6:ユーシャ様の、メンバー総選挙!?
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「あの……本当にこのメンバーで行くのですか?」
「だな。いくらなんでもとは思うけど、ユーシャ様がお決めになったなら仕方がないんじゃないか?」
「ワシは魔術師塔でたんまり事務仕事と、広報活動の仕事があったというのに……トホホ」
「ユーシャ様!選ばれたからには、身命を賭して励む所存です!」
「ワン!ワン!!」
≪なんだ、このおっさん臭も散歩に行くのかよ~。まぁ、干し肉ってやつが結構美味かったし、後ろを歩く分には構わねぇけどな≫
ユーシャ様、私、ヴァン、ゼニゲバ様、騎士団長のオーツレント=カレミナス様の超!少数精鋭で浄化の旅というか散歩というか……まぁ行くことになりました。
どうしてこのメンツになったのか、話せば長くなるのですが……聞いて頂けますか?
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「おっ?ヴァン、それに魔術師長のゼニール殿ではないですか。一体どうされたのです?」
「うむ。オーツレント殿、騎士団長のお主に折り入って頼みがあるのじゃ」
ゼニゲバ様は神妙なお顔をしつつも、どこかニヤけた締まらない表情をしていた。きっと『これで魔術師達へ陛下からお褒めのお言葉を頂けるに違いない!そうなると、一気に魔術師になりたい者が集まって、面接に何日かかるかのう…うひょひょ、笑いが止まらぬわ』とか考えているに違いない
その怪しいお顔のまま、ユーシャ様召喚から、ヴァンの足の回復、樹木の急成長なんかの話を説明していた。なんなら召喚に至るまでの道のりの話から力説されるものだから、訪ねる前にオーレンツ様が摘まんでいた干し肉まで『話が長いから食べるか?』と渡され、なぜか四人でもちゃもちゃと干し肉を食べていた。
食べている最中は無言の空間となるので、話し合いには全く向かない代物だけど……美味。
「ふむ、話はわかった。そうなると騎士団を改めて編成し、精鋭チームで瘴気の浄化に向かう必要があるな……とはいえ、剣は攻撃というよりも防御程度にしかならないから人数は少ない方が良さそうだ。よし、今なら全員揃っているはずだから、まずは志願者がいないか声を掛けてみるとしましょう」
そして、私もユーシャ様を抱えたまま、騎士団の訓練場へと足を運びました。
訓練場では、本番さながらの打ち合いがなされていましたが、オツカレ様(オーツレント=カレミナス様にも敬意を表して古代語の略称を探しました)が集合をかけると、すぐに整列されました。さすが騎士団ですね。
ユーシャ様の話をし、希望者はいないかと最後にオツカレ様が声を掛けると、ざっくり50人くらいでしょうか?志願して下さる方々がいました。
これだけいらっしゃれば、しょせん私なんて添え物ですし、後方で衛生班や食事の手伝いをしていればいいくらいかもしれないと内心、ホッとしてました。しかし、ここで問題が起こります……
「グルルルル……ウワン!ワン!ワン!」
≪なんだ、この臭ぇ奴らは!近寄るんじゃねぇ!!オレにおっさんの臭いを嗅ぐ趣味はねぇ!これ以上近づいたら噛みつくからな!!オレはもうナカマと一緒に住んでるんだ、お前たちのところへは行かないぞ!≫
ユーシャ様が敵意を向けたからでしょうか?唸り出すと咆哮が小さな三日月型の刃のように変わり、吠える度に飛んでいくのが見えました。握りこぶしより一回り小さいサイズとはいえ、あれが当たったら相当なダメージになってしまうのでは!?
「うわぁ!!なんだ!!」
「声が刃のように飛んでくるぞ!!」
整列していた騎士の方達も盾を握り身構える者、未知なるものに逃げる者、ユーシャ様を睨む者といて、はっきり言ってこれではユーシャ様と騎士団の方との間に信頼関係など築けなくなってしまいます。
「ユーシャ様、おやめ下さい!ユーシャ様!!イタッ!」
「シア!大丈夫か!!」
私は慌てて駆け寄り、ユーシャ様を抱き上げましたが、その際に少し爪が肌を掠めてしまいました。それでも落ち着いて頂きたくて、ユーシャ様の背中を撫で続けました。
心配してくれたヴァンには悪いけど、今はユーシャ様を落ち着けることが先決だし、ケガというほどのこともないので、「大丈夫」だと手で制した。あとで謝ればいい。
「こんなもの、制御できなければ危険じゃないのか!!」
むしろユーシャ様を危険視するような意見まで出始めました。オツカレ様が間を取り持ち、ここは一つ、ユーシャ様自身にメンバーを決めて頂くのはどうかという話になり、全員が横一列に並びました。
ユーシャ様を抱っこから解放し、ユーシャ様が近づきもしなかった者、唸られた者は即除外といった方式です
で、私達になっちゃったわけです。
普通でしたら『なんて誉高いことなのかしら!!』と思うところですよね。ええ、私だってそう思いたかったですよ?でも、ユーシャ様の判断基準が……うぅっ、とても正直には伝えられない
まずはヴァンですが……
「ワン!ワン!!」
≪おい、デンチュー!お前オレの臭いついてるから、今日からお前はオレ専用のデンチューな?消さなかったってことは、そういう事なんだろ?≫
ゼニゲバ様とオツカレ様は……
「クンクンクンクン……ワン、ワン!!」ペロペロ…
≪お、臭ぇおっさん臭とデカいデンチューからジャーキーの匂いがする!?ペロペロ…マジうめー!コイツもう持ってないのかよ!?腹見せたらくれるか?ほら、どうだ?オレのごろーんだぞ!!ごろーん≫
そして私は……
「きゅーん、きゅーん…」
≪ここは楽しくないからもう帰ろうぜ。ナカマ!抱っこしてきゅるん♡このきゅるん顔は結構疲れんだからな!ナカマにしか今のところしないんだぞ!≫
これらを、真実を混ぜた嘘で翻訳……できるフリをしなければならない難しさ!!
「シアよ、ユーシャ様はなんと申しておるのじゃ?この腹見せは、ワシらの立場を考えて、ひれ伏しておるのか?そもそも、ワシは同行する気もなかったのに……くぅぅ」
「いえ……あの、ゼニール様とオーツレント様は同じ匂いを感じるとかで……同じ釜の飯を食おうぜ!的なことを申しております」
「おお!なんとありがたい!!」
ギリギリ嘘ではないはず!!
「じゃあ、俺は?そもそも、ついさっきまで足が不自由だった俺が行っても足手まといにならないんだろうか?足はすっげぇ軽いけど」
「う……そうよね。でもユーシャ様は、お前はオレの左足……じゃなくて右腕だからそばに居ろって」
デンチューとしてって意味でそばに居ろってことらしいけど。この翻訳ダメ?そばに居ろ的なことは言ってたしセーフよね!?
「へぇ、右腕か……光栄だな。それでシアは?お前のことはなんだって?」
「私!?私のことは、今後も世話と、みんなへの橋渡しを頼んだぜ!的な。ですよね?ユーシャ様」
「ワン!!」
≪なぁ、早く帰って飯にしようぜ~≫
「おお、さすが!疎通スキルって便利だな」
「やるのう、シア」
「素晴らしい!」
「あ、ありがとうございます……あはは」
こうして疎通が一方通行の御一行は誕生しました
「ワン!」
≪お腰についた匂いのジャーキー一つオレに下さいな~≫