるで。

「殿下が、内装と調度を?」

「ああ。少しでも、くつろいで過ごせるようにと。その」

 珍しく、殿下の顔に表情が乗る。気まずげに、泳ぐ視線。

「王宮や学校は、居心地が良くないようだから」

「申し訳ありません。育ちが、悪いもので」

「責めているわけではない。生まれ育って得たものは、大事にして欲しい」

 だが、王妃になるならそれでは。

「そんなエヴィだからこそ、多くの民はエヴィならと嘆願書を寄越すのだろう。それは、エヴィの長所だ。決して、短所ではない」

 机の小さな花瓶を持ち上げて、殿下が言う。

「エヴィに似合うと思って摘んだが、切り花では似合わないな。強く大地に根を張る花こそ、エヴィにはよく似合う」

 ほんとうはそんな、気など遣わずとも、お世辞など言わずとも、わたしにはどうせ、逃げる場所なんてないのに。

「わざわざ、摘んでくださったのですか?」

「エヴィの、元婚約者は」

 びく、と肩が揺れる。

「よく花を摘んで渡していたと聞いた」

 誰が、そんなことを。

「ずっと昔、幼い頃の話です。それに、もう、」

 死んだ人間の、話で。

 首を振る。

「誰からお聞きになったか知りませんが、殿下が気にされるようなお話ではありません。どうか、お忘れ下さい」

「俺から花など貰っても、嬉しくはないか?」

「そんなこと」

 花瓶に手を伸ばし、そっと触れた。

「嬉しいです。ありがとうございます。とても、きれい」

 本心だ。花など、貰うのはいつ振りか。ひとによっては素朴だとか地味だとか言って嫌うだろうが、わたしは好きな花だ。

 けれど。

「ですが、わたくしになど、そう、お気遣いいただく必要は」

「迷惑、か?」

「いいえ。とんでもないことです。ただ、わたくしなどが、殿下のお手を煩わせるの、は、」

 殿下の手が、頬に触れて、目を見開く。

 これが、王子様の手だろうかと思うほど、無骨な手だ。誰からも守られる王太子であるが故に振るうことのない剣の腕を、それでも騎士以上に磨き、それと同じくらい文官としての知識も付け実務も行うから、剣にペンに使い古された皮膚は硬く厚い。爪も厚く、手首は太く、まるで壮年の男のような手。未だ学生の殿下の歳で、こんな手になるには、どれほどの努力が必要か。

「迷惑でなければ受け取ってくれ。俺が、やりたくてやっていることだ」

 こんな、誰も見ていないところで、仲睦まじい振りなど、する必要はないのに。

「それが、殿下のお望みであれば」

「……ああ。ありがとう」

 無骨な手が、ぎこちなく、頬をなでる。

「エヴィ。きみは、俺の、大切な、婚約者だ。それを、忘れないでくれ」

 実直で、優しい方。わたしには、もったいない方。

 負い目など、感じる必要はないのに。

「ありがとうございます、殿下」

 頬に触れる手はそのままに、わたしはにこりと微笑んだ。


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 かつて、黄金の都と称された、ちいさな島国があった。

 ほとんどの主要な大陸からは遠く離れた場所に位置し、唯一近しい大陸とのあいだも、複雑な海流の渦巻く海に隔てられたその島国は、海に守られ、外敵に脅かされることなく、伸びやかに独自の文化を保って繁栄していた。

 だが、技術の発展は残酷で。

 敵を知らない島国がのんびりと暮らしているあいだに、争いに明け暮れるよその国々は新たな技術を、新たな領土を、貪欲に求め続け。

 驚異的な発展を遂げた航海技術と軍事技術は、ついに海に守られた島国を、攻め落とす力となった。

 外敵に脅かされた経験のない島国は、突如襲来した見たこともない技術に、太刀打ちする術を持たず。

 このままでは、国も、民も、守れない。

 鬼畜のような南蛮の国に、くれてやるくらいなら。

 島国は、唯一細く国交を結んでいた、いちばん近い大陸の、海を挟んだ隣国に恭順を示し、民を庇護して欲しいと願った。

 航海や軍事の技術は、前時代的だったが。島国の持つ文化と手工業の技術には、発展した大陸の国々でも目を見張るものがあり。

 この技術が、文化が、侵略者に踏み躙られ、失われるのは惜しい。

 助けを求められた隣国は、島国の民を自国に受け入れることを了承した。

 そうして、ひとつの島国が消え、民を失った島は、侵略者により蹂躙された。

 美しかった黄金の都も、今は昔。荒れ果てた地にかつての栄光は見る影もなく。けれどそうして手に入れた土地は、恐ろしい猛獣や凶暴な毒虫が猛威を振るい、山は火を噴き、地は揺れる、地獄のような土地で。荒らすだけ荒らし、資源を奪い尽くして、それで、侵略者は島国だった土地を放棄したらしい。

 対して、逃げた民と、それを受け入れた隣国はと言えば。

 住処として与えられた土地を新たな故郷とすべく、そして、自分たちを救ってくれた隣国の恩に報いるべく、移り住んだ島国の民は努力を重ね、なにもなかった土地を驚くべき速度で発展させた。隣国の民との交流も進め、互いの文化技術を学び、さらなる発展を遂げて。

 たった数年で出来上がった新たな都市は、地上の楽園、桃源郷と呼ばれ、そこで生まれる技術とモノは、隣国の繁栄に大いに貢献していると言う。

 奪うか、救うかで、こんなにも末路は変わる、と言う話。


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 そして、エヴェデルマ・ロアと言う少女は。

 かつて黄金の都であった島国。その国で、千年の永きに渡り、皇で在り続けた一族。国を棄てても民を守る決断を下し、今となっては皇ではなくなったその一族、直系の血を引く娘だ。

