18話 戦士対騎士
――静寂を切り裂く爆音が、森の木々を激しく揺らした。
夜空へ“跳んだ”パイメロが、満月を背に身体を大きく捻ねり、思い切り脚を振り抜く。
だが、その一撃はダイヤモンド・パラディンが誇る大盾に防がれてしまった。弾かれたパイメロは空中で体勢を立て直し、両手足で地面に着地――。
――した瞬間。彼女は肢体に力を込めて、獲物を狩る猛獣が如く地面を蹴り夜空へ跳んだ。盾を前に出し待ち構える騎士に、獣の凶爪が襲い掛かる。
「オラァッ!!!」
パイメロの咆哮の後に、再び鳴り響く轟音。しかし、その一撃も盾に防がれてしまう。
「その程度の蹴りで、私の盾は砕けんッ!!」
完璧に受け止めたダイヤモンド・パラディンは騎槍でパイメロを貫くべく、防いだ盾でパイメロを押し倒そうと目論む。
その時だった。
「何ッ!?」
にわかには信じ難い光景に、彼女は短く声を上げた。
空中で受け止められ完全に死に体になっていたパイメロが、盾の上で膝を曲げ、そのまま三度宙へと跳んだのだ。
そして命を斬り落とす断頭台のように、その足を振り落としたのであった。
「ぐっ!!」
寸での所でガードが間に合ったダイヤモンド・パラディン。全身が痺れる程の衝撃が走り、自分の足元が地面にめり込む。
「なんのッこれしきッ!!!」
だが、数多の脅威かららこの国を護り抜いてきた彼女の名前は伊達ではない。思い切り盾を薙ぎ払い今度はパイメロが追撃不可能な距離まで吹き飛ばす。パイメロは空中で回転し、華麗な足取りで地に足を付けた。
「へっ! ダイヤモンドっつー名前だけあって、中々硬ぇな、アンタ!」
久方振りの強敵に瞳をギラつかせながらパイメロが言った。
「……当然だ。この聖鎧と盾は言わば私の誇りそのもの。貴様なんぞには決して打ち砕くことなど出来ん」
パイメロとは対照的に毅然とした態度で言い切るダイヤモンド・パラディン。あれだけの攻撃を受け続けた彼女の盾には傷一つ付いておらず、磨き抜かれた光沢が月光に照らされ煌めいた。
「打ち砕けねぇっつーならよぉ、アンタだって同じことだぜ。幾らアンタが硬くたって、守ってばっかじゃあアタシは倒せねぇよ!!」
パイメロが重心を下げ再戦の構えを取る。そんな彼女を見て凛とした態度であったダイヤモンド・パラディンが何故か鼻で笑う。
「……パイメロよ。どうやら馬鹿なのは貴様の方だったらしいな」
「……あ?」
当然の疑問に構えを解くパイメロ。その際、彼女達の間で“馬鹿の証”と化してしまった艶々しい胸が揺れた。
「鎧や盾は己を守護る物。相手を攻撃する武器では無いことなど赤子でも分かる事だろう……。勿論、騎士学校を推薦入校で合格した私なら、そのような馬鹿な疑問など抱かないがなッ!!」
胸当てで拝むことが出来ないが、パイメロにも負けず劣らずの双丘を張ってダイヤモンド・パラディンはそう勝ち誇った。その表情はこの緊迫とした場面の中でそぐわない例えたが、誰も答えられなかった算数の問題を解き、学校の先生に褒められた小学生や、芸を覚え飼い主に褒めちぎられている飼い犬のソレであった。
「国を守護るが騎士たる矜持……。しかし、敵の魔の手を払うには戦地に身を馳せ戦わなければならない。その為に、私は聖槍を持っている……!」
呆れ顔のパイメロに向けて、ダイヤモンド・パラディンは大盾を前に突き出し、聖槍と呼んだ騎槍を構えた。先程の愛嬌ある雰囲気はとうに消え失せ、眼前の敵を葬る為、闘争心を研ぎ澄ます凛々しい騎士の顔に戻っていた。
「征くぞッパイメロッ!!! 我が聖槍の一撃で決着をつけるッ!!!!」
