23:ユーシャ様、ついに初めてのデートです!! side/ヴァンクル☆☆☆
ヴァンが張り切りすぎて、今話は長めです!
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今日は素晴らしい快晴、まさに街歩きデートにぴったりな日と言ってもいい。
待ち合わせ時間よりも少し早いけど、真面目なシアのことだ、きっと準備はできているはず。俺は待ち合わせ場所を素通りして、シアの宿舎の入り口まで迎えに来ていた。少しでも早く顔が見たい
「ふぅ……」
シアの宿舎前にてソワソワと待つ俺。あれだけ毎日一緒にいたというのに、この緊張感はなんだろうか?以前、シアにはしょっちゅう真顔と言われてきたけど、多分シアと会っている時は緊張していたんだろうな。デレないように気を引き締めていたともいうけど……
浄化の旅に出てからは、さずがに毎日行動を共にしていただけあって、少し余裕も出て来て自然な表情が出せるようになった、と思う。
シアからも『ヴァン、最近はよく笑うようになったわね。その方がモテると思うわよ』と言われたし……うん。他の人じゃなくて、俺はお前に好かれたいんだが?と思ったのは言うまでもない。
(あ、出て来た!!平常心、平常心……)
「シア、おはよう」
「あら?ヴァン、おはよう!早起きなのね。わざわざ宿舎まで迎えに来てもらわなくても大丈夫なのに。遠回りでしょ?」
「いや、普通に出たんだけど早く着いちゃってさ。待ち時間でシアのところまで行けそうだなと思って迎えに来ただけだから。さ、行こうぜ」
今日が楽しみ過ぎて、早く目が覚めただけだ。それに、<宿舎まで迎えに来るほどの関係>だと事実とは多少違うけど、周囲への牽制も込めている。
ユーシャ様はゼニール様達と一緒だから、今日は丸一日二人っきり…顔がニヤけてしまいそうだ。旅の時も隣や後ろを歩いているけど、護衛の仕事とデートでは全く気持ちが違う。
ちなみに、男女が日時を決めて会うことがデートとされているから、これはデートと呼んでいいと俺は思っている。補足の恋愛感情がうんたらっていうのは後付けに過ぎない、そんなものは無視だ。
「よく見たら今日のヴァンはいつもよりオシャレじゃない?そのジャケット素敵ね」
「そうかな?休日は大体こんな感じだけどな」
もちろん嘘だ。昨日から滅茶苦茶考えたし、ジャケットは元同室のザックから借りたものだ。下位とは言え、貴族の持ち物だから物が良い。「素敵」って言われた……ザックありがとうー!!
喜びも束の間、『そう……出掛け慣れているのね』とシアが言ったと思ったら、ピタリと歩くのをやめてしまった。歩調を間違えたか?ゆっくりのつもりだったんだけど。
「あの…今日はやっぱり別行動にしない?ほら、私は気の利いた服なんて持ってないから、私が隣にいたらヴァンが恥を掻くわよ」
「……はぁ?何を言ってんだよ。そんなの効率悪いだろ?わかった。じゃあ、俺がジャケットを脱いで行くよ」
「えぇ!?どうしてわざわざ脱ぐの?」
「本当は俺も久々の外出で気の利いた服がなかったからさ、シアに恥を掻かせないようにと思って同僚から借りただけなんだ。だから、別にこれを着慣れているわけじゃない。しょうもない見栄を張ってごめん」
隣にシアがいないなら、ジャケットなんて着る意味なんてない。大切なのは、シアが隣を歩きたいと思ってくれるかどうかなんだから。
「あ、そのジャケット借り物だったのね!私てっきり、ヴァンは誰かとよく街に出掛けているのかなって思って……その、、、ヴァンのお知り合いの人とか、い、意中の人…とか?私と一緒のところを見られたら良くないんじゃないかって思っちゃって」
「今日は旅の補充分の買い物をするんだ、理由もハッキリしてるじゃないか。それにシアといて、何か言ってくるようなやつと俺は友達にはならないし、そんなやつを好きにもならないからな」
「ヴァン……」
「な?だからお前は気にする必要なし!」
「うん、ありがとう。ヴァンって……義理堅かったのね」
「……そう、かな?」
義理堅いんじゃなくて、「お前が好きだからだよ!!」って言えたら苦労はしないんだけどな。やっぱりシアとは恋人関係を目指すよりも、団長が言っていたように結婚を目指した方が近道なのかもしれない。
そもそも、お金のかかるデートが無理ってタイプだしな。『カフェデートなんて特別な日とかで充分よ』とか言って、普通に家でお茶を入れて飲んでそうだよな。ほぼ、想像する景色が夫婦だ
節約は今じゃ無理しているんじゃなくて、本気の趣味と化してるところがある
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案外、使用頻度が多かった布類や手拭い、追加の厚地の敷布、ユーシャ様の好物である干し肉も多めに購入した。皿や椀なんかも、当初のものは野宿には向かない、使い勝手があまり良くなかったこともあり買い直したが、ゼニール様、オーツレント団長は貴族用の質の良いものを購入。
そして俺達は安価だが丈夫なものとして、ここは節約好きのシアに任せて吟味に吟味を重ねた結果、シアと色違いの物を購入した。
「なにもヴァンまで私に合わせた食器にしなくてもいいのに」
「同じ食器の方が、重ね易いだろ?それに持った感じがしっくりきたんだ。さすがシアの目利きだな」
その揃いの椀に、俺は夫婦となった俺とシアの姿が見えたんだ。<買う><即決する><金を払う>以外のコマンドが見つからなかった。
通りを歩いていると、鼻孔をくすぐる良い匂いが色んなところから流れてくる。すでに空腹状態だったことにようやく気付き、俺のおススメの安くてボリュームのあるスープを出す店へと連れて行った
「あ、これ、もち麦が入っていて美味しい!具も柔らかいし、味も優しいのね」
「だろ?シアが好きそうな味だなって思っていたんだ」
壁に貼られたメニューと金額を見ているので、シアもそのお得感にかなりご満悦のようだ。やはり彼女は<お得>に弱い。『この付け合わせってサービスなの!?すごいわね!』と終始、満面の笑みを俺に向けてくれている。この可愛い笑顔が、いつか恋愛の意味での好意の混ざったものになるといいな……
「このスープ、大きなお肉が一個入っているのね。でも私はもうお腹一杯だし、良かったらヴァン食べない?」
「え、食べないのか?残すくらいなら食べるぞ」
「無理すれば食べれるってレベルだから、あげるわ。ヴァンの方が体も動かすし……はい、どうぞ」
ズイっと顔の前にフォークに刺した肉を差し出された。『サンキュー』と言って食べようとし、気が付いた……これって『あ~ん』ってやつじゃね?『はい、どうぞ』と書いて変換キーを押せば『はい、あ~ん』になるよな?
