15話 傭兵集団“三義会”
「まだ犯人が見つからないだと!? 何をやっているんだこの無能がッ!!」
【王都公正平和党】の代表、ウィル・ジョーンズの別荘にて。彼の書斎からはとても政治家とは思えない罵声が轟き、秘書である女が短い悲鳴をあげた。
「いいか!? 私の命が狙われているかもしれないんだぞ!! 王都の未来を担う逸材であるこの私のだ!! 分かっているのか!!!」
「も、申し訳ございません!! 現在探偵や追跡魔法のプロを雇って調査組織を作り、情報収集をしている最中だったのですが……」
「ですがとは何だ!? ハッキリと答えろっ!!」
「ですが、その……。その、ええっと……。あ、あぅ……」
「だから“ですが”とは何なんだ!! “あぅ……”ってどういうことだ!! 貴様、それでも私の秘書かっ!!!」
ジョーンズの容赦ない罵声に秘書の顔が悲しみとストレスでどんどんと歪んでいく。そして溜まりに溜まった涙が一滴の雫になって、彼女のシャープな顎を伝い床に落ちた。
「ちょ、調査部隊みんな殺されちゃいましたぁ!!! 朝目が覚めたら、お家の玄関にみんなの“目”が落ちててぇ、あぅううううう!!! ごめんなさぁいいいいい!!!!!」
そう言って秘書は泣き崩れてしまい、あうあうと泣き喚いてしまう。ジョーンズはそんな全くもって使えない女に大きな舌打ちを一つしてから、上物の葉巻に火を付けた。
何故自分がこんな目に遭わなくてはいけないのか。消えゆく紫煙を眺めながらジョーンズは考える。
元はといえばカニーロなんかと組んだの間違いだったのだ。奴が欲しがっていた政治家への切符を餌に、表では大衆に慕われる聖剣の勇者として党の広告塔に、そして裏では野望の為なら殺人すら厭わないその残忍性を利用し、頭の固い老害や、自らを正義だと勘違いし歯向かってきた政治家達を次々と始末させていた。
カニーロは自分を聖剣の勇者だと勘違いしていたが、実際は自分の剣に過ぎなかったのである。力の象徴として群衆の前では天高く掲げ、敵の前では容赦なく振り下ろす。刃こぼれすればもう用無し、直ぐに廃棄すればよい。
しかし所詮は中流貴族。自分のような、極めて一流の人間が扱う剣としては凡作の一つに過ぎなかったのである。
「ひぐ……うぅ……! もうお仕事やめる……! お家帰るぅ……!! でもまだ玄関片付けてなくってぇ……! あうっあぅうううう!!!」
「ええい!! やかましい!!! この無能がッ!!!」
あうあうと泣き止まない秘書に堪忍袋の緒が切れたジョーンズは、怒り任せに灰皿を手に取り彼女に投げつけようとした。
この女だってそうだ。学歴と顔だけは優秀だが、実際はこの様である。
やはり一流の人間の傍には一流の人間を置くべきなのだ。特に、近い将来この国を首相になるべき人物である自分のような超一流の人間には、それ相応の人材が必要で――。
「――やれやれ、我々を従える閣下が、可愛い淑女に手を上げるとは。いただけませんなぁ、閣下」
後寸での所で灰皿が手から離れようとした時、突然ふと男の声が聞こえてきて、ジョーンズの腕がまるで何かに捕まり身動きが出来なくなったかのように動かなくなった。
慌てたジョーンズが、四方八方に目線を配り声の主を探す。すると書斎の隅に神々しさすら感じる白いチャンパオを身にまとった老年の男が、長い袖の中で腕を組み、壁に背を預けていた。
「――失礼します。閣下」
そんな男の登場を合図にしたかのようにこの国の常識である二度のノックと共に二人の女が入室してきた。
一人は入室時の声と同様に顔立ちも凛々しい長身の女だ。彼女はジョーンズの前で片膝をつき、まるで忠誠を誓う騎士の様な立ち振る舞いを取った。
そしてもう一人、フード付きの黒いローブを着た女が右手をジョーンズの方へとかざしながら入ってきた。彼女の指には“糸”が巻き付いており、ソレがジョーンズの腕を拘束していたのである。
「リベルラ、その辺で勘弁してあげなさい。閣下は今後、その敏腕を振るい政界を担うおつもりなのだ。振るう腕が無ければ格好もつかんだろう」
男の声に渋々承諾したリベルラは、ため息を一つ吐いた後ゆっくりと右手を下ろし、両手をローブのポケットに突っ込んだ。解放されたジョーンズは腕を大切そうに擦りながら、異様な雰囲気を漂わせる三人を睨みつける。
「……いいか、貴様らを雇ったのはこの私だ。党の年間予算半分を費やしてまで雇ったんだぞ!! 貴様らはそれに値する働きが出来るんだろうな!?」
「――お任せを。どんな愚者でも雇われた以上、我が君主。閣下の安全は私、ダイヤモンド・パラディンが誇りをかけて護り抜きましょう」
片肘を付いた女、ダイヤモンド・パラディンが今一度頭を下げる。それと同時に彼女の大きな胸の谷間にちょこんと乗っかっていた金剛石のネックレスが滑り落ちた。
「ま、アンタの命なんてどうでもいいんだけど、金を貰っている以上はそれ相応に働いてあげる……。それに、私は“殺し屋”を絶対に許さないから……」
続いてリベルラがそう言った後でジョーンズの方をじっくりと見つめる。フードで顔が隠れているため表情こそ読み取れないが、赤い瞳の鋭い眼光は、何かとてつもない感情を抱いているのであろうと察することが出来る。
「こらこら二人とも、本音が漏れてしまってるぞ。我々は雇われの身、どんな小者であれ雇用期間内であれば最大限の敬意を持って接しなくてはいかんだろう」
そう言って男は二人の前に移動し、拳と掌を突き合わせて雇い主であるジョーンズに深々と一礼をする。
「ご安心下され閣下。閣下の安心と安全はダイヤモンド・パラディン、糸使いのリベルラ、そして私、ゴットオブ功夫を要する我々三義会が必ずやお約束いたしましょう」
プロフィール
ウィル・ジョーンズ
王都公正平和党の代表。表では善人面をしているが、裏では色々汚いことをしている典型的な小悪党オジ。
最近、威厳を増す為に葉巻を吸い始めたのだが、煙が濃いし、味も変だし、何処まで吸っていいのか分からないので、吸い始めたことを後悔しているらしい。
ジョーンズの秘書
沢山あうあう泣いちゃって可哀そうな女。
ここ最近、長身イケメンの銀髪ウルフカットな彼女が出来た。
えっちも上手く、聞き上手だったため、ジョーンズの悪口や、カニーロが死んで焦り散らかしていること、そのせいでまた仕事が増えたことを愚痴ってしまっていたらしい。
毎朝彼女の為にコーヒーとトーストを用意するのを日常生活のささやかな楽しみにしていたらしい。
先生
ムラヤマ達にはルールがどうのこうのと厳しいが、自分は結構ズボラでルーズな所がある。例えば、よく寝坊や遅刻もするし、脱いだ服もその辺に脱ぎっぱなしにするし、玄関に物を置きっぱなしにして放置or忘れることもしばしばあるとか……。