 世が世なら次なる皇として下にも置かぬ扱いを受けていたであろう彼女だが、国のなくなった今となっては単なる平民のひとり。共に亡命した民と手を取り合い、助け合って生きようと、していた。

 だが、亡命した先の国は、彼女にそれを許さなかった。

 未来の国母として、王太子の婚約者となれ。

 与えられた、王命。そのために、愛する民から引き離され、見知らぬ男の義娘とされ、望まぬ爵位を与えられ。

 それが、民を救って貰った対価だと言うのならば。

 エヴェデルマは、与えられた命を、役目を、甘んじて受け入れた。


   ё  ё  ё  ё  ё  ё


「綺麗な、姫君ですね」

 命からがら、逃げ出して来た者たちだ。前時代的な手漕ぎの帆船で、歴戦の航海士でも渡るのを躊躇う海域を、命懸けで越えて来た者たち。

 身なりは決して整っているとは言い難いし、顔にも身体にも、明らかな疲弊が見えた。

 けれど、その目は決して運命を悲観していなくて。その顔には、笑みすら浮かんでいて。

 楽観的な民族だと、流してしまえばそれだけの話。

 事実、彼らは油断しきって、他国の動向を知ることを怠ったから、国を守れず亡命する羽目になった。

 けれど。

 違う、と感じた。彼らが笑えるのは、希望をなくさないのは、楽観主義だけではない理由があると。

「みんなのお陰で、無事、大陸にたどり着けたわ!まだまだ終わってないわよ!神の加護は、変わらず我らの頭上に!」

 小さな、幼いと言って良い少女が、そう言って大人たちを鼓舞している。誰より輝く笑みで、華奢な腕を振り上げて。

『応!』

 そうして鼓舞された大人たちは、同じように瞳を輝かせて笑うのだ。その、小さな少女が、眩しくて仕方ないと言いたげに。

「子供たちもみんな無事?よく頑張ったわね!もうひと頑張り、やってやるわよ!!」

『おう!』

 子供の身体には、あまりに過酷な旅路だっただろう。だと言うのに、誰ひとり、べそをかく子供はいない。

「我らの未来に光あり!ヨーソロー!進もう!どこまでも!!」

 ああ。

 あの子が、希望で、光なのか。彼らにとって。

 決して綺麗な身なりではない。むしろ、すすけて、擦り切れた服を着て、髪も肌も汚れている。

 けれど、その姿が、今まで見たなかでいちばん、美しく尊く感じた。

「とても、綺麗だ」

 口を突いた言葉は、隣に立つ父を驚かせたようだった。

「そうか」

 大人も子供も女も男も関係なく、協力し合って船から荷を下ろすひとびとを見下ろし、父は言う。

「あの姫は、特別な力を持つと言う。他国に、渡すわけには行かない」

 強い力で肩を掴まれて振り向けば、父の目がこちらを見下ろしていた。

「お前が受け入れるなら、お前の妃とするために、すべてを調えよう。あの姫の、楔となれ。出来るか?」

 父の顔は、真剣だった。

 自分の答えが、自分の、彼女の、そして、国の未来すら、左右する。

「やります」

 それでも気付けば、そう答えていた。

「やって見せます。必ず」

「そうか」

 頷く父は、どこか嬉しそうに見えた。

「ならば、励め」


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 邪魔をされない生活と言うのは、良いものだった。

 数人の護衛に囲まれるのは威圧感があるが、その威圧感のお陰で絡まれずに済むのだから我慢すべきだろう。

 背の高い護衛のお陰で、刺すような視線も遮られる。

「あの」

 補佐官も、新たに付けられた。全部で五人、交代で四人ずつが付いてくれている。

「どうかしましたか?」

 控え目に声を掛けて来た補佐官のひとりに、首を傾げて問う。護衛も補佐官も、付けられたのは全員女性だった。間違いがあってはいけないと言う、国王の指示だろうか。

「いつも、この量の嘆願書が、ダリエスト嬢宛に?」

 慣れない呼び方だ。経歴を知る者の多くが、わたしをダリエストとは呼ばないから。

 それは、気遣いであることもあれば、おまえなど公爵家の人間とは認めないと言う、反発心からのこともある。

「常に同じ量と言うわけではありませんが、今日は特別多かったり少なかったりするわけではないですね」

「今日、は、と言うことは、毎日?この量が?」

「いえ、各地で提出されたものを集約した上で、週に一度まとめて届くので、毎日では」

「週に一度……」

 どうかしたのだろうか。

「次の嘆願書が届く前に、処理を?」

「そうですね。とは言えわたくしに出来るのは、関係部署に繋ぐことだけですので、処理出来たと言えるかは微妙なところですが」

「いや……」

 四人の補佐官が目を見合わせて、ひとりが代表して言う。

「そうだとしても、おひとりで処理する量ではありませんよ。王城には嘆願書を裁く専門の部署がありますが、役人は十数人所属しています。それも、地方に届くものは、地方の役所で厳選されるので、実際に届く数は総量の一割ほど。その分、役人からの嘆願も加わりはしますが、一週間に処理している量は、ここにある量と同程度かと」

「そう、なのですね?」

 それだけ、地方で捌ける案件が多いと言うことか。それとも、もしや。

「数の話ではありません、いえ、数の話ではあるのですが、そうではなくて。良いですか?同じ量を、専門の役人が、十数人で捌いているのです。それを、まだ学生のダリエスト嬢が、おひとりで裁くという状況が、異常だと言っているのです」

 そうは言われても。

「わたくしにと、嘆願されて来ているので。それに、今までずっと、そうして来ています」

「今まで、とは、いつから?」

 いつから?