(さりげなく、さりげなくだ……)
「あ、あ~ん……うん、この(シアからもらった)肉は今までで一番うまい肉だな」
「そうなの?スープの味が染み込んでいたのかしら。確かに柔らかそうでもあったし、良かったわね」
「シア、あー…肉のお礼じゃないけどさ、小菓子なら食べれるだろ?一個しかないけどチョコあげるよ」
「えぇ!?ど、どうしたの?チョコって、あのチョコでしょ?あんなの、ゼニゲバ様の誕生日に分けて頂く時しか食べられない高級品なのよ?」
高級品には慌てだすだろうというのは想像していたけど、あわあわしている姿が可愛すぎて、耐えるのが辛くなってきた。もちろん、シアだけではなく、俺にとってもチョコは高級品だ。それに貴族が口にするような高級なものではなく、少し金持ちな平民が買える程度の廉価品になる
「いや、昨日実家に寄る前に滅多に買わない焼き菓子なんかの手土産を買ったんだ。そしたら、たくさん買ったからってかなり安く売ってくれたんだよ。お前、チョコレートケーキに涙してたくらいだったし、食べたいかなって」
「え…でも、それはヴァンが買ったものだし、なによりご家族に食べてもらえば良かったのに…」
「男三兄弟でたった一粒を分けろってか、冗談だろ?昨日食べたケーキみたいな高級なものじゃねぇから味はきっと雲泥の差だと思うけどさ。お前の為に取っておいたんだ、ここは素直に受け取れよ」
「……本当に、いいの?」
「おう、何だったら『一生ついて行きます!』ってやつでもいいぜ?」
「もう!昨日のことで揶揄わないでよ!」
いやいやシアさん、俺は本気だよ。『一生ついて行きます』って言ってくれたら、そのままの意味で受け取るぞ?
『ほら、食べてみな』と渡した小さなチョコを大事に両手に乗せてジッと見つめているシア。彼女が持っているとチョコも少し大きく見える
「……ねぇ、じゃあせっかくだからヴァンも一緒に食べましょ?ヴァンも食べたことないんでしょ?半分こにしましょうよ」
「これを半分!?できるか?」
フォークで割ろうとするも、この廉価品はちょっと固めらしい、中々割れてくれない。諦めてそのまま食べろよと促すと、『じゃあ先にヴァンが齧って』と無理矢理口に半分差し込まれる。
そしてカリッと割った半分は、俺が「あっ…」と思う間もなく、ひょいっとシアの口の中へと消えていった。か、間接キスというやつだぞ!?シアわかってんのか?でも、どうせなら逆が良かった……
自分の口の中のチョコは堪能できず、驚きでほぼ丸のみしてしまった。シアはご機嫌に口の中で転がして溶かしているようだ。
「わぁ……甘くて美味しい!昨日のケーキも美味しかったけど、すぐ溶けてなくなっちゃったし。こっちの方が廉価で固いかもしれないけど、その分長持ちして、味も美味しいんだからお得よね。ヴァン、ありがとう!」
「ぷっ、お得か…そか。俺もありがとな」
「なんでヴァンがありがとう??」と不思議そうにしているけど、昨日の蕩けるような高級チョコケーキよりも、庶民的な廉価品のチョコの方が美味しいわけはないのに……「お得だから」でまとめてしまえば、確かにそうだよなって思うわけで。でも、両頬に手をあてて喜ぶシアの顔が見れたことが、俺にとっては一番のご褒美だ。買って良かった
今日はなんかすごいな……計画していたわけじゃないのに、<いつか>と思っていた夢がどんどん叶っていっている。色違いの椀や皿、「あ~ん」の給餌、間接キス……今日のこの勢いなら、また手くらいは繋げるかもしれない。
荷物が増える想定はしていたから、俺は背負いバッグを持って来ていた。これなら両手は空くからな。もちろん目的は、護身用の片手剣を使えるようにする為だけど。
「よし、うまいデザートも食べたし、シア、次行くぞ!」
「え?なんで急に急ぐの!?もう…チョコをじっくり堪能してたのに~!あっ、ヴァン、また手ー!!」
シアの可愛い抗議なんて笑って聞こえないフリだ。わざと少し混んでいる道を通って、『はぐれたら危ないだろ?』と宥めすかし、そのまま帰るまで手繋ぎデートができた。
シア、少しは俺を意識した?
ヴァン、よく頑張った!




