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救世主パン屋伝説――奇跡は焼きたての中に――

作者: 原雷火

 寒い風が吹き抜ける荒野で――

 小さな女の子が石を拾っていた。

 丸い石ばかりだ。小さな山になっていた。

 なんでだろう。僕はつい、訊いた。


「どうして丸い石ばっかり集めるんだい?」

「あのねあのね、これがぜーんぶパンだったら素敵じゃない? 丸いほうが美味しそうでしょ」


 女の子の手首は枯れ木みたいにほっそりとしていた。


「とっても素敵だね。君はたくさんパンが欲しいの?」

「うん! だって、この石がパンだったら、お父さんもお母さんも、おじいちゃんもおばあちゃんも、弟も妹も、みんなみんなおなか一杯になれるから」

「みんな、おなかが減ってるんだ」

「小麦がとれないんだって。もうすぐ食べるものがなくなっちゃうんだ。だから、この石がパンになったらいいなって、神様にお願いしてるの」


 女の子の丸い瞳が潤む。


「もし、神様がお願いをかなえてくれたら、家族のみんなも……村の人たちも元気になって、幸せで……笑顔がいっぱいになって……」


 ぽろぽろと涙をこぼして、女の子はその場に膝をついた。


「そうだね。石がパンになったらいいのに」

「お兄ちゃんもパン食べたいよね? わたしと一緒に、神様にお願いして!」


 女の子が丸石を僕に差し出した。

 石がパンになる奇跡なんて、聞いたことがない。


「うん。僕も祈るよ。石よパンになれー!」


 手にした丸石に祈りをささげると――


「え!? すごい! すごいよお兄ちゃん!」


 僕の手の中で、丸石がふっくらとしたパンになった。

 なに……この……なに?


「お兄ちゃんは神様なの? それとも魔法使い?」

「いや、違うよ。自分でもわからないけど……」


 僕の家系は大工で、魔法の才能なんて無い。そもそも大工仕事が苦手で、自分に何ができるか探すために旅をしている途中だった。

 女の子がじっと僕の手元を見つめる。よだれで口元がびしゃびしゃだ。


「いいな! いいな! パンいいな!」


 本当にパンになったのか自分でも疑わしい。


「ちょっと待ってね。半分に割ってみて、大丈夫そうなら一緒に食べよう」

「早く早く!」


 手の中でフカフカするパンを、僕は半分に割った。

 中までふっくらもっちりだ。しかも――


「わあ! お兄ちゃん! このパン、中に何か入ってるよ!」

「これって、豆を甘く煮たアンだね」

「アンの入ったパンだ!」


 女の子の「くーださい」の手に負けて、僕はパンの半分を手渡した。


「いただきまーす!」

「いただきます」


 さっきまでカチコチの石だったそれを食べてみる。本当は石のままで、僕も女の子も二人して幻覚を見ているのかも。怖かった……けど。


 パンはふわふわ。アンはしっとり甘くて、とびきり美味しかった。


 ◆


 ウッド村にやってきてから三年。

 僕もパン屋の店主が板についた。

 最近は周辺の土地も肥沃になって、女の子――ノンちゃんと出会った荒野が、今では一面小麦畑だ。

 

