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殺すの大好きムラヤマさんのスペシャル楽しい殺し屋生活  作者: 天近嘉人
ムラヤマさんとの一日デート券争奪編

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19/19

矛と盾

 光が徐々に収束されていき、夜の帳が再び降ろされる。


 そんな闇夜の中でも、一向に輝きを失わない一つの光があった。煌めく聖鎧を身に纏ったダイヤモンド・パラディンただ一人が、その場で悠然と佇んでいたのだ。


 そんな彼女とは対照的に、パイメロは片膝を地面に付き、短い呼吸を繰り返していた。健康的な褐色肌の額には冷汗が一つ、道筋を作って垂れ落ちる。



 パイメロの隣には“新たな道”が拓かれていた。



 巨大な円錐状に切り開かれたソレは、大地を削り、大樹(たいじゅ)を抉る……。何処までも真直ぐに、果てが無いほど貫き通されていたのだ。


 金剛煌輝槍(ゲイ・ボルグ)が繰り出される後寸での間際、弾丸のような速度で向かっていたパイメロは強引に地面を踏みしめてブレーキを掛け、そのまま無理やり蹴り上げて何とか回避に成功したのであった。


 もし、あの一撃を真正面から喰らっていたのなら、一瞬でも身体の何処かを掠っていたのなら……。そう思うと背骨をゆっくりと指先でなぞられたようなゾクリとした悪寒が走る――。


 「――はぁッ!!!」


 そんなパイメロに向かって、ダイヤモンド・パラディンが猛追を開始。彼女目掛けて聖槍を突き立てる。風を切り裂く程鋭い一撃を慌てて起き上がったパイメロが寸での所でソレを回避した。


 「はぁあああッ!!!!」


 二突、三突。洗礼された突技が次々と繰り出されパイメロを襲う。彼女はバックステップで回避を続けるが、鬼気迫るダイヤモンド・パラディンの攻撃によってジリジリと後退せざるを得ないこの状況に段々と焦りが生じ始める。


 「ッらぁ!!!!!」


 猛突(もうつい)を繰り出すダイヤモンド・パラディンの攻撃……。その僅かな隙を付いてパイメロが脚を振り上げる。彼女の顎目掛けて振り上げた渾身の一撃である。


 だがしかし、顎骨を砕いた快音が鳴り響くことは無かった。代わりに聞こえてきたのは銅鑼を叩いたかのような、低く鈍い、まるで脚応え(てごたえ)の無い鈍音のみであった。


 

 パイメロの攻撃は、ダイヤモンド・パラディンが誇る鉄壁の聖盾によって完璧に防がれてしまったのだ。


 

 「ふんッ!!!!」



 そんなパイメロの腹部目掛けて。ダイヤモンド・パラディンが腰を捻らせ力の限り騎槍を振り抜く。咄嗟に腕を下げ防御の姿勢を取るパイメロであったが、残念ながら彼女の腕は聖盾のような強度を誇ってはいない。凄まじい衝撃に視界が揺れ、二の腕の骨が軋む惨たらしい音と共に吹き飛ばされ、樹木の幹に叩きつけられてしまった。




 「…………はぁ、はぁ」


 ぶつかった衝撃で折れた幹が音を立てて倒れ込み、辺りに土煙が立ち込める中で。息を切らしながらゆっくりと立ち上がったパイメロ。力無く垂れ下がっているその左腕は、赤黒く大きく腫れ上がっており、思わず唾を飲み込んでしまいそうな程歪んでいた。


 「…………ったく、痛ぇじゃねぇか、クソがよぉ……!」


 折れた左腕を抑えながら、パイメロは煙の奥で佇んでいるであろう彼女にそんな言葉を吐く。少し経ち煙が晴れたその中で、ダイヤモンド・パラディンはその名に恥じぬ凛々しい立ち姿でパイメロのことを見つめていた。


