様子のおかしい娘
(確かにおかしい)
ルシールの母親に頼まれてテラスに座っているルシールの様子を覗きに来たジョンは思った。ルシールは柄にもなくため息をつき、景色を眺めている。今日みたいな晴れやかな日は農作業に精を出すルシールが、ただテラスで座っているなんて。思えば表情も硬い。ヴィラ伯爵邸で何かあったのかもしれない。2ヶ月ぶりに見たルシールの元気のない様子にジョンは驚きを感じた。
「ルシール!」
ルシールは、ジョンの声が聞こえて振り返る。今日も溌溂としている。ジョンの笑顔が眩しい。
「ジョン!久しぶりだね!どうして急に?」
「いや、お前の母親がお前のこと気にしてたから、俺も気になって見に来たんだよ」
ジョンの子爵家は、男爵家の隣の領地であることもあって、昔から親戚のような付き合いをしていた。今日も父親の商談に付き合って男爵家に来たのだろうか。
ルシールの母親もジョンに対しては気安い。
「お前、変なものでも食べたんだろ?」
「食べてないよ!」
ジョンはルシールよりも5歳年上なこともあって、ルシールを子ども扱いする。思えば、レオンハルトもルシールよりも5歳年上だった。ジョンとは違って、レオンハルトは上品でカッコよかった。レオンハルトのことを思い出してしまい、ルシールの表情がまた曇る。
「いや、ほんと様子が変すぎる。熱があるんじゃないか?」
ジョンの手がルシールの額に当てられる。
ジョンの表情は真剣で、ルシールのことを心配してくれていることがよく分かる。
「熱はないみたいだな?お前、伯爵家にいたんだろ?その時に何かあったのか?」
「特に…何もなかったけど…」
ルシールは男爵家に戻ってきたとき、もしかしたらレオンハルトがルシールを追ってきてくれるんじゃないかと少し期待した。でもレオンハルトが男爵家を訪れることはなく、一ヶ月が過ぎている。レオンハルトは優しくしてくれたものの、可哀想にみえた自分を慰めてくれただけで、特別な思いはなかったのかもしれない。レオンハルトがくれたピアスは男爵家に戻るときに伯爵家から持ち出してしまったが、自室にある化粧台の引き出しの中にそっと片付けている。
「俺、父さんに買い物に行くよう頼まれたんだけど、荷物が多くて大変だから一緒に行ってくれないか?」
表情をまた暗くしたルシールのことがますます心配になり、ジョンはルシールには気分転換が必要だと判断した。ジョンにとって、ルシールは大切な女の子だ。いずれ結婚する相手になるかもしれない。元気がないルシールのことを何とかしてあげたい、ジョンは思った。
ジョンは、ルシールの横に座り手にそっと触れる。ルシールとジョンの視線が絡む。
ジョンがルシールを気遣って誘ってくれているのがルシールに伝わった。
「いいよ!一緒に行こう!」
ルシールはジョンと街に行こうと立ち上がろうとした瞬間、侍女が慌てて走ってルシールとジョンの元へやってくる。
「ルシール様!お客様が…!」
「お客様?何処に案内したの?」
「それがルシール様のところへ案内してと言われて…」
侍女の後方から男性が2人やって来る。ルシールは男性の姿を見て、目を見開く。
「レオ…様…」
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