9:ユーシャ様は、無自覚キューピッド!?☆☆
ヴァンのアオハル回(笑)
◇◇◇◇からオーツレント視点
※シアの翻訳がない時は、「ワン!」としか書かれません。そういった回は後書きに字幕スーパーを記載してありますので、気になる方はどうぞ(^^)b
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飲み水としての複雑さはあれど、浄化された森の中だけあって、とても気持ちが良い
少し長めの休憩を取り、浄化された池がすぐにまた瘴気に侵されることはないのかなど…まぁこの辺りは後ほど研究チームが調べるので、こじつけではありますが、池のそばで昼食をとる事にしました。
宿に前日注文していたお弁当です。私は皆様とは立場が違うので『パンのみで結構です』と伝えたのですが、どうやらゼニゲバ様が気遣って下さったようで、皆さんと同じものを頂けることになりました。
蓋を開けてみれば胃がビックリしてしまいそうなほど、おかずが入っていますよ!?絶対に食べきれないと思うのに、オツカレ様とヴァンはこれを2セット食べるそうです。すごいと言うよりも、食費の方が気になってしまうのは貧乏故の性ですよね……
もちろんユーシャ様用にもご用意しています。塩抜きした干し肉と茹で野菜を混ぜたものにしてみました。カリカリしたものが欲しいようなので、固いパンも砕いて混ぜてありますよ。
いつものお皿に入れ、地面に置こうかと思いましたが、湧き水を近くで見張るとなると周辺は少し湿り気が多く、ユーシャ様にここで食べて頂くには少々憚られます。かといって私達の座る倒木の上に立たせるにも、平面ではない為、安定はしません。
ここは私は後からで食べるとして、まずはユーシャ様を私が抱えて食べさせようかしら……そう考えたところでヴァンから声を掛けられました。
「シア、ここじゃユーシャ様の足も汚れてしまうし、食べにくいだろ?男の俺の膝の上ならユーシャ様くらいのサイズ、それなりに安定するんじゃないか?」
「私の上に乗せようと思っていたのだけど、確かにヴァンの方がユーシャ様も安心よね。お願いしてもいいかしら?急いで準備するわね」
ヴァンは家系なのか三兄弟とも背が高いらしい。足が少し不自由になった後でもきちんと訓練や自主トレを行っていると言っていただけあって、がっしりとした体形をしている。出会った頃はまだほっそりしていたと思うのだけど。
出会った頃と言えば、藍色の髪は以前は短髪だったけど、今は襟足の方だけ伸ばしていている。理由を聞いたら『願掛けなんだ』と言っていた。多分、薄給になって頻繁には切れなくなったのだろうなと密かに思っている。
私も伸びてくる髪が煩わしくて、以前『ナイフでも借りて切ろうかしら』と言ったらもの凄く怒られた。『髪を結べばいい』と言われて、ヴァンの使っている予備の髪紐を分けてもらい、夏場は特に重宝している。魔術師の服にも違和感なく馴染む藍色の髪紐は使い勝手も良いのでお気に入りだ。
食事の時に髪の毛が入ってはいけないので、いつものようにポケットから愛用の髪紐を出しサッと簡単に結ぶ。
「はい、準備できたわ。じゃあ、私がユーシャ様のおかずを手に乗せればいいわよね」
少々食べ辛くはあるだろうけど、ヴァンもお弁当を食べれるだろう。そう思ってのことだったのに、ヴァンからは『しなくていい』と返された。
「ユーシャ様が落ちないように、俺が片手で支えて、片手はユーシャ様の皿を持ってやればすむだろ?」
「それはそうだけど、そうしたらヴァンが食べられないじゃない」
「あー…それなら俺のはシアが食べさせてくれよ。お前も食べながらゆっくりでいいからさ」
「えっ!?私が?別に構わないけど、いいの?私なんかで……」
