二丁目はおぼろ豆腐
邦彦さんはストイックな“プロの独身”を続ける為、私は母の“小蠅の様にウルサイ”愚痴を追い払う為に……私達、表向きは順調なお付き合いをしている。
実際は良きメシ友、呑み友ではあるので……週末のデートは専らお互いのオススメや新規開拓に終始した。
話してみると邦彦さんはなかなかの物知りで……決して雄弁では無いけど、その訥々とした語りの中にきらっと光るものがある。
そう!まるで砂金探しみたいな感じ!!
こちらから言葉を投げてそのレスポンスで返って来た言葉達をざっざっと篩に掛け、拾い上げた言葉を磨いてまた投げ返す……このキャッチボールを美味しい食事やお酒を楽しみながらするのだから楽しくない訳は無い!
「男子とこんな関係を築けるなんて思ってもみなかった!」って悪友の珠美に話したら「アンタが今まで正常な男女関係を築けなかっただけだ」と言い放たれた。
「いや、それは違う! 第一、邦彦さんの方だってプロの独身なんだから!」と言い返しはしたんだけどね……
だけど……
う~ん……
なんて考えていると次の週末が来てしまった。
今週末は邦彦さんのオススメの加賀料理のお店だから楽しみにしていたのだけど……お月さんが不順かつ重くてずっとシクシクが取れなかった。
でも絶対外したくなかったので、やっちゃいけない薬の重ね飲みまでして出掛けたのだけど……食事の途中で我慢できなくなって急用が出来たと偽って店を出て、タクシー乗り場まで辿り着いたところで坂道を転げ落ちる様に急激に具合が悪くなって、その場にへたりこんでしまった。
こんな事!今までに無かったのに!!
いや、一度あった!
大学時代、合コンで……
あの時は、私を助け起こしたヤツに水を飲まされたら更に前後不覚になって……次に気が付いた時にはこの身が飛んでもない事になっていた……
「陽子さん!大丈夫?!」
邦彦さんからいきなり声を掛けられ、私は“上げられない声を上げ”反射的に路上を転げ回った。あの時のトラウマで……
斯様に悲惨な私を抱きかかえた邦彦さんの腕から逃れようと私はウナギの様に身をくねらせたが……それはある意味、彼にとって非常に申し訳ない事をしたと今は思う……
それだけでは無い!
“この種の事”は本当に未経験だった彼に1から100まで指図して、私はラブホのベッドの上に身を横たえた。
この自分の“痛さ”が情けなくて悲しくて……一人天井を見つめている眼から涙が溢れた。
「備え付けのタオルでごめんね」
そう言いながら邦彦さんがタオルを当ててくれて……私はそれに顔を埋めて大泣きした。
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随分と時間が経ってから、私は向うのソファーで固まっている邦彦さんに声を掛けた。
「今日は本当にごめんなさい。私のエゴで台無しにしてしまって」
「そんな事!気にしないで! それより具合は?」
「だいぶ楽になったから……邦彦さん!お風呂入って! せっかくあるんだし」
「いいよ! 男が入った後のお風呂に入るのは陽子さんが嫌だろう?」
「私は……まだちょっと動けないから先に入って……ベッド半分空けるからお風呂上がったら寝てください。汚い私が隣に陣取っていて申し訳ないけど……」
「陽子さんは汚くなんかないよ!」
邦彦さんの声が思いの外、大きかったので……私は天邪鬼的に悲しくなった。
「私は内も外も汚いよ」
「そんな事、ないよ!」
邦彦さんからこう言われて私はますます自虐的になる。
「綺麗なんて有り得ないんだから!! 今日具合が悪かったのだって元はお月様の機嫌が悪かったから!!邦彦さんには関係ない事だけどね!!」
ああ言ってしまった!!
私ってホント!どうしようもない!!
でも!!
それなのに……
項垂れた邦彦さんは私の傍に来て土下座をした。
「僕は唐変木で……そのデリカシーの無さで陽子さんを傷付けてしまった。本当に本当に申し訳ございません。こんなヤツが居ては、あなたの為にはなりません!どうかどうか、あなたの方から正式に断ってください! 理由は……『酔ったあなたを無理やりラブホに連れ込んだ』という事で……」
この瞬間、私は私の中の本当の気持ちに気付いてしまった!!
今日、どうしても行きたかったのは加賀料理の為じゃない!!
いつも温かな優しい瞳を向けてくれる邦彦さんに逢いたかったからなんだ!!
体の中が暖かくなって……私は身を起こせた。慌てて介助しようとした邦彦さんに確信犯的に抱き付く!
考えてみれば……条件は整っている!!
夜はまだこれから!
二人しておぼろ豆腐のようなお布団へ潜り込む為の考えを巡らせよう!!♡
おしまい!(*^^)v
今日は本当にネタが無くて……「じゃあ私の書いたのから何か持ってくれば」と黒姉からアドバイスをもらってどうにか書けました(^^;)
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