「ええと、殿下の婚約者として、発表されてしばらくしてから、ですね。数は今よりずっと少なかったですが」

「婚約発表?つまり、十二歳から?補佐もなく?」

「いえ、わたくしだけで解決出来るお話ではなかったので、相談はさせていただいていました」

 王太子の婚約者とは言え、なんの権力も後ろ盾も持たない子供なのだ。嘆願されても解決するすべなど持ちはしない。

「それで、嘆願が減ることなく増えたと言うことは、嘆願に応えて下さる方だと、民に知られたと言うこと。国より、十二歳の子供に、頼った方が有益だと」

 いちばん年嵩の補佐官が額を押さえる。

「結局、解決したのは国ですよ。わたくしは、しかるべきところに話を回しただけです」

「王城の嘆願処理担当だって作業は同じですよ。彼らは仕分けて回すだけ」

 それなら。

「地方での処理に、問題があるのかもしれませんね」

「地方、に?」

 わたしと国で、違いがあるとすればそこだ。

「わたくし宛の嘆願は」

 役所を通らない。

「各地にある、リノセルマ運輸商会の支部に届くのです。そこからリノセルマの運輸網を経由して王都の支部に集約され、わたくしまで運ばれます。ですから、途中で検閲を通していません。刃物や火薬、毒等の危険物が仕込まれている場合は別ですが、それ以外の理由で破棄されることもありません。わたくし宛の嘆願書のすべてが、途中で握りつぶされることなく、わたくしに届きます」

 補佐官の顔色が変わった。

「つまり」

 嘆願書の詰められた箱を見て、言う。

「各地で、本来国に届けられるべき嘆願書が、握り潰されている可能性がある、と?」

「リノセルマ運輸商会は、未だ発展途上の商会です。年に数件は毎年支店を増やしています。が」

 嘆願書に紛れて提出された報告書の内容を思い返す。

「嫌がらせや妨害が多発するために、撤退を余儀なくされた支店や、領主の許可が下りず、出店を諦めた支店がいくつかあります」

「それは」

「そう言った地域の方から、わざわざ遠い別の地域の支店に訪れてまで、嘆願書が提出されることも、あります」

 この国は広大だ。いくら、賢王が国を治めようとも、すべてに目を行き届かせることは、とても出来ない。

「先日、ランゲル州の役人が、大規模粛清されましたね」

「嘆願書が、届いたので」

 多くの人命に、関わる内容だった。

「火急の件として、国王陛下に奏上しました」

「それは」

 困った顔。

「大袈裟な護衛も付きますよ……。知っていますか?補佐官である私たちも、常時護衛を付けるように指示が出ています」

「わたくしのせい、ですか?」

「そうですね。ですが、悪い話ではありません。それだけダリエスト嬢が、重要な方で、影響力があると言うこと。そして」

 しっかりとわたしと目を合わせて、年嵩の補佐官は言う。

「この国で、そこまで影響力のある仕事を、女性がさせて貰えることはまずありません。私たちがこれまでやって来たのは、男性役人の雑用ばかり。この国で、女性の地位は低いのです。ですが」

 年嵩の補佐官の手が、わたしの手を包む。使い込まれた、皮膚の硬い手だった。

「ここでならば、ダリエスト嬢の補佐として、私たちでも国を動かせます。私たちにとってそれは、紛れもなく、望んでいた立場です」

 ありがとうございますと、年嵩の補佐官は頭を下げ、それに追従するように、ほかの補佐官たちも、頭を下げた。

 わたしの手柄では、少しもないのに。

「あなた方の、人事を決めたのはわたくしでは」

「それでも感謝させて下さい。あなたは、この国の女性の希望です」

 希望。国も守れず故郷を手放して、おめおめと他国の庇護で生きている皇族の、わたしが、希望。

 なんて皮肉だろうか。

 なんて、笑えない話だろうか。

 ああそれでも、それでも、わたしは。

「国と共に滅びるはずだったわたくしたちは、みなさまに救われました」

 片手を包む手に、もう片手を重ねて、わたしは微笑む。

「その恩義に報いられるならば、なによりの幸いです」


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 たとえ、小さな部屋に引きこもり、そこ以外では護衛に囲まれ、自分に優しい人間以外との関わりを避けようとも。

 貴族と言う地位にある以上、逃れられない付き合いはある。

 国王主催の舞踏会。仮にも王太子の婚約者が、欠席するわけには行かない。

 通常であれば婚約者として、殿下が常に付き添ってくれている。しかし、今回は複数の国からの賓客がいて、王妃様方も含めた王族の方々は、その付き添いに出払っている。

 女公爵の地位を得て、王太子婚約者となろうとも、わたしは元他国の人間。外交の駒には相応しくないと他国の接待からは外され、与えられた役目は国王のパートナーだ。

「前々から思っていたが」

 わたしに腕を差し出しながら、国王は言う。

「飾ると映えるな、姫君は」

 揶揄か皮肉か、国王はわたしを姫君と呼ぶ。もう、姫などではないのに。

「陛下を飾る装飾のひとつとして、不足がないならなによりです」

「装飾としても良いものではあるが、それに留めるつもりはないぞ。私の隣にいることで、なにくれと言って来る者がいるだろうが、いつも通りで構わない。良いようにあしらえ」

 差し出された腕に手を添えて、わたしは頷いた。

「仰せのままに。我らが王」


   ё  ё  ё  ё  ё  ё


 国王の言う通り、国王へと挨拶に訪れる方の多くが、ついでとばかりにわたしへ話し掛けて来た。

 微笑みを浮かべて、会話に応じる。

「小麦の価格が……」

「漁獲の落ちが……」

「山賊被害が……」

「流行の布地が……」

 ひとによって、話す内容はてんでバラバラだ。求める答えも、もちろん異なる。それどころか、一見同じことを問うていても、返すべき答えは異なることすらあるのだから、困りものだ。