普段から真顔で読み辛いヴァンの表情は、私が失言した時にはわかりやすく眉間にシワが寄る。どちらかといえば、自分のペースで食べれないことや、食べさせてもらう相手が私でいいのかな?とヴァンを思ってのことだったのだけど、どうやら何か間違っているらしい。
「私なんかってどういう意味だ?両手が塞がるから食べさせてもらうのに、団長から食べさせてもらう方がおかしいだろ?」
「あ……それもそうよね。都合上だもの、確かにゼニール様やオーツレント様にやって頂くわけにはいかないのに。変なことを言ってごめんね」
「ワン、ワン、ワン!!」
≪おい、いい加減そのエサくれよ~どこに置くつもりなんだよ!腹減った、腹減ったぞー!!≫
ユーシャ様も緊張がほぐれて一気にお腹が空いたのでしょう。私の腕をガリガリ掻きながら、早く欲しいと催促しています。迷っている場合ではないので、足をサッと拭いて、ヴァンに託しました。
≪はぐはぐはぐ……うまー!!≫
「なぁ、ユーシャ様は浄化後はなにかパワーを消費するのか?いい食べっぷりだよな……あ、シアその肉巻きを次はくれ」
「どうなのかしら?食欲は基本的にいつもあると思うけど……はい。え、丸々一個口に入るの?あっほら…やっぱりタレが口の周りについちゃったじゃない!こっちを向いて、拭いてあげるから」
ゆっくりペースだからか一回の口に入れる量が私の三倍はあるのだけど、この肉巻きは一口で食べれられるサイズではない。『ごめん』と言いつつも、相当美味しいのか相好を崩して食べていた。
(ふふ、中々食べられない豪華なお弁当だもの当然よね)
「んー…サンキュ。何も役に立ってないけど、腹が減ってたからさ。あ、シア、お前は脂っこいの苦手だろ?さっき食べた蒸しエビは中々うまかったから、それと交換するか?」
「よく覚えていたわね。そうなの、滅多に食べない脂身豊富なものは胃がびっくりしやすいのよ。ヴァンは逆にお肉をたくさん食べれた方がいいわよね。遠慮なく交換させてもらうわ!」
実は一番最後に食べようと思っていた大きな蒸しエビ!こんなに大きなエビをお弁当で食べられるだなんて……贅沢!!『一口食べてみろよ』と言われ、交換した蒸しエビを食べてみる。
「んん~~!?わぁ!うわぁぁ!!ホントに美味しい~!!」
「ハハハ、良かったな。エビはシアの好物だもんな」
ヴァンは少しの間 食べるのを止めて『そっちも美味かったぞ』と言い、自分のオススメを私に食べさせ、その様子をずっと眺めていた。
結局、元々お弁当丸々一個は食べれない私の残りも含めて、全てヴァンが食べあげた。
ユーシャ様もヴァンも揃ってお腹一杯で満足そう
◇◇◇◇
傍から見れば、世話の焼ける亭主に甲斐甲斐しく食べさせている妻と、そんな妻に普通に接しているようで、実は内心嬉しくてたまらない夫という、新婚夫婦の図が出来上がっていた。
一応メンバーは他にも二人いると言うことを、彼らは忘れているのでは?と思っているイケオジとお爺さんは、大人の気遣いからそっと気配を消していた。なんなら気にしないように防音まで掛けている。
「ゼニール殿、あの二人は……そうだったのですか?」
「いや、あれはどう見ても一方通行じゃろうて」
食後も、ユーシャ様の口元を拭いやすいようにヴァンが前抱きにし、シアが拭う。まるで二人の子供をお世話しているようにも見えなくも……ない。
そして二人が手を洗って来る間だけ……とユーシャ様(仮想ひ孫)を預かるゼニール(仮想お爺さん)とオーツレント(仮想近所のイケオジ)の視線の先では―…
「わっ!ここの湧き水、冷たーい!!えいっ!」
「うわっ!冷たっ!なにすんだよ、お返しだ!」
蚊帳の外である二人からは、初々しいカップルが水を掛け合い、キャッキャウフフしているようにしか見えない。
「キャッ!!私はそこまで掛けてないじゃない!」
「ごめん、ごめん。今、顔を拭いてやるよ」
