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4:ユーシャ様は、聖犬かもしれない!?

 


******



 ヴァンは前からこうなのだ。騎士をやってる割に、どこか気が抜けていると思う。だから、せっかく平民出の騎士として期待されていたのに、それを妬んだ先輩騎士らと揉めて……

 その時に負った怪我が原因で生活には支障はないものの、片足が少し不自由になってしまったのだ。

 

 相手は卑劣にも三人がかりだったのに、ヴァンは全員治療院送りにして、そのまま一人は退団、二人はバラバラに地方の警備に飛ばされてしまったみたいだけど。


 不思議なのはどちらかと言えば平民出のヴァンの方が身分的にも分が悪いのに、数日の謹慎程度で済んだことだ。相手は三男、四男、それも下級とは言っても貴族だったのだから。

 でも、どうしてそこまで大きな乱闘になったのかは頑なに教えてくれなかった。『男には色々ある』で誤魔化されたけど、これ以上は聞いて欲しくなさそうだったから『なにそれ』で片付けておいた。


 足のハンデを抱え第一線からは退くことになったものの『少しでも国のお役に立てる仕事を!』と元上司である騎士団長様に志願して、騎士職は辞めず花形ではないものの、こうして城内の巡回騎士として働き続けていた。

 

 私の魔力が半分くらい戻らない状態にされたようなものだと想像すれば、ヴァンの心情はどれほどのものなのか、到底測れるものではないと思うし、そんなところは純粋にすごいなと尊敬している。



 うっかりお散歩中というのも忘れて、私もユーシャ様の奇跡の力と思われるものを目の当たりにしたことで、すっかりテンションが上がっていた。『全くもう、ヴァンってば!』などと文句を垂れながらも、そのまま少し雑談に興じていた。



「こうして散歩に出てくるまでの一ヶ月は全くシアを見掛けなかったから、いよいよ魔術師塔から追い出されでもしたのかと思ったけど。なるほど、そういう事情だったのか」

「失礼ね!……でも、危うくこの国からも追い出される可能性も考えはしたけど、ちゃんとまだ新人枠にしがみついてますぅー!」


「いや、嫌味を言ったんじゃなくて、俺は魔術師塔の予算の関係でって意味……おわぁっ!!」

「なによ、いきなり……あっ、ユーシャ様!!」


「ボフッ!」

≪全く、せっかく散歩に出れたと思ったのに、なんで動かないんだよ……あれ?このオスちょうどデンチュー(電柱)みたいなの持ってるじゃん。この辺全然デンチューがないんだよなぁ。ちょっと失礼しま~す……≫



 私が引き綱(リード)を持ったまま動かなかったせいで、ユーシャ様がまさかのヴァンの槍、、、を通過して、足にご聖水を致してしまいました!!ヴァンはともかく、仕事用の支給服や()ね当て、槍が……もしかして、弁償?あぁ……お金が飛んでいく!



「ヴァン、ごめんなさい!!私がユーシャ様のご用足しをしっかり終えていればこんなことには……私がユーシャ様と一緒に行って事情話すから、それでなんとか許してもらえないかしら?」



 とにかく、とばっちりでヴァンが怒られるのは避けなくてはならないし、あと弁償とか弁償をどうにかこうにか回避できないかと交渉させて頂きたい!



「あー…まぁこんくらいなら水で流して、あとは自然乾燥で凌ぐさ。それに、ユーシャ様のありがたい()()()、なんだろ?なにかご利益があるかもしれないじゃないか」



「え~さすがにそれは……夏でもないのに、風邪でも引いたら困るし、それに不自由な方の足でしょ?濡れたまま冷えたりしたら、血行が悪くなるんじゃない?」

「へぇ、一応心配はしてくれるんだ?」



 心配って……自分の足が今どういう状態かわかっているのかしら?染みがどんどん広がっているわよ?



「そりゃあ、ヴァンだって私と同じ薄給仲間なんだから、弁償は私がするにしても、汚した罰則とかあったら申し訳ないじゃない」

「そっちの心配か……ま、大丈夫だから気にすんな。じゃ、そろそろ見回りに戻るわ!」



 そう言って、左足に黄金色の染みをつけた青年ヴァンは、何事もなかったかのように爽やかに駆けて行った……そう、駆けて行った。


 ん?駆けて……??



「ヴァン待ってー!!!あなた走ってる!?」

「ん?当たり前だろ、急いでいる……あれ?引き()る痛みを、感じない……?」



 触れるのを一瞬、躊躇(ためら)ったけど、ヴァンは拗ね当てをサッと外し、濡れたズボンの裾をまくって足を確認した。すると、以前見た時にはあった足の傷がきれいさっぱりなくなっていて……これはもしかして…?



「「ユーシャ様!?」」



 私とヴァンで同時にユーシャ様の方を振り返った。先ほどの木の成長もすごいと思ったけれど、古い傷まで完全修復してしまうだなんて……これぞ奇跡の力ではないですか!?



「ワン!」

≪ん?なんかオレの名前呼んだ?もしかしてデンチューみたいなやつに引っ掛けたこと怒られてる?でも、ナカマが動かないからオレも移動できなかったんだし……オレ、悪くないよな?≫



「ユーシャ様、怒ってなどおりません!!私は感動しているのです!!ユーシャ様はやはり勇者様で、奇跡の力をお持ちだったのですね!!あぁ、本当に良かった。ヴァンもそう思うわよね?」



「クゥン……きゅーん……バフッ!」

≪うっ、やっぱり怒られてるっぽい……あんまり使いたくなかったけど、あれをやるしかないか。【必殺ウルウルおめめで許してちょ!】これでどうだぁぁ!!あー!!二人共見てないし、ハズッ!≫



「ああ。ちょっと微妙な方法だけど、これがユーシャ様の奇跡の力なのか……。はは……俺、足は一生このままだと思ってたのに……また頑張ればいつか騎士団に戻ることもできるのかな」



『もう思い切り走ることはできないんだってさ。訓練きつかったし、ラッキーだったかも』とケガのあとですら何てこともないように当時のヴァンは言っていた。

 

 泣くのを堪えようとしてぎゅっと力を込め眉間にシワを寄せているけれど、色んな事が思い出されたのか、結局一つ、また一つと涙を落としていった。本心ではやはり騎士団に戻りたかったんだ。



「うん…うん、きっと戻れるよ!本当に良かったね、ヴァン……」

「ズズッ……ごめん、泣くつもりはなかったのに。誰にも言うなよ?」


「バカね、言わないわよ。でも、ヴァンの足のことはみんなが知ってることだし、これでユーシャ様の御力を証明できるわよね!一緒に魔術師塔に来てちょうだい!ゼニール様に報告しなきゃ」


「おう、ユーシャ様には大恩ができたんだ、今日のバディ組んでる奴に声掛けてから向かうから、先に行っててくれ。足がすごく軽いんだ、すぐに追いつく!」

「わかった。じゃあ、先に行って待ってるね!」




 生育の悪かった記念樹の成長、ヴァンの不自由だった足の完全回復……ユーシャ様は秘められた御力をお持ちのようだ。

 自分の失態ばかりを気にしていたけれど、今は少しだけユーシャ様のお世話係の自分が誇らしく思えてきた。




「ワン!ワン!!」

≪いい加減この場所から動いてくれよー!!≫




 ひぇ!ユーシャ様、すみません!!



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