構えそのままに叫びを上げながら、ダイヤモンド・パラディンが攻撃を仕掛ける。恵体の彼女が大盾と騎槍を構え突撃してくる様は、蒸気機関が激しく汽笛を上げながら向かってくる程の迫力である。
「上等だッ! アタシの方こそ決着つけてやんよッ!!!!」
そんな圧倒的威圧感に物怖じせず、パイメロも大きく大地を蹴り弾丸のように向かっていった。
戦いの常識として。まだ見ぬ相手の初撃に対しては、避ける、受け止めて対策を練るなどが挙げられるがパイメロは敢えて前に出る選択をした。これは彼女が野性味溢れる戦士なのではなく、彼女なりに算段があっての行動である。
まず、ダイヤモンド・パラディンの性格上、使用する武器が騎槍であるのが明白であること。
仮にコレが気分屋で全くもって思考が読めないムラヤマであったり性格の悪いサティだった場合、直前の口上が全部偽物で騎槍を囮に本命の武器で殺しに来る展開もありえる。しかし、誇り高い騎士で自分に嘘が付け無さそうな彼女がそう宣言した以上、必ず騎槍で一撃を喰らわせようとしてくる筈なのである。
そして次に、使用してくる武器が騎槍であること。
ダイヤモンド・パラディンの身長程ある騎槍、その一撃の威力は想像を絶する程の破壊力があるだろう。しかし、そんな重たい武器を目にも止まらぬ速度で振ることが出来る人物などこの世には存在していない。自分の身体能力を持ってすれば、簡単に回避することが出来ると見込んだ。
つまり、この状況でパイメロがするべき最善の選択とは、騎槍の一撃を避け、盾で防がれるよりも先に彼女の凛々しい顔面に思い切りカウンターを叩き蹴るということだったのだ。
騎槍が届く射程圏内まで後数秒……。パイメロは全速力で向かいながらも、ダイヤモンド・パラディンの微細な仕草をも逃さず観察をする。その時、彼女が自分を貫くために騎槍を後ろに引く動作に入ったことを確かに視認した。
貰った……! 後はシュミレーション通りに動けばパイメロの勝利は確実なものになる――。
――筈だった。
「――あ?」
迷いなく突っ切っていたパイメロの足が、眼前の光景に思わず立ち止まってしまった。大きく引いたその聖槍が、自分の算段なんぞ矮小な考えを滅殺する程に神々しく光り輝いていたからだ。
「――我が聖鎧は未来を守護り、我が聖槍は未来を拓く……!!」
ダイヤモンド・パラディンの言の葉に共鳴する様に、その光はより一層輝きを増し始める。その光景を目の当たりにしてパイメロの野生の感が忙しなく警鐘を鳴らし始めた――。
「――受けよッ!! 我が聖槍の煌めきッ!! 金剛煌輝槍ッ!!!!!!」
最大限にまで煌めいた騎槍を、ダイヤモンド・パラディンが突き抜いた。
その神々たる光は眼前のパイメロを、森全体に広がる闇夜全てを消し炭にするのかの如く、光り輝いたのであった。
プロフィール
聖なる神器シリーズ。
かつて小国だったこの国に、時の覇者である大帝国が侵攻を開始した際、当時の王が大精霊より授かったと伝承されている武器の総称。
カニーロの“聖剣”やダイヤモンド・パラディンの“聖鎧”、“聖槍”がそれに該当する。
数多くの武器が現存しているが、中には贋作も多く流通している。
ダイヤモンド・パラディンがゴットオブ功夫から夕飯のおつかいを任され、ウキウキで市場へ赴いた時、たまたま露店販売をしている骨董屋を発見。そこで聖鎚矛なる武器を紹介され、上機嫌で購入したが偽物だったらしい。
武器が偽物だったことと、上機嫌に浮かれておつかい自体を忘れてしまったこと……。またしても自分のポンコツ具合に失望して泣き喚いてしまったことは、また別の話である。