 ひとつひとつに耳を傾け、瞬時に頭の中の知識を検索し、相応しい答えを弾き出して答える。

 やっていることは嘆願書の処理と変わらないが、対面で話している分、速度が求められるので、大変さは段違いだ。

 それでも、国王の隣に立っている以上、失敗は許されない。わたしの失敗が、国王の瑕疵にされかねないからだ。

 もちろん、見かねれば、国王も助け舟を出してくれはするだろうが。

「いや、噂に聞いてはいたが、まるで知恵の泉のようですな。実を言えば、こんな娘のような歳の子に、と言う気持ちもあったのですが、噂を信じて話してみてよかった。ありがとうございます」

 この方、騎馬民族との国境を守る辺境伯閣下にも、無事正解の答えを返せたようだ。

「お役に立てたならなによりです」

「いやはや、陛下も良き方を見付けたものです。かような才女が次期王妃とは、我が国の未来も明るいでしょうな」

「うはははは」

 にこやかな会話に、割って入る無粋な嘲笑。

「さすが、女狐は懐に入るのが巧い。この国でも、まんまと男を手玉に取っているとは」

 悪意しか感じられない言葉だった。

 声の方へ顔を向ければ、国賓として来ている、他国の王子だった。王子と言ってももう良い歳で、でっぷり太った身体を揺らして歩み寄って来る。

 付き添いをしていたのだろう、側妃のひとりが、唖然とした顔になっていた。

 当然だろう。この言葉は、わたしだけでなくこの国のことさえ侮辱している。国王主催の舞踏会で、そんな発言、まともな神経をしていれば出来ない。

 手にした扇を広げて、口許を隠す。

「その女狐に、良いように転がされた駄犬がよく吠える」

 悪口には聡いらしいその耳は、小さく呟いた言葉を正確に拾ったようだ。

「貴様……っ」

 面と向かって話す気はない。なぜなら国王は、わたしに駄犬を紹介していない。つまり、わたしが相手すべき客ではないのだ。

「自分がおめおめと転がされたから、他人もそうだと思い込むなんて、愚かだこと。狐は祟りもするけれど、正しく祀れば五穀豊穣や繁栄を司る神使となり、利益をもたらすと言うのに」

 視線を下げ、扇の裏で話すのは、独り言だからだ。

「ほう」

 そんな独り言を、闖入者に不快を見せていた辺境伯が拾う。

「面白い話ですな。同じものが、善にも悪にもなると?」

「ええ。たとえ悪鬼羅刹であろうとも、真摯に奉じて祀り上げれば、守り神になる。そして、どんなに偉大で寛大な神であっても、正しく扱わなければ恐ろしい罰を与える祟り神となると言うのが、故郷の考え方でして」

 扇を畳み、国王と辺境伯に、笑顔を向ける。

「細い縁を頼りに助けを求めた我々を、丁重に迎え入れ救って下さった皆々様に、我らが仇為すことはありません。そのことは、この地に受け入れられてからの我らの行いが、証明しているかと思います」

「ああ、おっしゃる通りですな。あなた方が来てから我が国は益々の繁栄を遂げた。なるほど、狐のご利益でしたか」

 巧く、取り成せただろうか。

「我が国を、愚弄するか!!」

 先に暴言を吐き、恥を晒したのは自分だと言うのに、よくもまあ。

「メイリア」

 国王が青褪めた側妃の名を呼ぶ。

「彼はどうも、お疲れのようだ。休憩室に案内して差し上げると良い。誰か、メイリアの手伝いを」

「なにを、」

「姫君」

 国王が、わたしを見下ろす。

「彼がゆっくり休めるよう、癒しの術を」

「かしこまりました」

 騎士に抑え込まれた駄犬の胸を指さす。触りたくはないので、指差すだけだ。

 糸が切れたように、駄犬は静かになった。そのまま騎士に連れられて、広間から運び出される。

「今の、は」

「姫君は多才でな。ああして、乱心した者を落ち着かせることが出来るのだ」

 実際はそんな生優しいものではないのに、国王はなんてことのない顔で言う。

「それは、また」

 言葉に迷ったらしい辺境伯に代わって、声を上げたのは、性懲りも無く湧いて出た闖入者。

「いまの、なんですか!?なにか、怪しい術を……怖い!!」

 国王の命令でやったことにその反応は、下手したら不敬罪になりかねないと思うが。

「辺境伯閣下」

 新たな闖入者に眉をひそめた辺境伯に、小声で言う。

「わたくしは、この国に決して仇為しません。それを、信じて頂けるなら、どうかわたくしの後ろに。彼女は危険です」

「どう言う、意味です?」

「見て下さい」

 国王への批判とも取られかねない言葉だ。本来なら、辺境伯のように顰蹙するのが普通で、間違っても、肯定したりはしないもの。だと言うのに、彼女の周りの人間たちは、我先にと賛同の声を上げ、わたしに非難の目を向けている。

「これ、は」

「彼女は、他人の心を操ります。好意を増幅させ、意のままに動かすのです」

「精神干渉魔術、か。実在したのだな」

 さすが、辺境伯だけあって、知識が豊富なようだ。頷いて、続ける。

「わたくしは、精神干渉魔術を弾くことが出来るのです。ですから、操られないためにも、わたくしの後ろへ」

「わかりました。あなたのような女性を、盾にするようで申し訳ありません」

「いいえ」

 首を振る。

「わたくしが、王太子殿下の婚約者をしているのは、こうして盾となるためですから」

 現に国王は当たり前のように、わたしの後ろへ回っている。

「あんな恐ろしい術を使う方が王太子殿下の婚約者なんて、そんな」

 まるで、悲劇の主役のように、嘆いて見せる女。オルガナ・レンウィル。伯爵家の娘だ。

 やたらとわたしを目の敵にしているが、まさか、王太子妃に成り代わろうと思っているのだろうか。確かに伯爵家の娘が王妃になった例はあるが、それは伯爵家のなかでも序列が上の家で、公爵家や侯爵家の出身の母親を持つからなのに。