拭いている間は相手から自分が見えないからと油断しているのだろう、ヴァンの緩み切った表情……悪いがこちらからは丸見えだし、見てるこっちが恥ずかしくなる。苦いコーヒーが無性に飲みたい、今すぐ。
「もうっ!!ヴァンの手の大きさと私じゃ違うんだからね」
「ハハハ、そうだな。シアの手は俺の半分くらいしかないんじゃないか?」
ポカポカと叩かれている手を痛くもないのに『痛い、痛い』と言いながら相手の手を掴み、さらに目視でもわかり切っているのに、わざわざ彼女と手を合わせて大きさを比較しているデレデレの青年。
この青春の1ページのようなものを目の前で見せつけられて、『自分にもああいう時代が確かにあったよなぁ……』と遠くに目を向けた。子供臭いとは思いつつも、あれくらいの時が一番楽しいものだ。
「やはり、あの二人はどう見ても……じゃないのですか?」
「……んにゃ、あれでもまだまだ片想いじゃて」
どう見てもわかりやすいのだが、肝心の本人には全く伝わっていないという……不憫な男だ
オーツレントが率いる第二騎士団は、華やかな貴族だけが集まる第一騎士団とは違い、身分や家柄などで差別はせず、実力や鍛錬に打ち込む様子などを重視して判断してきた。己の背中を預ける人選でもある為、当然と考えている。
平民出身の元部下ヴァンに対しても実力があり、しかしそれに驕らず努力家で、足を負傷しても尚、心折れず、腐らず、騎士に関わる仕事を続けたいというので便宜を図った。
シアは確かに孤児院出身ではあるものの、魔術師長預かりになっている。貴族の作法とは全く別物ではあるが、それなりに礼儀正しく、働き者で、男性しかいない職場でいつもパタパタと忙しそうに動き回っている女の子といった印象だ。
努めて表面上は平静を装ってきたが、さすがにこれほど毎日共に過ごしていれば、ヴァンがシアに……というのは、無意識下でも視線が彼女を追ってしまっている時点でもわかる。そういったところに目敏いのは貴族ならではだが、これは誰が見ても、といったところでは?
「恋愛面では、平民の方が自由恋愛ができて羨ましい限りですな」
「ほう?オーツレント殿は見合い、でしたかな?」
「はい……まぁ、家の為の婚姻ではありましたが、そんなに悪くはなかったですよ。とはいえ、跡継ぎが生まれてすぐに離縁しているんですけどね、ハハハ」
「まぁ、貴族あるあるじゃな。ワシは離縁こそしておらんが、一人息子も亡くしておるから跡継ぎもおらぬ。じゃが、オーツレント殿ほどの美貌であれば、再婚もできるのではないかの?」
「再婚、そうですねぇ……この任務が無事終わったら、考えてみたいところですね」
「なんじゃ、社交辞令じゃったのに、本当に考えておったのか!」
「ワン、ワン!!」
「ほっ!ユーシャ様もやはり、そうお思いになりますかの?気が合いますなぁ、こやつは本当に嫌味な奴じゃて……」
「ハハハ、どう考えてもどこかの耄碌爺さんよりも、頼りになる私の方がいいと思っているに決まっているじゃないですか」
「なんじゃと~~!!シア、シア!!いつまでイチャイチャしとるんじゃ!早くユーシャ様の通訳をせんかっ!」
「キャン、キャン!!」
「ほら、本心と違うことをおっしゃっているので、ユーシャ様が迷惑だと言ってますよ」
「~~っ!!シアーー!!」
「ひゃあ!ゼニール様!!はい、ただいまぁぁぁ!!」
「ワオーン!!」
シアはこれまで恋愛をする暇もお金もなく、恋愛小説的なものもお金が掛かる為、読んだことがありません。そもそも孤児院出身の自分が誰かの想い人になる可能性などないと思っているので、鈍感とは少し違います。
<おじさん’Sに伝わってないユーシャ様の言葉>
「ワン、ワン!!」
≪おい、いい加減オレも水遊びに混ざりたいぞ。おっさん臭、おいこら離せ!!≫
「キャン、キャン!!」
≪だから、お前はくせぇんだって!!常にジャーキー持っておけよ!!離せ~!!≫
「ワオーン!!」
≪オレも遊びたいんだってー!!≫