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殺すの大好きムラヤマさんのスペシャル楽しい殺し屋生活  作者: 天近嘉人
ムラヤマさんとの一日デート券争奪編

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17話 金剛石の聖騎士

 「誰だ、てめぇはよぉ……!」


 今宵は満月。木々の合間を縫って僅かに月明りが差し込む森の中で。立ち塞がる女騎士にパイメロがゆっくりと詰め寄った。


 「…………私はダイヤモンド・パラディン。元王都第七騎士団の師団長にしてこの国の守護者。もっとも、今は訳あって傭兵集団“三義会”の一槍(いっそう)を担っているがな」


 自信と誇りが籠った声色でそう名乗るダイヤモンド・パラディン。そんな彼女の言葉に興味が湧いたパイメロの口角が少し上がった。


 「んで、その騎士様がアタシ達に何の用だ? 悪ぃけどこちとら今勝負中でよぉ、話があるなら後で聞いてやんよ」


「……愚問だな。その勝負とやらを終わらせにきたんだ」

 

そう言って彼女は一歩前へ大きく出る。月光に照らされ彼女の淡い金髪と大きな双丘の上で佇むダイヤモンドが煌めいた。


「貴様らの話は聞いた。何でも“聖剣”の勇者カニーロを葬ったそうだな。それ程までの手練が何故ジョーンズなんぞ小物を狙っているのか分からんが……私にはどうでもいいことだ」


「……」


「私は三義会の一槍、対価を貰えばどんな愚者でも我が君主。騎士として、誇りをかけてその忠義を全うするのみ……!」


「…………」


「さぁ、掛かってくるがいい! 誇り無き殺し屋共よ!! このダイヤモンド・パラディンの名に賭けて、ここから先は何人たりとも通さん!!! 絶対にだ!!!!」


胸の上で輝くダイヤモンドを強く握り締め、ダイヤモンド・パラディンが熱く叫ぶ。そんな中、何故かパイメロは白けた表情を浮かべていたのであった。


「……熱くなってるところ悪ぃけどよ、ちょっと後ろ見てみろよ」


「ふっ何を世迷いごと。騎士たる私が簡単に敵に背を向けるとでも思っているのか?」


「いや、見た方がいいと思うぜ。だってよぉ、もう通っちゃってるんだもん。二人」


「…………は?」


パイメロの指さす方向、つまり自分の後方に思わず振り返ってしまったダイヤモンド・パラディン。彼女の視線にまず入ったのは、自分が守護するべきジョーンズ邸と立派な鉄格子の門である。


そして、その門の方向へスキップしながら進んでいく二人の女の子の姿であった。


「ねぇねぇ、ムーちゃんはかっこいい系と可愛く系だったらぁ、どっちのお洋服の方が好き?」


「うーん、どっちでもいいですねぇ。私、お洋服に全然興味がありませんから」


「だよねー! ムーちゃんならどんなお洋服だってモデルさんみたいに着こなせちゃうもんねー! じゃあさ、苺のショートケーキとチョコレートケーキだったらどっちが好き?」


「それは……どっちも大好きです! ケーキって甘くてふわふわでとっても美味しいんですよねぇ……!」


「だよねー! じゃあさ、今度のデートで二つとも注文しよっか! それでぇ、サティがムーちゃんにアーンって食べさせてあげる!」


「わぁ……! それはとっても楽しみですねぇ! ケーキが二つも食べられるなんて、なんだかお誕生日が二回来たみたいで、とっても嬉しいです!」


まるで、お互いにサイン無視で変化球を投げ合っているかのような、全くもって言葉のキャッチボールになっていない会話で盛り上がりながら邸内へと侵入していくムラヤマとサティ。そんな彼女らを見つめるダイヤモンド・パラディンの背中が何故だか先程よりも小さく見えた。


 「……んで、どうすんだよ騎士様。随分立派に演説こいてた癖によぉ、あっさり通してくれたじゃあねぇか」


 ニンマリと口角を上げながらパイメロが挑発する。彼女の言葉にダイヤモンド・パラディンは体勢を戻し、唇を尖らせながら数秒ほどパイメロを睨みつけた後、場の空気を整えるように咳払いを一つした。


 「……邸内には私の仲間が見回りを行っている。最も信頼出来て確かな実力がある二人だ。後の事は二人に任せるとしよう…………。それに! 貴様の仲間が屋敷に行ったのは私がまだ喋っている最中の話だろうッ!! だから私は何も悪くないッ!!!」


 「いや、ちょっと待て――」


 「――ええい黙れ黙れ!! 私はダイヤモンド・パラディン! 王都の最後の砦にして絶対防壁の聖騎士!! 私は破られていない!! 断固として、破られていないんだッ!!!」


 握力測定のように両拳を強く握りしめ、歯を食いしばり目尻に涙を溜めながら彼女がそう吠えた。誇り高き騎士からその辺のクソガキへと変貌を遂げた彼女を目の当たりにして、パイメロはがっくりと肩を落とし深くため息をついた。


 そんな中、がっくりと肩を落としたせいだろう。目線が幾らか低くなったパイメロは彼女の“ある二点”に目が留まる。彼女が悔しさから身体を震わせている最中、微弱ながらも小刻みに揺れ動くソレをまじまじと眺めながら、今朝サティに言われた“ある言葉”を思い出したのであった。