 彼女の家は伯爵家としては下の下で、正妃はもちろんのこと、側妃になることすら、到底無理な家だ。

 稀な力を持つから、勘違いしてしまったのだろうか。

 わたしはちゃんと、忠告をしたのに。

「なんの騒ぎだ」

 愚かな女に操られ、にわかに騒がしくなった広間。

 そんななかでもよく通る、生粋の統治者の声。

 オルガナ・レンウィルの顔が、獲物を見付けた鬼女のように歪んだ。

「レフィー殿下!」

 歪んだ顔に、直ちに悲劇の主役の仮面を被り、オルガナ・レンウィルは殿下へと駆け寄った。

 さして話したこともないくせに愛称呼びとは、面の皮を剥いで厚さを計りたいくらい、厚顔な女だ。

「ダリエスト公爵令嬢が、怪しげな術を!わたし、恐ろしくて、恐ろしくて……っ」

 国王主催の舞踏会であっても、王族である殿下は帯剣を許されている。

 自分に縋ろうとした女を、殿下は躊躇いもなく、鞘ごと抜いた剣で払った。

「触るな」

「……え」

 腕ではなく、身体ごと払ったのは優しさだろう。殿下が本気で腕を払ったら、鍛えてもいない女の腕の骨など木っ端微塵に砕ける。殿下にしては遅い振りで、押し除けただけだ。だから、どこの骨も砕けず転ぶだけで済んでいる。

 だが、そんな慈悲も理解出来ないくらい、オルガナ・レンウィルは混乱しているようだった。

 立ち上がることもせず、ぽかんと、殿下を見上げている。

「触ることも許していなければ、名を呼ぶことも許していない。まして愛称で呼ばれるなど、なんのつもりだ。気色悪い」

 真剣に嫌だったらしく、殿下の言葉の切れ味が鋭い。

 他国の来賓もいるので、もう少し、歯に衣着せて欲しかったものだが。

「エヴィですら愛称で呼んでくれたことはないのに、なんで見ず知らずの女から呼ばれなければならない。おぞましい。意味がわからない」

 そろそろ止めた方が良いかもしれない。

「陛下」

「ああ。処置を許す。いつも通りに」

 頷いて、歩き出す。広間の真ん中、悲劇か喜劇かわからないが、繰り広げられる茶番の、舞台へと。

「な、ど、どうして」

 オルガナ・レンウィル。

 彼女がもっと、不美人であったなら。ここまで勘違いが加速することは、なくて済んだのかもしれない。

 だが、彼女は不幸にも、顔を見た者は誰でも好感を抱くような、愛らしい顔立ちをしていて。

 だから、勘違いをしてしまったのだ。

 自分の力が、誰からも溺愛される能力だと。

「どうしてと問いたいのは、俺の方、」

「殿下」

 実際は、無から有など生み出せない、単なる増幅でしかない力なのだが。

「少々お口が過ぎるようです」

 静かに、と伸ばした指を殿下の唇に当てる。

 目を見開いた殿下が、口を閉ざした。

 頷いて、オルガナ・レンウィルへと向き直る。

「忠告を聞いてくれれば、こんな恥はかかずに済んだかもしれないのに」

「嫌われ者が、なにを」

「古今東西変わることなく、悪党に嫌われる役目があります。お役目なれば、嫌われようと痛痒はありません」

 息を吐き、前へと手を伸ばす。

 床から現れた杖を手に取り、くるりと回して、ドン、と床を打つ。シャン、と杖の装飾が涼やかな音を立てた。

「断罪者、ヴァルエラ公が断じます。能力者オルガナ・レンウィルの能力は毒であり、オルガナ・レンウィルが能力を用いて為した行いは罪である。故にヴァルエラ公は、オルガナ・レンウィルを能力剥奪の刑に処す」

「断罪者?能力、剥奪?なにを、言って、」

「陛下が見逃してくれているうちに、行いを改めれば、剥奪まではせずに済んだのに」

 杖を持ち上げ、もういちど、床と装飾を鳴らす。

 人生なんて、こんなにも呆気なく狂ってしまう。

「増幅の力を亡くして。恨みを持たれて。そんな状況で生きるのは、辛いでしょうね」

「どう言うこと?なにを、言っているの??」

 杖を消して、オルガナ・レンウィルに歩み寄、

「殿下?」

「ソレは、犯罪者だろう。危ないから近付いてはいけない。そこの騎士、早く罪人の拘束を」

「いえ、断罪はもう」

「能力者としての断罪は済んだが、余罪がないとは限らない」

 それはそうだが。

「話したいならこの距離から」

「それが殿下のお望みならば」

 出来れば彼女のためにも殿下のためにも、周りに聞かれたくはなかったが。

「あなたの持っていた能力は、好意の増幅。他人があなたに抱いた好意を、無限に増やす能力です。少しの好感もあなたの能力を通せば、信仰に近い好意になります。だから誰もがあなたを愛し、あなたのために動き、あなたの言うことを聞く」

「でも、あんたはそうじゃなかったじゃない」

「わたくしの場合は、そう言う能力を持っているからです。どんな能力もわたくしには効きません」

 だから、王妃に相応しいと判じられたのだ。暗殺や洗脳の的になりかねない王妃が、能力者からの攻撃を防ぐ力を持つのは、都合が良いと。

「じゃあ、殿下に効かなかったのも」

「それは違います」

 そう。違うのだ。

 ほかの能力であれば、もちろん弾いていただろうが、彼女の能力に関しては、弾く必要がなかった。

 彼女の能力が、好意の付与ではなく増幅だったからだ。

「あなたの能力は増幅。どんなに小さな好意であろうと、無限に増幅すれば大きな好意になる。けれど、好意が完全に無であったなら、どんなに頑張っても、増幅は出来ないのですよ」