 石をパンに変える力で村の復興の手伝いをしたのが、もうずっと昔のことみたい。

 しばらく、石をパンに変える力は使ってない。もう必要がないからだ。

 小麦の香ばしい香りを浴びながら、焼きあがったバゲットを店先に並べていると。


「ヨシオさん! 大変大変! 大変なの!」


 ノンちゃんが大慌てでやってきた。


「やあノンちゃん。ちょうどバゲットが焼きあがったよ」

「んもー! ヨシオさん! 本当に大変なの! すぐに来て! 緊急だから!」

「配送かな。ちょっと待ってね」


 バスケットに焼きあがったバゲットを積めるだけ積んで、僕はノンちゃんに引っ張られるように村の中央広場に向かった。




 村の人たちが遠巻きに見守る中――

 角の生えた女の子が広場の真ん中で、踏ん反り返っていた。

 青い髪に青い目。トゲトゲとしたドレス。

 僕を見るなり、角の生えた女の子が指さした。


「貴様が村の代表者か!?」

「え? 僕? 代表? なんのこと?」


 ノンちゃんのお爺さん――村長がプルプルしながら僕を指さす。話がさっぱりわからない。

 角の女の子は腰に手を当て笑った。


「あーっはっはっは! こんな奴が貴様ら人間の最後の希望とは片腹痛い。ただのパン屋ではないか!」


 こんな奴とは失敬な。初対面なのに、いったい僕の何を知ってるんだ。憤りを抑えつつ、僕は訊く。


「どちら様ですか?」

「先に名乗るのが礼儀だろうに」

「ヨシオです。ヨシオ・クラスト」

「耳の穴をかっぽじって、よく聞けヨシオとやら! 我こそは高貴なる魔族フローリナ!」


 魔族っていうと、魔族か。辺境のウッド村に、わざわざ出向いてくるなんて。


「ご用件は?」

「まずはこの村の食べ物を差し出すのだ! 全ての村人が我の支配を受け入れるというのなら、命ばかりは取らずにおいてやろう。はっはっはっは!」


 僕の隣にちょこんと立ったノンちゃんが、僕の手をぎゅっと握る。震えていた。

 魔族について僕が知るのは、人間を支配して搾取する悪い連中……という話だ。実物を見るのは初めてだった。


 魔族は不老で美しく、たとえ少女の姿をしていても中身は獣だとも聞く。

 僕はそっとノンちゃんの頭をなでると、バゲットのバスケットを抱えたまま一歩前に出た。


「子供たちがおびえています。帰ってください」


 魔族フローリアは角を左右に揺らす。


「帰る場所などもぅ……え、ええい! 人間風情が生意気な口を利くな! 我に命じるなど二千年早いわ!」


 言うなりフローリアのお腹から、ぐぎゅるうという地響きのような音が響く。

 緊張していた村人たちがドッと笑った。


「許さぬ! 貴様ら全員氷漬けだ!」


 背筋がゾクリとした。錯覚じゃない。急に気温が下がったんだ。地面に霜が降りる。


「喰らえ! 我が氷結の力!」


 仕掛けてくると思った瞬間、体が勝手に動いた。

 バスケットからバゲットを抜くと、僕はフローリアに向かって走る。不思議と恐怖はなかった。戦いなんてしたことがない。けど、僕がどうにかしなきゃいけない。


 バゲットを振り上げ、フローリアの頭目掛けてたたきつける。

 ボンッ! と、小さな爆発を伴って魔族の少女が吹っ飛んだ。

 空中でくるりと身をひるがえし、フローリアはひざをついて着地するなり、僕を見据える。


「ぐっ! パンで殴ってくるとは。しかも、なんだ今の爆発は」


 食べ物で相手に殴りかかるなんて、よくないことだ。

手元の感触がない。

 バゲットが消えていた。

 そうか、なるほどなるほど。理解した。これも僕の特異体質なのだろう。