 「…………おい、知ってっか? 胸がデカい奴は全員馬鹿なんだってよ」


 「…………何だと?」


 「友達(ダチ)がそう言ってたんだよ。胸がデカい奴は胸に栄養全部吸われちまって、頭ン中空っぽなんだってよ。アンタのこと見てりゃあ、あながち間違いでもねぇみてぇだな」


 パイメロが再び繰り出した挑発に、身体の震えを止めて暫く考え込むダイヤモンド・パラディン。


 そして考えがまとまったのか、再度咳払いをし、場の注目を集める。その咳払いは先程よりも大袈裟で濁点が付きそうなものであり、その勢いで彼女の豊満な胸が弾かれたように揺れた。



 「貴様、名前は何と言う?」


 「名前? パイメロだけど」


 「そうか、良い名だな……。私の故郷は王都から数百キロ離れた田舎の農村でな。皆が皆、今日を生きるので精一杯な貧困な村だった」


 「おい! てめぇ何語り始めてんだ――」


 「――そんな田舎の村娘が騎士になるという夢を叶えるのには、まず、王都騎士学校に入校する必要があった。しかし王都に行く路銀もなければ高額な学費を払える術もない。残された道はただ一つ、学費も寮費も全額免除になる推薦入校のみだったのだ……!!」


 「んなこと知るか!! アタシの話を聞きやがれ――」


 「――畑仕事をしていたお陰で体力には自信があった。後は学力のみ。推薦という狭き門を突破するために昼は仕事、夜は勉学と並々ならぬ努力を行ってきた……。その結果、私は合格出来た! 無事、騎士になれることが出来たのだッ!! パイメロッ!! 貴様にこの意味が分かるかッ!!!」


 「てめぇッ!! てめぇッ!!!」


 「私は馬鹿ではないということだッ!!! 私は馬鹿ではないッ!!! 私はッ!! 断じて馬鹿ではないんだッ!!!!!」



 そう叫び、ダイヤモンド・パラディンはぶら下げてあるダイヤモンドを強く握りしめる。彼女に呼応するかの如く、手の中のダイヤモンドが白く発光し始めた。




 「――絶対鉄壁の宝鎧よ! 我が身に纏え!! “聖鎧(せいがい)”、展開ッ!!!」



 白い光が瞬く間に彼女の全身を包み、徐々に消えていく。光が完全に収束した場所に立っていたのは、紛うことなき騎士だった。


 白を基調とした重厚な鎧、彼女の身長程長く円錐状に尖った騎槍(ランス)、そして、彼女の思いをそのまま具現化したかのような、大きな盾を構えていたのであった。



 「来い、パイメロッ!! 私の“誇り”に賭けて、私を馬鹿にした貴様だけは必ず討つッ!!」


 騎槍と盾をパイメロに向け、ダイヤモンド・パラディンは戦闘態勢に入る。色々あったが、凛々しく気高く誇り高きその姿を前に、パイメロは不敵な笑みを浮かべる。


 「正直、てめぇみてぇな馬鹿は嫌いじゃねぇ……。けどよぉ……! “誇り”を賭けた決闘なら、話は別だよなぁ……!!」


 そう言って身体を半身にして、重心を少し低くした後、その場で大きく脚を上げる。その脚はムラヤマにとってのナイフ、ダイヤモンド・パラディンにとっての騎槍のような、そんな雰囲気(オーラ)を放っていた。



 「上等だッ!! アタシの誇り()が、てめぇの誇り()をぶっ潰してやんよッ!!!」


 パイメロが足を地面に付ける。すると地震でも起きたかのような、圧倒的威圧感が辺り一面に響き渡った。




 ――今宵は満月。その月光が木漏れ日のように降りしきる森の中で。騎士と戦士の誇りを賭けた決闘が今、始まろうとしていたのであった。

プロフィール



三義会

ゴットオブ功夫がリーダーを務め、糸使いリベルラとダイヤモンド・パラディンで構成された傭兵組織。その実力は王都でもトップクラスを誇っているが、超高額な雇用料を請求してくる。

私利私欲の為ではなく、貧困層への寄付などに使っているという噂もあり、本人達は王都の平凡な一軒家で共に暮らしているのだとか……。





ダイヤモンド・パラディン

元王都第七騎士団の師団長。王への忠誠心も厚く、仲間からも信頼を置かれていた立派な騎士であったが、うっかり騎士免許の更新を忘れてしまい免許取り消し、職を失ってしまった過去を持つ。


その後、バイトで日銭を稼いでいたが、生来のポンコツ属性のせいで全く役に立たず即日クビになってしまう。そんな生活を繰り返し、公園のベンチで泣き散らかしていたある日、ゴットオブ功夫にスカウトされた。


王都と同じく、自分の故郷も大切に思っており、報酬の大半は寄付している。たまに故郷の方言や訛りが出てしまい、恥ずかしいらしい。因みに両親や村の皆は今でも立派な騎士として働いていると思っている。


三義会の二人のことを家族同然だと思っている為、風呂上りなんかは平然と裸でいるらしい。

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