 零にどれだけ大きな数をかけようとも、零は零のままなのだ。

「少しの、好意も、なかった?」

「ええ。だからあなたの能力が作用しても、なにも起こりませんでした」

「でも、レフィー殿下は、」

 未だ、愛称で呼ぶのか。

 なにか、彼女なりの根拠が、あったのだろうか。けれど。

「殿下は生粋の王族です。王族として、たとえ好意がなくとも、国民には丁寧に対応します。だから、勘違いしてしまったのですね」

 哀れだがそれが事実だ。

「なら、あんただって一緒じゃない!あんただって、愛されてなんか、」

 ガッ

「黙れ」

 もう意識がないので、喋れはしませんよ。

 オルガナ・レンウィルに気を取られて、殿下の動向をきちんと見ていなかったことを心から反省する。

 剣の鞘でオルガナ・レンウィルの頭をぶん殴った殿下に視線を向けられて、騎士がびくりと肩を揺らす。

「連れて行け」

「はっ!」

 勢いよくオルガナ・レンウィルを抱え上げて、騎士が駆け去る。

「エヴィ」

「大丈夫です、殿下。あんな言葉、響きはしません」

 最初から、わかっている。理解している。期待などしていない。

 だって、王太子殿下は。わたしの婚約者は。

「負け犬の遠吠えです。あんなもの」

 自惚れられる、わけがない。だって。

 愛を知らない王子様なのだ、殿下は。


   ё  ё  ё  ё  ё  ё


 神風は吹かない。

 そう告げられて、目の前が真っ暗になった心地がした。

「なぜ、ですか?もう、我らのことは見捨てると?」

 そうではない。

「それなら、なぜ?」

 いま、神風を吹かせて、それで助かったとしても、更なる脅威に呑まれる。

 今ですら、なす術もない脅威に襲われているのに、これ以上の脅威がある、と言うのか。

「そんな……それでは、どうすれば」

 愛を知らない王子様に。

「愛を知らない王子様?」

 そう。愛を知らない王子様に嫁ぎなさい。

「わたしが?でも、わたしにはもう、婚約者が」

 あれは近々死ぬ。お前は民を連れて国を棄て、その先で、愛を知らない王子様に嫁ぎなさい。

 婚約者の死を、こんなついでみたいにあっさり教えられるとは。

「国を棄てれば、あなたはどうなるのですか?いままで千年、守って頂いた恩がありながら、あなたを棄てて行けと?」

 大丈夫。ついて行く。お前に。お前を、逃しはしないよ。

「みなみなさまも?」

 そう。みんな。ちゃんと、ついて行く。

「それで、民は、守れますか?」

 お前が、愛を知らない王子様に嫁ぐなら。

「その王子様が、わたしを選ぶとは」

 大丈夫。選ばれるよ。

 そうなのか。それならば、わたしは民を連れて逃げれば良いのか。

「わかりました。ご助言に、感謝します」

 愛を知らない王子様。そんな相手に嫁いで、幸せになれるとは思わない。けれど、それで民が守れるならば、迷うことはない。


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「エヴィは」

 国王から、殿下と共に下がるよう指示を受けた。

 当事者がいない方が、場を収めやすいと言う判断だろう。

 殿下も頷いてわたしの手を取り、手を引かれ連れられたのは殿下の私室。

「俺がエヴィを愛していないと思っているのか」

「それは」

 かのお方の言葉通り、民は無事で、わたしは王子様の婚約者に選ばれた。ならば殿下こそが、愛を知らない王子様であるはず。そうでなければ、困る。

 実際、国王からも、殿下の実母である正妃からも、殿下は感情に乏しい方だと、生まれついてのものだから受け入れて欲しいと、伝えられている。

「確かに俺は、誰かを好きだとか嫌いだとか思うことがない。民は大切にすべきと思うが、では愛しているかと問われれば、愛してなどいないのだろう」

 感情について、殿下自身から聞いたのは、思えば初めてのことだった。

 ほんとうに、彼は、愛を知らない王子様だったのか。

 優しく、真面目な、王子様なのに。誰よりも、民のために努力を重ねる方なのに。

 神様。それはあまりにも、酷いのではありませんか。

 それとも、愛など知らない方が、善い王になるとでも?

「エヴィ」

 自分の思考に沈みかけたわたしを、殿下が引き戻す。

「だが、俺は、きみまでそうだと言った覚えはない」

「そ、れは、どう言った、意味です、か……?」

 民を愛してはいない。けれど、わたしは違う?

 目を見開いたわたしの頬に、殿下の無骨な手が触れる。

「きみのことは、好きだとか、嫌いだとか、感じる。きみには、感情が動く」

「そんな」

「普通の人間よりは、わずかな変化なのだろうがな」

 だからきみも、気付かなかったのだろうと、殿下は自嘲の笑みを浮かべる。

「嘘だと思うか?思うなら、さきの罪人から剥奪した能力。あれを、俺に使ってみると良い。陛下の許可は取ってある」

「それは」

「俺がきみを愛していないなら、なんの問題もないだろう」

 そうだ。殿下は、愛を知らない王子様で、だから、わたしを、愛してなんて。

 でも、それで、効いてしまったら?