 「……貴様のその蹴り、折れてもなお立ち上がる精神力。認めよう、貴様は誇り高き戦士だ」


 穏やかな声色で眼前の“戦士”を称えるダイヤモンド・パラディン。しかし、次第に彼女が持つ騎槍と聖盾に力が(こも)り震え出す。


 「しかしだッ! 戦士だと認めたからこそ私は貴様を軽蔑するッ!! 何故だ、何故貴様は“殺し屋”なんぞ下衆な真似をする? 何故その気高き誇りを他人の血で穢すのだッ!!!」


 大きく肩を震わせながらダイヤモンド・パラディンが言った。熱い感情が籠ったその言葉を受けたパイメロであったが、彼女の表情は至って冷静で冷ややかである。


 「…………上から説教垂れやがってよぉ、てめぇだって同じじゃあねぇか。金さえ貰えればどんなクズにでも雇われるんだろ?」


 パイメロが放った一言。その言葉はダイヤモンド・パラディンの重厚な盾や聖鎧をすり抜け、彼女の心に突き刺さる。彼女は大きく目を見開き、誇りの炎を灯していた瞳が僅かに揺れた。


 

 「…………確かに、今の私は雇われ騎士。対価を貰えば我が君主。今回の雇い主であるジョーンズの悪行も少なからず耳にしている」



 「しかしッ! 騎士としての役職を失った私を拾ってくれた三義会の恩に報いる為にッ!! こんな私を家族同然のように愛してくれる二人を守護る為にッ!! 私の全てを捧げると誓ったのだッ!! これが今の私の“誇り”だッ!!」


 揺らいでいた誇りの炎が再び燃え上がり、何よりも真直ぐな視線をダイヤモンド・パラディンはぶつける。


 鎧も何も着飾っていない彼女の言葉を嚙み締めるかのように、パイメロは顔を伏せ沈黙する。彼女が語った“恩義”と“家族”。その二つのテーマが頭の中で反響を続け、記憶の底にずっと残っているある光景を蘇らせる――。


 ―それは、とある雨の日。何百もの死体が垂れ流す鮮血と自分の血が水たまりに流れ混ざり合っていた中で。倒れ込み動けない自分を一人の女が見下ろしていた。長身で銀髪、まるで生気が灯っていないその瞳は、命を刈り取る死神のソレだった。


 ――お前がここで野垂れ死んだって、私は一向に構わない。ただ、“誇り”とやらを全うしたいのなら私の手を握れ。


 雨と出血で熱を失っている身体よりも冷たい声色で女が言った。しかし、差し出されたその手には生きろという確かなメッセージが込められていたのである。


 ――それに、丁度“友達”を用意したかったんだ。あいつと一緒に遊んでくれる、とっても素敵なお友達がな。







 「――パイメロ。貴様、何の真似だ?」


 パイメロが取った行動に、思わず疑問を投げかけるダイヤモンド・パラディン。黙り込んでいたパイメロが急に右手で握りこぶしを作り、思い切り自らの額を殴りつけたのである。


 「…………悪りぃな。これはアンタの誇りを侮辱した分だ」


 殴りつけた個所から汗のように鮮血が滴れ落ちる。ソレを拭い去ることをせず、パイメロはただ真直ぐ彼女を見つめていた。


 「アンタの誇り、十分伝わってきた……。お陰でよぉ、目が覚醒()めちまったよ、マジでよぉッ!!」


 そう叫んだパイメロは獰猛な笑みを浮かべ、構える。その様はまるで鎖で繋がれた猛獣が、自ら鎖を引きちぎり自由を得た咆哮を上げたかのようである。


 「こっからは本気のマジでいくぜ……! 殺し屋の“誇り”に賭けてよぉ! てめぇを絶対ぇぶっ殺すッ!!!」


 鮮血の中で琥珀色の瞳が鋭く光る。枷が外れたパイメロの身体からは、夜の闇でも塗り潰せない黒い煙がオーラのように発せられているのであった。

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