騙す彼と騙される娘
久しぶりに見るレオンハルトは、相変わらず麗しい。
シルバーブロンドの髪を首元で緩く結び、白いシャツと、黒色のズボンといった貴族としては簡素な格好をしている。夢にまでみたレオンハルトが辺鄙な男爵家まで来てくれた。ルシールは嬉しさのあまりレオンハルトの所まで駆け寄ってしまう。
「レオンハルト様…!!!」
レオンハルトは、ルシールを見ても表情を変えない。
レオンハルトがどう思っているのか分からない、そうルシールが不安に思ったとき、ルシールはレオンハルトに急に抱きしめられた。
「ルシール…会いたかった…」
レオンハルトの声は震えていて、一筋の涙が頬を滑り落ちた。ルシールを強く抱きしめる。
「レオンハルト様…私もです…」
ルシールは手をレオンハルトの背中へと回す。
レオンハルトに会えたことがただただ嬉しい。レオンハルトから感じる体温がルシールの心を元気にしていく。
「ルシール、そいつ誰?」
ジョンは立ち上がってレオンハルトを睨む。
ルシールの行動も気に食わなかった。
「結婚前の女の子が、男と抱きしめあったら駄目だろ」
「そうだった!」
ルシールがジョンの言葉に従って、レオンハルトの抱擁から逃げ出そうと体を動かすも、逆にレオンハルトはルシールの体に回す手を強めた。
「レオンハルト様…?」
ルシールは、レオンハルトの顔を見上げる。
美しい瞳が涙で濡れている。
「ルシール、私からもう逃げないでくれ」
レオンハルトがルシールに懇願する。
「分かりました。もう逃げません。心配かけてごめんなさい」
ルシールはレオンハルトに向けて微笑む。レオンハルトはルシールの言葉に安堵し、ルシールの体に回していた手を降ろし、ルシールの手と繋ぐ。
レオンハルトは少しでもルシールと触れ合っていたかった。
「私は、ワグナー・フォン・レオンハルトだ。ルシールの夫だ。これからもよろしく頼む」
ジョンに対してしたレオンハルトの自己紹介に、むしろルシールが驚いてしまう。
「えっ…?私達結婚したんですか…?」
驚きの表情をするルシールに、レオンハルトが柔らかく微笑みを浮かべる。
「最後に会った夜、ルシールにピアスを渡したよね?それを受け取ったたら我が国では結婚が成立するんだ。伝えてなくてごめんね?」
レオンハルトとしては、もっと順序に従って結婚する予定だったが、2ヶ月もしないうちにルシールは男と仲良く座っていたのが許しがたく、既に結婚していることにした。
「そうだったんですね!レオンハルト様の国の文化に詳しくなくてごめんなさい…」
「いや、それはおかしい…」
レオンハルトに発言しようとするジョンの肩をオリバーがぐっと掴む。
「そのへんで止めといてくれますかね?レオンハルト様の機嫌が悪くなると大変ですから…」
「それでもおかしいだろ!」
「貴方は御存知ないからお伝えしますけど、レオンハルト様は公爵でいらっしゃいますし、ルシール様は昨日からヴィラ伯爵家の養子に入り、伯爵家のお嬢様となっております」
「ルシールが伯爵家の養子に…?」
「そうなんですよね〜。僕もどうかと思ったんですが。要するに!レオンハルト様の寵愛は重いんですから、邪魔すると痛い目にあうんです!」
ジョンは幸せそうなルシールの笑顔を見て、それならばと2人を見守ることにした。ルシールとレオンハルトは2人で仲良さそうにしている。
「私の国のことはこれから教えてあげるから大丈夫だよ?でも、男と二人っきりでいたのは駄目だね。後でお仕置きだよ?」
「お仕置きですか…?」
ルシールはレオンハルトの発言にキョトンとしている。
「嫌、やっぱおかしいだろ〜!!」
ジョンの声がテラスに鳴り響く。
〜完〜
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!今後は番外編ができたらと思います。
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