「メイドゴーレムとお嬢様の旅」
自分は高性能メイドゴーレム。
お嬢様を守護し、世話をするために作られました。
受けた命令をこなすだけの通常のゴーレムとは違い、自己判断で動き、学習する機能があります。
また、呪いにより変異した魔物からお嬢様を守るために、高級な金属の骨格を有しており、しかし、お嬢様を怪我をさせないために柔らかな肌を装備しております。
もちろん、お嬢様を怖がらせないために風貌も女性のものです。
そして、外付けの兵器を装備すれば竜にすら負けることはありません。
魔法塔の影響により呪いが浸透し、限られた区画――エレボスポリスの裕福層。
その屋敷にお嬢様と二人に住んでおります。
魔法塔が暴走を起こし呪いにより人が住める地域は年々減ってますが、付近の地域はまだ安全が確保されております。
たまに死体や生物が変異して襲ってくるのが危険なぐらいでしょう。
そして、自分の役割はお嬢様の世話。
0歳の首が座ってない時期は、首に気を付けながら夜泣きに対処。
1歳の時期は好奇心旺盛に走り回るお嬢様のあとをついてゆきました。
2歳になると魔法に適正を示したお嬢様が、様々な魔法を使うので、その後始末に襲われました。
7歳の時期に、街中で豚が変異暴走し、お嬢様が襲われました。間一髪で自分が間に合い、守り切ることに成功しました。
そのとき、負った傷にお嬢様は絆創膏を張ってくれました。
自分はゴーレムなので部品の交換をしないと意味がないのですが……。
それと前後し、お嬢様は呪いに倒れ、看病の日々が続きました。
ゴーレムのように部品を交換できれば楽になおるのですけどね……。
でも、この絆創膏は不思議とはがすことができませんでした。
時は過ぎ去り、10歳の時、呪いを鎮めることに成功し、お嬢様は回復なされました。
回復したといっても、呪いを封じ込めただけのもの。いつ再発するかはわかりません。
そして、お嬢様は回復した後、旦那様に懇願し、呪いについて研究し始めました。
自身を蝕む呪いと格闘し、時間を稼ぎなら10年、ついに塔の暴走を鎮める方法を編み出しました。
反対する旦那様を説得し、学会を納得させ、冒険者たちを雇い、塔へと向かう日がやってきました。
「いっしょに来てくれるって思ってた」
「お嬢様を守護するのが自分の仕事ですので」
「……ありがとう」
そして、変異した魔物を倒し、襲ってくる森を乗り越え、呪に蝕まれ、一人、また一人倒れながら、私たちは塔へと昇っていきます。
残ったのは自分とお嬢様の二人。
そして、塔までたどり着き、門を閉める寸前にお嬢様は腹部に攻撃を受けてしまいました。
「お嬢様」
「……あと、少し、少しだけでいいの。あたしを生かして」
「お嬢様、しかし……」
「黙ってたけど、この儀式を成功させるには生贄がいるの。それはあたしが担うの。だから、あと少しだけ生かして……!」
「存じました」
お嬢様の望む通りに応急処置を施し、自分とお嬢様は塔の最上階を目指します。
「……最後、ね」
「ええ」
「あなた、小さいころからいっつも不愛想ね」
「感情を抱くようには作られていませんので」
「それなら、……どうして、……小さいころにつけた絆創膏、いまもつけてるのかしら……」
「それは……」
自分でも答えられませんでした。
理由は思い当たりません。たしかに絆創膏を自身につける必要はありませんね。
でも、自分はお嬢様に絆創膏を付けてもらった位置に絆創膏を張り替えなおしています。
その理由は……何でしょう。
ただ、はがしたくないと思ってることだけは確かですが。
「もう、少し、ね」
「ええ、ですから、お嬢様。もう少しだけ辛抱してください」
いずれにしろ旅の終わりはあと少し。
お嬢様、あなたの命を無駄になんてさせません。
どうか、どうか……誰か、お嬢様を間に合わせてください。
お嬢様が命をきちんと使えるように、自分は初めて天に祈るのでした。