 自惚れるつもりはない。だって、彼は愛を知らない王子様だ。

 けれど、ほんの少しだとしても、彼がわたしに好意を持つなら。

 オルガナ・レンウィルの能力は、芥子粒のような好意すら、信仰に近いほどの愛情まで増幅させてしまう力だ。

「きみは優しいから」

 震えるわたしに殿下は言う。

「愛を知らない俺を、哀れに思っただろう?なら、きみが教えてくれないか。俺に、人並みの、愛を」

 思った。こんなにも、他人のために身を粉にする王子様が、誰かを愛する喜びを知れないなんて、あんまりだと。

 でも、だって、わたしは、愛を知らない王子様に、嫁がなければならないのに。

 ああけれどでも、わたしは彼に恩義を感じていて。恩を仇で返すなんて、わたしには。

 頬に触れる手に、手を重ねた。

 わたしを見つめる瞳が、とろりと、溶ける。

「ああ、そうか」

 表情を乗せることの少ない唇が、笑みを作る。

「愛とは、愛しいとは、こんな気持ち、なのか。そうか」

 使い込まれて皮膚の硬い指先が、わたしの唇をなぞった。

「ひとを愛するとは、こんなにも、幸せな心地なのだな。それを、教えてくれたのが、エヴィで嬉しい。ありがとう、愛している、エヴィ」

 口よりも雄弁な瞳が、溺れるほどの愛を告げ、そして、問うて来る。心のままに、動いて良いかと。

 判断を委ねられて、能力を使うことを決めたのはわたしだ。ならば、その責は、わたしが負うべきだ。

 強張るまぶたを動かして、目を閉じる。

 闇に閉ざされた視界の向こうで、使い込まれた指とは違う、温かくて柔らかなものが、唇に触れた。


   ё  ё  ё  ё  ё  ё


 殿下は、愛を知らない王子様では、なかったのだろうか。

 わたしは、間違った相手に、嫁ごうとしている?

 大丈夫。合っているよ。

「でも、殿下は」

 わたしを、愛していると。

 お前が未来を変えたからだよ。

「未来を、変えた?」

 アレは、愛を知らないままだと、世界にいて侵略を繰り返す、戦狂いになる。お前がアレに愛を教えたから、その未来が避けられた。

 ああ、だから、あのとき。

「もし、神風で国を守ったとしても、隣国に度々戦を仕掛けられては、いずれ滅びることになっていた、と言うことですね」

 そうなれば、どれほどの民が犠牲になったか知れない。

 そう。だから、お前に未来を変えさせた。

「では、わたしはこのまま、殿下に嫁いで良い、のですか」

 うん。そうでないと、アレは暴走するよ。お前が、手綱を取らないと。

 暴走は困る。

「わかりました。ご助言に、感謝します」

 幸せにおなり。我らはいつまでも、お前についているよ。


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 オルガナ・レンウィルの騒動からひと月ほど経ったある日、国王に呼ばれて、王城に上がった。

 国王と正妃だけの部屋に通されて、肝を冷やす。

 オルガナ・レンウィルの能力は、使い続けなければ愛情を保てない。感情は流動するもので、今日大好きな相手でも、明日には大嫌いになっていることだってあるからだ。

 だから、殿下の愛も一過性だろうと、思っていたのだが。

 一日経ち、一週間経ち、一ヶ月が経った今ですら、殿下の愛は衰えることを知らない。むしろ、日に日に強まっているのではないかと言う気すらする。

 わたしがオルガナ・レンウィルの能力を使ったのは、たった一度きりだと言うのに、だ。

 王太子殿下は婚約者を溺愛していると、もう国中に噂が広まっているらしい。

「あ、の、わたくし、は」

 決して、罪人から剥奪した能力を悪用はしていないのだと、どうやったら信じて貰えるだろうか。

 冷や汗でびしょびしょの手を握り締めるわたしの肩を、国王は大丈夫だとでも言いたげになでた。

「姫君を疑ってはいない。そもそも本人から聞いているからな。姫君がレンフレッドに能力を使ったのは、レフが懇願した一度きりだとな」

 すまない、と謝罪される。

「突然呼び出したせいで、不安にさせたか。叱責ではない。その、事情を話しておきたかったのだ」

「事情、とは?」

「わたくしたちが、あなたに、感謝していると言うことよ」

 正妃がわたしの手を取った。

「ありがとう、エヴェデルマ。わたくしたちの、救世主」

 意味がわからない。

 だって、救われたのはわたしたちで、救った覚えなど、ひとつもない。

「姫君は」

 疑問符まみれのわたしに、国王が言う。

「その能力を他国に流出させないために、王太子の婚約者にされたと思っているだろう」

「はい」

 わたしの能力。

 国王が言っているのは、オルガナ・レンウィルに使った能力のことだろう。

 数百人にひとり生まれると言う能力者。その能力を、弾く力、奪う力、奪った能力を自分の能力として使う力だ。

 悪用しようと思えばいくらでも悪用出来る、能力者にとっては天敵と言うべき能力だ。他国に渡すわけには行かないと言う考えは、当然のもの。

「実際は、違うのだ」

「違う……?」

 能力者の流出を防ぐ以外の、なにか、重要な理由が?

「能力の流出を防ぐことも、姫君に断罪者として動いて貰うことも、姫君をレンフレッドの婚約者にするための、対外的な理由に過ぎない。私は、ただ、姫君をレンフレッドの婚約者に据えたかっただけだ」

「どうして、ですか?」

「レフが、姫君を見て、綺麗だと言ったからだ」

 そんな理由で……?

「ああ。愚かな親と笑ってくれて良い。だが。レフが誰かに好意的な感想を持つことなど、初めてのことだった。姫君ならば、レフに感情を、愛を教えてくれるかもしれないと、思ったのだ」

「少しでも、あの子がひとを愛せればと。駄目で元々の、一縷の望みだったのよ」

 国王の言葉を正妃が継ぐ。

「そうしたら、あの子、変わったの。あなたの話を、頻繁にするようになった。嬉しそうに。幸せそうに。それが、どれだけ嬉しかったことか!それだけでも、わたくし、あなたに感謝していたのよ」

 なのに!と、興奮しているらしい正妃に握り締められた手が、少し痛い。

「今はもっと幸せそうなの!あなたを愛していると、幸せだと、心から話すの!恋に浮かれる若者のようによ!あの子が人並みに誰かを愛せる日が来るなんて、あの子が誰かを溺愛していると、噂される日が来るなんて!わたくし、思ってもみなかったのよ!!」