「焼きたてならパンだって爆発するさ」

「貴様! 訳が分からないぞ!」


 フローリアが目くじらを立てる。けど、こちらの仮説が正しければ……焼きたてのパンのおいしさは爆発的。つまり爆発するのは必然だった。

 石がパンになるなら、焼きたてパンが爆発するくらい常識の範疇だ。

 バスケットに残るバゲットはあと四本。

 フローリアが再び身構えた。


「ともかく貴様さえ倒せば、この村の連中は烏合の衆ということだな!」

「村のみんなに手出しをしたら、突っ込みますよ」

「突っ込むだと?」

「この特大バゲットを君のお尻にダイレクト。そして爆発させます」


 フローリアはとっさにお尻を両手でかばうようにした。


「貴様本当に人間か? なんだその悪魔的な思考は!」

「僕だってしたくない! パンがもったいない!」

「我が尻はどうなってもよいというのだな」

「お尻の平和を守りたいなら、帰ってください」

「帰れるものなら……う、うるさいうるさい! うるさーい! し、死ねええええ!」


 角をぶんぶん振り回し、フローリアが腕を振るった。

 大気中の水分が凝固してツララになると、僕目掛けて牙を剥く。

 ノンちゃんの「ヨシオさん逃げて!」の声に、僕は首を左右に振った。


「大丈夫。僕は負けないよ」


 無数のツララが僕の体を貫いた。

 ああ、あっけない。なんとかできると思ったのは慢心だ。

 死ぬのか。こうもあっさりと。不思議と痛みも冷たさも感じなかった。

 フローリアが目を丸くする。


「は、はーっはっはっは! 驚かせおって! しょせんはパン屋か」

「ヨシオさーん!!」


 ノンちゃんの叫びと、村の人たちの声が聞こえる。

 僕の名前をみんなが口々に呼んでいる。



「「「「「ヨシオ! ヨシオ! ヨシオ! ヨシオ!」」」」」



 震える手で僕はバゲットを手に取ると、一口かじった。

 温かい。暖かい。心に勇気が湧いてくる。とたんに僕の全身を貫いた無数のツララが溶けて消えた。体中に空いた穴もみるみる塞がった。


 ああ、やっぱり僕のバゲットは最高だ。外はサクサク。中はふわもち。

 小麦の香りが鼻腔を抜けて、目を閉じればそこには黄金の絨毯のような麦畑が広がった。

 最高の癒やしだ。身体に空いた無数の穴が塞がるのも、パンのおいしさからすればありえなくもない。あっという間に一本がなくなった。


 フローリアが叫ぶ。


「なんで傷が塞がる! ふ、ふざけているのか貴様!」

「ふざけてなんていないさ。焼きたての美味しいパンは心に空いた穴を満たして塞いでくれる。なら、身体に空いた穴だって塞がって当然じゃないか」

「当然なわけあるかーッ!!」


 ツララを飛ばすフローリア。僕は新しいバゲットを手にした。ツララをまとめて空中でたたき落とす。四発のツララを迎撃したバゲットは僕の手の中で光と消えた。


「さあ……おしりをこっちに向けるんだフローリア。痛くしないから」


 まだバゲットの在庫はある。売り切れ御免。もう一本。


「ひいっ! ち、近づくな!」


 すっかり逃げ腰の魔族だが、なんで逃げてしまわないのだろう。


「本当に逃げないんですか? このままだと一本……いや二本いきますよ? まとめて!」


 僕はバスケットを置くと両手に一本ずつバゲットを構えた。

 二刀流ならぬ二バゲットだ。


「逃げたところで我には……これが最後のチャンスなのだ! 村の一つも支配して、我を追放した連中に思い知らせてやらねばならぬ!」


 ああ、なるほど。家出少女みたいな感じか。

