22:ユーシャ様が、凱旋ですよ!!みなさん??☆☆
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「ヴァン、ひどい……」
「まぁまぁ、そう拗ねるなよ。何も異常がなかったから、起こさなかっただけだろ?」
仮眠は大事だの交代で休むんだと言っていたくせに、結局あのまま私は起こされることもなく、朝まで寝たままで……逆にヴァンは朝まで寝ずに見張りをしていた。
すぐそばに寝ている人がいたら絶対に眠くなると思うのに、ヴァンは『シアとユーシャ様の寝言や寝相が面白かったから平気だった』とか言うし
寝相はそんなに悪くはないと思うのだけど……今朝はユーシャ様がお腹の上に乗っていて苦しかった。と、なると寝言?私は一体何を言っていたんだろう!?
良い夢っぽいものを見たような気もするけど、全然内容は覚えていない。どうしよう…寝ながら「あはは!!」とか笑っていたら怖いわよね
そう思って聞いたところで、いじわるなヴァンは教えてくれず『さぁ?なんだろうな』としか言ってくれなかった。このところ揶揄われているようで、その割にこちらを見る目は優しくて、なんだか怒りきれない。
そもそも、私は寝ていただけだから何も言えないのだけど。
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一ヶ所目の祠の時はそのまま二ヶ所目に向かったけれど、三ヶ所目は王都より更に北上しないとならない為、一度王都へも報告に立ち寄ることにしました。食料の補充や備品購入などの目的もあります。
この時も、全てではないにせよ、二ヶ所も浄化して戻ったと言うのに、<ユーシャ様、凱旋!!>のような雰囲気は微塵もなく……そこにはさすがに私だけではなく、他の方も感じたようでした。
「ゼニール様、そもそも国王陛下、いえ、なんでしたら王太子殿下でも、ユーシャ様についてはどのように伝わっているのですか?」
確かにユーシャ様は犬ではありますけど、勇者たる御力は十分備わっていると、少なくとも私達は何度も奇跡を目の当たりにしているので疑う余地もありません。
考えてみたら、ユーシャ様がたまたま瘴気を『嫌な臭いで不快なもの』と判断し、怒って下さったから浄化もできたのだ。もしもそうならず、ずっと隠れて震えたままであれば、勇者の御力を発揮することはなかったと言える。
なんせ、こちらからのお願いなんて言葉がわからないのだから。そう思うとつくづく私は勇者様がユーシャ様で良かったと感謝せずにはいられません。
「ユーシャ様の件はの、実はまだハッキリとは知らせておらぬのじゃ」
「ワン!」
≪おん?今呼んだ?≫
「「「えっ!?」」」
「ゼニール殿、それは私も初耳ですが?一体どういうことですか」
「そうなると、俺は仕事をサボっている扱いになりませんか?」
「そうですよ!召喚のことだってあったのに、陛下にもお知らせしていないって……私達は勝手に国中をブラブラしているみたいじゃないですか!!」
「まぁまぁ、落ち着くのじゃ…あ、カフェでも寄ってくかの?」
「もー!!そんな冗談を言っている場合じゃないですよ!!」
さすがにオーツレント様もヴァンも呆れますよね?こんなことしていたら益々魔術師の噂は悪くなるばかりですよ。お二人からも何か言ってやって下さい!
「団長、ではあそこのカフェなんか如何ですか?テラス席がありますので、ユーシャ様も同伴できますよ。席に空きがあるか聞いてきます」
「ゼニール殿、もちろん費用は魔術師塔持ちですよね?ヴァン、私にはクラブハウスサンドをコーヒーと一緒に注文しておいてくれ。お前も食べるか?」
「え!?」
なんなのこの流れ!?みんな普通に『カフェに行こう!』みたいな流れになってるけど。こんな薄汚れた格好でカフェなんて、絶対に無理よ!私は近くのベンチで待っていようかな。そうしたら少しは魔術師塔の経費も抑えられるものね。そもそも経費なんて残っているのかも怪しいのに
「シア、俺たちは先に行って席を確保するぞ」
「え、ううん、私は遠慮しておくわ。こんな格好だし、向こうのベンチで待ってるわよ」
「何言ってんだ。シアはカフェに行くの憧れてたんだろ?格好なんて、別におかしくないじゃないか。いつも通り、お前は可愛いよ」
「そりゃ、カフェは憧れではあったけど……え?かわ…、え!?」
「よし、行くぞ!ゼニール様が渋ったら、お前の分くらいは俺が出してやるから。二ヶ所も浄化の旅に同行したんだぞ?これくらいのご褒美どうってこともないだろう?」
「え?ああ…ご褒美、うん、ご褒美ね。うん、そうね……今のは聞き間違いよね」
可哀想とか?きっとそんな感じで言ったのよね。だから、誰も気にも留めないって言いたいのだわ。あぁビックリした……
「なんだよ、急にワタワタし出して。やっぱりカフェに行きたかったんだろ?ホント可愛いな、お前は」
「ふぇ!?か、可愛い!?ヴァン、さっきから何なの!?揶揄うのはやめてくれない?私、そういう冗談には慣れていないから悪質よ!」
「揶揄ってなんかないよ、ほら行こうぜ」
「あっ、手!!ヴァン、手ー!!」
「ワン、ワン!!」
≪お?かけっこか?ナカマには負けないぜ!待てぇ~≫
走るからって、わざわざ手を繋がなくても走れるのに……
待っている間はもちろん、テラス席に座るまでヴァンは手を離してくれなかった。
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(ど、ど、どうしよう……メニューを見たけど、どれも高くて倒れそう!)