 感極まった様子で、正妃がわたしを抱き締める。

「ありがとう。ありがとう!!どれほどお礼を言っても言い尽くせないわ。わたくし、心から、あなたに感謝しているの!!」

 その、抱きしめ方は、殿下がわたしを抱き締めるときと、そっくりで。

 愛を知らずとも、愛を与えられてはいたのだと、どこかほっとした。

 それはそうだ。だって、そうでなければ、あんなにも自然に、愛を示すなど出来るはずがない。

 この方々は、殿下に、愛を示し続けて来たのだ。たとえ、返る心がなかったとしても。

「私も、王妃と同じように、感謝している。そして、済まなかったとも、思っている」

 とうとう泣き出した正妃にハンカチを渡しながら、国王は言った。

「本来であれば親である我々が解決すべきことを、姫君に丸投げしていた。国を追われ、救いを求めて来た姫君に、民を人質にするような形で、逃れようもなく協力をさせた。済まない」

「いえ。救っていただいたのですから、当然のことです。それに」

 そっと、正妃の身体を抱き返す。

「殿下はずっと親切で、優しかったです。それは、陛下と正妃様が、愛情を注いだからでしょう。あなたがたは、親としての役目を、しっかり果たしておいでです。なにも、謝ることなどありません」

「っ、ありが、とう」

「こちらこそ、民とわたしを受け入れて下さり、わたしを信じて、大事なご子息を委ねて下さり、ありがとうございます」

 お陰でわたしは、かのお方の指示に応えることが出来たのだ。

「その、親として、訊き辛くはあるのだが、忌憚なく答えてくれて良い。重くはないか、あれの愛情は。なにせ分散されることなく、すべて姫君に向けられているだろう。負担になってはいないか」

 聞いたとて、なにが出来ると言うわけでもないのだがと、国王は気不味げに語る。

 重たい愛情。それは、神の愛より重いものだろうか。

「いいえ。少しも」

「ほんとうに?無理はしていないか?」

「慣れておりますので」

 ああ、と気が抜けたように国王は呟く。

「そうだったな」

 おや?

「国中から愛される皇女だったな、姫君は。きみのためにと瞬く間に調えられる物流網には、空恐ろしさを感じたものだった」

 おや。

「悪用するつもりは少しもありませんが」

「そこは疑っていない。が、リノセルマの忠誠心は、信仰に近いものを感じる」

「実際、信仰に近いものでは、あるでしょうね」

 わたしの言葉を信じてみな、国を棄てた。疑うものも、反発するものも、いなかった。文句も言わず過酷な船旅に耐え、未知の土地の開墾に精を出した。

 かのお方が、わたしについておられるからだ。民はわたしと、かのお方を同一視している。

 かのお方のことは、この国の者には話していない。話して意味のあることではないし、理解されるとも思わないからだ。

「ならば、レンフレッドの愛も重くはない、か。つくづく、姫君が我が国に来てくれて良かった」

「我らは救われた恩を返しているだけです」

「ほんとうに」

 国王が目を細める。

「狐のようだな」


   ё  ё  ё  ё  ё  ё


 殿下の愛は衰えを見せぬまま、一年経ち、二年経ち、学校を卒業して、とうとう婚姻の日まで迎えた。

 婚姻の義を終えればわたしは、かのお方の指示である、愛を知らない王子様に嫁ぐことを、果たすことになる。

「その、エヴィ」

「はい。なんでしょうか」

「覚悟、しておいて欲しい」

 覚悟、とは、なかなかに重たい響きだ。

「なにをでしょうか」

「信じては、貰えないかもしれないが」

 殿下の手が頬に触れる。触れられることにも、すっかり慣れてしまった。

「これでも婚姻前だからと、我慢していた」

 なるほど?

 確かに、生真面目な殿下らしく、婚前交渉に及ぶことはついぞなかった。

 つまり、初夜の覚悟をするように、と言う。

「違う。いや、それもあるが、そうではなくて」

 殿下の表情は、ずいぶんと豊かになった。

「その、それ以外でも、我慢していた。婚約者とは言え、婚姻前の相手にみだりに触れたり、束縛するべきではないと」

 ……なる、ほど?

 殿下の婚約者溺愛の噂はもう、国内どころか国外にまで伝わっているらしいが。

「我慢、されて、いたのです、ね?」

 あれで。

「そう。我慢、していた」

 言われてみれば、学校では離れている時間もそこそこある。そしてそれを、許されていた。

 かのお方は、二六時中わたしについている。

「だが、婚姻してしまえば、箍が外れると、思う」

 なるほど。

「わかりました。覚悟しておきましょう」

「それと」

 殿下がどこか不安げに、わたしの目を見据える。

「夫婦になるのにいつまでも、殿下、と呼ばれるのは、少し寂しい」

 おや。

「……言って頂ければ、変えましたよ?」

「自然に変わるかもしれないと、少し、期待していた」

 それは申し訳ないことを。

「なんと、呼んで欲しいですか?旦那様?あなた?ハニー?」

「どれも捨て難いが。出来れば名前が良い」

「レンフレッド様?」

「それも良い、が」

 つまり名前由来の愛称で呼ばれたいと言うことだろう。陛下と正妃は、レフ、と呼んでいるが、おそらく、どうせなら。

「フレディ」

 殿下の顔が、嬉しそうに紅潮した。

「エヴィ」

「なんですか、フレディ」

「愛している、エヴィ」

 彼から何度、愛の言葉を聞いただろう。

「わたくしも、愛しています、フレディ」

 わたしはこの先も生きて行く。民のために、彼のために、そしてなにより、わたしのために。

 幸せにおなりと、かのお方は言ってくれたから。

 幸せになる。わたしは。この、愛を知らない王子様と。

つたないお話をお読みいただきありがとうございました!

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色々と設定が濃かったけど可愛くてかっこいい話をありがとう。
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