 どうりでお腹を空かせていたわけだ。魔族にもいろいろあるんだろう。

 だからといって、村を襲っていいわけがない。


「もう冷め始めてる。焼きたてのおいしさだって逃せない最後のチャンスだ。そういう意味では君も僕のパンも同じだろ」

「パンなんてまた焼けばいいだろ!」

「なら君の方こそ、またがんばればいい! やり直せばいい! 遅いことなんてないんだ!」

「なっ!? やり直せ……だと」


 フローリアは肩を震えさせるとうつむいた。


「貴様に……貴様に何がわかるというのだああああ!」


 瞬間――

 世界が凍り付くような冷気が広がった。空を暗雲が埋め尽くす。太陽は隠れ、まるで夜のようだ。

 吹雪が舞い、暴れ狂う風が吹きすさぶ。

 フローリアは氷の嵐をまとめ上げると、二本の氷柱にした。

 長短二本を組み合わせ十字にすると、僕に狙いを定める。

 先端は青白く、鋭利だった。


「心臓を一撃で貫けば、さしもの貴様も命はあるまい……魂まで凍てつき果てるがいい! くらえ!」


 放たれた十字架に、僕も二本のバゲットを交差して耐える。

 氷の十字架と小麦の十字架がぶつかり合い、青白い火花を散らした。

 押されている。きっとパンが冷めてしまったからだ。


 焼きたての命は短い。人生最高の瞬間よりも、遙かに一瞬の出来事だった。

 手の中でバゲットは爆ぜて光にかわる。辛うじて、氷の十字架を受け止めきった。

 けど、もう僕にはパンがない。

 それをフローリアも察したようだ。


「ふっふっふ……はーっはっはっは! パンがなければパン屋も形無しだな! 貴様はただの人間だ! 次でトドメを刺してやる!」


 再び魔族が冷気を集める。

 もう防ぐ術はない。もし倒れれば、その後ろで僕を応援してくれた村のみんなや、ノンちゃんはどうなる。


 せっかくみんなが、お腹いっぱい食べられて、いっぱい汗を流して、日々を健やかに過ごせるのに。

 凍えることも飢えることもない、ただそれだけで人は幸せになれるんだ。

 守りたい……暮らしを。笑顔を……喜びを……パンのある日常を。

 拳をぎゅっと握ると、背後からノンちゃんの声が響いた。


「ヨシオさん! 足下! 足下!」


 視線を落とす。思わず「あっ」と声が出る。

 そこには手頃すぎるほど手頃な、まん丸い石が落ちていた。

 行ける。パン屋の本能なのか、何か別のもっと大きな意思が僕の背中を押したのか。

 丸石を拾い上げる僕をフローリアは笑った。


「なんだ? パンがなければ石でも投げようというのか?」


 僕はゆっくり首を左右に振る。


「パンならあるさ……この手の中にね!」


 祈る。人々を遍く照らす太陽のようなパンを、この手に。

 三年前に村を救ったのは、ノンちゃんが集めた丸い石……から生まれた、あのパンだった。

 暗雲の切れ間から太陽の光が注ぐ。まるで天使の階段だ。

 捧げた祈りは丸石を、甘いアンがたっぷりのアン入りパンへと変えた。


 しかも今回は粒アンだ。割らなくてもわかる。僕は粒アンのパンを右手に装着した。

 確信があった。アン入りのパンによる打撃は、きっとこの世のありとあらゆる困難も苦難も悲しみも苦しみも怒りさえも易々と乗り越えて、敵に……空腹という厄災にまで届くだろう。

 フローリアが背筋をブルッとさせた。


「あっ……や、やめろ! なんだそのパンは! パンで殴るのはええと……よくないんだぞ! 食べ物で遊ぶな! ほんとあの! 近づかないで! さっきのバゲットなんか比べものにならないくらい、そのパンは! そのアンのパンのパンチだけは本当に危険すぎるから!」