こんなオシャレで高そうなカフェなんて生まれて初めてで、何をどう注文したら良いのかわからなくなって『み、水を、一番お安く済む井戸水を下さい』と言ってしまったものの、すかさずヴァンが『彼女にはココアとイチゴタルトを』と頼み直してくれました。
ヴァンが適当に頼んでくれた二つは、実はどちらも気になっていたので、とても嬉しいけど本当に注文しても良かったのだろうかと気が気でない。
「ん~~っ!ココアの味が濃い!!あ、ごめんなさい。大きな声で恥ずかしい……」
「大丈夫だ。ここはテラス席だからそこまで響いてない」
テラス席とはいえ、やはりお店の雰囲気というものもある。ヴァンは私の隣に座っているので、少し声を潜めて話すことにした。
「ね、ヴァン、ここのココアはお湯じゃなくてミルクで割られてるのよ!それにフワフワの泡が乗ってるの、すごいわよね!やっぱりただ高いだけじゃないのね」
「プッ!クク…そうか。それは良かったな」
ヴァンも滅多に来ないカフェにご機嫌なようで、コーヒーを飲みながらニコニコと私の感想を聞いてくれている。こういうところのコーヒーはまた別格に美味しいのかもしれない。きっと高いだけあるんだ
「イチゴもね、すっごく甘いの!見切り品の少し傷んだイチゴを潰してミルクと一緒に食べるのが一番贅沢だって思っていたのに、ケーキとイチゴが一緒に食べれるって、はぁ天国みたい……」
「ああ、そうだな」
「はぐはぐはぐ……」
≪うまー!!超うまい!!ちょっと柔らけぇけど、この温かい鶏肉うまー!!≫
天にも昇る気持ちってこういうことなのね。あぁ、美味しい!でも、もうすぐなくなっちゃう……ちょっとずつ食べよう。もうこんな経験はないかもしれないし、目に焼き付けて、味も噛み締めておかなくちゃ
「シア嬢、良い笑顔だね。食べさせ甲斐があるよ。せっかくだし、他にも頼んだらどうだい?」
「いえいえ、とんでもない!これだけでもすごいご褒美ですから」
「憧れのカフェに来れて良かったな。シア、ここはチョコレートケーキもオススメらしいぞ」
「おい、お前達!金を出すのはワシじゃからな?ちゃっかり自分達がもてなしてるみたいに言うな!そこの給仕、チョコレートケーキ追加じゃ!」
「ゼニール様!宜しいのですか!?」
「良い良い。シアはユーシャ様の通訳に、お世話係りと頑張っておったからな。ご褒美じゃて」
「わぁあ!ゼニール様ありがとうございます!さすが国一番の魔術師長様!!一生ついて行きます!」
「シア、チョコレートケーキ一個で一生を捧げるのはよせ、もっとよく考えろ。それこそお前の年齢に近くて、ちょっといいなとか思う男が現れるかもしれないだろう?」
「そうだね、シア嬢の心意気はわかるが、さすがにこの爺さんにシア嬢の一生は勿体ないと思うな」
「いえ、私の一生なんて、むしろゼニール様には邪魔になるだけとはわかっているのです……ですが、あそこを追い出されたら私は行くところがないですし」
「なんじゃと!?そもそも、拾ってすぐ捨てるみたいな気持ちで引き取ったわけではないわ!ワシを見くびるでないぞ!!」
「ワン、ワン!!」
≪おっさん臭はいっつも怒ってんな。それにしても、さっきの肉うまかったー!おかわりあるかな?≫
「あ、ユーシャ様がおかわりと言っています」
「くっ!茹でササミも追加じゃ!!」
結局、カフェを堪能するだけしてからようやく本題を思い出し、ユーシャ様の存在を話していない理由をお聞きしましたが、まず第一にユーシャ様が犬であったことが大きく、果たしてその力を正しく発揮できるかわからなかったこと。
そこで、秘密裏に魔術師長と騎士団長で近隣の瘴気溜まりを調査に行く、その助手に若手も連れて行った…と、そういう筋書きだったようです。ユーシャ様はゼニール様の愛犬という扱いで、世話する者がいない為と癒しとかいう理由を申請書で提出し、同行許可が下りたとか。いいのですか?それで……。
今回めでたく浄化もできることがわかり、その実力も申し分ないとのことで、ようやく国王陛下へユーシャ様の御報告をすることとなったそうです。ついにユーシャ様が脚光を浴びる日が来たのですね!!
明日、ゼニール様とオーツレント様で陛下の御前に伺うそうです。通訳とはいえ、私はとてもその場に立てる身分ではないので、ヴァンと二人で待機というか休暇を頂きました。
自分の部屋…と呼べる広さでもないですし、物もあまりないですが、掃除でもして過ごそうかな。そう思っていたのですが……
「シア、明日の休みさ、時間があるようなら補充品とかの買い物をしておかないか?」
「あ、そうよね。そういったことは私達の方が得意だし、そうしましょう!誘ってくれてありがとう」
明日は補充品も含めた買い出しを二人ですることになりました。ちゃんと役立つ仕事があって良かったわ。
なるべく安くて良いものを揃えなきゃ!!




