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殺すの大好きムラヤマさんのスペシャル楽しい殺し屋生活  作者: 天近嘉人
ムラヤマさんとの一日デート券争奪編

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14/19

14話 にゃんにゃん可愛いネコムラさんと新しいお仕事

 「…………苦いな。全然駄目だ」


 ハニーガールズの応接間。時計の長針のようにスラリと伸びた足を組み、新聞の朝刊に目を通しながらコーヒーを啜るウルフカットの女が一言そう呟いた。


 「さっき食べたトーストも焦げた所が多くて苦かったな。パイメロはもっと料理を覚えた方がいい。今のままでは良いお嫁さんになれないぞ」


 そう言って新聞から視線を外し、対面する形で座っている三人の方を横目で見る女。視線の先にはまるで苦虫を潰したかのように口を開けげんなりとした表情のパイメロ。目頭から染み出す涙をレース付きのハンカチで拭いながら、しくしくと泣くサティ。そしてサティの膝の上でスヤスヤと寝息を立てるムラヤマの姿があった。


 「そんなに文句があるならよぉ、アタシじゃなくてアンタが自分で作ればいいだろうが、先生」


 パイメロがそう悪態をつくが先生と呼ばれた女は一切動じることなく、再び新聞へと視線を戻した。


 「……私は自分でコーヒーを淹れたことが無い。今まで全部“私の女”がやってくれたからな。私の大きめのシャツを着て、昨晩のことを思い出しながら、恥ずかしそうに、幸せそうにコーヒーを差し出してくるんだ……。朝から優越感に浸れて凄く良い気分になれる」


 多感な時期の女の子達を前に平然とそんな事を言ってのけた先生は、何事も無かったかのように次のページをペラリと捲る。唯一ソレを聞いていたパイメロが、赤らめた頬を整えるかのようにワザとらしく大きな咳ばらいを一つして。


 「で、何時になったらこの状況を説明してくれるんだよ。朝から色々ありすぎて訳分かんねぇんだけど?」

 

パイメロがそう問い出すのも当然であろう。朝からサティにボロクソ言われ、事の発端であるムラヤマが猫柄のセクシーな衣装に身を包み、米俵のように担がれてきて、先生に朝食を用意した挙句、またしたもボロクソに言われてしまったのだから。


 「そうだよ! ムーちゃんをこんな酷い目に遭わせるなんて、サティ、納得出来ないっ!」


二人の問い掛けに先生は覇気のない空返事を一つ返し、暫し新聞の一面を凝視しながら熟考した後で、新聞を閉じ三人の方を見つめる。


「……シューコのせいで急遽余計な仕事が出来た」


「……は?」


 またしても唐突に告げられた出来事に、二人は首を傾げながらムラヤマの方に顔をやる。当の本人はまるで母猫の腹に顔を埋める子猫の様に寝腐ったままである。


 「一昨日シューコが聖剣の勇者を殺しただろう? どうやらそいつ、何かと面倒な奴と繋がりがあったらしい」


 そう言って先生は一枚の写真を鞄から取り出し、小机の上に放り投げる。そこに映っていたのはスーツも髪型もキッチリとした壮年の男が強い志を秘めた眼差しで力強く握りこぶしをかかげるポーズを決めている物であった。


 「ウィル・ジョーンズ議員。近年政界で頭角を現している【王都公正平和党】の代表だ。王都の国民全てに公正な平和を謳っているが、実際には己の欲に溺れた単なる屑、カニーロには党の副代表のポスト確約を餌に、邪魔する政敵を始末させていたそうだ」


 「…………で、カニーロが殺られてその犯人捜しに必死ってわけか?」


 「そうだ。流石パイメロ、賢いな」


 先生の素っ気ない誉め言葉に、パイメロの頬が僅かに緩む。


 「へぇ、よく分かったね。語彙力はおっぱいに吸われたのに、まだ考える頭は残ってたんだぁ」


 「うるせぇ! てめぇは真面目に話を聞きやがれっ!」


 その頬が緩んだもの一瞬、サティの茶々に機嫌を損ねた彼女はムスっとした顔で先生の方を再び向いた。サティはといえばとっくの間に話を聞くのには飽きており、彼女の膝まくらでぐっすり眠るムラヤマの髪を優しく撫で下ろしていた。