 途中から泣き言になっていたけど、もう遅い。

 僕は大地を踏みしめ、蹴った。ただの村のパン屋だけど、愛と勇気を振り絞れば奇跡だって起こせるんだ。

 この特異体質に生まれたことを、僕はパンの神様に感謝しながら、フローリアとの距離を詰める。


 右拳――アン入りパンをフローリアの口目がけて叩き込んだ。


「ふがああああああああ!」


 ふかふかのアン入りパンをねじ込み、押し込み、咀嚼させる。


「う、うまあああああああああああああああああああい!」


 フローリアはその場で膝から崩れ落ちる。サムズアップしながら両目からはポロポロと涙をこぼした。魔族とは思えない、宝石のように綺麗で純粋な雫だった。




 アン入りパンを食べきるとフローリアは地面に正座した。


「殺せ……我の負けだ」


 憑き物が落ちたみたいな、それでいて、どことなく寂しげな表情だ。


「なんでパン屋の僕が魔族を殺さなきゃいけないんですか?」

「我は貴様を二度三度と殺そうとしたではないか。殺される覚悟もなくて魔族ができるものか」

「じゃあ元いた場所に帰ったらどうです? お土産にバゲットを焼いてあげますから」

「出来るかッ! 人間のパン屋に負けて地元まかいに帰ったりしたら、恥ずかしさで憤死してしまうわ!」

「死ぬなら他人に迷惑をかけずに勝手に死んでください」

「ううっ……辛辣な」


 すっかり意気消沈したフローリアの元に、ノンちゃんがやってくる。


「ねえヨシオさん。フローリアちゃんって、帰れる場所がないんじゃないかな?」

「そうなんですか?」

「だって戦ってる最中ずっと、帰れる場所がないみたいな雰囲気で、察して欲しいって気配をずーっと出してたもん」


 私はしゃがみ込むとフローリアの顔をのぞき込んだ。


「そうなんですか?」

「煽っておるのか貴様! ええい! そうだとも。小娘の言う通りだ」


 訊いてもいないのに、フローリアは勝手にベラベラ喋り始めた。

 なんでも魔族の中でもエリートだったのだが、ライバルにハメられて全てを失い追放されてしまったんだとか。

 村程度でいいから支配しようとさまよっていたところ、ウッド村にたどり着いたんだとか。


 はた迷惑な話である。

 ノンちゃんは僕を見つめると。


「可哀想だよ! お腹が空いてイライラしてただけなんだよ! 村においてあげられないかな?」


 いくらノンちゃんが村長の孫娘でも、いつ暴れ出すかもしれない魔族を村に迎え入れるわけにはいかない。

 それはフローリアもわかっているようだ。


「小娘よ……感謝する。だが、我は貴様たちを殺そうとさえしたのだ。そのような存在を受け入れるなどできまい」

「そんなぁ」


 まるで自分のことのようにノンちゃんは悲しんだ。思えばノンちゃんは自分の家族を助けたくて、石がパンになればと祈るような優しい女の子だ。

 僕が自分の特異体質に気づいたのも、ノンちゃんのおかげだった。


「わかったよノンちゃん。僕がなんとかしよう」

「できるの!? ヨシオさん!?」

「やってみせるよ。パン屋の名にかけて」


 魔族に向き直る。これも昔、聞いた話だ。

 魔族の力の根源は頭に生えた角にあるらしい。これを無くしてしまえば、暴れることもできなくなるはず。

 僕は両手でフローリアの角をガッチリ掴んだ。


「お、おい貴様! いきなりなにをする!」

「家畜にする牛の角を取っちゃうように、こうして……こうだ!」


 僕は祈った。魔族の角がパンになれと。

 ぽろん。

 いともたやすく角はとれた。

 ノンちゃんが瞳を輝かせる。


「わああああ! チョココロネだああああ!」


 フローリアの絶叫が響き渡った。


「なんじゃそりゃあああああああああああああああああああ!!」


 ◆


 三日後――

 角を無くした青髪青目の魔族は、パン屋の前をホウキで掃き散らかしていた。


「なんで貴様の店の手伝いなどせねばならんのだ!」

「ほら、角とっちゃったし」

「しかも我が角を、あの小娘と一緒に食らうとは何事だ!」

「きっとまた生えるって。ドンマイドンマイ」


 フローリアのチョココロネは、中のチョコがキンと冷えていて不思議な食感だった。とても美味しかった。

 彼女の監視も兼ねて、店員として雇うことにしたのである。


「角が生え替わったら……その時は覚えておけよ!」


 魔力を失ったフローリアは、製氷や冷蔵、冷凍くらいしかできない程度にまで力を弱めた。

 つまり冷蔵庫になったのだ。大変便利である。


「早く生えないかな。またあのチョココロネが食べられるなんて楽しみだなぁ」

「くっ……殺せ」


 こうしてウッド村唯一のパン屋「ナザレの窯」に、新しい従業員が加わった。


 パンは今日も焼きあがる。誰かの空腹と、心の穴をそっと満たすために。

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― 新着の感想 ―
大工の(家系の)ナザレ(の窯というパン屋)の息子が登場する前に奇跡起こしちゃってるんじゃんよ。
すんごく気になる。 粒あんなのかこしあんなのか、はたまたうぐいす餡………
丁度朝飯前で腹が減ったじゃないかーーーー!! 焼きたてパン食いたいーーーー!!
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