 「……つかよぉ先生。何でその政治家はもう犯人捜しを始めてんだ? 仕事が終わったらキッチリ“綺麗”にして帰るのがウチのルールだろ?」


 そう、殺し屋ハニーガールズには先生が設けた幾つかの厳格なルールがある。その中の一つに抹殺後の死体は必ず隠ぺいすることや現場は可能な限り修繕することがルール付けされているのだ。


 パイメロが言っているのはこのルールに則って隠蔽工作を行っているのにも関わらず、何故カニーロが殺されたと断定され、犯人捜しまで始まっているのかということである。明らかに行動が早すぎるのだ。


 例えばカニーロが殺された場面を目撃した人物、あるいは生き残りがいて、その人物達がジョーンズに告げたのなら話は分かるのだが、ムラヤマという悪魔(にんげん)の素性を少なからず知っているからこそ、その線は絶対にありえない。カニーロが黄泉の国から復活したというオカルトめいた話の方がまだ納得が出来るだろう。


 自分だけは真面目に話をきかなくてはならないという責任感と、先生に先程賢いと褒められたのがほんのちょっぴり、少しだけ嬉しかったので、パイメロは大きすぎる胸を支えるように腕を組み、考え込む。


そんな思考丸出しの行動と、腕を組んだお陰でより強調された双丘をまじまじと堪能しながら、先生は口に合わないコーヒーを再度一口啜った。


「……パイメロはやっぱり馬鹿だな。だけど、そこが可愛いところでもある」


「はぁ!? どういう意味だよソレ!」


「シューコのせいで余計な仕事が増えたと言っただろう? なら答えは簡単だ。カニーロ達の死体をシューコが“お片付け”し忘れたんだよ」


先生があっさりと告げた衝撃的な真実に、大きな口をぽっかりと開けて唖然とするパイメロ。


 「昨晩はその件で呼び出したんだがな、シューコのやつ、何を勘違いしたのかニコニコ笑いながら玩具をいっぱい持ってきて来たんだ。だから一晩中“私の玩具”でお仕置きをしてやったところだ……。おい、シューコ。ちゃんと反省しているか?」


 またしてもあっさりトンデモ発言を告げた先生が、余裕のある大人の冷ややかな視線でムラヤマを見つめる。二人もその視線を辿るように、今回の騒動の元凶である彼女を見つめて、どんな言葉を吐くのかを待った。


 そして――。


 「――ごめんなさぁい。いっぱい反省してるので、許してくださいにゃんっ」


 むにゃむにゃとそんな戯言を呟いたムラヤマは、そのまま起き上がることはなくサティの華奢な太ももの上で再び夢の世界へと帰ってしまった。


 「いや許すか! てめぇ! ちゃんと起きて皆に謝りやがれ!!」


 流石に我慢できなかったパイメロが勢いよく飛び上がってから言った。


 「やーん! 猫ちゃんムーちゃんだぁ! 可愛い!! そんな可愛い謝り方されたら、サティ、何でも許しちゃう!」


 「てめぇも甘やかしてんじゃねぇ! そこで狸寝入りかましてる馬鹿早く起こせよ!!」


 「……にゃんにゃん、狸さんじゃなくて、猫さん寝入りですにゃん」


 「ムーちゃんかっわいいー! サティも一緒に猫ちゃんになろーっと! にゃんにゃんっサティにゃんだにゃーん」


 両手を頬の位置まで上げて、あざとく猫のポーズを取りながらサティが言った。その後も謎の“にゃんにゃん言葉”で楽しそうにやり取りするムラヤマとサティを尻目に、最早怒る気力も無くなってしまったパイメロはドカっとソファーに座り込み大きなため息をつく。


 「なんだ、パイメロも一緒に混ざって遊ばないのか?」


 二人の全くもって緊張感の無いやり取りにげんなりしているパイメロ。それに追い打ちをかけるように先生が言った。


 「……なんだよ先生まで。アタシは真面目に仕事の話してぇんだよ。それに、アタシが猫の真似したって、その、別に可愛くねぇだろ……」


 「そんなことは無いだろう。パイメロは自分が思っている以上に魅力的な、とても可愛い女性だと私は思っている。もっと自分を“誇って”いい」


 普段の言動や行動から表には出せないが、心の底では尊敬している大人の女性から送られた最大限の賛辞に、パイメロは頬を染めながらも素っ気なく顔を逸らした。


 そんな素直になれない年頃の女の子と、二人だけの世界で遊ぶ女の子達を見ながら、ソレを肴にするかのように先生はゆっくりとコーヒーを飲み干すのであった。


 「さて、遊びはこの辺にして、仕事の内容をまとめるぞ」


 マグカップがソーサーに置かれた音、そして感情が読めない先生の、先程より幾分温度が冷えた話し声にムラヤマ以外の二人は先生の方へと顔を向けた。


 「今回の標的は【王都公正平和党】の代表ウィル・ジョーンズ議員。決行は今夜、場所はここから半日ほど掛かる場所にある奴の別荘地だ。出発する手配をしてあるから、この後直ぐに準備するように」


 「……先生、一つ質問いいですかぁ?」


 話を聞く気すら無かった筈のムラヤマがおもむろに手を上げだし先生に尋ねる。


 「ジョーンズさんって、絶対に“一人でかくれんぼ”してないじゃないですかぁ。もし他の人に見つかっちゃったりとか、悪ーい人に襲われちゃった時はどうすればいいですかぁ?」


 ムラヤマのそんな質問に、先生は特段リアクションなどをせずに黙って彼女を見つめる。先生は分かっているのだ。これは“質問”ではなく“許可取り”だということを。


 「……今更そんなことを聞くな。目撃者は一人残らず殺せ」


 まだ僅かに残っていた明るく楽しい雰囲気を先生が言葉のナイフで殺す。パイメロが心の中で静かに闘志を燃やし始め、サティがサディスティックに口角をあげる。


 そしてサティの膝枕の上で、今夜も楽しそうな出来事が始まる予感を感じながら、ムラヤマは深淵の闇を思わせるような、そんなニコニコ笑顔を浮かべたのであった。


 「話はこれで以上だ。三人とも今すぐ着替えて準備するように……。勿論、お片付けも忘れるんじゃないぞ。特にシューコ、次忘れて帰ってきたら昨晩より“もっと凄いこと”するからな。返事は?」


 「はぁい、分かりましたぁ。お片付けもちゃんとやって、今回もスペシャル楽しくお仕事頑張りますよぉ」


 何時も通りヘラヘラした口調でムラヤマが言った。その言葉で納得した先生が、用意されたナフキンで口元を拭い、徐に席を立つ。そしてもう一度三人の表情をゆっくりと見渡した。


 「以上で話は終わりだ。これから直ぐ出発だから皆急いで準備するように……。今日もいっぱい、仲良く楽しく(あそ)んでおいで。私の可愛い子猫達」

プロフィール


先生

殺し屋ハニーガールズのオーナー兼仲介役。大人なミステリアスさがあるとっても格好いい女性。年齢は不詳。

可愛い女の子がとっても大好き。そういうお店にもよく行くらしい。ハニーガールズ王都店と命名したのもそういうお店からインスピレーションを受けたから。

以前、フリー指名で担当してくれた女の子が知り合いの娘だったと発覚。流石にチェンジして貰おうか五秒ほど長考を重ねに重ねた結果、祖母、母、娘、三世代と身体を重ねるという偉業を達成したらしい。

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